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第46話

「あと30分だけ待つ。」

そのメッセージが届いた後、男からの返信は途絶えた。まるで、決定権を和泉夕子に委ねるかのようだった。

彼女はスマホを握りしめ、全身を震わせていた。

警察に提出したメッセージには、林原辰也の名前が記されており、ホテルの監視カメラにも林原辰也が出入りしている映像が残っている。

警察はこれらの証拠を基に、林原辰也に対して調査を行うだろう。

しかし、この時に夜さんが彼女の林原辰也を殺そうとした計画を暴露すれば、間違いなく彼女は殺人未遂で起訴されてしまう。

そして、林原辰也も彼女が本来契約書を届けに来たのではなく、殺意を抱いていたことを知るに違いない。

林原辰也が彼女の本心を知れば、彼に対するすべての苦しみを彼女に押し付けるだろう。

結局のところ、林原氏は彼を陥れた黒幕を見つけられなかったが、彼女が殺意を抱いていたことが露見すれば、彼女がその黒幕だと疑われるのは避けられない。

林原辰也は今、醜聞で身を落としているだけで、林原氏の会長のように捕まってはいない。彼が昏睡から目覚め、この真相を知れば、彼女を絶対に許さないだろう。

彼女は林原辰也を恐れていた。どんなに落ちぶれても、彼の力はまだ大きく、彼が本気で彼女や白石沙耶香を追い詰めるのは簡単なことだ。

彼女自身は死を恐れていなかったが、沙耶香だけは彼女の唯一の弱点だった。

彼女は思い悩んだ末、夜色のプレジデンシャルスイートに向かうことにした。

林原辰也の報復を受けるくらいなら、夜さんに屈するほうがましだと。

ただ、出かける前に電気ショック棒をポケットに忍ばせた。

何があっても、一度は抵抗しようと考えたのだ。

和泉夕子は勇気を奮い立たせ、プレジデンシャルスイートのドアをノックした。

すぐに、ドアが中から開かれた。

それは自動ドアで、リモコンで操作されていた。

ドアを開けた男は、部屋の窓の前に立っていた。

相変わらずの格好で、顔は金銅色の仮面に覆われており、乱れた短髪とカジュアルな服装が特徴的だった。

男は窓の前に立ち、一方の手をポケットに、もう一方の手にはワイングラスを持っていた。

彼女がドアの前で動かずに立っているのを見ると、男は手を挙げて彼女を招いた。

「来い」

その冷たい口調は、まるで霜村冷司を思わせる。しかし、首にあるタトゥーが彼女の疑念を打ち消した。
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