第51話

和泉夕子は少し疑問に思ったが、すぐに電話を取り上げ、受話器を耳に当てた。

「夕子、ちょっとオフィスに来てくれ」

電話の向こうから、藤原晴成の穏やかな声が聞こえてきた。彼は一言だけ指示を伝えると、すぐに電話を切った。拒否する余地もなかった。

霜村冷司がそこにいることを考えると、彼女はどうしても行きたくなかったが、藤原晴成が自ら呼び出すからには重要な用事があるに違いなかった。

彼女が英華インターナショナルに来てから、藤原晴成は常に彼女に対して親切であり、彼女は覚悟を決めて、彼のオフィスに向かうことにした。

予想通り、霜村冷司はすでにオフィスに座っていて、藤原晴成と共にプロジェクトについて話していた。

彼らは城西エリアの入札について話しており、これは最近延期されていたプロジェクトだ。林原グループがトラブルに見舞われた後、霜村冷司は何らかの理由で入札を数日延期したため、林原側は偽の契約書に疑いを持たずにいた。

さらに、林原辰也は負傷して昏睡状態にあるため、偽の契約書を林原家に提出する暇もなかった。

和泉夕子は心の中で、もし林原辰也が目を覚まし、偽の契約に気づいたら、彼が自分に復讐しようとするのではないかと少し心配していた。

しかし、それは後の話だ。林原辰也が目覚めたとしても、彼はまず林氏の再建や、会長の保釈、さらにはパートナーへの違約金の支払いなど、多くの問題に直面するだろう。

彼がこれらの問題に対応しているうちに、自分はおそらくこの世を去っているだろう。彼が復讐しようとしても、すでに手遅れだ。

彼女は思考を振り払って、ドアをノックしようとしたが、オフィスの中で「帝都の望月家」という名前が話題に上っているのが聞こえてきた。

「望月」という名前を聞いた途端、和泉夕子の顔は少し青ざめ、かつての少年の姿が頭に浮かんできた。

彼女は感情を抑え、深呼吸をしてから、ドアを軽くノックし、敬意を込めて「会長、お呼びでしょうか？」と尋ねた。

藤原晴成は手に持っていたコーヒーカップを下ろし、和泉夕子に視線を向けた。

「夕子、望月氏の接待を担当しているのは君だったね？」

和泉夕子はうなずいた。

「はい、そうです」

藤原晴成は腕時計を確認し、

「それじゃあ、今夜6時頃に望月総裁との会食を手配してくれ。高級なレストランを選んで、空港まで社長を迎えに行くように」