【プロローグ】〜副社長との出会い〜
* * * 「大変お待たせ致しました。 角切りりんごと紅茶クリームのパンケーキになります」「うわぁ……」
お、美味しそう……! そして何より、見た目が美しいっ!
フワフワで厚みのある茶葉入りのパンケーキに、香り豊かな紅茶クリーム。そしてその周りを囲む、黄金色が輝く美しい角切りりんご。「美しいっ……」
これぞカフェのパンケーキ。 いや、もはやそれ以上かもしれない。
見た目のクオリティに関して言うと、パーフェクトすぎるくらいだ。 これは女子受け、間違いなしのスイーツだ。わたしはすぐにカバンからスマホを取り出し、一番いい位置から写真を撮影し、それをInstagramにハッシュタグを付けて上げる。
これがわたしの休みの日のルーティンだ。休みの日はどこかのカフェに出向き、そのお店のオススメのスイーツを必ずチェックしている。
もちろん、新作のスイーツや期間限定のスイーツなどは外せないため、必ずチェックするようにしている。こんなことをしているせいか、わたしには彼氏など出来ない。
今のわたしには、恋愛することよりもスイーツを食べる方が優先なのだ。「それでは……いただきます」
Instagramにあげた写真をチェックした後、ナイフとフォークを両手に持ち、出来たばかりのパンケーキに手を伸ばしていく。
「うん、美味しいっ」
何これ、めちゃくちゃ美味しい。フワフワなのに軽い口どけのパンケーキに、甘さ控えめなのにしっかりと紅茶の風味を感じるクリームとの相性がバツグンすぎる。
何よりこの角切りされたりんごはシナモンが少し入っていて、口に入れた瞬間の爽やかなりんごの酸味とシナモンのフワッと香るほんのりとした香りが更に美味しさを引き立てている。これは間違いなく、文句無しで美味しいスイーツだ。絶対に食べた方がいい。
くどくないし、クリームの口どけも滑らかなのに軽く食べられてしつこくないし。甘いものが苦手な人でも食べやすいように出来ている。「やばっ、止まらない……」
あまりにも美味しくて、ナイフとフォークが止まらなくなる。「ごちそうさまでした」
あまりにも美味しくて、あっという間にパンケーキを食べ終えたしまったわたし。
「うん」
これは評価高いな、もう一度食べたくなる。
そしてお会計しようと席を立ったその時……。
「きゃっ……!?」
誰かにぶつかってしまったみたいで、わたしはその衝撃でフラついてしまったようだ。
「おっと……!」
どうやらそんなフラついたわたしを、身体で受け止めてくれた人がいたようだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、す、すいません……!」
わたしはすぐにその人から慌てて離れた。
「ケガはないですか?」
「は、はい。すみません、わたしの不注意で……!」
「いや、ケガがなくて何よりだ」
と咄嗟に謝って顔を上げた瞬間に、わたしはその人から目を逸らせなかった。
「……えっ」
ウソッ……。この人って……。
「どうかしました?」
この人……。株式会社【スリーデイズ】の副社長さんじゃない……?
なんでこんな所に、スリーデイズの副社長がいるの……?「あっ……い、いえ! 本当にすみませんでした!」
わたしは一瞬、頭の中がパニックになった。
だって目の前にいるのが、メディアでも取り上げられているあの有名なスリーデイズの副社長、天野川大翔(あまのがわひろと)だったからだ。 その姿を間近で見て、つい見惚れてしまいそうになった。天野川大翔は、冷凍食品を取り扱っている食品会社【スリーデイズ】の副社長だ。
でもテレビで見るよりもイケメンだったし、顔も整っていて、肌も美しかった。 それに背も高くスラッとしていて、顔が小さかった。 驚いたな……。ここにあの天野川副社長がいるなんて。「にしても、いいニオイだったな……」
なんかこう、天野川大翔のニオイに一瞬頭がクラっとしそうだった。
理性が崩れるかと思ったくらいだ。「……って」
なんでわたし、そんなことを考えてるんだろう……。やっぱり目の前に有名人とかがいたからかな?
「それにしても、美味しいパンケーキだったな」
とても美味しくて、幸せだった。やっぱり甘いスイーツは人を幸せにする。
イヤなこととか辛いことがあったとしても、スイーツを食べれば笑顔になるし、幸せな気持ちになる。 スイーツは、人を幸せにする魔法だ。スイーツ好きにはたまらないひと時だ。「あ、あれは、天野川大翔……?」
交差点の巨大なモニターに映し出された天野川大翔を見て、さっきのことを思い出す。
あれがわたしと天野川大翔との出会いだった。
そしてまさか、あんなことを言われるとは……。この時は想像もしていなかったのだけど。~挨拶✕初めてのキス~* * *「お母さん、お父さん、初めまして。 天野川大翔と申します」 婚姻届を提出する数日前、天野川さんはわたしの家へ来ていた。 わたしは未だに実家暮らしだったため、わたしの両親は、わたしがいきなり男を連れてきたことに驚いていた。「え、あ、天野川って……?」 お母さんは天野川さんを見ながら、あたふたとしていた。「失礼しました。 株式会社スリーデイズの副社長を務めております、天野川大翔と申します」「スリーデイズ……。って、ええっ!? あ、も、もしかして、あなた天野川秀人の……?」「はい。息子です」「えっ!? お、お母さんっ!?」 娘が連れてきた男が、まさかのあの有名企業の副社長だと知った瞬間、お母さんは驚きで気絶してしまいそうになった。 そんなお母さんを、天野川さんは「大丈夫ですか?お母さん」と支えていた。「え、えぇ……すみませんねぇ」「いえ、ケガがなくて良かったです」 天野川さんはお母さんにキラキラとした笑顔を向けていた。「さ、さぁ、天野川さん。こちらへどうぞ、大した家じゃないですが……」「ありがとうございます」 天野川大翔……すごい笑顔。キラキラとしている。「まさか天野川さんが、由紀乃の結婚相手だなんて、驚いたわよ。 あなた、結婚したい人がいる、としか言わなかったから……」 お茶を淹れながら、お母さんはそう言ってきた。 「ごめんね、お母さん」 お母さんはさぞかし驚くに決まっているだろうとは思っていたが、まさかそこまでとは思ってなかった。「しかし、イケメンねぇ?天野川さん。男性なのに美形よね」「……だよね」 イケメンだというとは、わたしも認める。思わず見惚れてしまいそうになる時があるから。「お待たせしました。大したものではないですが、どうぞ」 お母さんは天野川さんにいつもよりも丁寧な対応と言葉遣いをしていた。「ありがとうございます。お気遣いなく」 お母さん、めちゃくちゃ緊張してるな……。「あ、そうだ。僕からもお土産があるんです」「え? あ、わたしにも?」 お母さんは驚いたような表情をしていた。「はい、これは父親からなんですが……。よろしかったらどうぞ」「あら、すみません……。ありがとうございます」 天野川さんから紙袋を渡されたお母さんは、その中身を見て目を見開いた。
【え、これってプロポーズ……ですか?】* * * それから一ヶ月が経った時のことだった。「いらっしゃいませ」「すいません、一人なんですけど……空いてますか?」「すみません、今ちょうど満席で……。テラス席でしたら空いていますが、どういたしますか?」「……じゃあ、テラス席でお願いします」 その日は三連休の中日ということもあり、お昼時のカフェは混んでいるのか、店内は満席状態であった。 テラス席なら空いてるとのことだったので、わたしはテラス席に座ることにした。 今日は気分転換にスイーツを食べながら、外で仕事をすることにしたのだった。「こちらの席にどうぞ」「ありがとうございます」 イスの下にあるカバン入れにカバンを入れ、ノートパソコンと資料を開く。「ご注文お決まりになりましたら、こちらのボタンでお呼びください」 「分かりました」 まずはメニューを開いてホットの紅茶を注文した。食べ物は後ででいいと思い、まずは資料に目を通していく。 「はあ、全然ダメだ……」 わたしはごく普通のOLだ。毎日上司から仕事を押し付けられ、毎日ため息ばかりついている。 そんな日々ばかりなのだ。「お待たせしました。ホット紅茶になります。ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」「ありがとうございます」 まずは昨日終わらなかった分の作業を終わらせてしまおう。 そしてパソコンに入力作業をしていると、後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた気がした。「分かってる。俺だって見合いは避けたいさ」「大翔……」 ……大翔? いや、まさかね……。 でも今、お見合いって言ったよね……?「でも親父さん、お前に結婚しろって迫ってるんだろ?南條ゆずと」「ああ。……けどいくら言われても、俺はゆずとの結婚は出来ない」 そんな会話が、後ろの方から聞こえてくる。「南條、ゆず……?」 え、南條ゆず……!? 南條ゆずって、あの南條ゆず……!? 世界的に有名なピアニストの、南條ゆずのことっ……!? すご……! 南條ゆずとの結婚話、しちゃってるんですけど……?!「でもゆずちゃんとは、幼なじみなんだろ?」「幼なじみだからって、それとこれは話が違う」「南條ゆずと結婚したら、お前の人生は安泰だと思うけど? な、大翔」 まさかね……。たまたま同じ名前ってだけよね?
~挨拶✕初めてのキス~* * *「お母さん、お父さん、初めまして。 天野川大翔と申します」 婚姻届を提出する数日前、天野川さんはわたしの家へ来ていた。 わたしは未だに実家暮らしだったため、わたしの両親は、わたしがいきなり男を連れてきたことに驚いていた。「え、あ、天野川って……?」 お母さんは天野川さんを見ながら、あたふたとしていた。「失礼しました。 株式会社スリーデイズの副社長を務めております、天野川大翔と申します」「スリーデイズ……。って、ええっ!? あ、も、もしかして、あなた天野川秀人の……?」「はい。息子です」「えっ!? お、お母さんっ!?」 娘が連れてきた男が、まさかのあの有名企業の副社長だと知った瞬間、お母さんは驚きで気絶してしまいそうになった。 そんなお母さんを、天野川さんは「大丈夫ですか?お母さん」と支えていた。「え、えぇ……すみませんねぇ」「いえ、ケガがなくて良かったです」 天野川さんはお母さんにキラキラとした笑顔を向けていた。「さ、さぁ、天野川さん。こちらへどうぞ、大した家じゃないですが……」「ありがとうございます」 天野川大翔……すごい笑顔。キラキラとしている。「まさか天野川さんが、由紀乃の結婚相手だなんて、驚いたわよ。 あなた、結婚したい人がいる、としか言わなかったから……」 お茶を淹れながら、お母さんはそう言ってきた。 「ごめんね、お母さん」 お母さんはさぞかし驚くに決まっているだろうとは思っていたが、まさかそこまでとは思ってなかった。「しかし、イケメンねぇ?天野川さん。男性なのに美形よね」「……だよね」 イケメンだというとは、わたしも認める。思わず見惚れてしまいそうになる時があるから。「お待たせしました。大したものではないですが、どうぞ」 お母さんは天野川さんにいつもよりも丁寧な対応と言葉遣いをしていた。「ありがとうございます。お気遣いなく」 お母さん、めちゃくちゃ緊張してるな……。「あ、そうだ。僕からもお土産があるんです」「え? あ、わたしにも?」 お母さんは驚いたような表情をしていた。「はい、これは父親からなんですが……。よろしかったらどうぞ」「あら、すみません……。ありがとうございます」 天野川さんから紙袋を渡されたお母さんは、その中身を見て目を見開いた。
【プロローグ】〜副社長との出会い〜* * *「大変お待たせ致しました。 角切りりんごと紅茶クリームのパンケーキになります」「うわぁ……」 お、美味しそう……! そして何より、見た目が美しいっ! フワフワで厚みのある茶葉入りのパンケーキに、香り豊かな紅茶クリーム。そしてその周りを囲む、黄金色が輝く美しい角切りりんご。「美しいっ……」 これぞカフェのパンケーキ。 いや、もはやそれ以上かもしれない。 見た目のクオリティに関して言うと、パーフェクトすぎるくらいだ。 これは女子受け、間違いなしのスイーツだ。 わたしはすぐにカバンからスマホを取り出し、一番いい位置から写真を撮影し、それをInstagramにハッシュタグを付けて上げる。 これがわたしの休みの日のルーティンだ。休みの日はどこかのカフェに出向き、そのお店のオススメのスイーツを必ずチェックしている。 もちろん、新作のスイーツや期間限定のスイーツなどは外せないため、必ずチェックするようにしている。 こんなことをしているせいか、わたしには彼氏など出来ない。 今のわたしには、恋愛することよりもスイーツを食べる方が優先なのだ。「それでは……いただきます」 Instagramにあげた写真をチェックした後、ナイフとフォークを両手に持ち、出来たばかりのパンケーキに手を伸ばしていく。「うん、美味しいっ」 何これ、めちゃくちゃ美味しい。フワフワなのに軽い口どけのパンケーキに、甘さ控えめなのにしっかりと紅茶の風味を感じるクリームとの相性がバツグンすぎる。 何よりこの角切りされたりんごはシナモンが少し入っていて、口に入れた瞬間の爽やかなりんごの酸味とシナモンのフワッと香るほんのりとした香りが更に美味しさを引き立てている。 これは間違いなく、文句無しで美味しいスイーツだ。絶対に食べた方がいい。 くどくないし、クリームの口どけも滑らかなのに軽く食べられてしつこくないし。甘いものが苦手な人でも食べやすいように出来ている。「やばっ、止まらない……」 あまりにも美味しくて、ナイフとフォークが止まらなくなる。「ごちそうさまでした」 あまりにも美味しくて、あっという間にパンケーキを食べ終えたしまったわたし。「うん」 これは評価高いな、もう一度食べたくなる。 そしてお会計しようと席を立ったその時…
【え、これってプロポーズ……ですか?】* * * それから一ヶ月が経った時のことだった。「いらっしゃいませ」「すいません、一人なんですけど……空いてますか?」「すみません、今ちょうど満席で……。テラス席でしたら空いていますが、どういたしますか?」「……じゃあ、テラス席でお願いします」 その日は三連休の中日ということもあり、お昼時のカフェは混んでいるのか、店内は満席状態であった。 テラス席なら空いてるとのことだったので、わたしはテラス席に座ることにした。 今日は気分転換にスイーツを食べながら、外で仕事をすることにしたのだった。「こちらの席にどうぞ」「ありがとうございます」 イスの下にあるカバン入れにカバンを入れ、ノートパソコンと資料を開く。「ご注文お決まりになりましたら、こちらのボタンでお呼びください」 「分かりました」 まずはメニューを開いてホットの紅茶を注文した。食べ物は後ででいいと思い、まずは資料に目を通していく。 「はあ、全然ダメだ……」 わたしはごく普通のOLだ。毎日上司から仕事を押し付けられ、毎日ため息ばかりついている。 そんな日々ばかりなのだ。「お待たせしました。ホット紅茶になります。ミルクと砂糖はお好みでどうぞ」「ありがとうございます」 まずは昨日終わらなかった分の作業を終わらせてしまおう。 そしてパソコンに入力作業をしていると、後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた気がした。「分かってる。俺だって見合いは避けたいさ」「大翔……」 ……大翔? いや、まさかね……。 でも今、お見合いって言ったよね……?「でも親父さん、お前に結婚しろって迫ってるんだろ?南條ゆずと」「ああ。……けどいくら言われても、俺はゆずとの結婚は出来ない」 そんな会話が、後ろの方から聞こえてくる。「南條、ゆず……?」 え、南條ゆず……!? 南條ゆずって、あの南條ゆず……!? 世界的に有名なピアニストの、南條ゆずのことっ……!? すご……! 南條ゆずとの結婚話、しちゃってるんですけど……?!「でもゆずちゃんとは、幼なじみなんだろ?」「幼なじみだからって、それとこれは話が違う」「南條ゆずと結婚したら、お前の人生は安泰だと思うけど? な、大翔」 まさかね……。たまたま同じ名前ってだけよね?