第111話

夏目家に当時結婚を騙しただけではなかった。

また仮死！

また池田辰夫と海外で一緒に生活した月日。

痛みで眉毛もゆがんだ紗枝が言った。「当初の件、私と無関係だと分かったのに」

「でも、君は得した一人だっただろう?」啓司の声には少しの怒りが混じっていた。

啓司は怒った。紗枝が結婚を騙したことで借りを作った思った。

仮死とか、池田と子供のことについて、一言も言わなかった。

紗枝はこれ以上話すことができなかった。

長い間、二人とも話さなかった。啓司はベランダに歩き、タバコに火を点けた。

冷たい風に吹かれて、彼は咳をして止まらなくなった。気付かない内に目が赤く染まって、熱くなった。

自分にもよくわからなかった。どうしてこんな形で紗枝を傍に残したのか。

たぶん、悔しいと思ったのか。

4、5年間彼女を探し続けて、彼女は別の男と一緒になった。

10数年自分を愛してきた女が、突然を愛さなくなって、それに離れたことにした。

今日でも、紗枝が離婚を申し出て、そして気楽に離れたことをはっきり覚えていた。

その時、紗枝が本当に離れるとは啓司は思わなかった。

しかし、今になって、彼女がどうして喧嘩しなくて離婚したのがようやくわかった。彼女が長い間それについて考えていて、離れることを決意したのだ。

これを思い出して、啓司は煙草を消して、寒い空気を巻き込んで再び部屋に入った。

「家に帰ろう」

家に帰る…

紗枝は少し混乱していた。彼女に家があったのか？

車に乗った。

啓司は運転しながら、咳を止めなかった。

紗枝は耳を貸さず、雨が窓の外に滑り落ちるのを眺めていた。

愛さないと言うのは、もしかして、このような無関心の事だろうか。

啓司はバックミラー越に、彼女の冷たい顔を見つめて、心が急に刺されたように痛みが走った。

疲れた一晩だった。紗枝は元の部屋で寝た。

翌朝、紗枝が洗顔して歯を磨いてから、ダイニングルーム行って、朝食が既に用意された。

前、彼女は啓司が用意した料理、出前も含め、一度も食べたことがなかった…

「牧野に買ってもらった。今後、必要なものを彼に教えていい」

啓司がテーブルに歩き、椅子を引き出して座った。前と同じようにして見た。

紗枝は彼から一番遠く離れた椅子に座り、隣にあるごみ箱を眺めた。中には白黒写真と骨壺が入ってた。