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異世界アルカディア③

last update Dernière mise à jour: 2025-03-22 17:00:06

「だいぶ歩いたから見えてきたよ。僕らの国が」

アレンさんに言われ、前方をよく見ると緑の風景が見えてきた。

「しかし、魔神もこの世界に逃げてきたからまた討伐隊を組み直すことになるだろうな」

魔神と四天王の一人、ゾラもこっちの世界に逃げてきたはず。

魔族領では会わなかったのも、恐らく軍を再編するために僕らには手を出さず準備に取り掛かっているのだろう。

暫くアルカディアの話を聞いて歩いていると、次第に風景は魔界ではなくのどかで優しさのある風が吹き抜ける草原へと出た。

「ここからは適当に野宿をして、明日には一番近い街につくかな」

「そこで、馬車を借りて一気に帝都まで行きましょう」

アレンさんとレイさんはどこで野宿をするか、馬車を借りる為のお金は、などと話し合っている。

「そういえば……こっちの世界では何年経っているんでしょうか?」

僕が何気なしに聞いたその言葉で全員が固まる。

「た、確かに……時の流れが違うのであれば面倒だな……」

「街につけば分かることです。とりあえず今は野宿の場所を決めましょう」

みんな忘れていたようだが、もしも時の流れが違うとなった場合、アレンさん達は死んだことになっている可能性もある。

そんな中、いきなり街に現れたら騒ぎになるのではないか。

「なんとかなるわよ、多分」

フェリスさんは楽観視しているが、本当に大丈夫なのだろうか。

「私達がつけているこのバッチ。黄金の旅団を示す物なんだけどね、これは討伐隊が作られた時に私達が主導で動きます。って陛下や上の立場の人たちにこのバッチを見せているわ。だからこのバッチでどこの誰かは判断できると思う」

「そうなんですね」

金色の剣が2本、✕印のように交差し、真ん中に3枚のコインが描かれたバッチ。

それを見れば黄金の旅団だと誰もが分かるほど有名だという。

「あ、それとボクらの拠点は宿り木って名前だからね、わかりやすくていいだろ?」

なんと、地球での拠点と同じ名前
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    「さて、ついたぞい」クロウリーさんに促され全員が馬車を降りると何の変哲もないただの山道だった。ここに神域の結界があると言われても信じられない。「ここかい?」「うむ。アレン、そこから先には進むでないぞ」アレンさんも把握できていないようで、クロウリーさんに忠告され足を止めていた。「さて、やるぞ!全員準備はよいか?」アレンさんも臨戦態勢を取り、フェリスさんもアカリも各々武器を手に構えた。ソフィアさんも剣を抜くと僕も守るように前に立つ。僕も念の為ライフルを構えておいた。「さて、ではやるぞ。開け異界の扉よ!アザ―ワールド!」クロウリーさんが両手を広げると紫色の魔力の渦が集まり始め空間に亀裂が入った。何もない空間に亀裂が入るのは目を疑いたくなる光景だ。亀裂は徐々に広がっていき、やがて人一人入れる程度の隙間ができた。「ここからは強引にいくぞ!」クロウリーさんは開いた亀裂に両手を突っ込み一気に外側へと広げていく。二人が並んで入れるくらいの大きさまで広がると、神域と思われる光景が視界に飛び込んできた。カラフルな蝶が飛び交い、のどかな草原が広がる美しい光景だった。白い樹が各所で生えていて、見た事もない光景に僕らはアッと驚く。「凄い……これが神域なのね」フェリスさんも構えた剣を下ろすと目の前の光景に意識を奪われていた。「なんて美しいのかしら」ソフィアさんも視界いっぱいに広がる見た事もない光景に言葉を失っていた。かくいう僕も美しい景色に目を奪われていたが、クロウリーさんの一声で意識を取り戻した。「来るぞ!全員構えよ!」草原の遥か向こうから猛スピードでこちらへと迫りくる白い翼の人間。あれが神族なのだと気づくのにそう時間はかからなかった。手には背丈を超える程の長い槍を持っている。殺意が凄そうだ。「頼んだぞアレン!」「任せておいてよ、クリエイトゴーレム!」

  • もしもあの日に戻れたのなら   長い旅路⑧

    長旅も九日が経つと流石に慣れてきた。今更ながら思ったが、女性連中の風呂はどうしているのだろう。アレンさんやクロウリーさん、そして僕らは男だからまあ我慢すればいい。といっても毎日寝る前に濡れた布で身体くらいは拭いているが、女性はそれだけで満足はできないはずだ。「アカリ、風呂ってどうしてんの?」「?お風呂なんてどこにもないけど」「いや、それは分かってるけど。もしかして僕らと同じで濡れた布で身体を拭くだけ?」「そうだけど」驚いた。こっちの世界の女性は案外その辺り気にしないらしい。清潔感という面だけ見ればやはり日本の圧勝のようだ。「身体を拭いただけでさっぱりできる?」「うん」冒険者だからだろうか。しかしソフィアさんはそういうわけにはいかないだろう。そこで僕は彼女に聞いてみる事にした。「ソフィアさん、この旅の間はお風呂に入れていないと思いますけど大丈夫ですか?」「何の事かしら?それは当然でしょう。ああ、もしかして気にしないのかという事?」「そうです。皇女様なのにその辺り大丈夫なのかなと思いまして」「気にしないわね。どうせ外にいれば汚れるのだからいちいちお風呂で身体を清めても意味がないわ」まあそれはそうかもしれないが皇女様であろうお方がそれでいいのかと思ってしまう。姫様って綺麗好きなイメージがあったのに。「流石に臭いには気を付けているわよ、ほら」ソフィアさんが手を広げバタバタすると、ふんわりと花の香りが漂ってきた。香水かな、なんとも心が洗われる匂いだ。「香水は乙女の嗜みね。これがあるから多少身体が汚れていてもきにならないのよ。貴方の世界では違ったのかしら?」「そうですね……人によると思いますが、一日に二度お風呂に入らないと気が済まない女性もいましたよ」僕の姉である。綺麗好きがいきすぎて毎日朝と夜にお風呂に入っていた。僕がその話をするとソフィアさんは顔を顰める。

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