All Chapters of 心に染み付いた感情に気付いた時: Chapter 11 - Chapter 20

24 Chapters

第11話

司が振り返ると、そこには正門前で手を振っている環奈がいた。彼は急いで環奈を中へと迎え入れた後、彼女を家まで送ると申し出たが、彼女は色んな理由をつけて話を長引かせた。そして深夜になったら、環奈は家に残りたい司に言い、司はあれこれと理由をつけて全部断ろうとした。司の断ろうとしている顔を見て、環奈の顔が一気に暗くなり、悲しそうに話した。「私があの時海外に行ったことをまだ怒ってるの?司私は本当にあんたを愛していたんだが、それと同じ様にデザイナーという仕事を愛していたんだから、仕方がなく離れることを選んだのよ。あんたは私を待ってくれると信じてたの、だから私は頑張ったのよ、出来るだけ早くあんたと再開するために5年もある研修内容を3年まで縮めたの」彼女の真っ赤に腫れている瞳を見て、司の心も揺れだした。「分かっている、あんたのことを怒ったことは一度もない、あんたが戻ってくることも分かっていたんだ」彼が自分を大事そうに抱き抱える姿を見て、環奈は追い打ちをかけようとこの話題を続けた。「じゃあ今日は私を泊まらせてよ、会うのが3年ぶりなのよ、言いたいことはたくさんあるの。それに、あの時私達は結婚寸前まで行った関係よ、母さんだってこの件を分かってるの、私がここに泊まらせても恥ずかしいことはないでしょう?」その言葉を聞き、司はこれ以上断ると彼女は必ず怒るだと分かっていて、頷くことしかできなかった。真夜中、環奈は何度も司にキスを求めてきたが、彼は色んな方法でそれを躱した。しかし環奈が怒ることを恐れた彼は急いで話題を作った、たとえば彼女がヨーロッパにいた頃の生活とかだった。その件を聞かれて環奈は一気に元気になって、約2時間を語ったのにまだまだ止まる気配はなく、逆に彼のこの3年間を生活をずっと聞いてきた。暫くの間、司は沈黙した。彼にはどう話せばいいか分からなかった。過去三年を振り返れば、彼女が去った後の三ヶ月間、自分が堕落していた時期を除けば、残りの時間はすべて康穂と共に過ごしていた。しかし彼は環奈に彼女が海外に行った後、自分が別の女を替え玉として傍に置いたことを知らせる訳にもいかなかった。色々と考えた末に、彼は怪しまれないような事を選び環奈に教えた。「特に何かしたわけでもないさ、仕事以外は偶に休みの時山に登ったり、機嫌が良いと
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第12話

環奈は約束した時間よりも1時間前に役所の前についた。司を待っている間、彼女の心臓はずっとドクンドクンと跳ねていた。彼女は色んな結果を予想していた、最悪な結果も考えた。だが3時になった瞬間、彼女は役所の前に姿を表す司を見て、頭にある不安が全て消え、彼女は走りながら彼の懐の中に飛び込んだ。「司、やっぱり来てくれたのね」司の顔には嬉しさはなく、両目はずっと不安そうで周りをキョロキョロしていた。しかし環奈は喜びのあまり、彼の異常には気付く様子はなく、彼を引っ張って役所の中に入っていった。列に並んでいる間、彼女は嬉しそうに結婚式の話、ウェディングドレスの話、そして指輪の種類について話していた。しかし司はただ相槌を打つだけで、まるで心ここにあらずのようだった。1時間の列を並んだ後、ようやく二人が届けを出す順番になった、環奈はすぐさま自分の書類を渡した。しかし司は動かなかった。スタッフが何度か催促した後、ようやく環奈にも司の様子がおかしいと気付いて、彼に話しかけた。環奈の視線が自分に向いていると気付いた司は何度か喉を鳴らして、驚きと申し訳無さが混ざったような表情を彼女に見せた。「昨日嬉しすぎて、書類を持ってくるのを忘れた。環奈、ごめん、今度また来よう」その話しを聞いて、スタッフは司に対して冷たい視線を投げつけながら呟いた。「そんな言い訳で通すつもりなんですか?いっそうのこと結婚したくないと言ってあげたらどうですか」その言葉を聞いてとうとう環奈の感情が爆発した。彼女の笑顔が消えて、まるで刃物のように鋭い眼光を司に向けた。「忘れたって?なら秘書に送ってもらいなさいよ、私はここで待っても構わないわ」司の心は一瞬掴まれた様に感じ、彼は後ろでイライラしている人達を見て、環奈の手を掴んだ。「皆にも待たせるのはよくない、環奈、次にしよう」しかし環奈はそれを聞き入れるつもりはなく、彼を連れてもう一度最後尾に並び、秘書に連絡するように司に迫った。しかし司は相変わらず言い訳を並べるだけだった。二人が争っていると警備員に外まで締め出された。とうとう司の方も気持ちをコントロール出来なくなり、環奈の手を振りほどいて、声を荒らげていた。「どうしても今日じゃないとダメなのか?」環奈の手の中にあった書類は地面に落
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第13話

環奈に残された最後の望みも、司の言葉によって完全に砕け散った。二度と会わないことで彼を脅しても、彼の頭の中は相変わらず康穂のことだけだなんて、環奈は少しも思わなかった。一瞬で環奈の瞳から涙が溢れ出た。「どうして彼女を知ってるだって?だって彼女は最初からあんたに私を忘れさせないために、私があんたの傍に用意した道具なのよ!彼女はあんたに私たちの間の愛を忘れさせないために、あんたが私を待ってもらうために、私が1億6千万を使って雇った替え玉なのよ!だけどあんたはあの替え玉に夢中になって、婚約者である私をほったらかしにするなんて!」環奈の言葉はまるで雷のように司の体を貫いた。この瞬間、彼はようやく頭の中の疑問を晴らすことが出来た。環奈が海外に出てたったの3ヶ月後に康穂が突然彼の目の前に現れた。しかも彼が好きで、見返りは要らないし、替え玉にしても構わないと彼に言った。一緒に暮らしてから、康穂ずっと環奈の真似をしていた。しかも、まるで司に忘れないようにずっと自分が替え玉だと言っていた。環奈が帰国する数日前、彼女は既にチケットを予約していて、彼女は旅行に行きたいと言っていたが、実際は裏で自分の物を全部片付けていた。偶然が全て繋がり、最初から全ては嘘でしかなかった。そして司は、環奈と康穂の嘘に全く気付かず、弄ばれているだけだった。それを気付いた瞬間、騙された怒りと悲しみが他の感情を飲み込む、彼は冷静さを失った。司が目の前で泣き崩れている女を見て、かつての優しさは少しも残らず、ただただ冷たく見下ろしているだけだった。「つまり、全てがあんたの計画だった?最上環奈、あんたにとって俺はなんだ?自分の飼っている犬とでも思っているのか?俺達の愛はそんなに脆いものだと思っていたのか?」「脆くないと言えるわけ?たったの3年であんたの心は他の女に奪われたのよ!康穂がいなくても、他の女にだって奪われたかも知れないでしょう?司、あんたはずっと私を愛して、一度たりとも揺れ動いたことはないと誓えるわけ?」環奈に迫られて、司もムキになり、心臓に手を当てた。彼の動きを見て、環奈理性が戻り、痣だらけになっていた手から力を抜いた。「康穂の命で誓って!あんたが少しでも揺れ動いたら、康穂は今日雷に打たれて死ぬって誓いなさい!」後少しで口から飛び出る誓
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第14話

明洛市は今ちょうど梅雨の季節であった。康穂は故郷に帰って、まずは霊園を探し、最終的に秒馬山に埋葬することを決めた。隣人たちがその件を知って、皆お婆さんの葬式を手伝ってくれた。翌日天気はとても良く、彼女は朝早く目を覚ました。喪服に着替えて、出かけようとした瞬間、外から騒いでいる声が聞こえてきた。扉から出たら、眼の前に止まっている一列の車を見て彼女は言葉を失った。車のドアが開けられて、冷たい顔の司は彼女を怒鳴ろうとしたが、彼女が持っている骨壷を見て一瞬で固まった。「儀成山の霊園をどうして使わないんだ?」環奈が戻ってきたのに、どうして司はここまで追ってきたのか。康穂には分からなかった、彼女は頭を下げて小声で答えた。「お婆ちゃんは鏡北市が好きではありませんでしたから」あの日自分は雪団子を探すために彼女を一人でほったらかしたことを思い出して、司は複雑な心境になり、一体何を言えば良いのか彼には分からなかった。「車に乗れ」周りで騒いでいる人を見て、康穂は誤解を招きたくないため、頭を横に降った。「大丈夫です。立川様、ご迷惑をおかけするわけにもいきません」「車に乗れ、俺の忍耐があまり強くないこと、そして人が多い場所が嫌いってことは知っているはずだ」これ以上車がここに止まったら路地が完全に塞がれてしまうと心配した康穂は仕方がなく車に乗った。「目的地は」「秒馬山霊園です」目的地が伝えられた後、車の中はとても静かだった。司はこの静けさに苛立ちを感じ始めた。彼は康穂に環奈が言っていたことは本当なのかと問いたかった。だが今は決してそのタイミングではないと彼は理解していた。だから彼はお婆さんの葬式が終わり、戻る道中で彼女に聞いた。「あんたは環奈とは面識があった、しかも俺と知り合うよりも前に。そうだろ?」彼がこの事を知っているなんて、康穂は少しも思わなかった、だから康穂は驚きながら彼を見つめた。司は彼女の動きを見つめ、まるで確信を得たように、冷たい視線を彼女に向けた。康穂はとても慌てていた、認めるべきかどうか彼女には分からなかった。康穂が黙っていると、司は段々と苛立ってきて、彼は声のトーンを更に下げて聞いた。「答えないってことは、認めたってことだな?最初から目的を持って俺に近付いた、そう
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第15話

その言葉が終わると、車の中には静寂が広まった。康穂は目を逸して、頭の中には色んな思いが駆け巡っていた。最初に司のところに来た時、彼は本当に康穂に良くしてくれた。だから、あの時の康穂には微かな恋心はあった。だけどそれから色んなことを経て、その微かな恋心も跡形もなく消えていった。彼女は環奈はいずれ戻ってくることが分かっていた。そして、環奈と自分だと司は決して自分を選ばないだと彼女は理解していた。それを確信してから、彼女はただ仕事のように彼の傍にいるだけだった。だから鏡北市から離れた時、彼女は仕事が終わった時の解放感しか感じなかった。彼女が司に対する感情は好きとも、愛とも言えない気持ちだった。それで彼女は誠実に自分の気持を司に伝えた。「立川様、私が貴方の傍にいる時、貴方はずっと私が替え玉でしかないと言っていました。私もそうだと思って、ずっと最上さんの真似をしてきました。最上さんの替え玉としては貴方を愛していると言えます。ですが、私自身の答えとしては、一度も愛したことはありませんでした」彼女が口を開く前でも、司は焦燥感にかられていた。そして彼女の答えを聞いて、司の心が段々と沈んでいった。彼は冷たく康穂を見つめて、彼女を嘲笑った。「一体いくらだ?あんたが文句1つ言わずに俺の傍に3年間もいさせたその金額はいくらなんだ?」「1億6千万です」その金額を聞いて、司は更に笑った。「たったそれっぽっちの金で、今までの生活を演じることが出来たのか!」と彼は思った。彼はポケットの中からカードを取り出して康穂に向けて投げつける、それと同時に氷のような言葉を投げつけた。「そのカードには16億が入ってる、30年分にはなるのだろう、今すぐ俺と鏡北市に戻るぞ!」康穂は自分の膝の上に投げつけられたカードを拾い、その黒く光っている装飾を見て、暫く考えた。司は彼女が受け入れるだろうと思っていた時、彼女はそのカードを彼に返した。「立川様、申し訳ございません。私は既に最上さんに二度と鏡北市には戻らないのと、貴方と彼女とは二度と関わらない赤の他人でありますように約束しております」彼女の言葉はとても力強く、まるで氷で出来た刃のように司の心に突き刺さった。彼は自身の理性を保つことが出来なくなり、声を荒らげた。「最上さん、最
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第16話

康穂は1時間も歩き、足にタコまで出来た頃、ようやく街の近くでタクシーを捕まえた。タクシーから降りた後、彼女は疲れ切った体で家に帰ろうとしたが、すぐに路地前のおばさん達に囲まれた。「康穂ちゃん、朝の人達は誰なの?鏡北市にいた頃何か人の恨みをかったのか?何かされなかった?」康穂はどう返せば分からず、適当な言い訳で誤魔化した。しかし百メートルも離れないうちに、既にヒソヒソと色んな噂の声が耳に入った。扉を閉めた後、彼女はソファーに座り、ぼんやりと窓から暮れていく空を見つめていた。空が暗くなり、明かりもつけていない小さな部屋はすぐに暗闇に包まれた。彼女はぼんやりと眠りつき、次に目を開けた時には雨音が耳に入ってきた。体に少し力が戻った彼女は、明かりをつけるために起き上がった。その後お湯を炊いて、パンパンになっていた足をお湯につけた。この数日間彼女はあまり物を食べていない上に色々と忙しかったせいで、少し目眩を感じていた。家には食べられる物はいなかった。彼女は少し片付けた後、食い物を買うために外に出た。彼女は生活用品とラーメンを持って複雑な路地の中で歩いていた。だが、どうにも彼女には誰かにつけられていると感じていた。嫌な予感がした彼女は足を早めて家へ向かった。扉を閉めた時、彼女の動悸は激しくなっていた。不安だった彼女は机で扉を塞いだ。食事する時でも彼女の手は震えていて、彼女は耳を澄まして物音がないか確認していた。何も起こらなかったが、今日起きたことを思い出した彼女は眠につくことが出来なかった。一晩中考えた結果、彼女は金を取り出して都心部の方に家を買うことを決めた。こんな路地裏の家だと、噂はすぐに隣人の間に広がるし、しかも安全の保障もできない、一人で住むにはあまりにも危険すぎるだと彼女は思った。そして翌日、彼女は不動産屋と一緒に内見へと向かった。一週間で色んな家を見て周り、康穂は最終的に南港区のオーシャンビューの部屋を一気払いで買い取った。家を買った後、彼女のカードにはまだ1億円が残っていた。彼女は2千万円を手元に残して、余った金は全部銀行口座に振り込んだ。彼女が買ったのは中古物件だったため、何件か家具を運んだらすぐ住むことができる状態だった。彼女は速やかに引っ越しを終わらせて、新しい家に住むこと
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第17話

プープーと電話が切られた音が静かな個室の中で鳴り響いた。皆は一斉に視線を司に移した。だが司は何も言わずにただひたすら酒を飲んで、鬱憤を晴らそうとしているだけだった。彼の様子を見て、皆は状況がまずいと思い始めて、彼をなんとか説得しようとし始めた。「司、環奈はどこに行くつもりだ?一緒に行かないのか?」「そうだぞ、もう3年も待ったんじゃないか、喧嘩なんてするもんじゃないぞ。もし同じ様に何年か行ったら、今度こそ泣きついてもどうしようもないぞ」司はただ暗い顔をしたまま、グラスを握りしめていた。明洛市から戻ってから、彼は何度も環奈と連絡を取ろうとしたが。環奈は顔も見せてくれず、彼を拒んだのだった。昨日環奈の母親から、環奈は国内の誘いを全部断って、ヨーロッパで仕事するつもりで今後はもう会えないかもしれないと聞かされた。同じ様なことは3年前にも起きた。しかし前の彼は何の希望も見えない絶望の淵落ちていた気がしていたが。今の彼にとって怒りの方が絶望に勝っていた。環奈は海外で研修をするために彼と別れて海外に向かった。その上に彼が他の女と愛し合うのを恐れて自ら替え玉を用意した。そして何も言わずに帰国した上にすぐに結婚を迫ってきた。しかも、今度は突然全ての関係を絶ちまた海外に行こうとしている……全てのことが重なり、既に司の受け入れられる範疇を越えていた。愛し合うことはお互いの気持ちを尊重すべきことだった、環奈は一度も彼の気持ちを考慮したことはなく、彼に一言知らせることすらしなかった。色んな感情が重なり、彼は環奈に対して完全に失望していた。もう彼には環奈を引き止める気力はなかった。「行きたいなら行けばいいさ、どうせ3年彼女と離れても生きてきたんだ。引き止める必要なんてないだろ」と彼は思った。友人たちが騒いでるのを見て、彼はグラスを力一杯机に叩きつけた。「俺と環奈はもう完全に終わった、もう二度と彼女の話をするな」友人たちは司の口からこんな言葉が出るなんて全く信じられずに、開いた口が塞がらなかった。暫く状況を消化した後、友人たちはようやくこの事実が受け入れられて、話題を変え始めた。「終わったならそれもいいさ。どうせあいつはずっと事業をあんたより上に置いてたからな。たとえ結婚したとしてもきっと家庭を顧みないの
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第18話

パーティーが終わった後、康穂は家に戻り、友人から貰った花を花瓶に入れた。久しぶりのいい天気で、彼女はベランダの安楽椅子に座りながら晴れ渡る空を眺めていた。そして、彼女はこの数日間の疲労が一気に消えた気がした。イヤホンの中に緩やかなピアノの音が聞こえてくる、彼女は目を細めながら、友人たちと話していたことを思い出した。皆は彼女に将来の予定を聞いてきた、しかも親切に仕事も紹介してくれた。だけど彼女は卒業してから、ずっと司の傍にいたせいで、履歴書には何もかけない、彼女に似合う仕事を探すのはとても難しかった。それに彼女は人の顔色を伺う生活には疲れていた。職場争い何かには関わりたくなかった。遠藤遥(えんどうはるか)という友人は花屋を開きたいと言って、彼女も一緒にやらないかと聞いてきた。康穂は少しときめいた。ただ彼女には店をやる経験がなかったために遥の足を引っ張るのが怖くて、すぐに頷けなかった。遥も強引に誘うことはしなかった、ただ本当に興味があるなら出来上がった企画書を見せてもいいと康穂に言った。彼女は空が暗くまで色々と考えて、ようやく決心がついた。そして、彼女は遥にやりたいことをメッセージで送った。そしたら相手側はすぐさまに、市場の調査結果や店の立地候補を彼女に送った。彼女は送られたデータを詳しく見終わった時既に夜の9時だった。少し空腹感を感じた彼女は自分で飯を作った。料理を食卓に並べた瞬間、扉のチャイムが鳴いた。「誰がこんな時間にくるのだろう、もしかして配達員?」と彼女は疑問と思い、ドアの前に向かった。ドアの覗き穴から司の苛々した顔が目に入った。どうして彼がここに来た?どうしてここが分かったんだ?康穂はとても困惑していた、ドアを開けようか迷っていた時、ドアの向こうから隣人の文句が聞こえてきた。彼女は急いでチェーンロックを掛けてから扉を開いた。物音が聞こえた司は振り返った。チェーンが目に入った瞬間、彼の頭には青筋がドックンドックンと跳ね上がり怒りを込めた口調で彼は康穂に聞いた。「どういうつもりだ?」康穂は目を逸しながら、深く息を吸った。「立川様は私がここにいることを知ってるのでしたら、私が一人暮らししてることも当然知ってると思います。私はただ自身の身の安全を守っているだけです。貴
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第19話

司は携帯を取り出して誰かに連絡取ろうとしているのを見て、康穂はチェーンを外すしかなかった。康穂はもう二度と司にご奉仕するようなことをしたくないため、真っ直ぐ食卓に向かって座った。司は扉を閉めた後、彼女の後についてリビングに入り、そして食卓に並べられた料理を見て、久しぶりに司は食欲を感じた。彼は当たり前のように康穂の向かい側に座って、彼女が食器を運んでくるのを待っていた。だが康穂は彼に顔を向けることすらなく、ただひたすら食事をしていた。時間が流れて行き、皿の中の料理も段々と無くなっていった。康穂が最後の一口を食べ終わったら、彼女は食器の片付けを始めた。自分を完全に無視している彼女を見て、司は我慢ならずに声を出した。「康穂、一体どういうつもりだ?」康穂が箸を持っている手が一瞬止まり、複雑な視線を司に向けた。立川家にいた頃から彼はずっとこんな態度だった。服の片付けも料理も全部康穂に任せっぱなしで、何か気に食わなかったら彼はすぐに康穂に怒りを向けていた。あの時康穂が我慢してきたのは、仕方がなかったに過ぎなかった。全てが終わった今、康穂に我慢する理由もいなかった、彼女ははっきりと彼に言い放った。「立川様、ここは私の家で、鏡北市の貴方の別荘ではありません。私には貴方のために晩餐を用意する義務はありません。もし腹が減ってるのでしたら、下に降りればいくらでもレストランがありますので、そこで食事を取ったらいかかですか」彼女と知り合って3年も経ったが、彼女が司をはっきりと断ったのはこれが初めてのことであり、驚きのあまり司はそのまま固まってしまった。だが今までずっと思うままに生きてきたお坊ちゃんの彼は自分のメンツを捨てることは出来ずに、怒ったふりした「たかが食事だろ、何をゴチャゴチャを言ってるんだ?金なら払えるさ!」彼がカードを机に叩きつけた姿を見て、康穂も怒りを感じ始める、彼女は冷たい視線を司に向けた。「申し訳ありません、その金は私にとって必要のないものです。もしこれ以上用事が無いのでしたら、どうかお帰りください、ここは貴方を歓迎しません」自分を追い返す言葉を聞いて、司は完全に理性を失い、声が更に冷たくなった。「金を受け取ったら今までとは違うというのか、もう従順のふりをしたくないのか?康穂本当に見損なっ
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第20話

司が康穂が泣くことを見たのはこれが2回目だったこの前見た時は彼女の家族が亡くなった悲しみによって涙を流したのだった。そして今、彼女が泣いているのは司自身がこの3年間彼女に残した傷跡のせいだ。彼は初めて気付いた、自分の傍にいるのが彼女にとってこんなにも辛いことだと。彼はその場に固まり、今までの出来事を思い出した。吹雪の日に胃を壊した自分にスープを届けに来た彼女の姿。犬が怖いのに、恐怖を乗り越えて雪団子の面倒を見ようとする彼女の姿。自分の好みに合わせるために、キッチンで料理を研究して火傷まで負った彼女の姿。今まで彼が無視してきた思い出の数々がこの一瞬はっきりと彼の瞼の裏に浮かんできていた。彼女が涙を我慢する姿を見て、後悔と申し訳無さが司の心を埋め尽くした。彼は両手を降ろしてまるで力が抜け落ちたように言った。「ごめん」康穂は初めて司の謝罪を聞いた。彼女はティッシュを取り、涙を拭き取った。そして、強がっている瞳を司に向けた。「貴方の謝罪は要りません。今すぐ私の家から離れて、平穏な生活を返してくれれば十分です」司の心は康穂の決意に満ちている言葉によって深淵へと落とされていった。彼は何かが体から抜け落ちた気がした。一体何が体から抜け落ちたのか彼には分からなかった。だが、その何かが抜け落ちることに対して彼は恐怖を感じていた。現れては消えてゆく感情に動かされて、彼は何かを言って許しを請おうとした。だが彼女が扉に向かい、扉を開いたのを見て、彼は何も言い出せなかった。重い足取りで彼は扉を通った。彼が扉の外に出た瞬間、康穂は扉を閉めたのだった。扉が閉められて、鈍い音が響き渡った。そして廊下はもう一度静寂に戻った。3年間積もった不満を全て吐きだしたおかげなのか、康穂は久しぶりに良い夢を見た。夢の中彼女は花が咲き乱れる丘に立っていた、周りには蝶々が舞っていた。一羽の蝶が彼女の指に止まり、彼女が瞬きしたら、その蝶がお婆さんの姿になって彼女の前に立った。信じられない光景を目の当たりにして、彼女はお婆さんの懐の中に飛び込んだ。そして、傍に残って欲しいとお願いした。お婆さんは彼女の頭を撫でながら優しく笑った。「康穂ちゃん、おばあちゃんは天国で元気に暮らしているんだ、もうおばあちゃんのこ
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