第65話

周囲の視線がますます集まり、和彦はこのままここにいたら、確実に注目の的になるだろうと感じた。

事情を知らない人たちは、彼が子供をいじめていると思うかもしれない。

和彦は早足でトイレに向かった。

景之はすぐに哀れっぽい表情を消し、腕時計型の電話を取り出して、和彦の狼狽した姿を撮影した。

しかし、景之はそれだけでは満足せず、和彦が向かった部屋に忍び込んだ。

遠くから、黒木綾子がこの子供に気付き、心が温かくなったように感じた。

彼女はワインを一口飲みながら、そばにいる葵に話しかけた。

「可愛い子供ね。礼儀正しくていい子だわ。もし啓司の子供だったら、きっと同じように可愛いでしょうね」

子供相手にしている時だけ、綾子の長年冷たい顔が優しく見えた。葵は綾子がまた妊娠を急かしているのだと察し、合わせて頷いた。

景之はチャンスを見計らい、和彦の衣服と携帯を手に取り、三階の窓から投げ捨てた。

「僕のママをいじめた罰だ」

全てを終えた後、部屋の通信設備を破壊し、帽子のつばを下げて一階に向かった。彼は急いでいたため、出口付近で男のまっすぐな足にぶつかってしまった。

「ごめんなさい…」

景之は謝りながら顔を上げ、クズ父である啓司の鋭い目と対面した。啓司は彼の目を見て、なぜか親近感を感じた。

「大丈夫だ」

彼は冷たく答えた。景之はすぐに小走りでその場を離れた。

店を出た後も、小さな心臓がドキドキと鳴り続けていた。さっき啓司にぶつかってしまったのだ。

幸い、帽子とマスクをしていたので気付かれなかった。

一方、店の部屋では、シャワーを浴び終えた和彦が極度の苛立ちを感じていた。

誰かが彼の衣服と携帯を投げ捨て、室内の通信設備も切断されていた。

やむを得ず、彼は下半身にタオルを巻きつけたまま外に出て、驚いた人々の視線を浴びながらアシスタントに電話を借りた。

一連の捜索の結果、保安が和彦の衣服と携帯を下の階で見つけて戻してきた。

「澤村様、誰かが狙っているのでしょうか？」アシスタントは不安げに言った。

「違う」和彦は眉をひそめた。

「もし本当に狙われているなら、ただ物を投げ捨てるだけでは済まないだろう。こんな幼稚なこと、まるで子供の仕業みたいだ」

子供の仕業…和彦はあの無邪気な顔をした口元にマスクをした小さな子供を思い出した。彼の心には妙な予感があった