菅野は丁重に隼人たちを見送り、呆然としている一同に振り返った時には、顔の笑みもすっかり消えていた。「皆さん、どうぞお飲みください」長テーブルにずらりと並べられた酒瓶は十数本、どう見ても一人一本は逃れられそうにない量だった。先ほど無理やり半分以上も酒を飲まされた奈緒は、すでに顔色が青ざめており、その光景を見た途端、さらに怯えて和真の背後に隠れた。他の人たちは彼女に矛先を向けた。「全部お前のせいだ、なんであの酒を水だなんて言ったんだよ」「柊木さんはアルコールアレルギーなのに、どうして無理やり飲ませたんだ?」「さっき彼女が帰ろうとした時に帰らせればよかったのに、なんでわざわざ引き止めて踊らせようとしたんだよ、意味不明だろ」奈緒は和真の袖をぎゅっとつかみ、今にも泣き出しそうな顔で訴えた。「和真さん、信じて、私は本当に千夏先輩がグラスを取り替えるところを見たの……先輩はあんなに頭のいい人なんだよ?自分の身に危険が及ぶようなことするわけないじゃん」和真は眉間に皺を寄せたまま、納得したようにうなずいた。「そうだな……きっとあいつは、俺に罪悪感を抱かせようとしてるんだ……」菅野はしばらくそのやり取りを見守っていたが、次第に我慢が効かなくなった。「若者たちよ、過去のいきさつを掘り返すのはそっちの勝手だ。だが今は、先にやるべきことがあるだろう」和真は困ったような顔を見せた。「菅野お爺さん、もうすぐ晩餐会が始まるんです。今このタイミングで酔っぱらったら、主催側に失礼では?」「北条くん……君はまさか、篠原社長を怒らせておきながら、何事もなかったかのようにこの場に居続けられるとでも?」その言葉に、場の空気が一気に凍りついた。和真は乾いた唇を舐めながら、恐る恐る尋ねた。「菅野お爺さん……篠原社長は千夏のことをご存じなんですか?」菅野は目を半ば閉じるようにして答えた。「俺が知っているのは、篠原社長が今回初めて神浜にいらっしゃったということだけだ」「やっぱりな」和真は安堵の息をついた。「そうだと思った、千夏があんな大物と知り合いなわけがない」奈緒はすすり泣きながら言った。「まずいよ……千夏先輩があんな騒ぎ起こしちゃったら、篠原社長に私たちまで誤解されちゃうよ。先輩もさ、あんな無茶するなんて…
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