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逃がさない

Penulis: 文月 澪
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-14 21:24:25

 彼女を初めて知ったのは、小学校6年の夏。俺はこの頃から既にオタクの仲間入りをしている。今まではただ観ていたアニメや漫画に、それ以上の魅力を感じるようになっていたんだ。

 そのきっかけは日曜朝の特撮番組。戦隊モノのメンバー2人の距離が、妙にバグっている事に気付いた。コートを手渡すレッド、それをなんの疑問もなく受け取るピンク。そして他のメンバーも何も言わない。

(あれ? これって、付き合ってんじゃないの……?)

 小6といえば、思春期真っ只中。そういう事に興味を持ち始めるけど、自分自身ではピンとこない。クラスメイトの女子も、好意の対象にはならなかった。きっと、このカップルで疑似恋愛をしていたんだと思う。

 それからは、あらゆるアニメや漫画でカップルを探すようになった。原作順守、公式以外のカップルは論外だ。ぼかされているキャラならまだしも、はっきりとカップルとして描かれているキャラを、別のキャラとくっつける意味が分からない。

 この頃はまだ二次創作の作法もよく分かっていなかったから、無茶をやったりもした。アニメの切り抜きをSNSのアイコンにして怒られたり、過激な書き込みをしたり。それを指摘してくれる人がいたのは、幸いだったと思う。もしいなければ、俺はキモオタになっていただろう。

 そんな中、イラスト投稿サイトで推しカプを漁っていた時に、たまたまオススメに上がってきたそれは、解釈ドンピシャ、絵柄も好みでファンになるのに時間はかからなかった。それが彼女だ。その頃はフォロワーも少なくて、ちょっとした優越感に浸っていたのを覚えている。

 同人誌のカップルというのは、あまり男子が寄り付かないジャンルだ。そこはオタクが気持ち悪がられる所以とも言える。世に二次創作が出始めた頃は、キモオタが集まるエロい同人誌が幅を利かせていた。そして代名詞とも言える婦女子の台頭。

 俗にNLと呼ばれる男女のカップルもTL勢が増え、少女漫画のコミック売り場は無法地帯となっている。TLとはティーンズラブの略。でもその中身は……。

 この辺りは結構議論されているらしい。BLやTLは、最早エロ本といっても過言ではないのに、小学生でも買えてしまう。否定派ではないけど、疑問は残るかな。

 それはともかく、中2の秋に地元の同人誌即売会で彼女が出品する事を知った俺は、飛び上がる程に喜んだ。まさか同郷だとは思っていなかったから、直接会えるのがウソみたいだったんだ。

 当日を今か今かと待ち侘びて、手渡す差し入れやメッセージカードを用意した。これは失礼にならないように、しっかりとネットで調べている。この時にコミケと同人誌即売会の違いも知った。

 そしてやっと迎えた初日。

 俺は前日から眠れず、いつも以上に陰キャ全開だった。憧れの人に合うというのに、これじゃあ気持ち悪いと思われてしまうかもしれない。それだけは避けたくて、できる限り整える。整髪料を兄貴の部屋から拝借して、慣れないなりに彼女の好きなキャラに近付けた。

 かなり時間がかかったけど、どうにか見れるようになったと思う。

 よし。

 深呼吸していざ、会場へ。

 最寄りのバス停につくと、既に人が大勢いた。地元では初めての開催で、みんな楽しみにしていたんだろう。彼女のブログも、いつもよりはしゃいで見えた。

 ごった返す会場を、パンフレットを睨みながらブースを探す。そこで見つけた彼女は、すごく可愛かった。女性だとは知っていたけど、年は俺とそう変わらないように思える。

 長い黒髪、理知的な眼鏡。

 そして、その笑顔。

 俺は通路に立ち尽くし、彼女に見入った。周りの人が迷惑そうに睨むのも、全然気にならない。

 この時、恋に落ちた音が、確かに聞こえた。

(ああ……好きって、こんな感じなんだ……)

 中坊のガキだった俺は、初めて恋を知った。恥ずかしいながらもどこか心地いい鼓動に、ふわふわと夢の中を彷徨っているみたいで、その後の事はよく覚えていない。気が付いたら自分の部屋で、彼女の新刊を胸に抱いて悶えまくっていた。

(今回出品したって事は、もしかしたら高校が一緒の可能性もワンチャンあるんじゃ……)

 そう思ったらいてもたってもいられなくて、兄貴に頼み込んで身だしなみを教えてもらった。同じオタク同士だけど、不潔だとは思われたくない。

(彼女好みに変わってやる!)

 それからは、今まで見向きもしなかった女子が告白してくるようになった。心の中では悪態をつきながら、上辺ではいい人を演じる。教室でも率先して先生の手伝いをし、周囲に優しく振舞う。

     全ては彼女のために。

 そんな毎日を繰り返す内に、いつの間にか俺は陽キャに分類されるようになった。

 しかし、その裏では彼女の事を探っていたのだ。落とし物を拾ったから呼び止めたけど気付かなかった、その子の特徴に心当たりはないかと。

 そして高校入学のあの日。

 お母さんと一緒に校門を潜る姿がそこにあった。

(みーつけた。笹塚さん、覚悟してよね) 

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    Terakhir Diperbarui : 2025-04-11

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