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第6話

Author: 小林明里
last update Last Updated: 2024-11-14 10:17:38
「ものは全部持って行った。言いたいことは、せいぜい空気に向かって言えばいいわね」

孝二は床にひざまずき、粒の大きな汗がポタポタと落ちる。痛みのあまり言葉も出ず、血がじわじわと床に染みていくが、部屋はがらんとしたままだ。

ようやく気づいた。家の中から私の物がすべて消えていることに。

姉はゆっくりと部屋を出ていくが、その表情に晴れやかさはなかった。

孝二はその場で痛みに気を失い、しばらくしてから意識を取り戻した。

汗で体中が濡れ、震えながら救急車を呼んだ。

悩んだ末に、優奈に電話をかけ、苦しそうに話しかける。

「優奈、早く家に帰ってきてくれ」

優奈の向こうからは賑やかな騒音が聞こえ、何度か応答したあと、そばの男の甘ったるい声が混じる。

「誰だ?」

「ある男だよ」

電話は一方的に切られた。孝二の目から涙がこぼれ落ちるが、それが痛みからか、怒りからかは分からない。

彼はもう一度スマホを手に取り、救助隊に電話をかけた。

「すみません、絢香が亡くなったというのは本当ですか?」と、弱々しく問いかけながら、涙が汗に混じってポタリと落ちる。

すると、相手は少し苛立ちを含んだ声で、冷静に答えた。

「何度も言ってるだろう、佳子が引き取りに来たんだよ。彼女は山腹にぶら下がったまま、今にも凍えて肉が干からびそうな状態だった。遺体は獣にかじられていて、手にはロープを握っていた。だが、そのロープは切れてた。しかも救助を要らないと言ってたな。お前はほんとに人間か?」

電話が突然切られ、孝二は目を閉じて何かを考え込んでいる。

医者がすぐに駆けつけ、簡単な処置を施したあと、心配そうに言った。

「警察を呼びますか?これじゃ、もう二度と元には戻らないかもしれませんが」

孝二はかぶりを振り、何も答えずにベッドに横たわったまま、絶望的な表情を浮かべて天井を見つめていた。

彼は姉に電話をかけた。

通話がつながると、孝二は焦り気味に問いかけた。

「絢香は本当に死んだのか?ロープを渡したとき、彼女はまだ元気だったのに」

そう言うと、彼はようやく思い出したようだった。私の青白い顔や紫色の唇、そして最後の懇願を。彼は突然、口を閉ざした。

「信じてもらえなくても構わないが、出かける前にロープはちゃん
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    「この前、私は一時間も話してあげたよ、彼女を元気づけて、久しぶりに君とこんなに長く話したって言ってたじゃないか。君、何してるんだよ、ほんとに悪い男だな」 孝二は何も返さず、むしろ優奈の目を心配していた。 「もう遊ぶのはやめろ、携帯持って、しっかり抱きついて、ふざけてると投げ飛ばすぞ」 私は無力感に包まれながら、無言で孝二を見つめた。まるで彼と初めて会ったかのように感じた。 あの日、彼は普段と違って長時間話し、私を元気づけるためにいろんなことを言ってくれた。私は携帯を持ちながら胸が締めつけられる思いをし、幸せで意識が飛びそうだった。 彼は私を食事に連れて行くと約束したが、私は何時間も待っていたのに、彼は帰ってこなかった。 期待が大きいほど失望も大きかった。その時、私たちは激しく喧嘩をした。あれも優奈の策略だったのだ。 しばらくして、孝二が突然言った。 「彼女が家に帰ったか聞いてみて。明後日彼女と離婚するつもりだ。前に喧嘩した時、離婚って言ったら黙っちゃったけど、今回また離婚を言い出す」 優奈はそれを了承し、私は彼女が内容を編集しているのを見たが、孝二が言ったこととはまったく違う内容が送られていた。 「死ねばいいじゃん、毎日どこかが痛い。どこかが不満だ言って、死んじゃえばもう不満もないだろ。うざいから遠くに行け。離婚?反対だ。お前、くたばってしまえ!」 その言葉を送った後、優奈はそれを削除し、何事もなかったように孝二に嘘をついた。 「彼女、明後日会おうって言ってたよ。私は孝二くんの代わりに謝ったけど、どきなさいって返事した」 孝二は顔色を変え、深く息をついて愚痴をこぼし始めた。私はただその言葉を聞き続け、麻痺していった。 彼が言うのは、私がどれだけ彼に良くしてきたかの話ばかりだが、彼は私をコントロールしようとしていると言って、私を「悪い女」だと言った。 「男はいい女と悪い女を見分けられるよ。彼女が優奈ちゃんの悪口言ってるのを聞いて腹が立つよ。彼女の方が心が狭いな」 二人は楽しそうに話し、孝二は優奈を抱えてどんどん遠くへ歩いて行った。二人とも一言も疲れたとは言わなかった。 優奈の家に着くと、彼らは慣れた様子でベッドに横たわり、孝二は立ち上がって水を取ったり、毛布を持ってき

  • 岩登りの時私を置き去りにしたのに、私が死んだら何で泣くの   第2話

    医者が質問しているとき、彼は優奈よりもよく知っているようだった。日付や普段使っている薬の名前まで覚えていて、顔には焦りの色が浮かんでいた。まるで生理痛ではなく、出産でもしているかのように。 でも、以前私が彼にお腹を温めてくれと言った時、彼はゲームをしながら無視していた。その時の顔は、私の心をドキドキさせたあのイケメンの顔とはまるで別人で、今では嫌悪感さえ抱いていた。 「僕は、世話なんてできないよ」 私は必死で自分に言い聞かせた。彼は本当にできないのだろうか? 確かに、彼は私の命を救ってくれた。彼の数々の行為も、これで免罪されたと思っていた。 でも、今、私はもう死んでしまった。自分を欺いてはいけない。 結局、愛されていなかったんだ。私は永遠に彼の第一選択ではなかった。孝二は優奈を抱きかかえて病院を出た。まるで壊れ物のように扱って、優奈は甘えて彼の胸を一発殴ったが、孝二はそれに合わせて後ろに倒れた。 私の姉、山内佳子は孝二を止め、氷のような表情で尋ねた。 「絢香はどこ?今日、復診のために彼女に来てもらうように言ったのに。夫との結婚記念日って言ってたけど、どうしてお前たち二人が一緒にいるの?彼女はどこに?」 佳子は私の父違いの姉だった。母が亡くなってから、彼女は母のように私を世話してくれた。 彼女が焦っているのを見ると、私は胸の中で怒りや悲しみが込み上げてきて、目が急にしょっぱくなった。 優奈は目をくるっと回して、すぐに答えた。 「私たちが彼女のことを知っているわけないじゃない。私はお腹が痛いから、先に行きますね」 そう言うと、彼女は孝二を引き寄せて歩き出したが、姉は彼女たちを止め、私のことを再度尋ねた。表面は冷静だったが、私は彼女が爆発寸前だと感じていた。 「彼女の電話が通じないのよ。今日は絶対に来るって言ってたのに。彼女は約束を守る子で、約束を破ることなんて絶対にない。孝二、彼女はどこなの?」 孝二は少しイライラしながらも、我慢して冷たく答えた。彼はいつも姉を怖がっていた。 「僕たち、ロッククライミングで二つのグループに分かれて帰ってきたんだ。彼女は後ろの飛行機に乗ってるよ。僕が彼女を連れて来なかったわけじゃなくて、優奈の方がもっと医者に診てもらわないといけないんだ」

  • 岩登りの時私を置き去りにしたのに、私が死んだら何で泣くの   第1話

    目を開けると、もう飛行機の中に漂っていた。 透明になった自分の体を見て、私はもう死んでいたことを理解した。崖で死んで、鳥や獣に食べられたのだろう。 私は切れ目がきれいに整ったロープを見て、最後に山口優奈が含みのある目で私を見たことを思い出した。 結局、私は山間部で死んだ。腕にロープをしっかり抱えて。 そして、私の良い夫は、優奈を心配そうに見つめ、コートを脱いで彼女にかけていた。それだけでは足りず、救助隊に向かって言った。 「毛布はありますか?彼女は生理なので、冷やしてはいけません」 救助隊員は呆れていたが、言葉を発する前に、優奈が佐藤孝二を引き止め、顔をしかめた。 「心配しないで。私は孝二くんのあの泣き虫な妻じゃない。腹痛なんて大したことないわ。でも、温めてもらえると嬉しい」 口では私ような人じゃないと言いながらも、遠慮なく孝二の手を自分の腹に置かせた。 私は空に浮かびながらも、彼女にビンタをしたくてたまらなかった。 私は心臓病があって、さっきは唇が紫色になり、震えながら孝二に病院に連れて行ってくれと頼んだ。 でも返ってきたのは「大げさ」だけだった。 今日は私たちの結婚5周年記念日。孝二は私の反対を聞かず、未開発の地域でロッククライミングをしたいと言い出した。 優奈が刺激を求めていたから、私は強引に連れて来られ、文句を言われる始末。 今も私を放置し、彼女は当然のように振る舞っている。 「なぜあの女と結婚したんだ?5年経っても子供もできない、体も弱くて泣き虫で、気取ったことばかり言って、さっき謝ったのにあの態度、もう耐えられない。馬鹿だよ。死んでも構わない」 孝二は深く頷きながら、彼女の腹を揉んでいた。 「毎日心臓が痛いって言ってるけど、本当に死んだことないだろう?騙せると思ってるのか?あんなところに放っとけばいいんだよ。ロープも残してきたから、死ぬことはない」 私は冷徹に孝二を見つめた。彼の言葉には一切の心配が感じられなかった。 孝二の顔に寄り添い、静かに言った。 「私はもう死んでるよ。お前の手で殺されたんだ。これからは、二人で仲良くやって、私みたいなお邪魔虫はいなくなる」 すぐに飛行機が着陸し、孝二は優奈を抱えて出て行った。後ろで何か言いか

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