入江紀美子は笑って、「違います。私はただ、2人が知り合いでもないのに、普通の工場でもできるような仕事を何故わざわざこちらに頼んでくるのだろうと思っています」「知り合いの紹介です」長澤真由はそこまではっきりと言わなかった。「納期は大体いつぐらいですか?」「30日以内」紀美子は暫く考えてから、「30日は問題ありません」と答えた。「見積はいくらになります?」真由は笑って言った。「スタイルは貴社にデザインしてもらう必要があるので、デザイン費も入れていいです」紀美子はリストをテーブルに置いて、「長澤さん、デザイン費は要りません。如何せん貧困国家の子供達への慈善事業ですので。では、連絡先を教えて頂ければ、後で材料費の見積を送ります。」真由は目で紀美子をチェックして、「材料費だけでは、貴社のビジネスを妨げることになるではありません?」と聞いた。「引き受けたくない人だけにとっては、金儲けの妨げだと思われます」紀美子の眼底に優しさが浮かんだ。「私も母親です。自分の子供と同じくらいの歳の子達が、冬の寒さを体で我慢するのは見苦しいものです。今回のお仕事を頼んでくるのを感謝しています。できれば、私はお力になりたいです」「おや?」真由は意外だった。「どうやって私の力になりたいと仰るんですか?」「まだ考え中ですが、30日もあれば、思いつくと思います」「期待しておりますわ、入江さん」真由は携帯を出して、「もしよければ、LINEを交換しませんか?」紀美子は自分のアカウント名を真由に教えて、2人はフレンド登録をした。ビジネスの話が終わってから、紀美子は真由を会社の玄関まで送った。帰り際に、真由は優しい声で、「では、契約書を待ってますわ」と言った。紀美子は誠意をもって、「Tycを選んでいただいて、ありがとうございます」と答えた。北郊林荘にて。狛村静恵は森川次郎のリビングで目が覚めた。彼女は眩暈を堪えながら体を支えて、頭痛で膨らんだこめかみを揉んだ。原因は分からないが、ここ数日目が覚めたら体全体が疲弊した状態で、心拍もいつもより早くなっていた。静恵は枕元に背中を預け、脳裏に昨晩次郎とセックスするシーンが浮かんできた。しかしそれを思い出すと、静恵は思わず深く眉を寄せた。丸々3回もしていたなんて!次
病院にて。変装をした渡辺瑠美が病院に入った。森川念江の病室を聞いてから、彼女はエレベーターに乗って上がっていった。病室のフロアについて、瑠美がエレベーターを出たばかりに、森川晋太郎と田中晴が病室から出てきたのを見た。2人の後ろに2名の医者と数名の看護婦がついていた。瑠美は帽子を低くして、かけていたサングラスを調整して、彼らの近くのベンチに腰を掛けて、携帯を弄っているふりをした。「森川さん、近いうちに坊ちゃまの髪を剃った方がいいと思います。でないとそのうち髪の毛が沢山落ちてくるのを見たら、坊ちゃまんが大きなショックをうけることになります」と医者は晋太郎に勧めた。晋太郎の俊美な顔には明らかに疲弊が帯びていたが、それでも眉間の冷たさが隠せなかった。晋太郎は、「髪の毛を剃るのは問題ではないが、一番大事なのは念江の嘔吐を止めることだ」と冷たい声で言った。「森川さん、坊ちゃまのお体は今非常に衰弱していて、嘔吐止めの薬はまだ打てません。それに、来週になったら、すぐに手術を行う必要があります」晋太郎は不満に目を細くして、「移植用の骨髄は見つかったか?」と聞いた。「森川さん、私達はここ最近毎日骨髄バンクに注目していて、数軒の病院にも連絡して確認しましたが、いずれも……」晋太郎はきつく口をすぼめて、「探し続けろ」と低い声で指示した。「分かりました……」医者達が帰った後、晴は晋太郎に、「もしどうしても見つからなかったら、人を遣ってブラックマーケットにでも探してもらおうか?」と勧めた。「まだ聞いていないとでも思ってんのか?」晋太郎は晴に聞き返した。「まさか。情報を流しておいたらどうだ?高価で買収するとか?」「問題は今念江とマッチする骨髄がないことだ!」晴は廊下の壁に背を預けて、「やはりこの世の中には金があっても解決できないようなこともあるんだ」と呟いた。晋太郎は目を垂らして、顔には無力さが浮かんだ。その会話を聞いた瑠美は、心が痛んだ。彼女は兄の力になりたかったが、どうすればいいか分からなかった。ブラックマーケットとか、彼女には全く分からず、ましてやその連絡先を見つけるのは無理な話だった。瑠美はそのことをLINEでで狛村静恵に教えた。メッセージを読んだ静恵は、他人の災いを喜ぶ身持ちが隠せなか
入江紀美子は立て続けに何回も電話をかけたが、塚原悟は全く出なかった。紀美子は居ても立っても居られず、外に出て焦りながら待つしかなかった。12月の日は短く、空はすぐに暗くなった。冷たい夜の風の中では、いくら厚着をしても寒さは耐えがたかった。紀美子が携帯を握っている手が風に吹かれて、温度が氷点まで下がりそうだった。彼女はもう一度悟の携帯に電話をかけると、暫くしたら繋がった。「悟さん……」「この携帯の持ち主さんが交通事故にあいました!あなたは彼の家族の人ですか?既に救急車を呼んでおいた!」紀美子の話を待たずに、電話の向こうから聞き覚えのない声が聞こえてきた。相手の話を聞くと、紀美子は全身が震えた。「今、何処にいますか?」紀美子は震えた声で尋ねながら、急いで階段を降りようとした。しかし最初の一歩を踏み出したところで、足が急に力が抜けて、そのまま階段から転がり落ちていった。悶々とした衝撃の音がして、隣の社員達は驚いた。「社長!」彼らは慌てて紀美子を支えようとして近づいてきた。体勢を立て直した紀美子は、「私は大丈夫、携帯を探して」と頼んだ。「ありました!」近くにいた社員が携帯を拾い上げ、紀美子に渡した。紀美子は受け取ろうとするとき、皆が彼の掌の傷口を見て思わず息を吸った。「社長、お手が……」紀美子は自分の怪我を全く顧みずに、再び携帯を耳に当てた。向こうの知らない人はまだ「もしもし」と繰返して呼びかけていた。紀美子は焦りを無理に堪えながら、相手に頼んだ。「お願い、場所を教えてください。彼の怪我は大丈夫ですか?」「奈田川通りです!人は今昏迷していて、私が彼を車から引っ張りだしたんです」紀美子はますます焦ってきて、「ありがとうございます!今そちらに向います!」と言った。紀美子は電話を切り、車に乗って悟が事故にあった所へ向かった。10分後、紀美子は人混みで渋滞となった事故現場に着いた。彼女は慌てて車を降り、人混みを押し開けた。悟の車は路面に覆っており、もう一台の車の前の部分が酷く凹んでいた。警察らが現場で記録を取っており、紀美子はその中の1人に状況を確認した。「すみません、あの白い車の持ち主は既に病院に送られたのですか?」警察は紀美子を見て、「あなたは?」と身分
ハイヒールを履いた狛村静恵がドアを押し開け、車を降りた。静恵は玄関で待っていた渡辺瑠美を見て、「あら、わざわざ迎えに出てくれるなんて、悪いね」と笑って言った。瑠美は不満そうに静恵を睨み、「さっきのビームはわざとでしょ?私が出てきたのを見てわざとビームを当てたんでしょ?」「人聞きが悪いね」「さっきは車を止めたばっかで、まだ消す暇がなかったのよ?」「もう止めて大分経ってたわよ!嘘が下手くそなのよ!」静恵は口元に挑発的な笑みを浮かべ、「そこに立っていたあなたが悪いじゃない?人のせいにしないこと」そう言って、静恵はそのまま怒っていた瑠美の傍を通って、リビングに向った。「外祖父様、ただいま!」静恵の声を聞いた渡辺野碩はすぐに笑顔を見せた。隣に座っていた渡辺翔太は、何故紀美子がまだ来ないのかと何度も時間を確認した。野碩は皆を連れてダイニングルームに入った隙を見て、翔太は入江紀美子にメッセージを送った。「紀美子、今どこ?」紀美子はその時病院の救急室に入ったばかりで、メッセージの着信音を聞いて、慌てて携帯を出した。翔太からのメッセージを読んで、彼女は思わずため息をついた。彼女は兄に、塚原悟が事故にあったのを伝え損ねていた。紀美子は「お兄ちゃん、悟さんが交通事故にあって今病院に運ばれたので、今日は行けなくなった」とメッセージを返した。メッセージを送り終え、彼女は悟がどこに運ばれたかを病院の人に尋ねた。メッセージをもらった翔太は、今回はまた先延ばしになったのかと深く眉を寄せた。何故毎回紀美子が静恵の正体を暴こうとすると、予期せぬ事件に邪魔されるのだろう?野碩はダイニングルームに入り、翔太が動いていないのを見て、「翔太、そこに立って何をしている?」と大きな声で催促した。翔太は仕方なく携帯を仕舞い、ダイニングルームに向った。救急室にて。紀美子は悟の病室を見つけた。悟が着ていたワイシャツに固まった血の跡がついており、額に包帯を巻かれていて、静かにベッドに寝ていた。紀美子は傍に座ろうとしたら、看護婦の一人が入ってきた。看護婦は目で彼女をチェックして、「あなたが塚原先生の恋人の方ですか?」紀美子は彼女が点滴の薬を持っているのを見て、横にどけながら、「はい」とj答えた。看護婦は悟の手の甲を
紀美子は彼を見ると、その目を大きく見開いた。「彼はこの事故を起こした男です。名前は加藤裕介です」警察は言った。「彼のことを知っています!」紀美子は低い声で答えた。彼はは、以前晋太郎のそばにいたボディーガードだったのだ!何度も彼を見かけていた!しかし、5年前、晋太郎は彼を解雇していたのだ!裕介は顔を上げ、紀美子と視線を交わした。彼女を見た瞬間、彼の目に一瞬の驚きが浮かんだ。「入江さん……」「彼と少しだけ二人で話せますか?」紀美子は警察の方を見て尋ねた。警察たちは互いに視線を交わし、立ち上がって言った。「じゃあ、まず話をしてみてください。何かあればカメラに手を振ってください、すぐに駆けつけます」紀美子は頷き、警察は部屋を出て行った。その後、紀美子は裕介の前に座り、直球で言った。「信じられない。帝都がそんなに小さいとは思えないわ。あなたが悟を轢いたなんて」「入江さん、何が言いたいんだ?」祐介は眉をひそめた。「単刀直入に聞くわ。この件に晋太郎は関わっているの?」紀美子は詰め寄った。祐介の目に一瞬の躊躇が見えた。「関係ない」彼は顔をそらして言った。彼の動きはすべて紀美子の目に映った。彼女の心には急に怒りが沸き上がった。「嘘をついている!」「俺はもう森川様に解雇されたんだ。どうして彼のために働くことができる?」祐介は答えた。「それなら、さっきなぜ私の目を見て話せなかったの?」紀美子はじっと彼を見つめた。「俺は自分のしたことに責任を持つ。森川様を無理に巻き込む必要はない」祐介の態度は少し弱まった。「そう」紀美子は冷たい声で言った。「あなたが認めないなら、自分で事実を徹底的に調べるしかない。もし私があなたが故意にやったことを突き止めたら、絶対に許さない!」「入江さん、君はちょっとやりすぎじゃない?この件は君に何の関係がある?」祐介は怒りを込めて言った。「彼は私の家族よ。関係があるかどうか、あなたには分からないの?」紀美子は反論した。祐介は驚き、「君……」と言ったが、言葉が続かなかった。そして紀美子は立ち上がり、「私たちは示談を受け入れない。法的手続きを踏む」その言葉を残して、彼女は部屋を出て行った。彼女の心には怒りが渦巻いていた。晋太郎は一体何をしようとしているのか、まったく理解で
「加藤祐介、覚えてる?」晋太郎は電話の向こうで少し黙り込んだ後、尋ねた。「誰だ?」「あなたの側に何年もいたボディーガードよ。5年前にあなたが解雇した、加藤祐介って名前。忘れたとは言わせないわ!」紀美子は説明した。「記憶にない」晋太郎は答えた。「要件があるなら直球で言え。無関係な人物の話をする暇はない」「逃げてるんじゃない?」紀美子は冷笑した。「何から逃げる必要があるんだ?」晋太郎は疑問に思った。「祐介を使って悟に事故を起こさせたのはあなたじゃない?」紀美子は直接尋ねた。「どこにいる?」晋太郎の顔色は瞬時に曇り、声が険しくなった。「あなたに会いたいと思う?」「この件について聞きたいなら、直接会って話せ。それ以外なら無駄だ」そう言って、晋太郎は電話を切った。紀美子は切れた通話画面を見つめ、喉に詰まった言葉が出てこなかった。どういう意味?本当に彼がやったってこと?だから、直接会って説明する必要があるってこと?電話で話すのがそんなに面倒?紀美子は怒りに燃え、チャット画面に切り替えて、晋太郎にメッセージを送った。「どこにいる? 私が行く!」晋太郎はすぐに返信してきた。「俺の別荘で」そして晋太郎は病室に戻り、「念江のためにパソコンを取りに一度別荘に戻る。それに着替えもする」と言った。晴は何度も頷いた。「今夜は帰らなくてもいいよ。ここには看護師もいるし、俺もいる。ゆっくり休んでくれ」晋太郎は病床で眠っている念江をじっと見つめ、深いため息をついてから部屋を後にした。半時間後。紀美子は別荘に到着した。中に入ると、待っていた家政婦が言った。「旦那様が、2階の寝室でお待ちです」紀美子は「ありがとう」と言い、2階へ向かった。晋太郎の寝室の前に来て、紀美子は手を伸ばしてドアをノックした。「入れ」晋太郎の低い声が部屋の中から聞こえてきた。紀美子は中に入りたくなかった。「外で話すことはできない?」「二度は言わない」晋太郎は少し低い声で言った。紀美子は歯を食いしばり、ドアを押して入った。中に入ると、バスローブを着て髪がまだ乾いていない晋太郎が目の前に現れた。紀美子は慌てて目を逸らした。「ちゃんと服を着てから話そう」「どうした?」晋太郎は嘲笑を浮かべた。「俺が君に何かする
「私はあなたのことはよく知らないが、あなたは私の考え方をよく知っているはずよ!あなたが身近な人を利用して彼に手を出せば、私はあなたがそんなに不注意な人間ではないと直感的に考えてしまう」「俺を悪党だと思いたいのか?」晋太郎の声は冷たく、重苦しかった。「私は見た事実しか信じない」紀美子は答えた。晋太郎はその言葉に一瞬固まった。その言葉を、自分も彼女に言ったことがある気がする。「俺の母親のことは、俺があまりに衝動的だった」怒りが少し和らぎ、彼は静かに言った。その突然の言葉に、紀美子は驚き、目頭が少し熱くなった。今更こんな話をして、何の意味があるのだろうか。彼女は話題を変えた。「晋太郎、あなたは私の周りの人にこうしたことをする目的が、私に復讐するためではないの?」「君に復讐して、俺に何か得るものがあるのか?」晋太郎は問いかけた。「利益か、それとも精神的な満足か?俺が本当に復讐するなら、もっと直接的で実質的な手段を取るだろう」その言葉を聞いて、紀美子は考え込んだ。晋太郎の言葉には一理あった。もし彼が本当に復讐を企てているなら、彼の力を持ってすれば、彼女は今や何もかも失っているはずだ。さらに言えば、彼が言う「実質的な手段」はすでに起こっていた。それは喬森を雇っていたことだ。紀美子は晋太郎の顔を見つめた。実は、彼女が部屋に入った瞬間に気づいていた。彼の顔色は非常に悪く、以前見たときよりも疲れ切っている。彼女は目を伏せた。もし彼がこれほどまでに仕事に追われているなら、こんなことをする暇があるはずがない。おそらく、自分は悲しみに打ちのめされ、理性を失っていたのかもしれない。無実の罪を晋太郎に押しつけていた。冷静に考えた後、紀美子は思考を整理し、立ち上がった。「ごめん、私が考えすぎてたみたい。邪魔して申し訳ない、それでは」晋太郎は彼女を引き留めることなく、彼女の背中をじっと見つめていた。紀美子はドアに向かって歩き、ふと立ち止まり、振り返って彼を見た。「どうして念江を学校に行かせないの?」晋太郎は唇をわずかに動かして、「念江は入院している」と言いかけたが、最近の出来事でますます痩せ細った紀美子の姿を見ると、その言葉を飲み込んだ。「家庭教師を雇って勉強を教えてもらっている。何か問題
「違う……」紀美子は言った。「どうして違うの?」佳世子が言った。「自分が解雇したボディーガードを使って悟に手を出すなんて、責任逃れの手段としては最適じゃない?」紀美子は眉間を押さえた。「佳世子、晋太郎の人柄からして、そんな陰険なことをするような男ではないよ。それに、彼は最近忙しそうで、とても疲れているみたいだし」「彼に直接会って話したの?」佳世子は尋ねた。「そうよ」紀美子は率直に言った。「松沢さんの件も、冷静に考えてみると、晋太郎がやったとは思えない」「そういえば、この件について私もこの二日間考えていたの。晋太郎が医療チームに大金を払って、わざと手術を失敗させるなんて、本当に筋が通らないわね。もし彼が本当に誰かを傷つけたいのなら、別の病院で松沢さんが事故に遭ったほうが、彼自身にとっても面倒なことにならないし、あなたに疑われることもなかったでしょう」佳世子は言った。「そう、私があまりにも感情的だった。さっき彼に謝ったよ」紀美子は言った。「私の可愛い紀美子、間違いに気づいたらすぐに謝る、その態度が大好きよ!」佳世子が笑った。「その加藤祐介って人ね?この件、私が調べてみるわ。調べがついたら教えるわ」「ありがとう」「何を言ってるの!悟はどうだったの?」「大したことはないわ」「それならよかった」……30分後、紀美子は病院に戻った。悟はすでに目を覚ましており、警察がそばに座って事情聴取をしていた。紀美子が入ると、悟は申し訳なさそうな表情を浮かべた。彼は警察に言った。「これで大丈夫ですか?」警察は立ち上がった。「はい、大丈夫です。お大事にしてください。今後何かありましたら、またご連絡します」「ありがとうございます。ご苦労様でした」「これが私達の仕事ですから、当然のことです」警察との話が終わると、紀美子は彼を病室から見送った後、再び戻った。悟は紀美子を見つめた。「ごめんな、紀美子」紀美子は悟のベッドのそばに座った。「そんなこと言わないで、誰だってこんなことは予想できなかったんだから。体調はどう?少しは楽になった?」悟はかすかに笑みを浮かべた。「大丈夫、脳震盪だけで、運がよかったよ」紀美子は彼を睨んだ。「そんな冗談言ってる場合じゃないわ!現場を見たとき、どれだけ怖かったか……」