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第55話

隼人の目の前には、小春が最後に彼を見た時のあの失望と憎しみに満ちた表情が何度も浮かんできた。それはまるで彼らが宿敵であり、仇敵であるかのようだった。

どうしてこんなに心が空っぽなんだろう。まるで自分にとって大切な何かを失ったような気分だ。

隼人が書斎に入って間もなくして白倉が不機嫌な表情で後を追ってきた。

「隼人様、金原さんの車がもう下に着いております。お迎えに行かれるべきかと」

「行かないよ」

白倉:「?!」

あらまあ、隼人様が珍しく成長したわね!不良息子の改心もいいけれど、愛に盲目だった隼人様が目を覚ますなんて感動的だわ!

「彼女が何のために来たのかは分かっている」

隼人はソファに腰を落とし、その目は少し虚ろになっていた。「彼女に伝えてくれ。もし金原澤馭の件で来たのなら、無駄だから帰るようにと。今の金原家は混乱しているだろうし、両親のそばにいてやれと。落ち着いたら、数日後に会いに行く」

「それでも彼女がどうしても帰らないと言ったら......」

「その時は好きにさせればいい」隼人は深い溜息をつき、痛むこめかみを揉みながら答えた。

頭の中に響くのは、「無能な前夫」という言葉だった。

くそ!自分が無能だって?!

小春は何も知らないのに、どうして自分が無能だと決めつけるんだ?!

白倉はにこにこしながら頷き、隼人にひそかに親指を立ててから急いで書斎を後にした。

隼人は眉をひそめた。どうやら白倉は本当に柔を心から嫌っているようで、追い返せと言われたときにはまるでお祭りのように喜んでいた。

......

一方で、白倉は別荘の外に出て階段の上から焦りに満ちた柔を冷ややかに見下ろした。

「隼人様は、もうあなたの家のことには関わらないとおっしゃっています。お帰りなさい」

「隼人お兄様に会わせて!」

柔はそう言って、無理やりにでも中に入ろうとした。

しかし、彼女の細い体では力強い白倉に太刀打ちできるはずもなかった。白倉は体を一歩前に踏み出しただけで、手も触れずに柔はバランスを崩して地面に尻餅をついてしまった。

「きゃあ!あなた......あなたが私を押したのよね!私は隼人お兄様の婚約者なのよ!未来の奥様になるのに、こんな無礼を働くなんて!」

柔は羞恥と怒りでその場に座り込み、指を白倉に向けて叫んだ。「隼人お兄様に言いつけてやる!あなたを
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