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第110話

和泉夕子は以前、白石沙耶香のことを少し心配していた。それは、江口颯太が沙耶香に自分の実家に一緒に帰ろうと言われたとき、何かと理由をつけて阻止しようとしたからだった。江口の両親も彼女の帰省に反対し、理由として「郊外の環境が悪くて沙耶香が慣れないかもしれない」といったことを挙げていた。

彼女は江口家の人々が何かを隠しているのではないかと少し心配していたが、沙耶香は「彼らは私を気遣ってくれているんだと思う。郊外に行って環境が悪いと感じたら、江口との関係に悪影響を及ぼすかもしれないからね」と感じており、夕子もあまり口出しはしなかった。

ただ、今はもう二人は結婚まで済ませているのに、どうしてまだ江口家の人たちは新しい嫁を実家に迎え入れないのか、不思議に思っていた。

夕子が不思議に感じていると、沙耶香は「どうでもいいわよ。郊外に行きたくないし、私は颯太とA市にいるし、彼の両親は実家にいる。これから一緒に住む必要もないし、姑とのいざこざも減るから、むしろ嬉しいくらい」と言った。

沙耶香がそう言うのを見て、夕子も言おうとしていたことを飲み込んだ。

きっと彼女が考えすぎただけなのだろう。江口の両親は沙耶香にとても親切で、二人が結婚することを聞くと、長年貯めていたお金を取り出して、彼らの頭金の一部を支払った。

そのお金の大部分は沙耶香が出したものの、江口家の人たちは少なくとも誠意を示していた。

さらに江口の両親は実家で農業を営んでおり、収入も少ない中で少しでも頭金を出し、また結納金も渡してくれたのだから、精一杯尽くしてくれたのだろう。

沙耶香を実家に行かせないのも、本当に沙耶香が田舎の環境を嫌うのではないかと心配しているからかもしれない。

夕子は心の中の思いをしまい込み、沙耶香の腕に手を絡め、二人で楽しげに話しながらスーパーへ買い物に出かけた。

下の階に降りて車に乗り込んだとき、夜さんからまた何通かのLINEが届いた。夕子はスマホを手に取り、ちらっと見た。

「お前は本当に最低だ」

「俺と寝たくせに、他の男とも寝るつもりか。そんなに男が欲しいのか」

「クソ女、俺はお前を殺してやりたいくらいだ」

何通も彼女を罵るメッセージばかりだった。

夕子はそれを見て怒りで体が震えた。彼は自分が誰だと思っているのか。レイプ犯のくせに、彼女を罵る資格なんてどこにもない。

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