共有

第30話

私はそれを聞いて驚いた。

耳たぶを触ってからようやく気づいた。血が乾いていて、赤くかさぶたになっていた。

触ったので、耳たぶがまた痛みはじめた。

血が出ていたというのに、自分では全く気づいていなかった。

河崎来依は私の手をポンポンと叩き聞いてきた。

「そんなに強く引っ張っちゃって、痛くないの?」

そう言った後、彼女はバッグから消毒液に浸した綿棒を取り出し、私の髪を丁寧に結んでから消毒してくれた。

「どうしてこんなことになったのよ?」

「江川アナが引っ張ったからよ」

私は事の経緯を彼女に簡単に説明した。

河崎来依は怒って罵り続けた。

「なんて女なの、彼女ってQRコードみたいにスキャンしてみなけりゃ中身がなんなのかわかったもんじゃないわよね。自分のものじゃないっていうのに人から物を奪おうとするなんて、前世は強盗犯かなにかだったんじゃない?」

「なんでいつも一連の言葉で人を罵れるのよ?」

彼女が文句を言った後、ずっと暗く落ち込んでいた私の心は一気に晴れていった。

河崎来依は私をキッと睨みつけ

「あなたのような友達に巡り合ったら、私も立派に人を罵る腕を磨いておかないとね」

「そっか」

彼女に耳のことは任せた。消毒したので、冷たくてしみたけど、そんなに痛くはなかった。

河崎来依は消毒を終えてから、また罵り始めた。

「あの憎き江川宏め、飴と鞭の使い分けがお上手なこと。昨日イヤリングを贈ったばかりだというのに、今日はまたどこかに蜜を吸いに行ってるわ」

そしてまた私を警告するように見つめた後

「さっさとこのページはめくってしまいなさい。次に行くのよ、次に」

「めくった、めくったわよ」

「口ではめくったと言っているけれど、心の中ではページの端っこを折り曲げてるでしょ」

と彼女はずばりと言い当てた。

「わかった、わかったわ」

私はパソコンを閉じ、バッグを持って彼女の肩を押して外に出た。

「仕事は終わり、終わり。車を取りに行かないといけないでしょ?それが終わったら何が食べたい?私がおごるよ」

前の部長の仕事スタイルは厳格で、勤務時間中はみんなほとほと疲れ果てていたが、残業させることはほとんどなかった。

この良き習慣は今も残っていて、オフィスエリアにはもう人がほとんどいなくなっていた。

河崎来依はハイヒールで軽快に歩き、颯爽と私の
ロックされたチャプター
この本をアプリで読み続ける

関連チャプター

最新チャプター

DMCA.com Protection Status