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3.素材パーツ

last update Last Updated: 2025-04-16 09:00:58

「蛍 ! 蛍ちゃん〜 ! 」

 内陸部の山林地域に存在する廃校。

 木造建築で、学校を利用した再生カフェや当時の学生気分が味わえるイベントを開くとして、去年どこかの資産家に買い取られたという噂が流れた。

 しかし、いつまで経ってもカフェどころか、廃校は放置されていた。

 蛍とルキが到着すると、香澄が縋り付くように駆け寄ってきた。その身体に拘束は無い。制服のままという事は下校途中、親と合流する前に連れて来られたのだろう。汚れや服の乱れも無かった。

「ケイも来るって部下に連絡したんだけど、その子信じなくてさぁ……手をやいたみたいだ」

 ルキが黒服達の乱れた髪と汚れたスーツを見て苦笑する。

「蛍ちゃん、どこにいたの ? こいつら誰なの !? 」

「香澄、冷静に」

「なんでぇっ !? なんで落ち着いてられるのっ ! 」

 泣き出す香澄を見てルキはクスクスと笑う。

「そうだよね〜 ? 不安だよね ? 

    今のはケイが酷いよ。ちゃんと心配してやらないとさぁ〜」

「心配はしてますよ」

「香澄ちゃん、もっとケイと無事を確認し合ったりしたかったよねぇ ? 」

 ヘラヘラと笑うルキに、香澄は噛み付かんばかりに睨みつける。

「あぁ、ごめん。俺の言う言葉じゃないか ! 

 さぁ、皆さんこっちに来て」

 ルキの他に、部下が二人横に付く。更に蛍と香澄の背後、逃走防止に二人の黒服がついた。電気は通っているものの古いせいか今にも消え入りそうな光量だ。

 通されたのは一階、校舎中央の階段下。

 校舎は二階建で、中央階段から東と西に教室が存在する。

 一階の中央階段前は校長室だが、そこにはあらゆる監視モニターがある様子だった。即席のケーブルが束になり、閉まりきれない扉の隙間から液晶が見える。学校の内部が映し出されているようだ。

 蛍がその場へ来るとすぐに黒服が防火シャッターを締め、簡易取り付け型の鍵をする。逃げ道を防ぐのだろう。くぐり戸はあるが、完全に溶接されている。

「何をするんだ ?」

「そう焦らず、ね ? 」

 ルキと黒服以外に、蛍、香澄、他二人がいた。

「さ、自己紹介だ ! 

 君からどうぞ ! 」

「ひっ…… ! 」

 香澄より酷く怯えている女性。

 エキゾチックな派手目の服装だが不潔感がない。激しくかかったスパイラルパーマが個性的で、そばかすのある素肌感が穏やかな印象の面持ちだ。

「や、山本 美果……南湊市の芸大の二年……です……」

「未来のアーティストだ ! みんな拍手〜」

 全員が怯える中、ルキだけがケラケラとしていて気味が悪い。

「はい、次は男性ね。お兄さん名前は ? 」

「……っ。加藤 順平。職業、歯科医……」

「はい、拍手〜。

 今日は白衣じゃないんだ。歯医者さんってサディスティックだよね〜。

    部下の報告で見たけど、 貴方は治療最後に一本だけ虫歯になりやすくする為、凹凸を入れて、また患者が自分の歯医者に通うようにするらしいね。ネットのレビューにあったってさ。ほんと ? 」

「そんなわけない。治療の一環だ。削ったのはただの歯石だ」

「なんだ。期待はずれ。

 じゃあ、次は君だよ。可愛いね、何年生 ? 」

「……古川 香澄……高校一年です……」

「ご実家は ? 」

「……花屋です……」

「へぇ。お花屋かぁ〜。芸大美果ちゃんのセンスとお花屋さんのセンス。比べるのが楽しみだよ ! 

 じゃあ最後、お願い」

 ルキが顎をしゃくって蛍を指す。

「高校一年、涼川 蛍。……自宅は葬儀屋……」

「はい、OK〜 ! 

 じゃあ、みんなよく聞いて。

 それぞれ一人につき、三つの教室を割り当てる。

 君たちには……今回……。アートを作成して欲しい」

「ア、アート…… ? 」

 ルキが校長室から『見本』の一部を取り出す。

「使うのはこれだよ」

 その手に握られているのは、人の腕だった。鳥肌が立ち、産毛が逆立っているのまではっきりとわかるマニキュアのついた腕だ。

「……っ !! きゃぁぁっぁ ! 」

「蛍ちゃ〜ん ! 」

 紛れもなく本物。

 爪が剥がれ、血は抜けて流血こそ無いが、白く青く変色した腕はマネキンでないことは明確。生々しく、グロテスクに新鮮な肉塊。

「し、信じられん ! 鬼畜だ……」

「ただの部位ですよ〜。お医者さん見慣れてるでしょ ? あ、歯医者は見ないかぁ。

 色々揃ってるよ。腕も頭部も……ここには無いけど傷の無い全身のもある。人種も年齢も選べる」

「考えられん。君が殺したのではなくとも罪に問われるぞ」

    加藤がルキを咎めるが、言ってすぐ無駄なのだと理解する。ルキは飄々とした笑みで頷くだけ。こういった事件性のあるものに対し、初めてとは思えない余裕があった。

「全部用意は専門の部下だよ ? 俺は何もしてない。犯罪なのは知ってるけど、言った通り警察は俺をスルーだよ。

 あそこを見て」

 ルキが頭上の監視カメラを指差し、手を振る。

「あれね、君たちが逃げないように監視するモニターじゃないんだ。

 この夜会はね、君たちを観たい方達の為のイベントなんだ」

「イベント !? 誰がこんな事、観たいなんて言うのよ ! 」

    香澄が喚き散らすが、芸大生の美果はふと考える。友人のサークルが、一軒家の物陰に入り覗きをするという仕掛けだった。最後に、家主が演技だった事をネタばらし。まるで本当に一般家庭の内輪の覗きをしているようなパフォーマンスにその演劇部は話題になった。

    ここはそれを本当にやる気なのだ。自分たちを観て悦に浸る者達のカモにされたと理解した。

「そりゃあ、世の中色んな嗜好の人がいるし。ね ? ケイ ? 」

「……俺を一緒にしないでください」

    蛍はそっぽを向いたままルキに言葉を返す。

    蛍とルキは、ここまで一度も面と向かって視線を合わせていない。それだというのに、ルキは気にしないのか沸点が低いのか、いつまでも陽気なままで話し続ける。

「はは。つれないなぁ。

 さて、ルールは簡単。より素晴らしいものを作り上げたら帰れる。審査は観覧者達。俺はただの主催者。けど、酷いものは俺の判断で除外するから本気でやってね ? 」

 ルキが合図を送る。

 黒服が二人、それぞれ四人の被害者に付いた。

「足りないもの……道具とか欲しい部位とかがあったら彼らに言って ? 作品に制限は無いから、とにかく好きなようにやってみてね。

 さ、移動するよ。

    芸術家さんは二階の東。

 歯医者さんは西。

 香澄ちゃんは一階の東、ケイは西ね。

 一人教室三個。三教室同じテーマでもいいし、一部屋バラバラの作品でもいいよ。特に芸術家 美果ちゃんには期待かな ! 

 じゃあ、スタンバイお願い」

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