Chapter: 3.婚前契約書「結婚契約書 テンプレート」このワードを検索すると、弁護士事務所や行政書士が作成した書式を見ることが出来る。それらを参考にして自分たちオリジナルの条文を作っていく。「まずは目的よね。啓介が結婚に求めるものは親からの縁談からの開放と、独身時代のような自由な時間の確保だよね。私は独身という理由で偏見されることから逃れたい」「そうだね。他に決めることあるかな?」「自由がいいと言っても制限はあるだろうし、ここまでいったらアウトの線を決めておかない?」「例えばどんな感じ?佳奈はどこからアウトになるの?」「私の場合は……警察や裁判沙汰になったらアウトかな。相手が起こしたことで自分の社会的立場が低下したり、慰謝料や損害賠償が発生するのはなし。」「……随分と広いストライクゾーンだね。それってほぼほぼセーフじゃない?」「そうだよ。だって自由のための契約だもん。だから最低限のラインだけ。そうは言っても婚姻の事実を隠して交際していたら詐欺って訴えられてこちらが不利になるし相手の知識次第では十分ありえるケースだよ。」「なるほど……。」こうして異性関係・親族づきあい・金銭面などを話し合って作成していった。何を書けばいいか分からないと言っていたが初日だけで9つの条約が出来たので幸先は明るい。--------------婚前契約書第1条.当契約書に明記する結婚とは、戸籍上の結婚を指すものであり婚姻届を提出するものとする。事実婚など当人や近親者しか分からない婚姻関係は無効第2条.結婚にあたり同居を伴うものとする。キッチン・リビング・洗面等は共有部とし個々に部屋を分け与える。所有者の許可なく入ることは禁じプライバシーの保護を徹底する第3条.居住空間のみならずプライベートへの干渉は行わない。異性との食事や外泊も自由とし、婚姻関係を盾にして相手に主張や攻撃をしてはならない。また相手を選定する際は婚姻の事実を話し承諾を得た場合のみとする。ただし、警察・裁判沙汰になるようなケースの場合は、この限りではない第4条.警察・裁判沙汰になるような事象(不貞・暴力・恐喝・詐欺)等を行った場合は、慰謝料を請求し関係を清算できるものとする第5条.親族のつきあいは基本的に各自で対応する第6条.生活費は年収ベースで費用負担割合を決定し、どちらからの負担が多くならないように調整をする。なお、
Last Updated: 2025-04-28
Chapter: 2.自由のための結婚「婚前契約書……?」「婚前契約書って言うのはね、入籍をする前に今後のルールを決めていくの。内容としては、財産分与やハラスメント・浮気とかが多いけれど詳細は当人たちで自由に決めていいの。海外では資産家や芸能人が当たり前のように結んでいるわ。お金目当てで近寄ってきた女性に財産を奪われないように血縁者のみとするとか記載したりしてね。」(ハリウッドスターやプロスポーツ選手など年間数億を稼ぐ人たちが、結婚前に契約を結んでいたため慰謝料なしで離婚というニュースが一時期話題になったがそういうことか……。)「婚前契約書というのは分かったよ。でも、著名人でもない俺たちがわざわざ契約書を作成、締結にする意図は何かな?」「著名人の場合は主に金銭面を考慮しての対策だけれど、私たちは違うわ。『自由』のための契約。お互いが親族や社会から色眼鏡で見られたり、『余計なお世話』と思うことから開放されるための契約なの。あと結婚してから結んだ契約書は双方の同意は不要で、どちらかの意見で契約取り消しが可能なの。だから結婚前に結ぶ必要がある。」「余計なお世話からの開放……。」「啓介も長男だから結婚して跡取りとか言われてお見合いや相手がいないかご両親からよく連絡くるでしょ?啓介だって経営者として成功しているのに跡取りなんて嫌じゃない?しかもそれって親の都合だと思わない?啓介の意思はないじゃない。啓介の意思はないのにこれから何十年も一緒にいる相手を選べっておかしな話だと思わない?」以前、啓介から両親から見合い写真が送られてきたり、縁談の話を勝手に進められていた話を聞いたことがある。興味がないのに女性と会うことに気が引けたのと万が一自分以外が結婚に前向きになったらと考え会うこと自体を丁重に断ったそうだが気が重かったと話していた。縁談や跡取り問題からの解放は、啓介に響いたようで何か考え事をしているようで真剣な目になっていた。私の言葉にただ丸め込まれるのではなく、一方的に無理だと否定するわけでもなく、冷静に物事を考え慎重に事を進めようとするところも私は好きだ。自由とは言ってもリスクは伴う。様々な角度から物事を捉えようとする啓介だからこそ私はこの話を持ち出したのだ。「それは魅力的だね。結婚したら今度は会うたびに子どもってうるさそうだけど……。」「だから、その煩わしいことを止めるの。親戚づきあいは
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Chapter: 1.プロポーズは突然に「ねえ啓介?私たち、結婚しよう」週末の日曜日、予約が取れない人気のフレンチレストランで食事をしながら彼氏の啓介にプロポーズをした。「え、佳奈?どうしたの?急に?」啓介はティラミスを食べる手を止めて、驚いた顔をして私を見ている。「啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」 ーーーーーーーーーー時を遡ること、3分前。「啓介。私のこと、好き?」「ん?どうしたの急に。」女性の扱いに慣れている啓介は私の手に自分の手を重ねてきた。「好きか嫌いかで言ったら好き?」「え、もちろん。佳奈のことが好きだよ。だから付き合っているんじゃないか。」「良かった。私も啓介が好き。だから、私たち結婚しよう」私は宣言するように声を張って言った。「え、今、なんて?」聞こえていないはずはないのだが、啓介は聞き返す。「だから、結婚。啓介、結婚しよう。」「え、佳奈?どうしたの?急に?」啓介は目を丸くして驚いている。先程までの優しい微笑みは姿を消し困惑とどのような返答をしようか考えているようだった。「佳奈、なんでそうなったか聞かせてもらえないかな。この前、同僚が結婚したと話をした時に君は結婚の意味が分からないって否定的なことを言ってたよね。それが今日は急に結婚しようだなんて。言っていることが矛盾していると思うんだ。」啓介は手を額に当てて厄介なことになったと言う顔でこちらを見ている。彼は結婚願望がない。『結婚できない男』ではなく『結婚したくない男』だった。しかし、そんなことは気にせずに私は続けた。「結婚の意味が分からないのは今でもそうだよ。啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」「……ごめん、意味が分からない」「啓介はなんで結婚したくないんだっけ?」「それは……別に一人の生活に不自由もないし困っていないからだよ。一人でも生活できるスキルはあるし好きなことも出来る。周りからも結婚したことで、お小遣い制になって自由が減ったとか、子育てで自分が遊ぶ時間がないとか聞くしね。今の生活が気に入っているんだよ。」「そう、私もなの!!仕事が好きでこれからもっと上に行きたい。遊びやプライベートも充実させたいけど一番したいことは出世。出世してお金を稼いで自分の好きなこともして自由を手に入れたいの。」
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