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2.自由のための結婚

last update Last Updated: 2025-04-28 08:28:15

「婚前契約書……?」

「婚前契約書って言うのはね、入籍をする前に今後のルールを決めていくの。内容としては、財産分与やハラスメント・浮気とかが多いけれど詳細は当人たちで自由に決めていいの。海外では資産家や芸能人が当たり前のように結んでいるわ。お金目当てで近寄ってきた女性に財産を奪われないように血縁者のみとするとか記載したりしてね。」

(ハリウッドスターやプロスポーツ選手など年間数億を稼ぐ人たちが、結婚前に契約を結んでいたため慰謝料なしで離婚というニュースが一時期話題になったがそういうことか……。)

「婚前契約書というのは分かったよ。でも、著名人でもない俺たちがわざわざ契約書を作成、締結にする意図は何かな?」

「著名人の場合は主に金銭面を考慮しての対策だけれど、私たちは違うわ。『自由』のための契約。お互いが親族や社会から色眼鏡で見られたり、『余計なお世話』と思うことから開放されるための契約なの。あと結婚してから結んだ契約書は双方の同意は不要で、どちらかの意見で契約取り消しが可能なの。だから結婚前に結ぶ必要がある。」

「余計なお世話からの開放……。」

「啓介も長男だから結婚して跡取りとか言われてお見合いや相手がいないかご両親からよく連絡くるでしょ?啓介だって経営者として成功しているのに跡取りなんて嫌じゃない?しかもそれって親の都合だと思わない?啓介の意思はないじゃない。啓介の意思はないのにこれから何十年も一緒にいる相手を選べっておかしな話だと思わない?」

以前、啓介から両親から見合い写真が送られてきたり、縁談の話を勝手に進められていた話を聞いたことがある。興味がないのに女性と会うことに気が引けたのと万が一自分以外が結婚に前向きになったらと考え会うこと自体を丁重に断ったそうだが気が重かったと話していた。

縁談や跡取り問題からの解放は、啓介に響いたようで何か考え事をしているようで真剣な目になっていた。

私の言葉にただ丸め込まれるのではなく、一方的に無理だと否定するわけでもなく、冷静に物事を考え慎重に事を進めようとするところも私は好きだ。自由とは言ってもリスクは伴う。様々な角度から物事を捉えようとする啓介だからこそ私はこの話を持ち出したのだ。

「それは魅力的だね。結婚したら今度は会うたびに子どもってうるさそうだけど……。」

「だから、その煩わしいことを止めるの。親戚づきあいはどうするとかお互いが楽しく暮らせるために話し合って契約書を作っていくの!とりあえずやってみようよ。」

「……。」

啓介はしばらく黙り込んでいた。私は、啓介から発せられる言葉を緊張した面持ちで待っていたが、あまりに長いので目の前にあるティラミスを堪能することにした。

(はああ~さすが人気店のティラミス。コンビニも十分美味しいけれど別格。口に入れた瞬間のマスカルポーネも滑らかさも上にかかっているコーヒーの香りも主張し過ぎなくて最高。)

私がティラミスに舌鼓を打ち微笑んでいると、啓介も小さく笑いだした。

「ふふふ、こんな話を持ち出しておいて自分はティラミスを楽しんでいるなんて佳奈の行動は想定外でいつもやられるよ。でも、こんなに楽しそうにしているなら不条理な結婚も案外最善でいいのかもしれないな。」

「本当?それなら、私と結婚してくれる?」

「ああ、よろしくお願いします。」

啓介が手を差し出してきたので重ねると、自分の口元に持っていき私の手の甲に少しだけ唇を触れさせた。ひざまずいてはいないが王子様がお姫様にキスをするようなロマンチックなことをする啓介に私は少しドキッとしながら甘さと冷静さと大胆さを兼ね備えた未来の夫を眺めていた。

「ね、今からうちにこない?結婚のお祝いと契約書の作成をしよう」

「佳奈の大胆さと行動力には感服するよ。なにか買ってからとりかかろうか」

私は啓介の手を握り店を出た。『契約書』という言葉がなければ、私たちは晴れて結ばれてこれから夫婦になることになった。

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