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2 幸せな時間と永遠の誓い

Author: けいこ
last update Last Updated: 2025-04-26 22:36:30

蒼太が小学校の高学年になった頃、蒼真さんに看護師への復帰を勧めてもらった。

学校でのPTA活動などにも参加していたら、あっという間の高学年。そろそろ私も……と思っていたタイミングだったので、とても驚いた。

でも……すごく嬉しかった。

また看護師として患者さんのために頑張れる――

そう思うと自然に喜びが湧き上がり、気持ちが引き締まった。

松下総合病院に戻ってほしいとのお誘いもあったけれど、私は蒼太のために近くにある小さめの総合病院に勤めることにした。

ヒヨコのまま辞めてしまったので、今度もまた新たな気持ちで1からスタートしたいと思った。

久しぶりのナースステーションに最初は緊張したけれど、中川師長みたいな頼れる先輩がいて、私にいろいろ教えてくれるのが有難かった。

蒼真さんの知り合いの先生もいて、とても働きやすい環境に、私は意外とすぐに馴染むことができた。

精一杯頑張ろうと毎日奮闘している私を、家族が支えてくれることが、何より有難く、感謝しかなかった。

外科医として期待されている蒼真さんは、ゆくゆくは海外で活躍するかも知れない。

まだ何もわからないけれど、その時は私も仕事を辞めて着いていかなければならないだろう。いや、もちろん、着いていきたい。そのために、私は今、働きながら英会話スクールにも通い始めた。

蒼真さんは英語がペラペラで、蒼太も小さな頃から蒼真さんと英語で会話していて結構話せる。

私だけが置いてけぼりにならないように今頃慌てているのが正直なところだ。

とにかく、どんなことになっても一喜一憂せずにどっしり構えていられるよう、今はしっかり自分の仕事、家事、子育て……ができるようにと気合いを入れている。

時々、孫の顔を見にきては、バタバタしている私をさりげなく助けてくれる両親達にも感謝だ。子守りや家事を手伝ってくれると、とても助かる。

みんな蒼太が可愛くて仕方ないようで、孫に会いに来るのが生きがいだとまで言ってくれている。

私は……そんな優しい人達に守られ、支えてもらいながら、毎日を生きている。
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    私は今、すごく幸せ――だったら、それでいいのかな?都合良すぎる考え方かも知れないけれど……だけど、月那が言ってくれた言葉だから、私はそれを信じようと思った。七海先生も歩夢君も……絶対「幸せ」でいてほしい。お願いだから、悲しい思いをしないで……心からそう祈るばかりだ。「私の話ばかりでごめんね。月那は太一さんとの新婚生活はどう?楽しんでる?」「う~ん、まあまあだね。仕事も家でも一緒だし、ちょっと飽きてきたかな」また大声で笑う。大きな口を開けていても、美しい人は美しい。「さっき世界一幸せな夫婦って言ってたよね?」「そんなとこ言ったかな?まあ……ね、もちろん楽しくやってるよ。いろいろあるけど、私、太一がいないとダメみたいだしさ。あんなに筋肉バカなのに、嘘みたいに優しい人だし。ちょっと頼りないとこあるけど、私にとっては最高の夫かなって思うよ」「そっか……素敵だね」月那もすごく幸せなんだ。その言葉がとても胸に響いて嬉しくなる。「素敵……かな?」「うん!最高の旦那様だって、素直に太一さんにもそう言ってあげてね」「い、嫌だよ。そんなこと言ったら負けだし」「負けって……。月那、私には素直にって言っておいてズルくない?」「ズルくないズルくない。私はいいの~」自由な月那に苦笑いした。そんな風に、お互いの新婚生活や仕事、子育てのことをしばらく語り合う2人だけの時間は、あっという間に過ぎていった。もっとずっと話していたいけれど、今日はここでおしまい。「今日の晩御飯は何?」「太一が好きだから今日は豆腐ハンバーグ。子どもみたいだからね、あの人。何個も食べるからミンチの大量買いしなきゃいけない」「いいな~美味しそう!豆腐ハンバーグはヘルシーだしいいよね。うちはカレーにする」初めて蒼真さんに作った料理。いつ食べても毎回褒めてくれる「カレーならそっちも子どもだよ」「確かにそうだね」「男はお子さま料理が好きだよね。煮物とか食べないんだから」「煮物美味しいのにね」「まあ、鍛えてるから食事はちょっと大変だけど、喜んで食べてる姿見たら嬉しくなるからね。頑張って作ろうって思えるよね」「本当にそう。美味しそうに食べてくれるのが1番嬉しいよ」女子トークは結局、ドアを閉める瞬間まで続いた。「必ずまた女子会しよう」と約束して、手を振りながら、月

  • 情熱的なあなたに抱かれ私は甘い夢を見る~新人看護師は無敵な外科医にしつけられてます~   6 新しい家族の誕生

    「そっか……。奥さん、毎日側にいてわかったんじゃないかな。七海先生の中には他の誰かがいて、自分を見てないって。最初からわかってたつもりだったけど、実際に側にいると余計につらいと思うからさ」「……」その言葉について、私は何も言えなかった。「大好きな七海先生と別れるのは寂しかったかも知れないけどさ。その分、藍花が幸せにならなきゃダメだよ。奥さんだって、七海先生より良い人に必ずいつか巡り会えるんだから。そのための離婚だよ。絶対に」「月那……」その言葉にほんの少し救われる。七海先生が私のことをずっと想ってくれているなんて、自惚れたくはないけれど、奥さんの、好きな人と別れる決断は、ものすごくつらかっただろうと、今の私には痛いほどわかる。結婚して蒼真さんの側にいて……私はどんどん彼を好きになっていくから。「七海先生はさ、たぶん1人で大丈夫だよ。あの人、結局誰と結婚しても一生藍花を想い続けるから。それが七海先生の幸せなんじゃない?」「そんな……。私、どうしたらいいかわからないよ」「出たね、藍花の迷い癖」「えっ?」「いいんだよ、どうもしなくて。本当にほおっておきなよ。好きにさせてあげたらいいんだよ」「でも……」「でもじゃない。七海先生にとってはそれが1番の幸せなんだって。藍花は気にせずに自分の幸せだけを考えたらいいの。でないと白川先生に悪いよ」「……うん。わかった……」「素直でよろしい!いい子だね、よしよし」月那は私の頭を優しく撫でた。その仕草に少し照れる。「とにかくさ。七海先生と歩夢君はそれぞれに幸せなんだからね。自分のせいだとか考えちゃダメだからね。藍花が幸せになることが、2人にとって何よりも嬉しいことなんだからね」

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