「やっほーーー ! お姉さん ! エール二つお願い ! 」
「かしこまりましたぁ」
う、凄い煙。と、お酒の匂い。
なんか想像と違いすぎる。 ……そういえばギルドに食堂は隣接してるし、独立した酒場に入るのは初めてかも。 天井が眩しい。 ここはランプじゃなくて魔石に光の魔法をチャージして使ってるのね……。 それにしても、この村にこんなに人がいたなんて。 冒険者じゃない女の子……踊り子よね。凄い……ギルドであんな綺麗な人見たことない。綺麗なドレス……。「あぁーん。会いたかったぁ〜ん」
こっちの女戦士が抱きついてるのは男性。胸元まであけたシャツに艶のある短髪。こんな人、昼間の村では見かけないのに……ここでお客さんとってるんだ。
完全に夜の世界。「さ、こっちこっち」
「レオナさん、わたし……やっぱりこの空気は……」
「大丈夫大丈夫。
こいつ、あたしの連れでジルっての」ジルも愛想よくわたしを見上げて握手を交わした。
「リラです」
「ジル ! よろしく !
なになに ! レオナ、ギルドで女の子ナンパしたの ? 」「ばーか。違うよ。
この子さぁ、掲示板の子だよ。話したらやっぱり境遇がセロと似てると思って連れてきたんだ」そう言って、ジルの隣にいた男性を指差す。
多分、年はわたしと同じくらい。
曇り空のような銀髪に陶器のような白い肌。着衣はなんの素材か分からないけどオールホワイト。なんだか生命力が儚げって感じに見える。「こいつはセロ。あたしも知らないんだけどさ。港町で知り合ったんだ。あんたと同じく、記憶ないの。
ねぇ、こいつと知り合いだったりする ? 」セロと呼ばれた白い男性。
お互いにポカンと全身を見る。でも知らない。見たことない人……だよね。
「いいえ。すみません」
「俺も……。そもそも女性は苦手だし……」
苦手…… ? じゃあ、絶対違うじゃん。目も合わせようともしないもん。
ピンと来ないし、やっぱり思い出せない。「流石にそんな偶然はないだろ」
「記憶が無いんだもんなぁ〜。身体の感覚も違うだろう ? でもいいじゃないか、確認するくらい。
リラ、セロは口数少ないんだけど、何故か狐弦器の扱いだけは達者でね」狐弦器。
大牙狐の髭やしっぽと木で作られた弦楽器だよね ? ……あれ、わたし……。記憶が無いのに、楽器は覚えてるってそんなことあるのかな ? いや、あるよね。自分の装備の素材とか、村に外の魔物の名前とか覚えてるし。 人に関しての記憶だけ戻らない……。いいえ。他にもうろ覚えの……魔法使いだったこと。これもあやふやよね……なにか法則性があればいいけど、そう上手くはいかないか……。「この酒場、広いステージがあるからさ。
あんたと同じくセロも港でグズグズ悩んでて ! 特技もあるし、思いっきりデカいステージに立てよ ! って言ってここに来たわけよ ! 」「ご、豪胆ですねレオナさん。
セロ……さんは、これから演奏するんですか ? 」問いかけに、セロは全く返事しない。
ジルが頭をガシガシかいて補足してきた 。「あー。まじごめん。本当に女の子と喋んねぇの」
「そ、そうなんですか」
「そう。うちもレオナどころかギルドの受付嬢とかアイテム屋のババアも全滅。とにかくブツブツ出るらしくて……え ? 」
ジルの耳元でセロがなにか耳打ちする。
「いや。おめぇ自分で言えよ馬鹿じゃねぇの ?
あ、あーと。リラちゃん、声が好みだから歌を合わせてやってみないかだってさ」「う、歌なんか急に無理ですよ ! 」
「だよなぁ。
セロ、そりゃ断るぜ。初対面で自作の曲に歌詞当てて歌えって……距離感詰めすぎだろ、考えろよ……」
「〜〜〜……」
「……うん。……うん、でもさ。それはお前が天才の部類だからじゃねぇの ? 」
仕方なさそうにセロは一人、ケースの中から狐弦器を取り出し始めた。
「彼は……。記憶……無いのに弾けるんですか ? 」
「んー。俺らもそれが不思議」
「あいつにとって、余程大切か、磨ききった努力の才能なんだろうね。記憶が無かろうが、死んで肉体が滅びようが、身体が覚えてんのさ。きっとね」
「……そんなことって……」
「あんたにもあるかもよ ? なにか思い出せてない、自分の特技とかさ ! 」
視野が広がる。
なぜレオナがここへ誘ったのか、理解した 。 記憶の糸を辿るのは仲間の存在だけじゃない 。 まずは自分を知らないと、八方塞がりのままの運命になってしまう。それだけは嫌。
でもそれは仲間探しを諦めて、別な道で食べていけって事 ? そんなこと今は考えられない。何か、心の真ん中に穴が空いた感じ。
それだけ大事な人がいたんだと思う。なのに探すのを辞めちゃったら……わたし……。「始まるね。あいつにとっても初めてのステージだ」 一部の客席がステージを見上げる。 ドクンッ !! 「……っ !! 」 セロがステージに上がった時、心臓が跳ねる。 この感覚って何 ? 一挙一動……なにか分からないけど……既視感 ? まさか。 それは無い。 わたしは彼を知らない。 セロが弓を大きく振りかぶり、第一音を鳴らす。たった一つのチューニング音。 それだけで酒場全体の時が止まる。比喩じゃない。みんなセロを見上げて次の音に耳を立てている。 透き通るような音色。 女性嫌い ? 本当に ? そんな精神状態でステージって立てるものなの ? 荒くれ者みたいな人も多いし、異性と遊びに来て楽しんでる人も多いのに、音楽って聞いて観て貰えるものなの ? セロの狐弦器が鳴る。 唸りをあげるという方が強い。 音が重い……。切なくて、地を這うようなスローなメロディ。 シンプルに言えば、暗い曲だよね。 でもこの曲の雰囲気。 嫌いじゃない。「……」「……無理だよ……」 舞台上からわたしへの、セロの鋭い視線。さっきまでは目も合わせなかった癖に。 でも、分かるよ。 あいつ。わたしを探ってる。音楽の好み ? それともステージへ上がる意思 ? 冗談じゃない。わたしは冒険者。吟遊詩人じゃないもの。 でもこの衝動は何 ? 巧みにさばかれるピッチング。 弓のテンポが上がる。 もっと。 もっと聴きたい 。 側で永遠に。 この音色は……ずっと聞いていられる。「来たな」「……自分でもわからないの」 わたしは、気がついたらセロのそばにいた。 歌いたいとかじゃない。でも、この音色を側で聞くにはわたし以外にいない。 いないはず。 この思いってなに ? 「思い切り声量あげて。音は合わせる」 出来る。何故 ? 分からないけど、わたしならセロの音楽に見合った歌を当てられる。根拠の無い自信。 大きくブレスを挟むと、思いのままに喉を震わせた。「うぉ〜 !! いいぞぉ〜 ! 」 酔ったおじさんが拳を突き上げる。その場のノリでも
銀の鱗の上。 翼竜に乗った仲間が叫んだ。「リラ !! 振り落とされんな !! 」「大丈……。っ !!? みんな、西 !! 別のがいる !! 」 シルバードラゴンにあと一息でトドメというところで、夕日の中に別のドラゴンのシルエットが見えた。「オスじゃねぇーの !? せっかく引き離したのに !! 」「戦闘が長引きすぎたな。シエル、回復薬は ? 」「もう無いよ ! とてもじゃないけど連戦できない ! レイ、どうするの !? 」「……っ。全員離脱用意。このドラゴン討伐は……諦めるしか……」 この時。 わたしは出来ると思った。 本当はパーティの全員に支えられてきた自信と実力だったのに。 それを過信したんだ。「カイ ! 双剣を貸して !! 」「はぁ !? 俺、魔銃は使えねぇよ ! 」「替えの装備あるでしょ !? わたしがゴルドラの気を引く ! 討伐は続けて !! 」 一人、シルバードラゴンの背から魔法を伝い風に乗る。「風よ ! 」 風で弧を描く身体の先、ブーツから水蒸気の雫が光る。 ギィィィンッ !! その回転した反動を利用して、敵意剥き出しの雄竜に思い切り刃を向けた時。頭部へ一撃、全力で打ち込んだのに、ゴールドドラゴンは更に鋭い牙をギギッと剥くだけだった。 自分の判断が間違いだと気付いた。「くっ、硬っ !! 」 剣が弾かれる。その直後聞こえた、不穏な風切り音。 ヒュオッと耳の側で鳴った後、視界の端に叩き落とそうとする尾の先が見えた。「リラァッ !! 」 反撃を受けて、魔法が切れる感覚。 真っ逆さまに落ちていく風の音。 冷たい空気。 視界の中で、ゴールドドラゴンがシルバードラゴンの背の上目掛けて火を吹いているのが最後の記憶。 その記憶だけを残して。 わたしは仲間の記憶を無くした。
「浮かないね」 この人も知らない。結構、年上だよね ? でも……凄い腹筋と綺麗な歯。褐色肌が雪原地域のここじゃ、全員の目を惹いてる。凄く引き締まった腹筋なのに、釣り合わない程の大きな胸。 それに……ニヤッとしてるけど、嫌味がない笑顔だわ。「あんた、ずっと一人だよね ? この村に来た時から気になってたんだ」「え…… ? ……一人客なんて他にも……」 ギルドの酒場。 わたしは毎日ここに通い続けた。 もうドラゴンの上から落ちた記憶しかない。自分がどう生きてきたのかも、どんな武器を使っていたのかも思い出せなかった。「この辺り、結構討伐報酬高いしさ。良ければあんた誘うおうとしてたんだけど、毎日居る割りに湿気たツラしてるからさ」「……そうでしたか。実はパーティのメンバーが戻らなくて……」 ギルドにさえ出入りしていれば仲間だった人に見つけて貰えるかもしれない……そう思って毎日欠かさずここへ来てた。 いつかパーティの仲間が………… ? 仲間だった人…… ? それも思い出せない。でもこの地帯は高レベルのモンスターしかいないし、女性一人の冒険者は稀だとみんなが言う。だから、きっと仲間はいるはず。「へぇ。そうなの ? はぐれて今日で何日 ? 」 こういう質問を受けるのは初めてじゃない。 わたしの装備が結構質がいいみたいで、実力を見込んで声をかけて来る人がいる。でも身体はもう、どう動けばいいのか覚えてない。「二ヶ月です」「二ヶ月ぅ !? そりゃ……あんた…………」 自分でもわかってる。 多分、置いていかれたか、全員殉職したかしかない。でも前者は絶対ない ! じゃあ、何 ? その人達はどうなったの ? 何もかも整理ができてない !「あ……ごめんよ。そんなつもりじゃ……」「いえ。討伐中の事故のせいで記憶が曖昧になってしまって……。空から落ちたみたいなんです。 今はもう戦えなくて。仲間の記憶も曖昧なんです……」「仲間って、連中の名前は ? あたし海の方からここに来たけど……」「実は、それも覚えてないんです……。 あ、申し遅れました。わたしリラ · ウィステリアです。ギルドのジョブプレートは持ってて」 木低札に名前と登録ギルド名。グランドグレー大陸発行の紋章が付いてるけど、グランドグレー自体が広大な土地過ぎてとてもじゃないけど出身地
「始まるね。あいつにとっても初めてのステージだ」 一部の客席がステージを見上げる。 ドクンッ !! 「……っ !! 」 セロがステージに上がった時、心臓が跳ねる。 この感覚って何 ? 一挙一動……なにか分からないけど……既視感 ? まさか。 それは無い。 わたしは彼を知らない。 セロが弓を大きく振りかぶり、第一音を鳴らす。たった一つのチューニング音。 それだけで酒場全体の時が止まる。比喩じゃない。みんなセロを見上げて次の音に耳を立てている。 透き通るような音色。 女性嫌い ? 本当に ? そんな精神状態でステージって立てるものなの ? 荒くれ者みたいな人も多いし、異性と遊びに来て楽しんでる人も多いのに、音楽って聞いて観て貰えるものなの ? セロの狐弦器が鳴る。 唸りをあげるという方が強い。 音が重い……。切なくて、地を這うようなスローなメロディ。 シンプルに言えば、暗い曲だよね。 でもこの曲の雰囲気。 嫌いじゃない。「……」「……無理だよ……」 舞台上からわたしへの、セロの鋭い視線。さっきまでは目も合わせなかった癖に。 でも、分かるよ。 あいつ。わたしを探ってる。音楽の好み ? それともステージへ上がる意思 ? 冗談じゃない。わたしは冒険者。吟遊詩人じゃないもの。 でもこの衝動は何 ? 巧みにさばかれるピッチング。 弓のテンポが上がる。 もっと。 もっと聴きたい 。 側で永遠に。 この音色は……ずっと聞いていられる。「来たな」「……自分でもわからないの」 わたしは、気がついたらセロのそばにいた。 歌いたいとかじゃない。でも、この音色を側で聞くにはわたし以外にいない。 いないはず。 この思いってなに ? 「思い切り声量あげて。音は合わせる」 出来る。何故 ? 分からないけど、わたしならセロの音楽に見合った歌を当てられる。根拠の無い自信。 大きくブレスを挟むと、思いのままに喉を震わせた。「うぉ〜 !! いいぞぉ〜 ! 」 酔ったおじさんが拳を突き上げる。その場のノリでも
「やっほーーー ! お姉さん ! エール二つお願い ! 」「かしこまりましたぁ」 う、凄い煙。と、お酒の匂い。 なんか想像と違いすぎる。 ……そういえばギルドに食堂は隣接してるし、独立した酒場に入るのは初めてかも。 天井が眩しい。 ここはランプじゃなくて魔石に光の魔法をチャージして使ってるのね……。 それにしても、この村にこんなに人がいたなんて。 冒険者じゃない女の子……踊り子よね。凄い……ギルドであんな綺麗な人見たことない。綺麗なドレス……。「あぁーん。会いたかったぁ〜ん」 こっちの女戦士が抱きついてるのは男性。胸元まであけたシャツに艶のある短髪。こんな人、昼間の村では見かけないのに……ここでお客さんとってるんだ。 完全に夜の世界。「さ、こっちこっち」「レオナさん、わたし……やっぱりこの空気は……」「大丈夫大丈夫。 こいつ、あたしの連れでジルっての」 ジルも愛想よくわたしを見上げて握手を交わした。「リラです」「ジル ! よろしく ! なになに ! レオナ、ギルドで女の子ナンパしたの ? 」「ばーか。違うよ。 この子さぁ、掲示板の子だよ。話したらやっぱり境遇がセロと似てると思って連れてきたんだ」 そう言って、ジルの隣にいた男性を指差す。 多分、年はわたしと同じくらい。 曇り空のような銀髪に陶器のような白い肌。着衣はなんの素材か分からないけどオールホワイト。なんだか生命力が儚げって感じに見える。「こいつはセロ。あたしも知らないんだけどさ。港町で知り合ったんだ。あんたと同じく、記憶ないの。 ねぇ、こいつと知り合いだったりする ? 」 セロと呼ばれた白い男性。 お互いにポカンと全身を見る。 でも知らない。見たことない人……だよね。「いいえ。すみません」「俺も……。そもそも女性は苦手だし……」 苦手…… ? じゃあ、絶対違うじゃん。目も合わせようともしないもん。 ピンと来ないし、やっぱり思い出せない。「流石にそんな偶然はないだろ」「記憶が無いんだもんなぁ〜。身体の感覚も違うだろう ? でもいいじゃないか、確認するくらい。 リラ、セロは口数少ないんだけど、何故か狐弦器の扱いだけは達者でね」 狐弦器。 大牙狐の髭やしっぽと木で作られた弦楽器だよね ? ……あれ、わたし……。記憶が無いのに、楽器は覚え
「浮かないね」 この人も知らない。結構、年上だよね ? でも……凄い腹筋と綺麗な歯。褐色肌が雪原地域のここじゃ、全員の目を惹いてる。凄く引き締まった腹筋なのに、釣り合わない程の大きな胸。 それに……ニヤッとしてるけど、嫌味がない笑顔だわ。「あんた、ずっと一人だよね ? この村に来た時から気になってたんだ」「え…… ? ……一人客なんて他にも……」 ギルドの酒場。 わたしは毎日ここに通い続けた。 もうドラゴンの上から落ちた記憶しかない。自分がどう生きてきたのかも、どんな武器を使っていたのかも思い出せなかった。「この辺り、結構討伐報酬高いしさ。良ければあんた誘うおうとしてたんだけど、毎日居る割りに湿気たツラしてるからさ」「……そうでしたか。実はパーティのメンバーが戻らなくて……」 ギルドにさえ出入りしていれば仲間だった人に見つけて貰えるかもしれない……そう思って毎日欠かさずここへ来てた。 いつかパーティの仲間が………… ? 仲間だった人…… ? それも思い出せない。でもこの地帯は高レベルのモンスターしかいないし、女性一人の冒険者は稀だとみんなが言う。だから、きっと仲間はいるはず。「へぇ。そうなの ? はぐれて今日で何日 ? 」 こういう質問を受けるのは初めてじゃない。 わたしの装備が結構質がいいみたいで、実力を見込んで声をかけて来る人がいる。でも身体はもう、どう動けばいいのか覚えてない。「二ヶ月です」「二ヶ月ぅ !? そりゃ……あんた…………」 自分でもわかってる。 多分、置いていかれたか、全員殉職したかしかない。でも前者は絶対ない ! じゃあ、何 ? その人達はどうなったの ? 何もかも整理ができてない !「あ……ごめんよ。そんなつもりじゃ……」「いえ。討伐中の事故のせいで記憶が曖昧になってしまって……。空から落ちたみたいなんです。 今はもう戦えなくて。仲間の記憶も曖昧なんです……」「仲間って、連中の名前は ? あたし海の方からここに来たけど……」「実は、それも覚えてないんです……。 あ、申し遅れました。わたしリラ · ウィステリアです。ギルドのジョブプレートは持ってて」 木低札に名前と登録ギルド名。グランドグレー大陸発行の紋章が付いてるけど、グランドグレー自体が広大な土地過ぎてとてもじゃないけど出身地
銀の鱗の上。 翼竜に乗った仲間が叫んだ。「リラ !! 振り落とされんな !! 」「大丈……。っ !!? みんな、西 !! 別のがいる !! 」 シルバードラゴンにあと一息でトドメというところで、夕日の中に別のドラゴンのシルエットが見えた。「オスじゃねぇーの !? せっかく引き離したのに !! 」「戦闘が長引きすぎたな。シエル、回復薬は ? 」「もう無いよ ! とてもじゃないけど連戦できない ! レイ、どうするの !? 」「……っ。全員離脱用意。このドラゴン討伐は……諦めるしか……」 この時。 わたしは出来ると思った。 本当はパーティの全員に支えられてきた自信と実力だったのに。 それを過信したんだ。「カイ ! 双剣を貸して !! 」「はぁ !? 俺、魔銃は使えねぇよ ! 」「替えの装備あるでしょ !? わたしがゴルドラの気を引く ! 討伐は続けて !! 」 一人、シルバードラゴンの背から魔法を伝い風に乗る。「風よ ! 」 風で弧を描く身体の先、ブーツから水蒸気の雫が光る。 ギィィィンッ !! その回転した反動を利用して、敵意剥き出しの雄竜に思い切り刃を向けた時。頭部へ一撃、全力で打ち込んだのに、ゴールドドラゴンは更に鋭い牙をギギッと剥くだけだった。 自分の判断が間違いだと気付いた。「くっ、硬っ !! 」 剣が弾かれる。その直後聞こえた、不穏な風切り音。 ヒュオッと耳の側で鳴った後、視界の端に叩き落とそうとする尾の先が見えた。「リラァッ !! 」 反撃を受けて、魔法が切れる感覚。 真っ逆さまに落ちていく風の音。 冷たい空気。 視界の中で、ゴールドドラゴンがシルバードラゴンの背の上目掛けて火を吹いているのが最後の記憶。 その記憶だけを残して。 わたしは仲間の記憶を無くした。