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第3話
最終更新日:
2024-11-29 13:24:04関連チャプター
愛欲の夜 第4話
その時、バスルームから出てきた夫が、複雑な表情で私を見つめていた。突然、私の目の前が真っ暗になった。最後に意識したのは、夫の慌ただしい足音と、動揺した声だった。「大丈夫か？どうした？」目を開けた時、強い消毒液の匂いと眩しいほど白い照明が、まず私の感覚を襲った。一度目を閉じ、しばらくしてからようやく細めた目で周りを確認した。簡易ベッドに横たわっている私の周りで、数人が小声で話し合っていた。年配の女性が私の目覚めに気付き、親しげに話しかけてきた。「お目覚めになりましたか。旦那様は今、受付に並んでいらっしゃいますよ。すぐ戻ってこられます」私は感謝の意を込めて頷いたが、喉が火照ったように渇いていて、一言も発することができなかった。唾を飲み込んで、乾いた喉を潤した。窓の外を見ると既に明るくなっており、翌朝になっていたようだ。意識を失う前、確か夫に応えようとしていた時だったのに、こんな形で病院に……？体に特に不快感はないものの、まだ目まいがする。見慣れない環境に置かれて、不安な気持ちでいっぱいだった。「どう？目が覚めた？」聞き慣れた声が耳に入り、横を向くと夫が戻ってきていた。夫の表情には心配と不安が混ざり合い、眉間には消えない憂いの色が浮かんでいた。私の胸が締め付けられる思いがした。私は何とか頷き、眉をひそめて口の形で無言のまま「どうなっちゃったの？」と尋ねた。「突然気を失ったんだ。すぐに救急外来に連れてきたけど、初診では特に異常は見つからなかった。医師からは、平日に改めて詳しい検査を受けることを勧められた。今、検査の予約をしてきたところだ。少し楽になったら、一緒に検査を受けに行こう」まさか一晩中気を失っていたなんて。昨夜のことが頭の中で何度も蘇り、考えれば考えるほど不安が募った。私は手を振って、夫に支えられながら体を起こした。一刻も無駄にはできない、今すぐ検査を受けようと決意した。全身の検査を終えた頃には、既に夕暮れ時だった。その夜のうちに結果が出るということで、医師から病院を離れないように言われた。私たちは結果を待つ間、病院の近くで夕食を済ませることにした。病院を出ると、懐かしい朝食屋が目に入った。高校生の頃、夫と私がよく通った店だ。当時、夫は毎朝この店の肉まんを買ってきてくれたものだっ
最終更新日 : 2024-11-29愛欲の夜 第5話
その笑顔を通して、高校時代に告白してくれた、あの純粋で初々しい少年の姿が重なって見えた。涙を浮かべながら、私も安心した笑みを浮かべた。「リーン」その時、鋭い着信音が温かな雰囲気を引き裂き、私の心臓が再び高鳴り始めた。夫がポケットから携帯を取り出し、病院からの電話に出た。「はい、小泉真由さんのご主人様でしょうか？検査結果が出ましたので、至急病院にお戻りいただきたいのですが……」研修医は電話でそれ以上の詳細は明かさず、ただ急いで戻るように伝えただけだった。夫の約束があったおかげで、今までにないほどの勇気が湧いてきた。私は夫の手を取って立ち上がった。「行きましょう。どんな病気か、はっきりさせましょう」強がってみたものの、心臓の鼓動は一拍一拍、重く激しくなっていった。必死に築いた心の準備は、医師を目の前にした瞬間から崩れ始めた。医師は深刻な表情で、キーボードを数回叩き、机の上の医療画像を手に取ると、重々しく私を見つめた。「血液検査に異常が見られます。初診の段階では悪性の血液疾患の可能性があり、すぐに入院して経過観察が必要です」その言葉が耳に入った瞬間、頭の中で何かが爆発したような感覚に襲われた。全身の血が凍りつき、足は地面に根を生やしたかのように動かず、頭の中が真っ白になった。夫は焦りながら尋ねた。「先生、妻はこんなに健康そうですが、そこまで深刻なものではないのでは？もしかして誤診では……」医師は申し訳なさそうに微笑んで、「今夜入院手続きをして、明日さらに詳しい検査をしましょう」涙が頬を伝い落ちた。私は慌てて拭い、まだ質問しようとする夫の袖を引っ張って遮った。「行きましょう。まずは入院して」こうして、まるで夢のように、私は入院することになった。昨日までは普通の人だった私が、今日は病気が見つかってしまった。遅い時間だったため個室は埋まっていて、大部屋に入ることになった。夫が手続きに行っている間、私は冷たいベッドに横たわり、テレビのニュースを聞いていた。そこで気がついた。周りの患者さんたちは、みんな髪の毛がなかった。窓際のベッドにいる女の子も、まだ十歳にも満たない年齢なのに、つるつるの頭で病室を元気よく走り回っていた。彼らの坊主頭を見るたびに、私の心は沈んでいった。憂鬱な気持ちが一気に押し寄せて
最終更新日 : 2024-11-29愛欲の夜 第6話
彼女は嬉しそうに袋から数個のキャンディーを取り出して私の手に握らせ、満面の笑みを浮かべた。その笑顔に私の心は溶けてしまった。「お姉さんが初めて、私のキャンディーを食べてくれる人だよ」私は彼女の頭を撫でたい衝動を必死に抑えながら、優しく言った。「みんな甘いものが苦手なだけかもしれないわ」小さな女の子は口を尖らせ、不満そうに反論した。「違うの。みんな私のことを怖がってるの！私のキャンディーに毒が入ってて、食べたら私みたいに髪の毛が無くなるって……」そう言いながら、彼女は拗ねたように、存在しない涙を拭うような仕草をした。「みんな私のことを、髪の毛のない化け物って言うの……」子供の世界はこんなにも純粋で、好き嫌いがはっきりしている。彼らの目には、髪の毛が無いことは異常なことで、言葉も考えずに口にしてしまう。この子がどんな風に孤立し、いじめられているか想像に難くなかった。私は心を痛めながら彼女の手を握り、慰めるような笑顔を浮かべた。「それは冗談よ。あなたは決して化け物なんかじゃない。あなたは……」少し考えて言い方を変えた。「天使に選ばれた特別な子なのよ！」女の子は呆然と私を見つめた。「天使？」私は力強く頷き、彼女のために完璧なおとぎ話を作り上げた。「他の子たちには髪の毛があるけど、あなたは特別でしょう？」女の子は目を丸くして、瞬きもせずに私を見つめていた。「それは天使があなたに付けた印なの。あなたは天使が送った特別な使者で、誰よりも特別な存在なのよ！」私は彼女のつるつるした頭を優しく撫でながら、「だから、もう悲しまないで」小さな女の子は半信半疑のような表情で、頬を膨らませながら尋ねた。「お姉さんは、どうしてそれを知ってるの？」私は少し考えて、即興で身分を作り上げた。「私は神様の使者で、地上に降りてきた天使たちを助けに来たのよ」その言葉で彼女は完全に信じ込み、希望に満ちた瞳には涙が光っていた。突然私の胸に飛び込んできて、腰にしがみついた。「私は化け物じゃない。私は天使なの！そう、私は天使だから、死なないんだ！」こんなに小さな子供が既に「死」という概念を知っているなんて。周りの大人たちが彼女の病気についてどんな話をしているか、想像に難くなかった。私は彼女の薄い背中を優しく撫でながら、胸が痛んだ。「そう
最終更新日 : 2024-11-29愛欲の夜 第7話
私の笑顔は唇の端で凍りつき、そっと近づこうとした足も宙に止まった。胸が痛み、苦い思いが全身を覆った。家を見に来る？夫は家を売ろうとしているの？私の病気はそんなに重症なの？やっとローンを払い終えた家なのに。長年かけて手に入れた家を、こんな形で手放したくない。その時、夫は電話を切り、振り向いた途端に驚きの表情を浮かべている私を見つけ、慌てて私を支えに来た。涙が止めどなく流れ、すすり泣きを抑えながら夫の目を見つめた。「家を売りたくないわ。あなた、あそこは私たちの家なのよ……」夫は顔を背け、その表情に浮かぶ感情の揺らぎと弱さを私に見せまいとした。「だめだ。治療のためには……売るしかないんだ」「じゃあ、私たちどこに住むの？」夫は声の震えを必死に抑えながら、私の髪を撫でた。「家は失っても、また買える。でも人が亡くなったら、二度と戻ってこない」夫の決意は固く、私がどんなに説得しても無駄だった。限りない悲しみが込み上げ、耐えきれないほどの苦しさに、夫の胸に顔を埋めて泣き崩れた。私が何度も追及したことで、夫は私の病状の真相を話してくれた。私は白血病と診断され、医師は即座に化学療法を始め、骨髄移植も必要だと言った。事態がここまで深刻になると、もう家族にも隠しきれなくなった。夫はすぐに両家の家族に連絡を入れ、両親と弟も田舎から慌ただしく駆けつけてきた。その日の午後には病院に到着し、簡単な見舞いの後、すぐに骨髄適合検査を受けた。幸いなことに、弟の骨髓が私と適合することが分かった。弟はまだ隣のベッドの女の子と同じくらいの年齢なのに、私のために骨髄移植という痛みに耐えなければならない。両親の髪が一夜にして白くなったのを見て、私の胸に棘が刺さったような痛みを感じた。髪の毛が少しずつ抜けていくのを見るのが辛くて、思い切って全部剃ってしまった。見なければ気にならないだろうと。小さな女の子は私の坊主頭を触るのが大好きで、ぶどうのように大きな瞳を瞬かせながら不思議そうに尋ねた。「お姉さんも天使になったの？」最近、彼女の容態は思わしくなく、病状が悪化して骨髄移植でしか命をつなげない状態だった。でも私のような幸運には恵まれず、近親者との適合も見つからず、病院にも適合する骨髄がなかった。両親は彼女を救うために新しい子供を作
最終更新日 : 2024-11-29愛欲の夜 第1話
「気持ちいいか？……他人のベッドで……他人の女房を弄ぶのは……どうだ？」真夜中、私は全裸でベッドの上で四つん這いになり、お尻を突き上げ、シーツを強く握り締めながら、背後の男の荒々しい突きに身を委ねていた。長い間欲求不満だった身体が、今日やっと満たされる……私の名は小泉真由。ダンス教師をしている。18歳の夏休み、まだ彼氏だった今の夫に処女を捧げた時から、私の中の底知れぬ性欲が完全に目覚めてしまった。あの頃の夫は情熱的で、一晩に四回も五回も私を抱いていた。でも結婚して仕事を始めてからは、段々と力が衰えていき、いつも手早く済ませるだけ。前戯も10分とない。この半年以上、一度も満足させてもらえていない。その夜も、退屈な営みが終わった後。夫は息を荒くしながら、ティッシュを取り出して私を拭いてくれた。「ごめんね、今日は短ったね。イケた？」私は小さく喘ぎながら、満足げな表情を装って彼に抱きついた。「イッたわ。すごかったよ」夫をなだめすかして、早く寝てくれないかとやきもきしながら。そのあとトイレで自分を慰めるつもりだった。今の私はまだ中途半端な状態で、足の付け根が痒くて、焼けつくような不快感に襲われていた。夫の寝息が規則正しくなるのを待って、そっとベッドを抜け出し、クローゼットの引き出しから肌色のバイブレーターを取り出し、足音を忍ばせながらトイレへと向かった。今夜は遅いから、手早く済ませるしかない。バイブを最強に設定して挿入すると、まるで体が宙に浮いたような感覚に襲われた。強烈な電気が走るような快感に、思わず声を上げそうになり、必死で口を押さえた。太ももが震え続け、骨の髄まで染み渡る振動の痺れに耐えた。少しずつ落ち着きを取り戻し、お気に入りのバイブを抜き取ると、急に切なくなった。はぁ、一生これで我慢するしかないのかしら。体を拭き、レースのネグリジェを着てベッドに戻ると、突然夫が寝返りを打って私を抱きしめてきた。「ねぇ、君に男性を紹介しようか」私の心臓が締め付けられた。やっぱり気付かれていたのか。「何言ってるの、早く寝ましょう！」その夜、私は眠れなかった。一つには、夫に内緒でおもちゃを使っているのがバレて、彼のプライドを傷つけてしまったのではと心配で。もう一つは、夫の提案に心が揺さぶられてしまって
最終更新日 : 2024-11-29愛欲の夜 第2話
夫は後ろから私を抱きしめ、優しくも真剣な口調で言った。「ねぇ、君は今が一番盛りの年頃だよ。性欲も強くなる一方なのに、僕はもう下り坂で、もしかしたらずっと君を満足させられないかもしれない」「そんな馬鹿な話を。私、そんなに欲求不満じゃないわ」「大丈夫、体育会系の男子を何人か選んでおいたんだ。今夜は一人と会ってみよう。きっと君を満足させられるはず」「本気なの？」私は混乱していた。でも夫の様子は冗談を言っているようには見えない。胸が高鳴り始めたけれど、顔が赤くなっているのを夫に見られたくなくて、食器を持って台所に逃げ込んだ。夫が本気なら、女の私からあれこれ聞くのも良くないだろう。ただ心の中では落ち着かず、まるで操り人形のように夫に手を引かれて家を出た。ホテルまでの道中、私の足取りは頼りなく、ぼんやりとした状態が続いていた。夫が部屋を取って、私にシャワーを浴びるように言うまで、夢うつつのようだった。やっと我に返って、夫の手を掴んだ。「ねぇ、本当にこれでいいの？」夫は私の手を軽く叩いて、「信じて。肩の力を抜いて、楽しめばいいんだよ」「楽しめばいい」その言葉には不思議な魔力があって、あっという間に私の心の防壁を崩してしまった。夫はいつも私の仮面を剥がしてしまう。最初の頃も数回会っただけで私をベッドに連れ込んだ。今でも同じだ。シャワーを浴びながら、下の方を丁寧に洗った。初めて夫とホテルに来た時も、こうして洗っていたっけ。同じことを繰り返しているのに、今の気持ちは複雑で、どう表現していいのか分からない。シャワーの後、持ってきた着替えの中から普通の黑の下着を選んだ。念入りに準備したと思われたくなかったから。バスローブを着ると、夫が私を抱きしめてきた。「君がこういう普通の奥様っぽい格好をすると、本当に魅力的だよ」夫の胸に身を寄せながら、心臓は激しく鼓動を打っていた。頭の中は、これから会う見知らぬ男性のことでいっぱいで、おずおずと顔を上げて聞いた。「あの、その人は……」言葉の途中で恥ずかしくなって止まり、夫の服をぎゅっと掴んだ。夫は私のお尻を軽く叩いて、「もうエレベーターに乗ったところだよ」と囁いた。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、部屋のチャイムが鳴った。私は飛び上がるように驚いて、慌てて夫に尋ねた。「
最終更新日 : 2024-11-29
最新チャプター
愛欲の夜 第7話
私の笑顔は唇の端で凍りつき、そっと近づこうとした足も宙に止まった。胸が痛み、苦い思いが全身を覆った。家を見に来る？夫は家を売ろうとしているの？私の病気はそんなに重症なの？やっとローンを払い終えた家なのに。長年かけて手に入れた家を、こんな形で手放したくない。その時、夫は電話を切り、振り向いた途端に驚きの表情を浮かべている私を見つけ、慌てて私を支えに来た。涙が止めどなく流れ、すすり泣きを抑えながら夫の目を見つめた。「家を売りたくないわ。あなた、あそこは私たちの家なのよ……」夫は顔を背け、その表情に浮かぶ感情の揺らぎと弱さを私に見せまいとした。「だめだ。治療のためには……売るしかないんだ」「じゃあ、私たちどこに住むの？」夫は声の震えを必死に抑えながら、私の髪を撫でた。「家は失っても、また買える。でも人が亡くなったら、二度と戻ってこない」夫の決意は固く、私がどんなに説得しても無駄だった。限りない悲しみが込み上げ、耐えきれないほどの苦しさに、夫の胸に顔を埋めて泣き崩れた。私が何度も追及したことで、夫は私の病状の真相を話してくれた。私は白血病と診断され、医師は即座に化学療法を始め、骨髄移植も必要だと言った。事態がここまで深刻になると、もう家族にも隠しきれなくなった。夫はすぐに両家の家族に連絡を入れ、両親と弟も田舎から慌ただしく駆けつけてきた。その日の午後には病院に到着し、簡単な見舞いの後、すぐに骨髄適合検査を受けた。幸いなことに、弟の骨髓が私と適合することが分かった。弟はまだ隣のベッドの女の子と同じくらいの年齢なのに、私のために骨髄移植という痛みに耐えなければならない。両親の髪が一夜にして白くなったのを見て、私の胸に棘が刺さったような痛みを感じた。髪の毛が少しずつ抜けていくのを見るのが辛くて、思い切って全部剃ってしまった。見なければ気にならないだろうと。小さな女の子は私の坊主頭を触るのが大好きで、ぶどうのように大きな瞳を瞬かせながら不思議そうに尋ねた。「お姉さんも天使になったの？」最近、彼女の容態は思わしくなく、病状が悪化して骨髄移植でしか命をつなげない状態だった。でも私のような幸運には恵まれず、近親者との適合も見つからず、病院にも適合する骨髄がなかった。両親は彼女を救うために新しい子供を作
愛欲の夜 第6話
彼女は嬉しそうに袋から数個のキャンディーを取り出して私の手に握らせ、満面の笑みを浮かべた。その笑顔に私の心は溶けてしまった。「お姉さんが初めて、私のキャンディーを食べてくれる人だよ」私は彼女の頭を撫でたい衝動を必死に抑えながら、優しく言った。「みんな甘いものが苦手なだけかもしれないわ」小さな女の子は口を尖らせ、不満そうに反論した。「違うの。みんな私のことを怖がってるの！私のキャンディーに毒が入ってて、食べたら私みたいに髪の毛が無くなるって……」そう言いながら、彼女は拗ねたように、存在しない涙を拭うような仕草をした。「みんな私のことを、髪の毛のない化け物って言うの……」子供の世界はこんなにも純粋で、好き嫌いがはっきりしている。彼らの目には、髪の毛が無いことは異常なことで、言葉も考えずに口にしてしまう。この子がどんな風に孤立し、いじめられているか想像に難くなかった。私は心を痛めながら彼女の手を握り、慰めるような笑顔を浮かべた。「それは冗談よ。あなたは決して化け物なんかじゃない。あなたは……」少し考えて言い方を変えた。「天使に選ばれた特別な子なのよ！」女の子は呆然と私を見つめた。「天使？」私は力強く頷き、彼女のために完璧なおとぎ話を作り上げた。「他の子たちには髪の毛があるけど、あなたは特別でしょう？」女の子は目を丸くして、瞬きもせずに私を見つめていた。「それは天使があなたに付けた印なの。あなたは天使が送った特別な使者で、誰よりも特別な存在なのよ！」私は彼女のつるつるした頭を優しく撫でながら、「だから、もう悲しまないで」小さな女の子は半信半疑のような表情で、頬を膨らませながら尋ねた。「お姉さんは、どうしてそれを知ってるの？」私は少し考えて、即興で身分を作り上げた。「私は神様の使者で、地上に降りてきた天使たちを助けに来たのよ」その言葉で彼女は完全に信じ込み、希望に満ちた瞳には涙が光っていた。突然私の胸に飛び込んできて、腰にしがみついた。「私は化け物じゃない。私は天使なの！そう、私は天使だから、死なないんだ！」こんなに小さな子供が既に「死」という概念を知っているなんて。周りの大人たちが彼女の病気についてどんな話をしているか、想像に難くなかった。私は彼女の薄い背中を優しく撫でながら、胸が痛んだ。「そう
愛欲の夜 第5話
その笑顔を通して、高校時代に告白してくれた、あの純粋で初々しい少年の姿が重なって見えた。涙を浮かべながら、私も安心した笑みを浮かべた。「リーン」その時、鋭い着信音が温かな雰囲気を引き裂き、私の心臓が再び高鳴り始めた。夫がポケットから携帯を取り出し、病院からの電話に出た。「はい、小泉真由さんのご主人様でしょうか？検査結果が出ましたので、至急病院にお戻りいただきたいのですが……」研修医は電話でそれ以上の詳細は明かさず、ただ急いで戻るように伝えただけだった。夫の約束があったおかげで、今までにないほどの勇気が湧いてきた。私は夫の手を取って立ち上がった。「行きましょう。どんな病気か、はっきりさせましょう」強がってみたものの、心臓の鼓動は一拍一拍、重く激しくなっていった。必死に築いた心の準備は、医師を目の前にした瞬間から崩れ始めた。医師は深刻な表情で、キーボードを数回叩き、机の上の医療画像を手に取ると、重々しく私を見つめた。「血液検査に異常が見られます。初診の段階では悪性の血液疾患の可能性があり、すぐに入院して経過観察が必要です」その言葉が耳に入った瞬間、頭の中で何かが爆発したような感覚に襲われた。全身の血が凍りつき、足は地面に根を生やしたかのように動かず、頭の中が真っ白になった。夫は焦りながら尋ねた。「先生、妻はこんなに健康そうですが、そこまで深刻なものではないのでは？もしかして誤診では……」医師は申し訳なさそうに微笑んで、「今夜入院手続きをして、明日さらに詳しい検査をしましょう」涙が頬を伝い落ちた。私は慌てて拭い、まだ質問しようとする夫の袖を引っ張って遮った。「行きましょう。まずは入院して」こうして、まるで夢のように、私は入院することになった。昨日までは普通の人だった私が、今日は病気が見つかってしまった。遅い時間だったため個室は埋まっていて、大部屋に入ることになった。夫が手続きに行っている間、私は冷たいベッドに横たわり、テレビのニュースを聞いていた。そこで気がついた。周りの患者さんたちは、みんな髪の毛がなかった。窓際のベッドにいる女の子も、まだ十歳にも満たない年齢なのに、つるつるの頭で病室を元気よく走り回っていた。彼らの坊主頭を見るたびに、私の心は沈んでいった。憂鬱な気持ちが一気に押し寄せて
愛欲の夜 第4話
その時、バスルームから出てきた夫が、複雑な表情で私を見つめていた。突然、私の目の前が真っ暗になった。最後に意識したのは、夫の慌ただしい足音と、動揺した声だった。「大丈夫か？どうした？」目を開けた時、強い消毒液の匂いと眩しいほど白い照明が、まず私の感覚を襲った。一度目を閉じ、しばらくしてからようやく細めた目で周りを確認した。簡易ベッドに横たわっている私の周りで、数人が小声で話し合っていた。年配の女性が私の目覚めに気付き、親しげに話しかけてきた。「お目覚めになりましたか。旦那様は今、受付に並んでいらっしゃいますよ。すぐ戻ってこられます」私は感謝の意を込めて頷いたが、喉が火照ったように渇いていて、一言も発することができなかった。唾を飲み込んで、乾いた喉を潤した。窓の外を見ると既に明るくなっており、翌朝になっていたようだ。意識を失う前、確か夫に応えようとしていた時だったのに、こんな形で病院に……？体に特に不快感はないものの、まだ目まいがする。見慣れない環境に置かれて、不安な気持ちでいっぱいだった。「どう？目が覚めた？」聞き慣れた声が耳に入り、横を向くと夫が戻ってきていた。夫の表情には心配と不安が混ざり合い、眉間には消えない憂いの色が浮かんでいた。私の胸が締め付けられる思いがした。私は何とか頷き、眉をひそめて口の形で無言のまま「どうなっちゃったの？」と尋ねた。「突然気を失ったんだ。すぐに救急外来に連れてきたけど、初診では特に異常は見つからなかった。医師からは、平日に改めて詳しい検査を受けることを勧められた。今、検査の予約をしてきたところだ。少し楽になったら、一緒に検査を受けに行こう」まさか一晩中気を失っていたなんて。昨夜のことが頭の中で何度も蘇り、考えれば考えるほど不安が募った。私は手を振って、夫に支えられながら体を起こした。一刻も無駄にはできない、今すぐ検査を受けようと決意した。全身の検査を終えた頃には、既に夕暮れ時だった。その夜のうちに結果が出るということで、医師から病院を離れないように言われた。私たちは結果を待つ間、病院の近くで夕食を済ませることにした。病院を出ると、懐かしい朝食屋が目に入った。高校生の頃、夫と私がよく通った店だ。当時、夫は毎朝この店の肉まんを買ってきてくれたものだっ
愛欲の夜 第3話
夫の手が私の身体を撫でるたびに、頭の中に刺激的なイメージが浮かんだ。夫が何か言いかけたところで、バスルームのドアが開いた。黄川田雷輝はタオル一枚で体をくるんでいて、引き締まった筋肉が見え、目が私をさぐるように上下に動いた。特に夫がさぐっている胸や太ももに視線が集中していた。私は黄川田の視線に特別な抵抗感は感じなかった。彼が部屋に入ってきた瞬間から、私は夫が自分の好みに合った男性を選んだことを知っていた。高身長、逞しい体躯、強靭な肉体。「二人が親しげに話す時間をもらいます。私はシャワーを浴びてきます」夫は部屋を私たちに任せ、バスルームに入っていった。彼の背を見つめながら、私は胸元に手を当て、これから起こることを予感し、体の中を暖かい欲望が流れるのを感じた。「奥さん、隣に座る許可を頂けますか？」「ん」私は小さな声で答え、少し身を引いた。黄川田はゆっくり私に近づいてきて、顔の横で彼の灼熱な吐息を感じ、心がくすぐったくなった。「奥さん、体がいい香りがする。触らせてもらえますか？」黄川田が低い声で尋ねた。「ん」今度は、私の声が昨度より少し大きかった。もしかしたら私の従順さが黄川田に勇気を与えたのか、彼は様子を窺う段階を飛ばし、直接手を私の胸に伸ばしてきた。彼は見かけ以上に女性を挑発するのがうまかった。まずはバスローブ越しに触れ、私が抵抗しないのを見てゆっくりとバスローブの中に手を滑り込ませた。見知らぬ男性の手は熱く、胸に触れた瞬間、私は無意識に足を閉じ、少し快感を感じた。私は目を閉じ、満足げに大きな息を吐いた。私の反応を見た黄川田はすぐに唇を重ねてきた。彼の舌は私の口内に侵入し、二つの舌が激しく絡み合った。最初は少し恥ずかしかったが、押し寄せる欲望に敗北し、私も積極的に舌を絡ませた。二つの舌が激しく狂おしく絡み合う。彼は始終熱情的で、私は次第に興奮し、それが止まらなくなった。緊張で硬くなっていた体も次第にほぐれ、ベッドに手をついて体を支える必要があった。私の反応が彼を奮い立たせた。彼の動きは次第に大胆になっていった。一方の手で私の太ももを揉みしだき、もう一方の手で私のバスローブのベルトを解き、ゆっくりと腿の付け根に手を伸ばしていった。指先が時折私のパンツの股間を軽く触れ
愛欲の夜 第2話
夫は後ろから私を抱きしめ、優しくも真剣な口調で言った。「ねぇ、君は今が一番盛りの年頃だよ。性欲も強くなる一方なのに、僕はもう下り坂で、もしかしたらずっと君を満足させられないかもしれない」「そんな馬鹿な話を。私、そんなに欲求不満じゃないわ」「大丈夫、体育会系の男子を何人か選んでおいたんだ。今夜は一人と会ってみよう。きっと君を満足させられるはず」「本気なの？」私は混乱していた。でも夫の様子は冗談を言っているようには見えない。胸が高鳴り始めたけれど、顔が赤くなっているのを夫に見られたくなくて、食器を持って台所に逃げ込んだ。夫が本気なら、女の私からあれこれ聞くのも良くないだろう。ただ心の中では落ち着かず、まるで操り人形のように夫に手を引かれて家を出た。ホテルまでの道中、私の足取りは頼りなく、ぼんやりとした状態が続いていた。夫が部屋を取って、私にシャワーを浴びるように言うまで、夢うつつのようだった。やっと我に返って、夫の手を掴んだ。「ねぇ、本当にこれでいいの？」夫は私の手を軽く叩いて、「信じて。肩の力を抜いて、楽しめばいいんだよ」「楽しめばいい」その言葉には不思議な魔力があって、あっという間に私の心の防壁を崩してしまった。夫はいつも私の仮面を剥がしてしまう。最初の頃も数回会っただけで私をベッドに連れ込んだ。今でも同じだ。シャワーを浴びながら、下の方を丁寧に洗った。初めて夫とホテルに来た時も、こうして洗っていたっけ。同じことを繰り返しているのに、今の気持ちは複雑で、どう表現していいのか分からない。シャワーの後、持ってきた着替えの中から普通の黑の下着を選んだ。念入りに準備したと思われたくなかったから。バスローブを着ると、夫が私を抱きしめてきた。「君がこういう普通の奥様っぽい格好をすると、本当に魅力的だよ」夫の胸に身を寄せながら、心臓は激しく鼓動を打っていた。頭の中は、これから会う見知らぬ男性のことでいっぱいで、おずおずと顔を上げて聞いた。「あの、その人は……」言葉の途中で恥ずかしくなって止まり、夫の服をぎゅっと掴んだ。夫は私のお尻を軽く叩いて、「もうエレベーターに乗ったところだよ」と囁いた。その言葉が終わるか終わらないかのうちに、部屋のチャイムが鳴った。私は飛び上がるように驚いて、慌てて夫に尋ねた。「
愛欲の夜 第1話
「気持ちいいか？……他人のベッドで……他人の女房を弄ぶのは……どうだ？」真夜中、私は全裸でベッドの上で四つん這いになり、お尻を突き上げ、シーツを強く握り締めながら、背後の男の荒々しい突きに身を委ねていた。長い間欲求不満だった身体が、今日やっと満たされる……私の名は小泉真由。ダンス教師をしている。18歳の夏休み、まだ彼氏だった今の夫に処女を捧げた時から、私の中の底知れぬ性欲が完全に目覚めてしまった。あの頃の夫は情熱的で、一晩に四回も五回も私を抱いていた。でも結婚して仕事を始めてからは、段々と力が衰えていき、いつも手早く済ませるだけ。前戯も10分とない。この半年以上、一度も満足させてもらえていない。その夜も、退屈な営みが終わった後。夫は息を荒くしながら、ティッシュを取り出して私を拭いてくれた。「ごめんね、今日は短ったね。イケた？」私は小さく喘ぎながら、満足げな表情を装って彼に抱きついた。「イッたわ。すごかったよ」夫をなだめすかして、早く寝てくれないかとやきもきしながら。そのあとトイレで自分を慰めるつもりだった。今の私はまだ中途半端な状態で、足の付け根が痒くて、焼けつくような不快感に襲われていた。夫の寝息が規則正しくなるのを待って、そっとベッドを抜け出し、クローゼットの引き出しから肌色のバイブレーターを取り出し、足音を忍ばせながらトイレへと向かった。今夜は遅いから、手早く済ませるしかない。バイブを最強に設定して挿入すると、まるで体が宙に浮いたような感覚に襲われた。強烈な電気が走るような快感に、思わず声を上げそうになり、必死で口を押さえた。太ももが震え続け、骨の髄まで染み渡る振動の痺れに耐えた。少しずつ落ち着きを取り戻し、お気に入りのバイブを抜き取ると、急に切なくなった。はぁ、一生これで我慢するしかないのかしら。体を拭き、レースのネグリジェを着てベッドに戻ると、突然夫が寝返りを打って私を抱きしめてきた。「ねぇ、君に男性を紹介しようか」私の心臓が締め付けられた。やっぱり気付かれていたのか。「何言ってるの、早く寝ましょう！」その夜、私は眠れなかった。一つには、夫に内緒でおもちゃを使っているのがバレて、彼のプライドを傷つけてしまったのではと心配で。もう一つは、夫の提案に心が揺さぶられてしまって
