鈴木教授の言葉が終わるやいなや、颯人の瞳孔がぎゅっと縮まった。彼は信じられないというように目を大きく見開き、深紅の舞台幕に視線を釘付けにした。やがて、その幕の向こうから、彼が心の中で何度も思い描き、夢の中で幾度となく追い求めたその姿が、堂々と幕の向こうから現れた。颯人の瞳には溢れるほどの愛情と切なさが宿り、震える声で呟いた。「奈々……本当に君なのか……」しかし、奈々の視線は颯人をただ淡々と掠めるだけで、まるで彼が全く関係のない他人であるかのようだった。演壇でマイクを握り自己紹介する奈々を、颯人は釘付けになって見つめていた。その眼差しには隠しようない痛みと衝撃が滲んでいた。スポットライトに照らされた奈々は、真っ白なシャツをグレーのスラックスにきっちりとタックインしている。その洗練され輝く姿は、颯人の記憶にある、控えめでおどおどした主婦の姿とはまるで別人だった。鈴木教授がこれほどまでに目をかけている愛弟子であり、美しく輝く奈々は、講演を終えて演壇を降りるとすぐに人々に囲まれた。医学界の若手研究者たちが勇気を振り絞って声をかけた。「佐藤さん、こんにちは。僕の研究テーマに興味を持っていただけるかもしれません。連絡先を交換しませんか?」古希を過ぎた医者も負けじと人混みに割って入って言った。「佐藤さん、わしには君と同じくらいの年齢の息子が二人おるんじゃ。二人とも医学一筋でわしの後を継ごうと必死じゃが、恋愛には全く興味がなくてな……」これを見た颯人の視線は冷たく、怒りに燃えていた。嫉妬心を抑えきれず、彼は大股で人混みの中に割り込み、大声で言い放った。「奈々、俺はまだ離婚協議書にサインしていない!既婚者として、他の男とは距離を置くべきじゃないのか。外で男を誘惑するような真似は慎め!」颯人の言葉が響くと、会場は水を打ったように静まり返った。人々は顔を見合わせ、驚愕の色を浮かべていた。医学界でも指折りの若手エリートとして知られる颯人だが、その妻が佐藤奈々だとは誰も予想していなかった。「高橋先生、申し訳ありません、我々が行き過ぎました。」「まさか鈴木教授の二人の愛弟子がご夫婦だったとは……高橋先生と奥様、本当にお似合いですね」……周囲が気まずそうに場を取り繕う中、奈々は静かに顔を上
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