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第66話
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前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第67話
「はい！」SPたちは涼の後ろについて、ブルーホエールレストランへ向かった。瞬く間に、校門前には人だかりができた。「何でこんなに人が集まってるの？」「知らないの？黒川社長が婚約者を捕まえに来たのよ！滝川のお嬢さんが望月教授とデートしてるんだって！」「本当？黒川家は厳しいって聞くし、滝川さん、今度こそ大変なことになるんじゃない？」......ブルーホエールレストラン店内。奈津美が炭酸水を一口飲んだその時、SPたちが店内に突入してきた。他の客は全員店外に退出させられた。奈津美は眉をひそめた。涼が6人のSPを連れて入ってきた。奈津美はこのブルーホエールレストランが広いことに感謝した。そうでなければ、こんなに大勢の人間が入るスペースはないだろう。涼は礼二をちらりと見て、それからゆったりと椅子に深く座っている奈津美を見た。最後に、彼はテーブルの上にあるハート型のデザートに気づいた。デザートには明らかに手がつけられていなかった。テーブルの上の広告には、「バレンタインデー限定！カップルのお客様にシェフ特製デザート『熱い恋』をプレゼント！」と書かれていた。重苦しい雰囲気を感じた奈津美は、「黒川社長、こんな慌てて何の御用かしら？」と尋ねた。彼は冷たく言った。「何も言うことはないのか？」奈津美は気に留める様子もなく言った。「望月社長と食事をしているだけよ。それも黒川社長が口出しすること？」「ただの食事で、手をつないで行く必要があるのか？」涼は冷たく言った。「奈津美、俺を馬鹿にするな。食事なのかデートなのか、もっとはっきり言わせるつもりか？」「涼さん、私は望月社長と普通に食事をしているだけよ。黒川社長も普段から接待も多いでしょう？あなたが女性のお客様と食事をしたら、私がデートだって言うかしら？」奈津美はわざとらしく言った。「そういえば、黒川社長はいつも白石さんと一緒に食事をして、誕生日までお祝いしていたわね」「奈津美！」涼の顔色はさらに険しくなった。向かいに座る礼二は落ち着いた様子で言った。「黒川社長、神崎市中があなたと白石さんの関係を知っているよ。それに、あなたは滝川さんに『君に心を奪われることはない』と言ったはずだ。だったら、お互い好きなようにすればいいじゃない？どうしてこんなくだらない質問
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第68話
前世、初めて涼と綾乃が親密にしているのを見た時、涼は彼女のそばに来て言った。「俺の婚約者になるってことは、それなりの覚悟が必要だ。俺のすることに口出しするな。お前がすべきことは、ただ耐えることだけだ」今、奈津美はこれらの言葉を一字一句違えず涼に返した。案の定、涼の顔色は徐々に険しくなり、奈津美を見る目に怒りが宿った。「奈津美、たとえ礼二と親密にしたいとしても、場所をわきまえろ！お前は人前で綾乃に恥をかかせた。やりすぎだとは思わないのか？」奈津美は言った。「もう済んだことよ。黒川社長はどうしろと言うの？」「全校生徒の前で、綾乃と彼女の友達に謝罪しろ。こんなこと、わざわざ言わせるのか？」綾乃を無条件に庇う涼に対し、奈津美は言った。「黒川社長は理由も聞かずに、こんな大勢の人間を連れてきて私に文句を言いに来たのね。どうして私が手を上げたのか、聞かないの？」「他に理由があるか？ネットの噂のせいだろう？綾乃は既にネットリンチを受けているんだ。それでもまだ足りないのか？一体どうしたいんだ？」涼の言葉を聞いて、礼二はもう我慢ができなくなり、立ち上がって言った。「ちょっと待て、黒川さん。君の目は節穴か？」礼二は前に出て、奈津美の顔を指さして言った。「滝川さんの顔に何があるか、よく見てみろ。こんなに分かりやすいビンタの跡が見えないのか？」それを聞いて、涼は眉をひそめた。彼は怒りに我を忘れて、奈津美の顔のビンタの跡に全く気づいていなかった。青い照明の下では、赤い跡はあまり目立たなかったが、よく見るとはっきりと分かった。「黒川社長の目はまだ見えていたようだな。それなら、誰がこのビンタをしたのか、分かるはずだ」礼二の声は冷たく、彼は言った。「滝川さんは仕返しをしただけのことだ」「礼二、どういう意味だ？」「知りたければ、白石さんに聞けばいいだろう？」礼二は冷淡に言った。「私は食事中に邪魔されるのは好きではない。黒川社長、部下を連れて出て行ってくれ。邪魔をしないでほしい」「礼二、勘違いするな。彼女は俺の婚約者だ」涼は奈津美の腰に手を回した。この所有権を主張する行動に、礼二は笑った。「そうか？黒川社長が言わなければ、本当に分からなかったよ。さっき白石さんのためにあんなに怒っていたのを見て、ほとんどの人が黒川社長の婚約者
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第69話
「お前......」涼の顔色は真っ暗になった。奈津美は再び椅子に座り、涼に言った。「黒川社長、お帰りください」「奈津美、よく考えてからものを言え」「黒川社長、よく考えて言ったわ」奈津美は涼に微笑んで言った。「黒川社長も言った通り、今日はバレンタインデー、恋人同士で過ごす日よ。黒川社長は白石さんと一緒に過ごすべきで、私を家に連れて帰るべきではないわ。白石さんが誤解したら大変でしょ」「いいだろう、奈津美、言ったことを覚えておけ！」そう言って、涼は部下を連れてレストランを出て行った。レストランの外で、田中秘書は心配そうに言った。「黒川社長、滝川さんが帰ってくれませんね。会長に聞かれたら......」「奈津美の顔の傷がどういう経緯でできたのか、調べてこい」涼は眉をひそめた。「社長は、あの二人が滝川さんに濡れ衣を着せたと思ってるんですか？でも、あの人たちは白石さんの親友ですし、もし聞いたら......」「それなら食堂にいた他の学生に聞け」涼は冷淡に言った。「そんなことまで教えなければならないのか？」「......承知しました、黒川社長」涼はレストランの中で楽しそうに話している奈津美と礼二をもう一度見て、さらに眉をひそめた。バレンタインデーを礼二と過ごしたいのか？奈津美、甘い考えはするな！涼は隣の田中秘書に言った。「滝川さんに電話しろ。娘の教育をしっかりするように言ってやれ！」「......はい」午後、奈津美は大学から帰宅した。美香は奈津美を見るなり腹を立て、彼女の鼻を指さして言った。「奈津美！お昼はどこに行ってたの！？」「お母さん、ずいぶんお節介ね。私がどこに行こうと、お母さんに関係ないでしょう？」奈津美の生意気な口調に、美香は目を見開いて言った。「私に関係ない？奈津美！黒川社長から家に電話があったのよ！分かってるの！？」「そうなの？」奈津美は落ち着いた口調で言った。「それが私に何か関係ある？」「関係ない？婚約者の前で他の男とデートして、いちゃつくなんて！頭がおかしくなったの！？」美香は奈津美を見て、ますます彼女がおかしくなったに違いないと思った。婚約者がいるのに、他の男とデートして、しかもこんなに堂々としている女は見たことがない！奈津美は冷静に言った。「涼さんだっ
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第70話
「滝川さんが来ていただければ結構です」田中秘書は礼儀正しく微笑み、「滝川さん、こちらへどうぞ」と言った。奈津美は美香が焦っていることを知っていた。明日は会社の期限切れだ。涼が投資しなければ、滝川家は完全に破産してしまう。きっと涼も同じ考えだろう。奈津美は「ええ、行きます」と言った。田中秘書は道をあけ、奈津美を車に案内した。奈津美が車に乗るのを見て、美香は媚び諂っていた表情から一転、冷ややかな笑みを浮かべた。「何を気取ってんの？結局黒川社長の車に乗るんじゃない」20分後、黒川邸。田中秘書は奈津美を黒川邸に案内した。奈津美が黒川邸に足を踏み入れると、懐かしい感覚が押し寄せてきた。前世、彼女は黒川家でこき使われ、厚かましくも黒川家に住み込み、涼と会長の身の回りの世話をしていた。結局、悲惨な末路を辿ることになった。この家の隅々まで、彼女が卑屈に過ごした痕跡が残っている。奈津美は無表情で中に入り、ダイニングテーブルには夕食の準備がされていないことに気づいた。会長はリビングで奈津美を温かく迎え入れた。涼は奈津美が来ることを予測していたようで、嘲りの笑みを浮かべた。昼間は礼二に媚びへつらい、夜は黒川家に来て会長のご機嫌取りか。本当に欲深い女だ。「奈津美、よく来てくれたね」会長は微笑んで言った。「君がいない間、私は食事も喉を通らなくて、着る物にも困っていたんだよ。涼もだ」涼は眉をひそめた。明らかに会長の言葉に同意していない様子だった。奈津美も涼が自分の帰りを待ち望んでいるとは思っていなかった。彼女は笑って、「会長、今日は何か用事があって呼んでくださったんですか？」と尋ねた。「この間、涼が魚の甘酢あんかけが食べたいと言っていたのよ。家の料理人がどんなに作っても気に入らなくて、君の作ってくれたものが一番美味しいって......今晩、作ってくれないか？私は夜、出かける用事があるから、ちょうど君も泊まっていけるだろう？」会長の言葉を聞いて、奈津美は心の中で冷笑した。要するに、涼のために料理を作らせようとしているのだ。まあ、それもそうだ。以前の奈津美は、「男の胃袋を掴めば、男の心も掴める」と思っていた。涼のために料理を作ることができるのは、彼女にとって大きな喜びだった。
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第71話
会長は奈津美を見て言った。「奈津美、簡単なものでいいから、何か作ってくれないか。私は用事があるから、先に出かける」そう言って、会長は立ち上がり、行く前に涼に意味ありげな視線を向けた。すぐに、リビングには奈津美と涼だけが残された。「何ぼーっとしてるんだ？早く料理を作れ」涼は奈津美を一瞥し、そこには全く敬意がなかった。「もう誰もいないんだから、黒川社長、猫をかぶる必要ないでしょう？」奈津美は涼を見て言った。「黒川社長、お腹が空いているなら、出前でも頼んだらどう？」「お前......」奈津美は一人でキッチンに行き、手を洗って料理を始めた。それを見て、涼は冷笑して言った。「なんだ？俺は出前を頼め、自分は料理を作るのか？本当に帰りたいなら、おばあさまがいないうちに出て行けばいいだろう？」「黒川社長、バカなのはあなた？それとも私？」奈津美は冷淡に言った。「会長は明らかに私たちを家に残して仲を深めさせようとしてるんだから、私が黒川家から出られるわけないでしょう。きっと玄関のドアは外から鍵がかけられていて、開かないわ」涼は半信半疑で玄関のドアまで行き、ドアノブを強く押してみた。案の定、ドアは外から鍵がかけられていて、開かなかった。奈津美は手を洗った後、冷蔵庫から適当に食材を取り出し、「黒川社長、今すぐ出前を頼めば、誰かドアを開けてくれるかもね」と言った。涼は携帯を取り出し、出前を頼もうとしたが、電波がないことに気づいた。家のインターネット回線もいつの間にか切断されていた。それを見て、涼の顔色は険しくなった。奈津美は涼の表情を見て、ゆっくりと言った。「私は自分の分しか作らないわ。黒川社長がお腹が空いているなら、自分で料理でも作って」「ふざけるな」涼は眉をひそめた。家の使用人たちは会長によって全員帰されていた。今、涼が誰かに料理を作ってもらうことは不可能だった。奈津美は一人で鼻歌を歌いながら、簡単なトマトと卵の料理を作ろうとしていた。まもなくキッチンから美味しそうな香りが漂ってきた。リビングに座っていた涼は、すぐにその香りに惹きつけられた。「何を作ってるんだ？」「黒川社長、これのこと？」奈津美は皿に盛られた色鮮やかなトマトと卵の炒め物を指さして言った。「ただのトマト卵炒めよ」「以前は
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第72話
「奈津美、調子に乗るな」涼は眉をひそめて言った。「俺が本当に食べたいと思っているのか？」「では、黒川社長、ご自由にどうぞ」奈津美は涼を挑発するように、目の前でご飯を一口食べた。彼女は涼が小さい頃から裕福な暮らしをしてきて、料理などしたことがないことをよく知っていた。奈津美がわざと挑発しているのを見て、涼は怒るどころか笑った。この女、図に乗りやがって！涼は立ち上がり、キッチンに行くと、食器棚の中にカップラーメンがいくつか入っているのを見つけて、自分で作り始めた。それを見て、奈津美の笑みはさらに深まった。涼がどんな料理を作るのか、見てやろう。案の定、キッチンからは大きな物音が聞こえてきた。やがて、涼はカップラーメンを一杯だけ持ってキッチンから出てきた。奈津美は既に食事を終え、空の茶碗と皿を持ってキッチンに行き、涼の手にあるカップラーメンを一瞥して、軽蔑するように笑った。この笑みが、涼を完全に怒らせた。「奈津美、どういう意味だ？」「別に。黒川社長、考えすぎよ」奈津美は涼に微笑んで、「食器を洗いに来ただけよ」と言った。奈津美は口ではそう言ったが、口角の上がり具合は明らかに、男が料理もできないことを嘲笑っていた。涼はすっかり食欲を失っていた。涼はバーカウンターに行き、適当に赤ワインのボトルを取り出してグラスに注ぎ、一気に飲み干した。奈津美は涼が胃を悪くしやすい体質で、夕食を抜くと胃が痛むことを知っていた。それでも彼は毎晩、神経を鎮めるために赤ワインを飲む習慣があった。この光景を見て、奈津美は前世の自分を愚かだと思った。どうして涼に禁酒させようとしたのだろうか。今考えると、相手のことを心配するよりも、自分のことを心配する方がよっぽどましだ。奈津美は涼から視線を外した。飲めばいい。どうなろうと、私には関係ない。時間は刻々と過ぎていった。リビングの雰囲気はどこか奇妙なものになっていた。奈津美は時間を気にしながら待っていたが、11時になっても会長は帰ってこなかった。涼はまだソファで新聞を読んでいた。ついに奈津美は我慢できなくなり、「ドアが開いたか見てくる」と言った。奈津美がソファから立ち上がると、涼は無表情で言った。「10分前に試したばかりだ。ドアは開かない」
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第73話
部屋の配置や家具は変わっていないが、彼女のものだけなくなっていた。それを考えて、奈津美は苦笑した。奈津美、自業自得だったな。奈津美が部屋に入ってしばらくすると、隣の部屋から「バタン！」という大きな音が聞こえた。奈津美は眉をひそめ、涼の部屋に向かった。部屋の中は強烈な甘い香りに満ちていた。奈津美がハッとした時には、既に涼に部屋の中に引きずり込まれていた。「奈津美......やるじゃないか！」涼はそう言いながら、冷たい視線を向けてきた。彼の呼吸は荒く、顔には紅潮がさし、様子がおかしかった。涼に首を絞められ、奈津美は窒息しそうになりながら、「涼さん......離して！」と叫んだ。「奈津美......おばあさまとよく芝居を打てるな！」「離して！」奈津美は全ての力を込めて涼を突き飛ばした。奈津美は咳き込みながら、さらに多くの甘い香りを吸い込んでしまった。奈津美の顔色は蒼白になった。彼女は周囲を見回し、涼の部屋には赤いカーテンがかけられ、照明も細工されていることに気づいた。まるでラブホテルのようだ！「これが欲しかったんだろう？奈津美、お前は最低だ！」涼は奈津美に覆いかぶさり、彼の力は強く、すぐに彼女をベッドに押し倒した。奈津美は涼に押さえつけられ、全く身動きが取れなかった。「涼さん！しっかりして！」奈津美は必死に涼を突き飛ばしたが、すぐにまた彼に押さえつけられた。涼の体は熱く、肌も火照っていた。奈津美は涼の手のひらの熱さをはっきりと感じることができた。彼女は息を止めていたが、それでも甘い香りが鼻腔に侵入してきた。「離して！」奈津美が抵抗すると、涼はそれを楽しんでいるかのように、彼女に馬乗りになって言った。「離す？もうここまで来て、まだとぼけるつもりか？」涼の声は低くかすれ、奈津美のあらゆる行動が彼の神経を逆なでした。以前、涼は奈津美のスタイルがこれほど良く、これほど魅力的だとは思ってもいなかった。奈津美の肌に軽く触れただけで、彼の腹の底から炎が燃え上がるのを感じた。その時、涼は奈津美の耳元で囁いた。「欲しいなら、俺に言えばいいだろう。こんな卑怯な真似をする必要はない」涼の言葉を聞いて、奈津美は怒りで我を忘れた。彼女は勢いよく足を上げ、涼の急所を蹴りつけた。彼は痛みで叫
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第74話
「奈津美、お前はふざけているのか？まさか滝川家のお嬢様が、こんなにも恥知らずとはな！」「ふん！」奈津美は涼を睨みつけ、「馬鹿言ってんじゃないわよ！」と言った。そう言って、奈津美は涼の部屋の電気をつけてみた。しかし、照明は明らかに改造されていて、電気をつけると、部屋の中はさらに赤く染まった。この光景を見て、奈津美の顔は青ざめた。涼は危険なほどに目を細め、明らかに誤解を深めていた。その時、奈津美はもうろうとする意識の中で、自分がこの媚薬の効力に耐えられないことに気づいた。彼女はすぐに香りの発生源を見つけ、アロマキャンドルに水をかけて消し、窓を開け放った。冷たい風が部屋の中に吹き込み、部屋の中の空気を一掃した。奈津美は新鮮な空気を吸い込み、ようやく体が楽になった。涼も少し正気を取り戻した。奈津美はベッドの上の涼を見て言った。「いい？この件は私に関係ないわ」「それに、この部屋の仕掛けも私の仕業じゃない！」涼は眉をひそめた。奈津美は言った。「今、縄を解くから、自分でお風呂に入りなさい。もしまた私に何かしたら......」奈津美は「カチッ」と首を切るジェスチャーをした。涼は先ほど奈津美に蹴られたことを思い出し、ますます顔が険しくなった。奈津美は言った。「分かったら縄を解くわ。分からなかったら、明日の朝、田中秘書に解いてもらえばいい」「......先に縄を解け」涼は多少なりとも理性を取り戻した。奈津美は涼の縄を解き始めた。奈津美が近づくと、涼は彼女からほのかに香る匂いを感じた。涼は奈津美の横顔を見つめた。彼女の顔は少し赤くなっていた。薬の作用かは分からないが、その顔は透き通るように美しく、男を惹きつける魅力を放っていた。「はい、終わったわよ」奈津美は涼から離れた。しかし次の瞬間、涼は我を忘れて奈津美に手を伸ばした。奈津美は目の前がぐるりと回り、次の瞬間、唇に激痛が走った。我に返った時には、涼の舌が彼女の口の中に侵入していた。瞬時に、奈津美の口の中は血の味がした。何が起きたのかを理解した奈津美は、涼を突き飛ばし、平手打ちを食らわせた。パーン！鋭い音が響き、涼は一瞬呆然とした。我に返ると、彼は怒りに満ちた目で奈津美を睨みつけた。「俺を殴ったのか？」奈津美は顔
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前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第100話
「面白い」奈津美は言った。「私は昨日、黒川社長に呼ばれて戻ってきたばかりよ。どうして私が監視カメラの映像を消す必要があるの？黒川家に3ヶ月住んでいたとはいえ、私は黒川家の使用人じゃないわ。監視カメラの電源がどこにあるかなんて知らない。今日は山下さん一人しか当番じゃないんでしょう？それに、私がお嬢様なのに、どうしてあなたを陥れる必要があるの？」「私じゃないです！私じゃないですよ！」山下は必死に涼に弁解した。「社長！私は濡れ衣を着せられているんです！」「いい加減にしろ！」涼は眉をひそめた。彼は黒川家の使用人たちが以前、奈津美をいじめていたことを知っていた。ただ、毎回奈津美の味方をするのが面倒だっただけだ。奈津美に諦めさせようとしていた。しかし今回は、山下はやりすぎた。涼は冷たく言った。「黒川家には、お前のような品行に問題のある者は必要ない。今月の給料をもらって出て行け。今日から、お前は黒川家で働く必要はない」涼の言葉を聞いて、山下の顔色はさらに悪くなった。「社長！社長、本当に私じゃないんです！濡れ衣なんです！」「連れて行け」涼はこんな些細なことに時間を割きたくなかった。すぐに、山下は田中秘書に連れ出された。奈津美はバスタオルを直し、「黒川社長、そろそろ着替えてもいい？」と言った。奈津美がまだ服を着ていないのを見て、涼は自分のジャケットを脱いで彼女に渡し、冷たく言った。「服を着てから降りてこい。話がある」奈津美はジャケットを一瞥し、次の瞬間、涼に投げ返して、「黒川社長、お気持ちだけはありがとうね」と言った。自分のジャケットを投げ返された涼は、さらに機嫌が悪くなった。この女！ますます図に乗っている！奈津美は二階で着替えてから、降りてきた。涼はソファに座って、彼女が降りてくるのを待っていた。奈津美は前世の自分を思い出した。彼女もこうして涼を黙って見つめていた。当時は涼に嫌われていたので、彼女はいつも遠くから彼を見つめるだけで、近づく勇気がなかった。しかし今は違う。涼への想いが消えた今、彼はただの、顔はまあまあ良いだけの他人だ。「黒川社長、降りてきたわ。何か聞きたいことがあるの？」奈津美の言葉が終わるか終わらないかのうちに、涼は手に持っていたものを彼女に投げつけた。「
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第99話
「黒川社長、何言ってるの？」奈津美はとぼけた顔で涼を見て、「私がお風呂に入っていたら、黒川社長が突然入ってきただけじゃない。どうして私のせいになるの？」と言った。「お前......」涼は奈津美を見つめた。奈津美はバスタオルを体に巻いていたが、長く白い脚は露わになっていた。濡れた髪が肩にかかり、鎖骨には水滴が光ってて、非常に色っぽい。涼に見つめられていることに気づいた奈津美は、バスタオルを少し上に引き上げ、「黒川社長、何か用？」と尋ねた。「誰が使用人服を破ることを許可した？」涼の質問に、奈津美はとぼけた顔で聞き返した。「誰が服を破ったの？黒川社長、何のこと？」「奈津美、とぼけるな」涼は冷たく言った。「服を破いて、一体何がしたかったんだ？俺に反抗するつもりか？それとも、わざと俺の気を引こうとしたのか？」「黒川社長、本当に何のことか分からないのよ」奈津美はとぼけて言った。「私は使用人服なんて見たこともないわ。黒川社長が私に罪を着せたいなら、もっとマシな理由を考えて」奈津美がどうしても認めないので、涼は冷笑して言った。「そうか？それなら、こっちへ来い」涼は奈津美の腕を掴み、一階に降りて行った。涼に強く掴まれた腕が痛んで、奈津美は思わず眉をひそめた。一階に着くと、山下がまだ床に散らばった服の切れ端を拾っていた。服は既に破かれていた。奈津美は破れた服を見ながら、真面目な顔で言った。「この服は私が破ったんじゃないわ」「嘘です！あなたが破ったんですよ！」山下は奈津美が白を切るのを見て、すぐに涼に言った。「社長、滝川さんが私の目の前でこの服を切り刻んだんです！私が証人です！」「あなたが証人？あなたが私を訴えているのに、あなたの証言が信用できるわけないでしょう？」奈津美は落ち着いて言った。「この服を私が破ったと証明したくても、もう一人証人が必要じゃない？」「私......」山下は顔をしかめて言った。「その時、部屋には私一人しかいませんでした。滝川さんは社長に叱られるのが怖くて、嘘をついているんです！」「私は嘘をついていません。信じられないなら、監視カメラの映像を確認すればいい」奈津美が監視カメラの映像を確認しようとすると、山下は強気に出た。「分かりました！では、監視カメラを見ましょう！でも、
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第98話
パチン！甲高い音が響き、使用人の頬に平手打ちが直撃した。使用人は顔を覆い、みるみる顔が険しくなった。奈津美は冷たく、目の前の若い女を見て言った。「山下さんって名前よね？私のことを滝川さんと呼ぶなら、こっちの立場を理解しているはず。誰の許可を得て、私の名前をさんを呼び捨てにしているの？」「あんた！」山下は黒川家に長く勤めていることと、自分の顔も綺麗だったため、奈津美を軽視していた。奈津美が黒川家でどれほど惨めに暮らしていたか、彼女は全て見ていた。前世、山下が何度も彼女に悪知恵を吹き込み、涼の前で恥をかかせたことを奈津美は覚えていた。今、山下が涼の威を借りて威張っているのを見て、奈津美は今回は絶対に許さないと思った。「滝川さん、私は黒川家の使用人よ！私を殴るということは、黒川社長を殴るのと同じことよ！このことを社長に言いつけてやる！それに、社長がくれた服を切り刻んだんだから、黒川家から追い出される覚悟をしなさい！」山下は奈津美を睨みつけ、切り刻まれた服を持って二階に上がっていった。夕方、涼は田村社長が礼二と手を組んだことに腹を立てていた。帰宅すると、山下が一人でテーブルの前で泣いていた。涼は眉をひそめた。田中秘書が近づき、「社長の夕食はまだですか？何で泣いていますか？」と言った。「社長、滝川さんが......滝川さんが社長がくれた服を切り刻んだんです！」そう言って、山下は切り刻まれた服を涼に差し出した。涼は切り刻まれた服を見て、顔を曇らせた。昼間、奈津美が綾乃の前で彼を置いて出て行ったことがまだ頭の中に焼き付いていた。服を切り刻まれたことで、涼の怒りはさらに増した。「奈津美はどこだ？」涼が怒っているのを見て、山下は内心得意げだった。彼女は無邪気なふりをして言った。「二階にいます！服を切り刻んだ後、二階に上がって寝てしまいました！社長を馬鹿にしているに違いありません！」山下の言葉を聞いて、涼は暗い顔で二階に上がっていった。田中秘書は止めようとしたが、涼は奈津美の部屋のドアを乱暴に開けた。部屋の中、浴室からシャワーの音が聞こえてきた。田中秘書は「黒川社長、滝川さんはお風呂に入っています......」と言った。「くだらない」涼は冷笑した。こんな方法で問い詰めから逃れられると
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第97話
男が外で女遊びをするのは当たり前。女は足るを知るべきだ。どういう理屈なの？「今日のことは見なかったことにする。きちんと対処しなさい」そう言うと、会長は何かを思い出し、「そういえば、君は休学中だったわね？」と言った。「はい」「休学しているのなら、大学のことなど気にしなくていい」会長は言った。「黒川家の嫁になれば、大学に行かなくても卒業資格は手に入る」「会長......」「そうしなさい。今は涼の心を掴むことだけを考えなさい。他のことは何も心配しなくていい。それに、もうすぐ結婚するのに、大学に通っていたら笑われるわ」会長の声には命令の響きがあった。奈津美は不満だったが、今は従うしかなかった。会長の庇護を失えば、涼が滝川家に何か仕掛けてきた時に、不利になる。奈津美は黙って頷いた。会長は奈津美の素直な態度を見て、「いい子だ。君が素直なところが気に入っているのよ。涼が君を家に住まわせているそうね。いい兆候だわ」と言った。会長は奈津美の手を軽く叩き、「男の心を掴みたかったら、まずは胃袋を掴むことだ。君の料理の腕前は素晴らしい。涼は他人の作った料理は食べないから、君が美味しい料理を作ってあげれば、彼も君を離せなくなるわ」と言った。会長の言葉には裏の意味があった。奈津美は会長の言う「掴む」の意味をすぐに理解した。会長は彼女と涼が男女の関係になったから、涼が彼女を家に住まわせていると思っているようだ。奈津美は微笑んで、「会長、分かりました」と言った。「分かってくれたならいい」そう言って、会長は小さな瓶を奈津美に渡した。「寝る前に、これを焚きなさい。そうすれば、その効果が分かるはずよ」奈津美は茶色い小瓶を見た。会長の家を出てから、彼女は蓋を開けて匂いを嗅いでみた。中には甘ったるい香りが漂っていた。この香りは知っている。涼の部屋で嗅いだのと同じ香りだ。つまり、涼が以前、自制心を失ったのは、この媚薬のせいだったのだ。会長は別の運転手を用意して、奈津美を黒川家まで送らせた。高橋の例があったので、今回の運転手は奈津美に失礼なことは一切言わず、一言でも彼女を怒らせないよう、注意を払っていた。奈津美は車から降り、黒川家の別荘に入った。玄関を入るとすぐに、使用人が服を奈津美に差し出し、「
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第96話
「会長！」運転手の顔は真っ青になった。会長に仕えて長年、失言したことは何度もあるが、こんなに重い罰を受けたのは初めてだ！「会長、ただの一時の失言なんです！私は......」「連れて行け」会長は運転手を見ることもなく、部下に彼を立たせて連れ出させた。奈津美はこれまで会長の慈悲深い一面しか知らなかったが、冷酷な一面を初めて見た。もしかしたら、会長は最初からこうだったのかもしれない。他人には慈悲深く振る舞っていただけなのかもしれない。本当に慈悲深い人なら、一言の失言で長年仕えてきた社員を解雇したりするだろうか？「奈津美、今日君を呼んだのは、ニュースのことを知っているか聞きたいと思って」「会長、何のニュースのことですか？」奈津美はわざととぼけて会長を見た。会長は携帯電話を取り出した。画面には、奈津美が滝川グループを相続し、望月グループと提携したというニュースが表示されていた。「あの400億円は、礼二が君に渡したものか？」会長の声には非難の響きがあった。奈津美は会長がいつかはこの件について尋ねてくるだろうと思っていたが、まさかこんなに早く情報が漏れるとは思っていなかった。「会長、ただの噂ですよ。望月グループと滝川グループは普通の業務提携をしただけです......」「普通の業務提携だろうとなかろうと、君は涼の婚約者だ。礼二と親しくするのは良くない」会長の声は冷たくなり、彼女は言った。「それに、女の子は結婚相手が決まったら、会社のことは弟に任せればいい。高橋さんの言ったことは確かに失礼だったが、一つだけ正しいことを言っていた。婚約者のことにもっと目を向けるべきだ。会社のことに口出ししすぎるな。女が強すぎると、男は離れていくよ」会長の言葉を聞いて、奈津美は思わず笑った。「会長、会社は父が私に遺してくれたものです。他人に任せるつもりはありません。それに、黒川社長は私のことなんてどうでもいいと思っている。私がどんなに努力しても、その事実は変わりません。会長は私が黒川社長のご機嫌を取るよりも、黒川社長に他の女にうつつを抜かすのをやめるように忠告した方が良いでしょう」「どういう意味だ？この結婚に不満があるのか？」会長は眉をひそめた。明らかに奈津美の言葉に不満だった。以前、彼女が奈津美を気に入っていたのは
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第95話
運転手は慌てて車に乗り込み、奈津美を追いかけた。奈津美は運転手が必死で追いかけてくるのを見て、冷たく笑った。自分の性格が優しすぎるせいで、社員たちは図に乗っている。彼女は滝川家のお嬢様であり、お客様だ。運転手はただの社員なのに、社長の代わりに客に無礼な態度を取るなんて。以前は我慢していた。今度は絶対に許さない。しばらくして、タクシーは黒川家の門の前に停まった。会長は引っ越したが、ここは黒川家の本宅ではないものの、やはり高級住宅地にあった。窓から奈津美がタクシーを降りるのを見て、会長の顔色は悪くなった。「どういうことだ？高橋さんに迎えに行かせたはずだが......彼はどこだ？」「会長......」使用人も何が起こっているのか分からなかった。高橋は確かに迎えに行ったはずなのに！「馬鹿なことを！近所の人たちに笑われるじゃないか！」会長は怒って階下に降りてきた。奈津美が玄関から入ってくるのを見て、会長は彼女に近づき、「奈津美、一体どういうこと？高橋さんは迎えに行かなかったのか？」と尋ねた。「会長、迎えに来てくれましたが......高橋さんは白石さんのことばかり褒めるので、私は降りたんです」奈津美の言葉が終わるか終わらないかのうちに、運転手がよろめきながら玄関から入ってきた。会長の顔色は険しくなり、「奈津美を迎えに行かせたはずだ。一体何をしているんだ？」と言った。「か......会長......」運転手の顔色は悪く、「わ......私は少し雑談をしただけなのに、滝川さんが怒ってしまって！あんなみっともないことを......ああ、全て私のせいです！私が余計なことを言ったばかりに！私はただ滝川さんに黒川社長のことに集中するように忠告しただけなのに......滝川さんがあんなに怒るとは思ってもみませんでした！これで会長の顔に泥を塗ってしまいました......」と言った。運転手は長年会長に仕えていたので、彼女の性格をよく知っていた。会長は面子を非常に大切にする。客人にタクシーで来させるようなことは、今まで一度もなかった。これが初めてのことだ。案の定、運転手の言葉を聞いて、会長の顔色は悪くなった。奈津美は口を開いた。「高橋さん、話は最後まで言いなさいよ。私が会長の機嫌を取ったからと言って
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第94話
ここでようやく、運転手は奈津美の目に笑みが浮かんでいないことに気づいた。運転手はドキッとしたが、すぐに考え直した。奈津美は所詮、滝川家のお嬢様だ。黒川社長には敵わない。運転手は言った。「滝川さん、会長の機嫌を取ったからと言って、安心しない方がいいですよ。黒川社長はわがままなお嬢様タイプは嫌いなんです！白石さんのようなおしとやかな女性が好みです。もっと努力しないと、黒川奥様の座は奪われてしまいますよ」運転手は奈津美が黒川奥様の座と綾乃のことを気にしていることを知っていた。そうでなければ、綾乃の真似をして涼のご機嫌を取ろうとするはずがない。奈津美を掌握したつもりでいる運転手だったが、次の瞬間、彼女に「止まりなさい！」と冷たく一喝された。その声に驚き、運転手は急ブレーキをかけた。「滝川さん......」運転手の言葉が終わる前に、奈津美は車から降りた。奈津美が降りたのを見て、運転手の顔色は変わった。運転手も慌てて車から降り、暗い顔で言った。「滝川さん！何をするんですか！？」「黒川家に、あなたのような無礼な社員がいるなんて。今言った言葉は、誰に言われたのか、はっきりさせてもらうわ」奈津美は冗談を言っているようには見えなかった。運転手の顔色も変わった。以前、奈津美はおどおどしていて、非常に慎重な性格だった。今のような言葉はもちろん、もっとひどいことを言われても、こんなに怒ることはなかった。今はどうしたというんだ？「滝川さん、私はあなたのためを思って言ったんです！恩知らずもいいところですよ！白石さんなら、私たち古株の社員にこんなひどいことはしませんよ！」運転手は「古株の社員」という言葉に特に力を込めた。奈津美は目の前の運転手が会長の側近で、会長に仕えて10年以上になる人物であることを知っていた。彼女がこのことを会長に訴えても、会長は運転手を罰したりしないだろう。それに、運転手の言葉は、おそらく会長の意志を反映したものだろう。奈津美は冷笑して言った。「そう？そんなに白石さんのことが好きなら、白石さんを迎えに行けばいいじゃない。そんなに白石さんを褒めちぎったら、会長がどんな顔をするか、見てみたいわ」それを聞いて、運転手の顔色が変わった。会長が綾乃を嫌っていることは誰もが知っていた。もし
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第93話
涼が奈津美の味方をしたのを見て、綾乃の顔色は悪くなった。以前、涼がどれほど奈津美を嫌っていたか、綾乃はよく知っていた。奈津美の味方をするどころか、いじめないだけでもマシだったのに。今はどうして......まさか、涼は本当に奈津美と結婚するつもりなの？月子は追いかけてくる人がいないのを見て、ほっと胸を撫で下ろした。「危なかった！黒川さん、本当に怖いんだけど！何であんなに大勢の人を連れてきたの？まるでヤクザ映画みたい」そして、月子は奈津美を見て非難がましく言った。「あなたも何で黒川さんを庇ったのよ？白石さんと黒川さんで勝手にやってればよかったのに。人の真似をして黒川社長を誘惑しようとした悪女だと思われて、本当に損したわね」「私は黒川さんを庇ったんじゃない。自分を守ったのよ」前世の経験から、奈津美はもう涼とは関わりたくなかった。涼には出来るだけ関わらない方がいい！それに、涼は綾乃が好きなんでしょう？だったら、二人を応援してあげればいい。その時、奈津美の携帯電話が鳴った。会長からの着信を見て、奈津美は眉をひそめた。会長はまた何の用かしら？奈津美が電話に出ると、会長の冷たい声が聞こえた。「奈津美、後で運転手に迎えに行かせるから、こちらへ来なさい。話がある」会長の声に冷たさを感じた奈津美は、「会長、私は今大学にいます。今は行けません」と言った。「既に校長先生には連絡済みだ。すぐに向かいなさい。運転手はもうすぐ着くはずよ」そう言うと、会長は電話を切った。電話を切られた奈津美は、自嘲気味に笑った。奈津美、お前は本当に馬鹿だった。以前は涼がどんなだろうと、会長だけは自分の味方だと思っていたなんて。生まれ変わってようやく分かった。黒川家の人間は皆、同じもんだ。涼のおばあさんが、心から自分のことを思ってくれるはずがない。全ては利害関係で繋がっているだけ。そう考えて、奈津美は携帯電話の電源を切った。黒川家の運転手はすぐに到着した。奈津美が車に乗ると、運転手はバックミラー越しに彼女を見ながら、不機嫌そうに言った。「滝川さん、大学に行くなら、会長に一言連絡するべきでしょう？私たち、あちこち走り回らされて困ります」運転手の愚痴を聞いても、奈津美は慣れていた。彼らは黒川家で働いている
前世の虐めに目覚めた花嫁、婚約破棄を決意 第92話
そう言って、綾乃は理沙とめぐみに付き添われて1号館に入った。1号館の中には黒川家のSPたちで溢れかえっていた。理沙は涼の姿を見つけると、「黒川社長！」と手を振った。涼は眉をひそめ、振り返ると、綾乃が少し離れたところに立っていた。その時、綾乃は涼の目の前に奈津美がいることに気づいた。涼が奈津美の腕を掴んでいるのを見て、綾乃の顔色は豹変した。「滝川さん？どうして......」理沙の顔色も悪くなった。彼女はめぐみと顔を見合わせた。涼は綾乃を迎えに来たと思っていたのに、まさか奈津美を探していたとは？1号館1階の空気は張り詰めていた。「涼様......どういうこと？」綾乃は不満を押し殺して、涼に尋ねた。奈津美は涼の手を振り払い、「黒川社長は白石さんを迎えに来たんでしょう？白石さんはここにいるから、私はこれで」と言った。そう言って、奈津美は月子の手を引いて逃げようとした。涼は怒った顔で追いかけようとしたが、綾乃が「涼様！」と呼び止めた。涼の足が止まった。理沙は言った。「やっぱり黒川社長は綾乃を迎えに来たのよ！滝川さんったら図々しいわ。昔から綾乃の真似ばかりして、今も懲りないのね！黒川社長を誘惑しようとしてるに決まってる！ふん！身の程知らずもいいところよ！」理沙の言葉を聞いて、涼の顔色はますます険しくなった。綾乃は涼の前に歩み寄り、「涼様、本当なの？」と尋ねた。周囲の人々の視線が集中していた。この神崎市で、涼が綾乃を一番愛していることは誰もが知っていた。以前から奈津美は綾乃の服装や髪型を真似て、彼女と少し似た顔を利用して、涼のご機嫌を取ろうとしていた。「綾乃、見ての通りでしょう？黒川社長はきっと人違いをしたのよ！」めぐみも横から言った。二人は示し合わせて、奈津美を涼を誘惑するためなら何でもする女に仕立て上げた。「いい加減にしろ」涼は無表情で言った。「全員出て行け！」理沙とめぐみは涼の剣幕に驚き、SPが来る前に逃げ出した。「涼様......あなた、本当に滝川さんと......」綾乃は唇を噛んだ。あの日、彼女は涼と奈津美が二人で寝室から出てきたのをこの目で見た。奈津美は涼のパジャマを着ていた。涼は彼女に説明したが、綾乃は数日間、部屋に閉じこもり、彼を無視して
