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第094話

伊藤光莉は車で松本若子を家まで送った。

松本若子が車から降りると、「お母さん、今夜ここに泊まっていってください」と言った。

「いいえ、私は一人でいるのに慣れているから、あなたはゆっくり休みなさい」と、伊藤光莉は断った。

「ゴホゴホ…」松本若子は咳き込んだ。

伊藤光莉は、車の中でも彼女が咳をしていたことを気にして、「家に戻ったらお湯をたくさん飲んで。風邪をひいたみたいだから、薬はできるだけ飲まないで、ゆっくり休むことね」とアドバイスした。

松本若子は頷いて「わかりました、お母さんも気をつけて」と答えた。

彼女は無理に伊藤光莉を引き留めなかった。彼女が本当に帰りたいことが分かっていたからだ。

松本若子は家に入ると、コートをしっかりと締めた。夜はすっかり寒くなっていた。

執事が出迎えた。「若奥様、お帰りなさい」

「執事さん、まだ寝ていなかったの?」

「車が入ってきたので、若奥様か若様が戻られたかと思って」

松本若子は微笑んで、「彼は戻らないわ。あなたも早く休んで」と言いながら咳き込んだ。

彼女は拳を唇に当て、咳を抑えながら階段を上がっていった。

部屋に戻ると、咳がひどくなってきた。

彼女は風邪をひいてしまった。先ほど、寝間着のまま藤沢修に無理やり外に連れ出され、彼が慌てて上着を持ってきたものの、それは病院に着いた時にやっと着たものだった。

病気の侵入なんて、ほんの一瞬の出来事だった。

執事が薬と一杯の温かいお湯を持って部屋のドアの前に立っていた。「若奥様、まだお休みではないですか?」

礼儀正しく声をかけたが、彼女がまだ起きていることは咳の音で分かっていた。

「執事さん、何か用ですか?」松本若子が聞いた。

「若奥様、咳をしていらっしゃったので、お薬をお持ちしました。温かいお湯もありますから、薬を飲んでからお休みください」

やがて松本若子がドアを開けると、彼女の顔は少し青白かった。

彼女は薬と水を受け取り、「ありがとう、もう休んでいいわ」と微笑んだ。

執事は頷いて去っていった。

松本若子はドアを閉め、薬は飲まずに温かいお湯だけを飲んだ。

彼女は妊娠中であり、どうしても避けたい限り薬を飲むことはできなかった。

執事が自室に戻り、眠りにつこうとしたところで、藤沢修からの電話が鳴った。

「若様、何か御用ですか?」

「若子は家に帰
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