2021年日本。異形の怪物イクテュスが現れ人々の生活が脅かされていた。しかしそんな怪物に立ち向かう勇敢な少女達が居た。 キュアヒーロー。唐突に現れ華麗にイクテュスを倒していく美麗なヒーロー。彼女達はスマホ等の電子機器にどうやってか配信動画を発生させて人々から希望と期待の眼差しを与えられていた。 日本のある街で中学校に通うどこにでもいる女の子である天空寺高嶺。彼女には一つ重大な秘密があった。それは彼女自身がキュアヒーローだということだ。 青髪の水を操るヒーロー、キュアウォーター。それが彼女の別の名前だ。 正義感が強い彼女は配信を通じて人々に希望を与えていき、先輩ヒーローや新たになった人達とも交友を深めて未来を築いていく。 人間とイクテュスと妖精の宇宙人。様々な思惑が交差しながらも高嶺は大好きな彼女と共に今を生きていく。 過去も未来もないこの今の世界を。 ギャグありシリアスあり百合要素ありのドタバタの魔法少女達の物語の開幕!!
ดูเพิ่มเติม「高嶺!!」 波風ちゃんが完璧なタイミングでバレーボールを私が跳んだ先へとトスする。 「はぁっ!!」 私の全体重を乗せたスマッシュが炸裂し疾風の如きボールは相手のコートに突き刺さる。これがトドメの一点となり、この試合は私達の勝ちとなった。 「てか本当に波風と高嶺って仲良いし息ぴったりだよねぇ」 体育の時間が終わり着替えの時間。私が汗拭きシートで体を拭き波風ちゃんに制汗スプレーをかけてもらっているとクラスメイトの朋花ちゃんが話しかけてくる。 「まぁかれこれ十年の付き合いだしね」 「へぇ……幼馴染ってやつ? そういうのいいね」 私は制服を羽織りボタンを止めていく。 「ん……? 少しキツい」 制服は中一の頃に購入した大きさのまま変えていない。最近段々と胸周りがキツくなってきておりボタンを止めるのに苦労してしまう。 「ん? どうしたの二人とも?」 ボタンをやっと止め終わった頃二人から鋭い視線が胸元に飛ばされていることに気づく。 「ねぇ波風。高嶺って天然っていうか抜けているが故グサリとくること言ったりしない?」 「すごく分かるわ……」 そうこうしながらも着替えは終わり、私達は給食の準備をする。 今日の給食はカレーと餃子。体育で疲れた体にガツンとスタミナをつけられる私好みのものだ。私はご飯を大盛りにしてもらい班ごとに机を囲み食べ始める。 「どうしたの朋花ちゃん? あんまり手が進んでないけど、カレー嫌いだったっけ?」 「いや好きだけどそうじゃなくて……ねぇみんな、昨日わたしの弟見なかった? 小学三年生の青い服着たちんちくりんの」 「波風ちゃんは見た?」 「うーん昨日は用事で外に出てたけど青い服を着た男の子は見なかったわね」 私も同感で、餃子にタレをかけて口に放り込みながら記憶を探るが特徴が一致する男の子は浮かび上がってこない。 朋花ちゃんの弟なら一回会ったことはあるが、昨日はすれ違いすらしてないはずだ。 「家出……するような子じゃないし、どうしたんだろう……」 「ねえそれってもしかして誘拐なんじゃないの?」 「お母さんも昨日の深夜に捜索願いを出してた……見つかると良いんだけど」 朋花ちゃんは家族と、特に弟と仲が良かった。ひとしきり暗い顔をして落ち込む。 励ましてあげたいがありきたりな言葉しかかけられ
「……で、健にお前達の正体がバレたというわけか」 キュアリンの溜息が私の部屋を覆い尽くす。あの後私達は三人で大学から立ち去り私の家に戻っていた。テレパシーでキュアリンも呼んで事情を説明してこの状況だ。 「ごめんなさい……」 「いやもう過ぎたことだ。それより……」 「へぇ……君がキュア星人というわけか。こんな小型なのに人間と同等以上の知能を持ち合わせている……脳の密度が違うのかい? いやー興味が唆られるねぇ」 健さんは初対面のキュアリンに対して一切の配慮なく好奇心をぶつける。 「面倒な奴にバレたな……それで健。分かってると思うがキュアヒーローのことは一切口外するなよ。もしバレて騒ぎになれば活動が制限されて、間接的にお前は人命救助を妨害して人を殺したことになるんだからな」 健さんならそんなことしないとは思うが、キュアリンは口を酸っぱくして彼に忠告する。 「分かっているさ。化学や工学は人を助けるために存在してるんだ……その理念を自ら否定ふるつもりはない」 「まぁ……高嶺から話は聞いているが、ある意味信用できる奴かもな……」 波風ちゃんにバレた件も彼女がキュアヒーローになることで手は打たれ、健さんの件は正体を隠すことに協力するということでなんとか話はついた。 「そういえばたけ兄。キュアヒーローの活動を記録するとか言ってたけどあれってどういうこと?」 話がとりあえず落ち着きトラブルが解消されたところで波風ちゃんが話を次に進める。大学で健さんが言ったアレについてだ。 「ちょうどキュアリンにも相談しようと思ってたんだけど、ぜひキュアヒーローの活動を記録してイクテュスの調査などをさせてくれないかい?」 「いやそこまでは……といっても何しでかすか分からんしなお前……分かった。ただし条件がいくつかある」 キュアリンは渋りながらも仕方なく健さんの申し出を条件付きで許可する。 「まず口外は無論のこと、研究成果等はこちらの許可があるまで絶対に俺達以外に見せるな。それとこちらがイクテュスに関して何か依頼するかもしれないからその際は一切断らずに全ての情報を渡すこと。これが絶対条件だ」 「無論構わないさ。俺は未知の事物を解明できればそれでいい」 損得や他人の言う事で動かず自分の理念だけを崇拝する。ある意味で健さんは分かりやすく信頼がおける人物だ
「はぁ……はぁ……うっ!!」 奴を倒したことで気が抜けてしまい痛みがぶり返してきて、膝を突き激しく息を荒くして心の鼓動が速くなるのを皮膚で感じる。マラソンを走り終えた後のようだ。 [配信は……切れてる?] [戦闘が終わったから切っておいた。それより大丈夫……じゃなさそうだな。すぐに例のアレを持ってく] テレパシーが切れ、疲労がどっと押し寄せてくる。私は目眩に耐え切れなくなり、その場に倒れ伏しそうになってしまう。 「ウォーター!?」 地面に頭をぶつける直前にイリオの手が私を持ち上げてくれてなんとか衝撃は免れる。 「随分と酷い怪我だな。おい波風……いやここはイリオと言っておこう。手当てしたいから人目がないところまで移すぞ」 「宇宙人さん……分かった」 「宇宙人さんじゃない。俺の名前はキュアリンだ。覚えておけ」 私はイリオに連れられて人目のない物陰まで行きそこでお互い変身を解除する。 「っ……!! やっぱり酷い怪我。破片がめり込んでる……」 「間に合ってよかったな……ほら高嶺。例の薬だ飲んでおけ」 「うんありがと……」 私は口元に持ってこられた錠剤を飲み込む。血は止まらないが痛みが引いていき痛覚が失われていく。 「それは?」 「痛み止めだ。俺達の星のな。地球人に副作用がないことは確認済みだから安心しろ」 次にキュアリンは吹きかけるタイプのスプレーを取り出しそれを私の傷口に吹きかけていく。 「ちょっとそんな日焼け止めスプレーみたいなのかけて大丈夫なの!?」 「うるさいないちいち! 怪我の治りを促進させるスプレーだよ。ただまぁあくまでも促進させるだけだからこの怪我だと歩けるほど治るのに数十分いるが、一日もすれば痛みは残ってないだろう」 前使った時は数時間で完治したが、今回の怪我ではそうはいかないだろう。私は痛み止めが切れた後のことを想像して口の中いっぱいに広がる苦い味を噛み締める。 「とりあえず治療は終わったぞ。俺は見られたらまずいからこれで離れる。何かあればテレパシーで……」 「テレパシー……?」 [こういうのだ] 「うわっ!? 頭の中に声が!?」 私と全く同じ反応だ。やはりあの感覚は初見だと奇妙で驚いてしまう。 [こうやってやるの?] [あぁそうだ。ともかく高嶺のことは任せたぞ] キュアリンは茂
「うぐっ!!」 奴の突進が私のお腹を捉える。私は吹き飛びコンクリートの壁に叩きつけられ痛みで意識が遠のく。 (これ……まずいかも……) 全身が痺れ足が動かなくなる。そんなことお構いなしに奴は再びこちらに向かって突進してくる。 足は動かない。魔法で押し返そうにも痛みで意識を集中させられない。こんな状態じゃ希望が高まることもない。 (ごめん……波風ちゃん……私約束を守れないみたい……) 眼前まで奴が迫ってくる。命を刈り取る威力の回転が今まさに私に命中しようとする。 「させないっ!!」 しかし真横から勢いよく炎が吹き出してきて奴の突進の軌道を変えさせる。亀は私の左斜め上の壁に激突してコンクリートに突き刺さる。 「えっ……誰……?」 現れたのは緋色のドレスを身に纏った見たことのないキュアヒーローだ。 《誰だあれ!? まさか新しいキュアヒーロー!?》 《配信が立ち上がってる! 新しいキュアヒーロー……キュアイリオだ!》 (キュアイリオ……まさかあの子……!?) 彼女が近くに来ることで顔がはっきり瞳に映りその正体がすぐに分かる。毎日じっくり見ているその顔……波風ちゃんだ。 「大丈夫? た……」 「あぁ待って待って!! 本名言っちゃだめ!! 配信ついてるから!!」 《ん? た……なんだ? 本名!?》 《リアバレ来たかこれ!?》 盛り上がりに飢えている視聴者達は私の本名がバレかけたことに興奮し、イリオが現れたこともあり気づけば視聴者数が跳ね上がっている。 「あっ、そうだった……えっと、ウォーターって呼べばいいの? とにかく大丈夫?」 「うん……助けてくれてありがとうイリオ」 私はイリオから差し出された手を掴み立ち上がる。もう一人ぼっちではない。二人になり私の中から希望が溢れてくる。 「"二人"で倒そう……アイツを!!」 「うん……いくよイリオ!!」 私達は壁から抜け出した奴に向き直り構える。不思議と彼女が隣にいるだけで痛みが引いていき勇気が貰える。二人ならなんでもできそうな気さえしてきた。 まず奴が回転しながらこちらに向かってくる。私とイリオはそれぞれ別方向に避けつつ手に魔法の力を溜める。 「ウォーターショット!!」 「フレイムショット!!」 私は力を手に溜めて
《来たー! キュア配信! ウォーター頑張って!》 《あれここ俺の大学じゃん!? お願いウォーター! 大学を守って!》 配信が始まり早速コメントが流れる。私はそれに飄々とした言葉で返し彼らの心の支えになってみせる。 周りにはもう人が居ないこともあり亀のイクテュスは私しか見えていない。とりあえずは大変良い状況へと好転してくれた。 「さぁ……みんなの笑顔をっ……!!」 一瞬足元がおぼつかなくなる。その時間に奴は甲羅に籠り回転しながら私の方に突っ込んでくる。 私は垂直に跳び躱すが一瞬回避が遅れたせいで回転の衝撃波に足先が持ってかれて激しく回される。そのまま上手く体勢を立て直せず地面に激突してしまう。 「ガハッ……!!」 これだけならキュアヒーローの変身もあるし大したダメージではない。しかし背中から落ちたせいで硝子の破片が更に食い込む。 口の中にほんのりと血の味がし鉄臭い不快な匂いと吐き気を催す味が広がる。 (だめ……吐いたら……!!) 私は口の中に広がる血液を飲み込み逆流してこようとするモノを必死に抑える。 《大丈夫……?》 《なんか今日弱くね……? 体調でも悪いのかな……顔色も悪いし……》 体からほんの少し力が抜ける。必死に我慢したものの私の痛みは視聴者の心配という感情に変換されてしまう。 「ごめんねみんな! 実は今寝起きで飛び出してきたから……でも今ので目が覚めたよ! さぁ〜ウォーミングアップは終わり! ここからが本番だよ!」 なんとか取り繕って私は歯を食い縛りながら立ち上がる。 (勝たないと……健さんに信介さん……それに波風ちゃんに危害が及ぶかもしれない……私がやらないと……!!) アルテマやノーブルが助けに来てくれれば嬉しいが、こんなすぐ来れるとも考えにくい。とはいえここで私が逃げたら被害が拡大してしまう。 やるしかないんだ。たとえ自分がどれだけ傷ついても、この街とみんなの笑顔を守るために。 ☆☆☆ 「高嶺……ボロボロなのに……!!」 大親友の彼女が異形の怪物の元へ向かって行ってしまった。そして戦闘を始めるが怪我もあり動きが機敏ではない。亀の突進に足を掬われて背中を地面に打ちつける。 「なんで……なんでアタシにキュアヒーローのことを言ってくれなかったのよ……!!」 いつも一緒に居てお互い隠
「あれって……まさかイクテュ……」 「波風ちゃん伏せて!!」 波風ちゃんの声に反応して、奴は甲羅に籠り凄まじい速度にこちらに突っ込んでくる。 私は覆い被さるようにして波風ちゃんと共に伏せる。奴は扉のガラスを破りつつ私の真上を通り過ぎて向かいの壁に激突する。 「大……丈夫? 波風ちゃん……?」 「ア、アタシは大丈夫だけど……アンタ硝子が……!!」 奴が割った硝子の破片が私の背中に突き刺さり、せっかくのお洋服が赤く染まる。頭にもいくつか刺さっており致命には至らなかったかだ少し眩暈がする。 「よかった……」 「よかったじゃないでしょ!! 早く手当しないと……」 奴の追撃に対処しなくてはいけない。私は鞄の中に手を入れブローチを探りつつ奴の様子を確認する。 「なっ……待てっ……!!」 奴は私達を無視しより人が多い広場の方へと歩いていく。 「波風ちゃんは逃げて……!! あいつはなんとかするから……」 「何言ってるのよ!? なんとかするってどうにもできるわけないでしょ!! 馬鹿言ってないで逃げるわよ!!」 私がキュアヒーローであることを知らない彼女は無理にでもこの場から立ち去らせようとする。 [キュアリン……イクテュスが出た。私の目の前に] [あぁ出たことは確認した……早く変身してくれ!] [ねぇ……私の友達に話してもいい? 多分事情説明しないと離してくれないだろうし] [いやだめだ。お前は波風を信用しているようだが、こちらは違う。それに政府との誰にも知られないという約束がある。なんとしてでも振り払って変身してくれ] (全く無茶言わないでよ……変身しなきゃ怪我したまま波風ちゃんを振り払えないよ) [ねぇキュアリン。前から思ってたけど、キュアリンはその事情と人の命どっちが大切なの?] [……言い分は分かるが……] キュアリンは言い淀みテレパシーが途絶える。 「うわっ……!! イクテュスだ!!」 「みんな逃げろ!!」 奴が人々を襲い始める。この街からまた笑顔を奪い去ろうとしている。 「波風ちゃん……!! 私行かないと……」 「ねぇ高嶺……何を隠してるの?」 波風ちゃんは足を止め真剣な表情のままこちらを睨む。 「別に……何も……」 「まさかあなたって……だとしたら戦わせられない。あなたに危ない目に遭わせら
「それって……自殺ってことですか?」 「あっ、いや今は全然そんなこと考えてないよ。あの時は疲れてたし本当に馬鹿だったと思ってる。だから助けてくれたキュアウォーターには感謝してもしきれないよ」 とりあえず自殺に走ることはなさそうだが、今の彼が健全で元気だとは言い難い。 「オレさ……大学どこも受からなくて……なんとか親に頼んで一年猶予を貰ったんだ。これで無理なら就職するって条件で。昔から生き物が好きで……行きたい大学があるけど勉強しても全然模試の点数は上がらないし、最近ちょっと疲れてきて……今日も健のあのめちゃくちゃぶりをまた見れれば疲れもマシになるかなって思って」 私達はまだ中学生だ。受験を経験しておらず、その上勉強すらまともにしていない私に至っては何も言葉を投げかけてあげられない。 「あ……ごめんねこんな話しちゃって。二人はこんな大人になったらダメだよ」 信介さんは雰囲気を暗くしてしまったことに気づき急いで誤魔化して食事に手をつける。 私は少し食感が悪くなったチキンカツを頬張り噛み砕いて飲み込む。若干暗い空気のまま食事は進み、信介さんは健さんの話はするものの相変わらず表情はどこか雲がかっている。 「おーい遅れてごめ……ん? そこに居るのは……信介!? お前何でここに……?」 「偶にお前のアホ面を見たくなってな。元気だったか?」 「お前は俺が元気じゃないとこを見たことがあるのか?」 健さんが戻ってくるなり信介さんを纏う空気は多少は軽くなる。健さんは持参したゆで卵とこの食堂のうずらの卵フライを持ってくる。 「たけ兄はそれだけなの?」 「最近筋トレが楽しくなってきてね。どこまで人の体は負担に耐えれるかの実験をしてるんだ」 「健お前またそんなことを……高校でその理論でガス爆発させて反省文書いたの忘れたのか?」 なんだか物騒な話題が出てくる。私も持ち前の元気さでトラブルは起こすが危ないことは避けているつもりだ。 「でもさ、なんだかんだ言っても良い思い出だったよな」 「そうだな……過去には戻れないけど、過去から勇気づけられることはあるよ」 (過去に勇気づけられる……か) 私には楽しい思い出はあるが悲しく思い出したくもないものもある。 あの時の光景が意識せずまたチラつき、私は波風ちゃんを見つめて楽しい方を強くすることでそ
「食堂は……ここね」 学内を少し歩き、横長く鎮座する食堂まで辿り着く。昼時であるが土曜なので人はあまりいなさそうだ。 「あれあの人……」 私はちょうど今食堂に入ろうとした眼鏡をかけた青年に注目してしまう。どこかで見た記憶があり、頭の中を探ると彼が月曜に助けたあの青年だという情報が引っ張り上がってくる。 「ん? どうしたの高嶺? あの人見つめて……あっ、ほら。向こうの人も気づいたみたいだよ」 「あの……オレに何か用?」 私にガンを飛ばされ流石に気づき青年はこちらに話しかけてくる。しかし前に会った時私は変身していた。彼は私が誰かは分からず初対面の状態だ。 「あ〜えっとその……あっ! 配信!」 「配信……?」 「月曜にあったキュア配信に映ってたなーって」 「あぁあの襲われた時の……お恥ずかしい姿を」 変身しておらず配信も関係ないこの状況下で、歳下の私に対して丁寧に喋る。本当に律儀で礼儀正しい人なのだろう。 「いやいやそんな仕方ないですよあんな化け物相手じゃ……それよりこの大学の人だったんですね」 「いや……オレはここの大学の人じゃないよ」 「えっ……?」 「友人の健ってやつに会いに……」 「たけ兄に!?」 世界は狭いと言うが、なんと私が助けた彼は親友の波風ちゃんの親戚の友人だった。 「そうだけど……君は?」 「あっ、すみません。アタシはたけ兄の親戚の海原波風です」 「波風……そういえば健が親戚に女の子が居るって言っていたような……」 まさかの繋がりだ。あの時もう二度と会うことはないと思っていた人にこうして巡り会えた。 (あの時笑顔になれなかった理由……分かるかな……) 彼を助けた時のあの表情が今も忘れられていない。胸に残り続けモヤが脳に染み込み離れない。 「あのアタシ達今からお昼なんです。よければ一緒にどうですか? 高校の頃のたけ兄の話も聞きたいですし」 「あぁ別に大丈夫だよ。あいつなら面白い話無限にあるし」 そうして私達二人は新しい仲間を加え食堂の中に入り、食券機で券を購入しカウンターでチキンカツ定食を受け取り席に向かう。 「いただきます!」 早速私はチキンカツに齧り付く。サクッサクの衣に中からは肉汁が溢れ落ちる。肉は分厚くソースは甘い風味がありアツアツホカホカの白米がよく合う。 「相変わら
「ここが図書館だね」 「図書……え? この建物全部がですか!?」 着いたのは三階建ての中学の校舎ほどの広さをを持つ建物。これ全部が図書館であるようだ。 「そうだね。俺も初めて来た時はビックリしたよ。見せたい資料は三階にあるから行こうか」 健さんは階段の前にあるゲートにカードをかざして開けてくれる。学外の人は本来入れないらしいが、受付の人に頼み見学として特別に私達も入っていいことになる。 階段を昇り三階まで着くとそこはびっしり本を敷き詰められた本棚が大量に置いてある空間だった。 「二階にもかなり本があったけれど、ここも中々あるわね。これ全部勉学に関するものなの?」 「らしいね。流石の俺でも大学生活通して5%も読めないだろうね。それと見せたいのはこっちね」 健さんは扉を開け薄暗い部屋に入っていく。ひんやりと冷たい空気が足元を掬い、目の前の大きな棚が私達を待ち受ける。 「えっと確かあの新聞は……こっちか」 健さんが棚の一つから新聞を取り出しページをぺらぺらとめくる。 「ほらこれこれ。イクテュスについて載っているだろ?」 新聞にはヤドカリのような貝を背負ったイクテュスの写真が貼ってあり、見出しには「また現れた異形の怪物! その正体に迫る!」と書かれている。 「まぁゴシップレベルの信憑性の内容だけど、中々興味深いことも書かれていてね」 見出しの下の文章をじっくりと眺めてみる。 恐らく健さんの興味が惹かれたであろう箇所を見つける。イクテュスが地球の生物を改造されて生み出されたものではないかという旨のものだ。 (イクテュスは自然発生ではなくて人為的に誰かしらに生み出された……か。キュアリン達も調べてるけどまだあいつらの正体に分かってないらしいし、実際のところどうなんだろ) あいつらは死んだら灰になってしまうため地球の人やキュア星人は何も足取りを掴めていない。 「俺はその記事に賛成かな。少なくともイクテュスは自然発生ではないと思う。人為的に作られた存在だろう。流石に誰が作ったまでは分からないけど」 今まで考えたことなかったが、一体イクテュスはどこから来て襲撃はいつ終わるのだろうか? 私は波風ちゃんやノーブルや健さんとは違いあまり頭が良くない。目先のことしか見えておらず、イクテュスから人々を守ることしか考えていなかった
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