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第9話

「そうなんだ......もしかして、他に気になる人でもいるんじゃないかって......」

わざと途中で言葉を濁すと、一真の表情が一瞬ぎこちなくなった。

「俺の心に他の誰かがいるのは確かだよ。ただ、それは愛じゃなくて憎しみだけどな」

彼をじっと見つめながら、なんとなくその「誰か」は私自身なんじゃないかって気がして、続きの言葉を待った。

「昔、俺には妻がいた。でも、今は行方不明で......しかも子供まで連れて行っちまったんだ」

その瞬間、彼の目にはかすかに苦しげな色が浮かんでいた。

「何か事故とか、そういうことだったんじゃないの?」

一真は冷ややかに笑った。「あいつのこと、君は知らないだろうけど、あれはとことん自分勝手な女だ。きっと俺の仕事が気に入らなくて、こんなことしてるんだ。いいさ、そのうち絶対見つけてやる。もし子供をちゃんと育てているならいい。でも、そうじゃなかったら、罰ってやつを教えてやる」

私は何も言わず、薄く笑ってみせた。

彼はまだ気づいていない。目の前にいる私が、その「行方不明の元妻」だなんて夢にも思っていないんだ。

一真はまた私を見つめて、「そういえば、時々お前の雰囲気が元妻に似てる気がする。でも、どこか違うんだよな」

「どこが違うの?」

「うーん、お前の方が品があるし、見た目も綺麗だ。でも、なんか似てる......不思議な感じがする」

食事が終わり、一真は私を家まで送ってくれた。

彼は私の住所を見て驚いた様子だった。なんと、彼の家のすぐ上の部屋だったのだ。

「あれ、本当?こんな偶然ってあるんだね?」と驚いたふりをすると、一真は少し感慨深げに、「こんな縁もあるんだな。じゃあ、明日の朝、一緒にジョギングでもしないか?」と誘ってきた。

それからというもの、一真と出かける機会が増えていった。そして、私と一緒にいるとき、一真が詩織に対して苛立つことがさらに多くなってきた。

そんなある日、詩織が突然、私と食事をしている一真の目の前に現れた。

「この泥棒猫!あんた、うちの旦那を誘惑してるでしょ?最近、全然家に帰ってこないのよ!」

一真は面倒くさそうに眉をひそめ、「詩織、いい加減にしろよ。俺と彼女はただの友達だ。そんなに大げさにするな」

おかしなもんだ。かつて彼が私に向けていた言葉が、今は立場が逆転している。私は皮肉っぽく笑っ
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