「みんなハート型がかわいいって言ってくれてる」 とてもありがたい限りだ。 ここまで一生懸命頑張ってきた成果が、報われそうだ。「由紀乃のアイデアがたくさん詰まったアップルパイだもんな。 その成果が報われたと思っていいと思うけどな」「本当に……?」 「当たり前だ。由紀乃が諦めずに挫けることなく頑張ってきたおかげで、今日があるんだろ?」 わたしは大翔さんの言葉に「うん、そうだよね。諦めずにやって来た成果だよね、これは」と答えた。「そうだ。 やっぱり由紀乃をスリーデイズのリーダーにして良かった。どうやら、俺の見立ては間違ってなかったようだな」「大翔さん……」 大翔さんはわたしの頬に手
大翔さんは微笑ましい表情を浮かべると、「さすが俺の妻だな。 俺が選んだ妻は、やはり最高のスイーツを作ってくれそうだ」とわたしの頭を撫でる。「だってわたし、スリーデイズのリーダーだもん。リーダーだからこそ、とことん素材をいいものにこだわりたいって思ったの。……お客様が辛い時や苦しい時、悲しい時にも食べて笑顔になるような、そんなスイーツがもっともっと作りたい」 スリーデイズが手がけるスイーツは、世界一美味しいものだ。 誰にでも自慢出来るくらい、最高に美味しいスイーツを作れるとわかったから。「由紀乃がやりたいと思うことは、挑戦してみたらいいさ。 やらずに後悔するより、やってみて後悔する方が
【スイーツイベントへの出展】 「とりあえず、候補はこの三つですね」「そうねえ……」 キッチンカーへの出店に伴いまずは作るスイーツを決めていくのだが、スイーツの候補として上がったのはスイートポテト、パンケーキ、みたらし団子と全くジャンルの違うスイーツだ。 他のキッチンカーが出店するスイーツとは被ってはイケないので、決まり次第、オガタ・カナデさんに意見をもらうことになっているということだ。「パンケーキが一番作りやすそうですけど、おそらくどこかのキッチンカーでパンケーキは出店される可能性は充分高そうですよね」「そうなんだよね……。パンケーキは今もまだ人気で、カップルや若い子には人気
二ヶ月後の出店に向けて、わたしたちはスイーツ開発のための計画を立て始めたーーー。 * * * 「ただいま」「おかえりなさい、大翔さん。お仕事、お疲れ様でした」 その日の夜、帰宅した大翔さんを玄関で出迎えた。「ただいま。ありがとう、由紀乃」 ジャケットを脱ぎネクタイを緩めた大翔さんは、わたしに「アップルパイ、今日も見事に完売だそうだ。良かったな」と言ってくれた。「うん、良かった」 アップルパイは売れ行きが順調で、発売から一週間で千個以上売れている。本当にありがたい限りだ。「Instagramにもね、スリーデイズのアップルパイがたくさん上がってるんだよ」わたしは大翔さんにス
「ああ。応援してる」「ありがとう」 大翔さんがいれば、わたしはどんなことを乗り越えられそうな気がする。 大丈夫、わたしならきっとやれる。「……よし、頑張ろう」 気合を入れるんだ、私! 【スリーデイズの新しい革新パフェ】 イベントまで残り二週間を切った頃、わたしたちが考えたイベント用のスイーツも完成間近になっていた。 「はい。完成しました」「おお。見た目めっちゃいいですね」「ワクワクしそう」「かわいい!」 わたしたちが一生懸命考えたこのスイーツは、イベントには持ってこいのスイーツになった。「じゃあ、早速副社長に試食してもらいに行きましょう」「そうですね
ほろ苦のティラミスソースは、大翔さんからもお墨付きをもらえた。「次は黒ごまソースをどうぞ」「黒ごまの香りがすごいな。……一気に和の香りだな」 この黒ごまソースには、わたしは特にこだわった。みたらし団子みたいにトロッとしたソースにしたくて、何度も試行錯誤を重ねてより時間をかけたのが黒ごまソースだ。 黒ごまをすり潰して香りを立たせから、ほんの少しの黒蜜とお砂糖などと一緒にミキサーにかけて、より黒ごまの香りを引き出すことに成功した。 本当に【和の良さ】を感じられる絶品ソースになったと思う。「どうですか、副社長……?」 黒ごまソースを口にした大翔さんは、目を閉じそして口を開いた。
そして彼女も、わたしのInstagramのフォローしてくれているうちの一人だ。 本当にありがたいことに。 だけどわたしは知っているんだ。 彼女が大翔さんの幼なじみだということを。 だってわたしは、大翔さんと出会った時たまたま聞いてしまったから。南條ゆずと大翔さんが実は幼なじみだったことを。 本来なら、大翔さんは南條ゆずと結婚するはずだったと聞いていた。 でも大翔さん曰く、それは大翔さんのお父様が相手のいない大翔さんを心配して、幼なじみで天才ピアニストの南條ゆずと結婚させたかったらしいという話ではあったが、大翔さん自身は南條ゆずと結婚する気は全くなかったらしいのだけど
わたしは持ってきたクーラーボックスからパフェとソースを取り出し、オガタ・カナデさんの目の前に置く。「え? いいのかい?」「もちろんです。良ければこのソースの感想も、一緒にお願いします」 オガタ・カナデさんはまず完成したパフェを見つめて「見た目がいいね。フルーツもたくさん乗ってるし、プリンがまるまる一個乗ってるんだね」と感想をくれた。「はい。プリンはもちろんスリーデイズのものを使っていて、フルーツも産地にこだわってフレッシュなものを使用しています」「そっか、フルーツも産地にこだわってるんだね。やっぱりスリーデイズはすごいね」「イベント用のものですけどね」 オガタ・カナデさんに褒め
大翔さんがいなきゃ、わたしはスイーツを作ろうと思えなかったかもしれない。 単純にスイーツを食べることが大好きってだけで、ここまで来ることは思ってなかった。「わたしは、スイーツが大好きだよ。食べることも、作ることも大好き。……だけど、わたしは大翔さんと一緒にいる時間が、一番大好きなんだよ。大翔さんがいないと、わたしは生きていけないもん」「由紀乃……」 だってわたしは、天野川由紀乃。スリーデイズの副社長である天野川大翔の妻だ。 大翔さんのことを誰よりも尊敬しているし、誰よりも愛おしいと思ってる。 大翔さんは誰よりも頼れる存在で、わたしにはもう大翔さんと過ごすこの時間がかけがえのない大切な
【〜最高の幸せは家族三人で〜】 「ただいま」 「大翔さん、おかえり。 今日もお仕事、お疲れ様でした」 「ありがとう、由紀乃」 わたしは大翔さんに「先にご飯食べる?」と聞くと、大翔さんは「ああ、そうするよ」と答える。 「今日の夕食、大翔さんのリクエストのチキン南蛮にしたよ。後豚汁とピリ辛キュウリ」 「お、チキン南蛮は嬉しいな」 「すぐ用意するね」 あれから気が付けば、半年が過ぎた。 半年間色々とあったけれど、無事にオンラインショップでのスイーツ販売にもこぎつけることに成功した。 そしてスリーデイズのオンラインショップでも自慢のアップルパイをハーフとホールでの販売も開始したところ、これがまた大反響なのだ。 大人気のためオンラインショップがサーバーダウンしてしまうことがあり、お客様には迷惑をかけてしまったが、無事にサイトも復旧しまた販売が出来るようになった。 思わぬサーバーダウンにわたしたちもてんやわんやでバタバタしてしまったが、サーバーに強いスタッフがいるおかげで割とすぐにサーバーは復旧することが出来たのも良かったと思う。 「お、チキン南蛮美味そうだな」 「ふふふ。正直、自信作」 「そうか。 よし、食べよう」 二人で「いただきます」と手を合わせると、大翔さんは早速出来たてのチキン南蛮に手を伸ばす。 パリパリというチキンの音が、口にした瞬間にいい音を奏でている。 「うん、美味いっ」 「でしょ? 自信作だからね」 「本当に美味いよ。最高だわ」 「ふふふ。良かった」 大翔さんがこうやっていつも美味しそうにご飯を食べてくれるから、わたしも作って良かったと思える。 一人で食べるより、やっぱり二人で食べる方が何倍もご飯は美味しい。 「豚汁も最高に美味い」 「良かった」 わたしが作る豚汁は出汁に特にこだわっている豚汁で、味噌は白味噌を使っているのだけど、出汁が美味しいから豚汁がもっと美味しくなっている。 「いつも美味しく食べてくれるから、わたしも嬉しいよ」 「本当に由紀乃の料理は美味い。疲れた身体を染み渡る」 「良かった」 大翔さんと色々と切磋琢磨しながらこうして美味しいスイーツ作りをしてきたけど、美味しいスイーツでみんなが喜んでくれるのはやっぱり嬉しいし、作ってて良かったと実感する。 「そうそう。ネットでのアップルパイの注
片山さんがそう伝えると、新メンバーの人たちは驚いているようで、「えっ! あ、天野川副社長の奥様……ですか!?」とわたしを見ている。「はい。わたしは副社長の妻です。……片山さん、伝えてなかったんですか?」「言ってたつもりだったんだけどね」「すみません。聞いてなかったのでビックリしました」 そう言われたけど、「わたしのことは普通にリーダーでいいですよ。 副社長の奥様だとか、気を張ることないですからね」と念の為伝えておいた。「お、恐れ多いです……」 と言われたけど、「わたしだって普通の一般人ですよ?元はスイーツ大好きな一般人です。 なので、気負わず話しかけてくれたら嬉しいです」と笑顔を見
わたしたちは頷きながら「はいっ!」と返事をした。「求人募集についての補足になるが、募集開始後の面接は俺と片山、二人で行うことになった。 片山、宜しく頼むよ」「えっ!わたしですか……!?」 片山さんは驚いたような表情をしている。 大翔さんは片山さんに「片山は俺がスイーツ部門を立ち上げた時からの初期メンバーだからな。片山が一番適任だと俺は思ってるんだが……どうだ?」と聞いている。「わたしも、片山さんが適任だと思います」 わたしがそう伝えると、片山さんは「そこまで言われたら、断れないじゃないですか」と言っているものの、「わかりました。面接担当、引き受けます」と受けてくれた。「ありがとう
無理だけは絶対にさせられない。「なんとか人手を増やせない、ですかね」「人手が増やせれば、なんとか回せるんだけどね……」 今の人数でやれることがギリギリになり、仕事を増やしてしまうと負担を掛けてしまう。 そうなると、なかなかお取り寄せにまでは辿り着くのは難しいかもしれない。「片山さん。副社長に、求人募集の依頼をかけてもらいませんか?」「求人募集?」「はい。社員でなくても、例えば短時間でも働けるスタッフとか、土日だけ働きたいみたいな人たちを募集してみませんか?」 派遣みたいなスタイルにしてもいいし、その人が働きやすい環境で働いてもらえるように、募集をかけていくしかもうない。「パ
ワンホールでの販売すれば、家族みんな分け合って食べられるし、自分なりにアイスを乗せたりしてアレンジも効くから、そっちの方がいい気もする。「そうだな、店舗では4/1カットが基本だもんな。……なあ、お取り寄せにするなら、ワンホールとハーフカットが選べるってのはどうだ?」 「ハーフカットとワンホールを選べるようにするってこと?」「そうだ。少人数だとワンホールは多いだろうし、ハーフカットを選べたら少人数でも食べやすいと思わないか?」 ああ、確かに……!「そのアイデア、素敵だね」「カップルや友人で少人数で食べるなら、ハーフカットくらいがちょうどいいだろ? ワンホールじゃ多くて食べきれなくなる
【スリーデイズの進化の時】 「副社長、後百個の追加、OK出ましたよ」「本当か? 良かったな」「うん」 後日の話し合いの結果、アップルパイの百個の追加注文を受けられることになった。 思ったより反響があったおかげで、製造数を増やすことが出来て、わたしたち自身も嬉しく思う。「ところで、大翔さん」「ん?」「この前言ってた冷凍スイーツの件、なんだけど……」 わたしたちみんなで話し合った結果、アップルパイを冷凍スイーツとして売り出すのであれば【お取り寄せ】として販売するのはどうか、という話が出てきたため、わたしはそれを大翔さんに相談することにしたのだ。「アップルパイを冷凍として
「うん。パフェの人気が思ったよりすごかったから、冷凍スイーツみたいな感じで販売出来たらいいなって思って」 わたしがそう話したら、大翔さんは「冷凍スイーツか。それはいいアイデアだな」と言ってくれた。「今冷凍スイーツが結構流行ってるじゃない? 今結構多いのが、無人販売スイーツみたいなのなんだけど、二十四時間買えるところもあって。 冷凍スイーツにして販売したら、いいかなって思ったの」「それがスリーデイズの第二のスタート、って所かもな」「第二の、スタート……」 確かにアップルパイが大成功したし、そしてイベントも大成功した。 次のステップは、冷凍スイーツにシフトしていったほうがいいのかもし
「大翔さん、ありがとう。大翔さんのおかげだよ」「それは由紀乃が頑張ったからだろ?」「……わたし、なんか泣きそう」 大翔さんはわたしの頭をそっと撫でてくれる。「泣いてもいいぞ」「……でも、ここでは泣かない」 家に帰ってから思う存分泣くことにする。「家で思いきり泣くことにするね」 「そうか。じゃあその時は俺の胸を貸してやるよ」「ありがとう」 こういう時に助けてくれるのが大翔さんだから、いいんだよね。「パフェが全部完売なんて、実はちょっとビックリしてるんだ」「そうなのか?」 わたしは「うん」と頷いた。「正直、完売は無理かなって思ってたし」「でも完売したな」 「うん