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第56話

ぼんやりと、昔を思い出した。

その頃私は江川宏と結婚して半年で、生理が10日ほど遅れた。彼はいつもコンドームをつけてくれたけど、妊娠しているのではないかと考えていた。

妊娠検査薬を買う時、私はもう待ちきれずに、どのように彼と妊娠のニュースを共有するかを考えていた。

今、本当に妊娠していた。江川宏は一つのドアを隔てて立っていることを思ったが。

興奮や喜びの気持ちは全く湧いてこなかった。

ただ恐怖と緊張で、そして何か起こるのではないかという不安だけがあった。

最悪の結果は、この子を失うことだった。

そう考えると、背中に冷や汗が出た。

たった2年半で、もう何も変わってしまい、まるで別世界のようだった。

足が鉛のように重くなり、複雑な気持ちで玄関まで歩いて行くと、外にはもう江川宏の姿はなかった!

どこにいるの?

私のバッグだけが、寂しくも金属のベンチに置かれていた。

彼は……行ってしまったの?

私はバッグから携帯を取り出し、画面にLINEのメッセージが表示されていた。

「急用ができたので、結果が出たら加藤が家に持って行くから、少し遅くなるけど待っててね」

……

私はため息をつきながら、病院の外に向かって歩き出したが、突然考えが変わった。

報告書はすでに私の手にあった。

この時間を利用して何か変更するのも簡単だった。

河崎来依に電話をかけたが、彼女はほぼ即座に出た。「ちょうど電話しようと思っていたところだ。どこにいるの?なんで出勤しないの?昨夜どうしたの?なんで急に電話が切れたの?江川宏と未練がましい関係を持ったわけじゃないね?」

彼女は焦っていて、質問が連続して飛び出してきた。

最後の質問は、私を照れらせた。

これは一体何なんだ!

最初の質問にに答えた。「私は聖心病院にいる」

「検診に行くの?教えてくれよ。一緒に行けるのに」

河崎来依はいつも要点がつかめる。「違う。これは江川家の病院だろう。なぜそこに行ったの?」

彼女に簡単に経緯を説明した。「ただし、超音波室から出てきたとき、江川宏はもういなかった」

「くそっ、びっくりさせられた」

河崎来依は結論を出した。「だから、江川宏はまだ妊娠のことを知らないんだね?」

「うん」

「それでいい」

私は道路の端に立ち、タクシーを止めた。車に乗って、座席の背もたれに寄りかかった
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