ツアー公演を目前に控えたその時、ダンスグループは突然、私のヒロイン資格を取り下げた。納得なんてできるはずもない。私は真相を聞くために劇場へ向かおうとしたが、焦りと混乱で足を踏み外し、階段から転げ落ちた。全身が痛みに悲鳴を上げる中、必死でスマホを取り出し、119番をダイヤルしようとしたその瞬間――通知が一件、目に飛び込んできた。【紅原ダンスグループ::新ヒロイン@成瀬奈緒(なりせ なお)、そしてパトロン@北条和真(ほくじょう かずま)様、ようこそ♡】そこに並ぶのは、満面の笑みを浮かべた二人の写真。写っていたのは、七年間、誰にも明かさずに結婚していた私の夫、そして、その腕に大事そうに抱かれているのは、彼が甘やかしている愛人――成瀬奈緒の姿だった。和真は奈緒の腰を引き寄せ、彼女の頬に軽くキスを落としていた。奈緒は和真の首に腕を絡めて、頬を赤らめながら、まるで「勝者」のような笑顔を浮かべていた。私は唇の端から流れた血を拭い、無言で結婚証明書の写真をコメント欄に投稿した。【貴団の新作タイトルは 「下劣な裏切り者たち」ですか?】ほどなくして、和真から電話がかかってきた。「千夏、何やってるんだ。何度言えば分かる?俺と奈緒は、ただの演出だって」私は鼻をすすりながら訊いた。「和真、どうして私のプリマ資格を奪ったの?」少し沈黙があって、彼が呟くように言った。「お前、紅原にいるのか?」そのあと、まるで他人事のように――「奈緒がね、このツアーの主演を誕生日プレゼントに欲しいって言っててさ。まさか、それがお前の役だったとは思わなかったよ。とりあえずネットで説明してくれ。証明書は合成だって言えば済む」……笑えてきた。私がどこで働いてるかも覚えてないのに、成瀬さんの「欲しいもの」だけはちゃんと覚えてるんだ。「それで?なんで私が結婚証明書を偽造したなんて言わなきゃいけないの?」「俺のファンってことにすればいい」「和真、私のこと何だと思ってるの?」電話の向こうで、彼は深くため息をついた。「千夏、俺たちもう結婚して七年だ。もう夫婦って感じじゃないか。奈緒はまだ若いんだし、ムキになるなよ」……彼は忘れているらしい。私が大学を卒業する前に彼と結婚したことを。たしかに七年経ったけど、私は奈緒より「
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