Semua Bab 見習い魔女竜胆白緑は四十六歳: Bab 11 - Bab 20

29 Bab

第10話 見習い魔女と修行の地

 さ、寒い。 昼とはいえ真冬の野外。寂れたJRRの駅前は雪こそ降っていないけれど、凍てつく冬の風が駆け抜けていく。そういえば今年の正月は何十年かに一度の大寒波だとニュースで言っていた。 パジャマ姿の俺は既にヤバい眠気に襲われつつある。もちろん母に放り出された心理的な影響もあるだろう。現実逃避には睡眠が一番だから。しかしこうなると、いつも状況に合わせていい感じの服になってくれるベリーのありがたみがこれでもかと身に沁みる。 あれ、言ってしまえばハグだもん……。「凄い! 瞬間移動だ! 紫さんの魔法だよね!?」 良司さんは俺そっちのけではしゃいでいる。悪いがそんな珍しくもなんともないことはどうでもいい。とにかく寒い。一先ず良司さんは放置だ。 えっと、一緒に放り出されたスーツケースの中に何か防寒できるものがないかな。「うおっ!?」 スーツケースの中から音がする。ドンッ、ドンッと、まるで外に出せと言わんばかりの迫力……ええい、少し怖いが構うものか。 今にも寒さと悲しみにKO負けしそうな俺はスーツケースを開け放った。 と、同時に飛び出してきたのは――「くそが!! あんのジジイめ、なんてことしやがる!!」 『うぅぅ、僕の体がちょっぴり燃えちゃったよぉ』 怒れるシラーとベリーだった。おお、神よ。これでこの凍てつく寒さともお別れできます。「あああああベリー! 会いたかった! 今すぐ暖かい服になってくれ! このままじゃ――」 『やだ!! 白緑のせいでこうなったんだからね!! 見てよここ、勝蔵の息でこんなことになっちゃったんだよ!』 半泣きでポカポカ殴りかかってくるだけでベリーは暖かい服になってくれない。せめてローブのままでいいから羽織らせて欲しいが無理そうだ。「じゃ、じゃあシラー! 大きくなって俺を腹の下に入れてくれ!」 「断る!! 私の腹の皮は卵や雛の為にあるんです! 白緑みたいな加齢臭漂うオッサンの為にあるわけじゃない!!」 か、加齢臭!!? 「お、俺が加齢臭なんてありえないだろ! 種族的特徴でいつでもふんわり香る良い匂いなんだ! 柔軟剤要らずで経済的だって褒められるのに! 撤回しろ!」 「加齢臭は自分じゃ気付かないっていいますもんね!」 そ、そんな馬鹿な……掴みかかったシラーの反論に心が折れそうになる。「み、白緑君は加齢臭なんてしないよ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-16
Baca selengkapnya

第11話 見習い魔女とマッドナイチンゲール

 純朴そうな若者から腕を離して美女が駆け寄ってくる。相変わらずたわわな胸が奔放なことだ。 「白緑が男連れなんてどう風の吹き回しかしら。それにその荷物。あ、もしかして――」 きっとこいつ、これから失礼なことを言うわね。「処女卒業おめでとう!」 そう叫んでガシッと私の両手を掴んだこの変態痴女……げふんげふん、露出多めな服を着た爆乳女は魔女大の同期。「ちょっと止めてよ。良司さんとはそんなんじゃないわ」 疎らとはいえ人目もあるのに。大きな声で恥ずかしいことを言わないで欲しい。「白緑く――さんのお友達?」 「え、ええ。この子は夜鶯胤乱子(やおういんらんこ)っていうの。魔女大の同期なのよ」 私の顔を見てきた良司さんに囁く。「あら? あららら? 白緑はこの人に魔女だって伝えてるの? じゃあやっぱりそういう仲なんじゃない」 これまであまりにも男っ気の無かった私だ。乱子の目が興味で輝いている。良司さんが挨拶をしようとしたのを遮ってグイグイくる。「ああもう! 本当は同期会で自慢するつもりだったのに……あのね乱子、良司さんは私の使い魔なの。それも月光の妖力に適性があるとっても凄い珍しいタイプのね」 予定とは違ったけれど、使い魔自慢ができて少し嬉しい。「ええ!? それはもう処女卒業どころじゃなわ! 予定変更、緊急招集――はダメね。やることあるのよ」 思い出したように放ったらかしていた純朴男子を見た乱子が、ごめんねと微笑んだ。 どうしていいか分からず、ドギマギしていた純朴男子は乱子に手招きされて、安心したように含羞んでから、小走りで寄ってきた。「あっ」 私の口から小さな驚きが溢れた。「は、はじめまして。俺、杉村っていいます」 少ししゃがれたような声で色黒。スポーツ刈りを放置してそのまま伸びたであろう短髪にやや幼さが垣間見える輪郭。さらに誠実さの中に燻る初々しい性欲も感じ取れる整った容姿は、乱子の拗れた癖にぶっ刺さる見た目だ。おまけに名前も杉村ときた。 二十六年前に乱子を乱子たらしめることとなった事件の原因と瓜二つ。 彼の存在を知ってから、いつもカントリーロードを口ずさみ不可能とされる二次元から錬成するホムンクルスの研究に没頭していった乱子だけど、遂に成功したのだろうか。「やだ、違うわよ白緑。杉村は正真正銘の人間よ」 ああそれは可哀想に。墓場鳥の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-16
Baca selengkapnya

第12話 見習い魔女と使い魔の館

 とりあえず良司さんには、この異様な城が真っ白な壁の庭と暖炉つき一戸建てに見えるらしい。 結婚を夢見る乙女か。 長年見習い魔女をやっている私でも、ここまでのTHE・いわくつき魔法物件、そうそうお目にかかったことはないんですけど。 私たちは真南の路地から真っ直ぐここへ来た。南西に小学校、北に高校、南東に中学校が建っていて、円形の道が城を囲んでいる。そして北西と北東方向にも直線の道が伸びている。 詳しいことは分からないけれど、何かしらの何かが施されているのは明らかだ。しかもさっきからキルジャッキルジャッって聞こえる。なにこれ、恐すぎる。こんなことなら乱子について来てもらえばよかった。「……ちなみにいくらだったんですか?」「え~っと八千万くらいだったかな。一括で払ったからもうちょっと安くしてくれたと思うけど」   はっせ――「白緑! 気をしっかり! は、八千万なんて……八千万なんて……ぐっ!?」『シラーも落ち着くんだ! 深呼吸してあっちの実家を思い出して! 八千万がなんだっていうんだよ! 父親のパンツ一枚より安いじゃないか!』 ああ、シラーとベリーの声が遠くでこだましている。 ぼんやり呻き声のする方をみれば、シラーが心臓を押さえて地面に転がっているし、パンツより安いとか言うベリーはショックで頭がおかしくなっちゃったみたいね。「……さん? 白緑さん?」 はっ!  八千万円の一括払いとかいうえげつない財力の前に、何処かへ行きかけていた。ただ不安を紛らわせようと聞いただけなのに、余計な負荷で心臓が押し潰されそうになってしまったじゃない。「と、とりあえず中に入りましょう」「うん。あれ? 入口はそっちじゃないよ」 おや、良司さんがなにもない壁に手をかけている。ああなるほど。普通の人にはあそこがドアなのか。「良司さん、そこは壁です。たぶん、本当の入口はこっち」 私が指差し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-17
Baca selengkapnya

第13話 見習い魔女と黒き妖精

 ※ベリーからのお知らせ。 今回はちょっぴり刺激が強い内容だよ。心臓が弱い人は気を付けてね。 ----------------       第13話 見習い魔女と黒き妖精  迫り来る数多のウィル・オ・ウィスプ。奴らはカサカサという特有の音を立てながらもうすぐそこまで来ている。 シラーやベリーに助けを求めようにも姿が見えない。良司さんもだ。主のピンチに駆け付けない使い魔になんの意味があろうか。あいつら三人はクソだ、ごみ屑だ。 しかもベリーがいないから私の格好はパジャマ。防御力云々とかいうレベルじゃない。「あああ、ウィル・オ・ウィスプの弱点はなんだっけ。久々過ぎて思い出せない!」 ウィル・オ・ウィスプは幽霊系の中でもわりと厄介な方で、触れると凄く冷たい。焼けるような冷たさと言えばいいだろうか。とにかくこんな数に襲われたらショック死かよくて凍死。 床に散らばる木の破片や枯れ葉を投げ付けて威嚇をするも、それらを取り込こまれて炎を大きくするだけだった。 この揺らめく青白い炎のせいか、時折景色がざわざわ動いて見えるのも気味が悪い。「水、そうだ水をぶっかけて――」 いやいや、ただの火の玉じゃないんだから水をかけても無意味だって習ったじゃない。大学で消火実習をしたけど二十年以上前だし、そもそもウィル・オ・ウィスプなんて現代じゃ滅多に出くわさないから対処法なんか綺麗さっぱり忘れてしまった。「ダ、ダメ! 全然思い出せない!」 四方八方から揺らめき寄るウィル・オ・ウィスプ。ぶつかる、と思ったその瞬間、勇ましい声が響いた。「止めないかお前たち!」 白馬に乗った王子様を思い起こさせる声、または勇者が颯爽と現れたかのような安堵感、あるいは威厳ある魔王の命令……。 ピタッと止まったウィル・オ・ウィスプたちが、どこか残念そうな雰囲気で声のした方向へ飛んで行く。 ウィル・オ・ウィスプが去ると、室内がずいぶん薄暗いのだと改めて
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-18
Baca selengkapnya

第14話 見習い魔女と豪華なランチ

 さて、すったもんだあったが衣食住の衣と住は確保できた。  衣は元々ベリーが担当していたから新鮮味はないが、住となった良司さんの家はなかなかに居心地が良い。本当、使い魔様様である。 あとは同じく使い魔のシラーが食を担当してくれれば言うことなしなのだが、どうも困ったことにゴキブリ魔王がでしゃばってくる。「我は家事が得意なのだ。すべて任せるがよい」 などど言って、昼食を作ろうとキッチンに立とうとするのだ。 いくら見た目が長い触角を持ったイケメン魔王とはいえ元はゴキブリ。ばっちいの次元を遥かに越えている。例え何かの過ちで許したとしても、あっという間に正気に戻ってキッチン丸ごとP●ファイアーだ。「頼むから一切の家事に関わらないでくれ。むしろ必要な時は呼ぶから裏で好きにしててくれると嬉しい」 「それではせっかく白緑の側にいられるという幸運の意味がないではないか。それに我は早く封印を解いて欲しいのだ」 言い終わると同時に目を閉じてキス待ち顔になるゴキブリ。すると俺の左耳をシュンシュンシュンッと風切り音が通りすぎていった。「うぎゃーー!!」 シラーが改造ネイルガンを発射したようだ。顔を押えてのたうち回るゴキブリには悪いが、あの辺りは徹底洗浄の後、滅菌処理してもらおう。 あ、良司さんが救急箱を取りに走った。なんてこった。良司さんはゴキブリにも優しいのか。どうせすぐ元に戻るんだから放っておけば良いのに。やはりできる大人は違うんだな。『はぁ。これは素晴らしい武器ですね』 俺の肩から飛び降り追撃の構えをとったシラーがうっとりした声を出した。あんな恍惚とした顔、この三十六年間で一度たりとも見たことがない。「ほどほどにしとけよ。後で仕返しされたって知らないぞ」 「ケヒヒ」 「え?」 今、シラーから聞いたことのない笑い声が聞こえたような気がする。『うわぁここにきてシラーの本性が……』 「は?」 『あ、ううん。なんでもないよ。あ~! もうぼくお腹ペコペコだよ! ねぇお昼ご飯は良司が作ってよ~。でも夜に影響がない程度にしてね。久々のサバトなんだから』 ふわふわっと俺から離れ、救急箱片手に戻って来た良司さんにまとわりついたベリーは知っているらしい。俺の知らないシラーの本性を。 生人形の性格が可愛さに応じてクソになっていくのは俺もこの身をもって知っている。だ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-19
Baca selengkapnya

第15話 見習い魔女のとんど焼き

 泣きながら清掃作業を終わらせて、熱いお風呂に入ったら少しスッキリした。良司さんが出してくれた新品のふかふかしたスリッパも心を和やかにしてくれる。 しかし、カサリという音と「落ち着いたか?」というイケボと共にテーブルに置かれたハーブティーが心をざわめかせる。揺らめく湯気程度では辛い現実を隠しきれないようだ。再び鳩尾に不快感が戻ってきた。「どうして俺が吐いたか分かってるのか?」「ああ、悲しいことだが我のせいであろう? 毎日湯に浸かって体も洗っているというのに、刷り込みとは恐ろしい。一種の洗脳だな」 おいおいおい。まさかさっきまで俺が入ってた風呂を使ってるんじゃないだろうな。ゴキブリと同じ湯船とか正気を保てる自信がないぞ。「だが、愛する白緑が言うなら我は家事から身を引こう。代わりに眷属たちを――」「なんにも分かってねぇな!」『そうだそうだ!』 見ろ。ハンガーに吊るされてエアコンの風に吹かれているベリーもご立腹だ。「いいか? 俺はお前が嫌なんじゃない。ゴキブリが嫌いなんだ。種族を汚物として捉えている」「そ、それはあんまりだ。おお、神よ。何故ヒトはゴキブリを忌み嫌うのか」 蹲り泣き始めた魔王。くそっ、人間の姿でそんなことをされると多少なりとも罪悪感が沸いてしまう。それによく考えれば、俺は異世界人だ。この世界の人間の常識に合わせる必要はないのかもしれない。「えと、すまん。種族が汚物、は、少し言い過ぎた」「み、白緑……」 顔を上げた魔王の瞳が潤々と輝いている。とても純粋そうだ……ふっ、俺が間違っていた。 なんの役に立ってるのかは知らないが、とりあえず今は同じ世界に住まう者同士。どうにか共生の道を模索しようじゃないか。きっと、いい考えが見つかるはずだ。「なぁゴキブリ魔王。お前、名前は何て言うんだ?」「……我を名前で呼んでくれるというのか?」「ああ。俺は竜胆白緑、いずれ真なる魔女になる男だ。仲直りしよう。立ってくれ」 俺を
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-21
Baca selengkapnya

第16話 見習い魔女と六人の魔女

 初詣の人々で賑わう大通りにコンビニ袋を被った異様な団体がいる。 そう、私たちだ。 目的のお店が有名神社の参道でもあるこの大通りに面しているので、顔を隠しているのだ。 私としては目立ちたくないなら服装をどうにかしろよと思うのだけれど、同期たちは全員頭のおかしな魔女なのだから仕方がない。 まず大荷物を背負った季節感皆無の虎柄ビキニの馬鹿は冥鬼弩(めぎど)ヤスエ。暑苦しい体育会系の魔女だ。 そのヤスエと一緒に来たのが浮遊するタブレット端末に住む十二単姿の銀花。嘘か真か平安時代に滅された雪女の怨霊らしい。 無言でイチゴのステッキを振り回し、道行く人の飲み物にイケナイモノを混入させているのがボクっ子の魔法少女姿のメグミ・カミザキザワ・ロン。父親が米国巨大企業の代表取締役社長というセレブ中のセレブ。また、イチゴ魔法なるものを生み出した奇才でもある。 褌一丁の男に腰かけているのはジズ・エンドル。漆黒のローブを身に纏い髑髏の杖と頭上に黒い環を持つハンガリー人の彼女は、あろうことか京都から人力車に乗って来たらしい。車夫が走り潰れると、目に入ったイケメンに魔法をかけて代わりに走らせたというから、相変わらずの鬼畜っぷりだ。 で、例の変態エジプト人ティティ・メジェド。全裸に布を一枚被っただけのガチガチの変態。彼女はこの格好のお陰で目から光線を出せるし火も吹けるし姿も消せると言うけれど、それがなんだというのだろうか。 そして女子高生に扮し、弾けんばかりの胸を揺らす恥女の夜鶯胤乱子(やおういんらんこ)。四十五歳を過ぎてよくもまあそんな格好ができるものだと感心する。小中高大と共に過ごしてきたが、コイツの自己肯定感はいつだって異常甚だしい。 こうしてみれば私の常識人ぶりがよく分かるわね。なぜなら唯一、正月に相応しいまともな服装なのだから。『ううう、ぼく恥ずかしいよ。どうしてお正月の町中で純白のウェディングドレスなんかに』『我慢なさいベリー。白緑は日本文化をはき違えてるんですから』 ベリーとシラーには毎年文句を言われるが、これは廃れつつある古き良き日本の伝統文化なのよ。 二十歳以上の独身は、新年会に純白のウェディングドレスで参加するものだ、と姉の黃壱が教えてくれた唯一まともな知識。尊敬する先輩魔女だって本当だと言っていた。「あの、ご予約のお客様でしょうか?」 店員
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-22
Baca selengkapnya

第17話 見習い魔女と魔女の宴

 国立日本魔女大学には訓戒がある。その一つがこれだ。【魔女は酒豪であるべし】 つまり私たちにとりあえずビールなどというふざけた言葉は存在しない。とりあえずワンボトル、だ。 手ぶらで来た私たちは乱子の用意した桃色サキュバスワインを分けてもらった。私たちの独自ルールだけど、飲みの席で毒を盛るのは御法度。安心してお願いできた。 でもその代わり、どれだけ飲もうと最後まで意識を保たねばならない。最初に潰れるなんてもってのほか。顔に落書き程度の感覚で、一生のトラウマを抱えるような悪戯をされてしまう。 私が最初のへべれけ魔女を年始の生け贄と呼んでいるのは内緒だ。「じゃあ皆、準備はいいわねぇ。日魔大唯一の第六六六期卒業生、恒例の新年会を始めるわよぉ~! かんぱ~い!」「かんぱーい!!」 乱子のかけ声と共に皆が秒で一本目を飲み干した。いつもこんなペースでお酒が消えていく。魔法の苦手な私が吸血樹鬼でなければ死んでいるところだ。『わぁ、前菜が小鬼タケノコだよ。この角だらけのタケノコ美味しいんだいよねぇ』 鬼角の生えた店員さんたちが運んできた前菜にベリーが大喜びしている。気楽なものね。とはいえ私も小鬼タケノコは大好物。シラーに横取りされる前に平らげた。「くぅ~、美味しい!」「だろ! ここ数年、俺の小鬼たちは料理修行ばっかしてたからな!」 ガハハと豪快に笑うヤスエ。自分が料理下手なだけに、眷属の料理が褒められると嬉しいのだろう。 油断しちゃって――大きく開いたヤスエの口にワインボトルが六本ぶち込まれる。今年の生け贄はヤスエかしらね。 そんなことをしたり、やり返されたしつつ続々と運ばれてくる御馳走。ああ、私の品の良さが薄れていくわ……。 持ち寄ったお酒やお店の高級ワインも次々に空けて、今はもうどんちゃん騒ぎ。ちょっと、男性ストリッパー呼んだの誰よ!「はぁ~い、注目~」 ひとしきり盛り上がり、思い出話や近況報告を肴にほろ酔いとなった頃、バルルンと胸を揺らして立ち上がった乱子が、も
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-23
Baca selengkapnya

第18話 見習い魔女と贈り物

 雀がまばらに囀ずる冬暁、冷たい風に起こされた私は強烈な吐き気に襲われた。「うぉ、うおえぇぇぇぇ」 目の前の便器に吐瀉、吐瀉、吐瀉。昨夜の宴に彩りを添えてくれた名脇役たちとのお別れに涙が止まらない。「大丈夫?」 後ろから良司さんの声がする。だけど頭がぐわんぐわんで返事など不可能。こみ上げるものは気持ち悪い、ただそれだけ。「み、みどり……は、はやく………うぷっ」 「ダメ、私が先……」 「ふざ、けんな。俺が先……」 は? シラーの他にティティとヤスエの声まで? ここはどこなの? 重い体をぐっと動かし便器から顔を上げ、ゆっくり周囲を確認……なんてこと。ここは爆破したはずの”私の”家じゃない。「魔女が揃いも揃って二日酔いとはみっともない。いい加減口を開けぬか」 「イ、イヤ……ボクには五苓散(ごれいさん)がゴフッ!?」 ジャックの呆れ声と、天に召されただろうメグミの声も聞こえる。いったいなぜ――ぅぷ!「げぇぇぇぇ」 私は再び吐瀉しながら記憶を辿ってみた。 そうだ、結局あの後も良司さん自慢はできなかった。ポツンとしてたら一升瓶が飛んできて口にすぽっ、からのすぽっすぽっ。あれよあれよとへべれけになり、どんちゃん騒ぎへ引きずり込まれた。 それから二次会、三次会としこたま飲んで四次会へ。確か……カラオケだったはず。 深酒に溺れた魔女の歌はもちろん危険であり、カラオケ店は雪童子とプチアミメットの住処と化し、さらには手足の生えたイチゴと不定形の小鳥、気色の悪い黒影が闊歩する伏魔殿と化した。 私は二度とあの店に行かない。 そして飲み始めてから約二十時間が経った頃、誰かが私の家で飲み直そうと言い出したのだ。確か、色黒で、長い触覚の、イケメン……ジャックだ! そう、どういうわけかジャックがいた。思い出した私はトイレから出てジャックに掴みかかる――前に眩暈で床に這いつくばった。「無理をするな。薬を作ったから飲むといい」 差し出されたコップの中身は黒い液体がボコボコと不自然に泡立ち、湯気に混じる微かな呻き声が地獄を思わせた。「い、嫌……」「新たにヒトの霊を眷属にしたのだ。そやつらに作らせた。これなら大丈夫であろう?」 大丈夫なわけない。さっき飲まされただろうメグミが鮮血色の泡を吹いて転がっている。もう一度言うわ、大丈夫なわけない。「心配なさ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-03-24
Baca selengkapnya

第19話 見習い魔女とジャックの思い出

 目が覚めると憎き親友たちはいなくなっていた。そりゃそうか。一週間も寝てたらしいからな。 幸い”私”を保ったまま意識を失ったので秘密は守られたままだ。良司さんとベリーに聞いても目が覚めるまで”俺”に戻ることはなかったという。 ちなみにシラーは未だ便器とランデブーしてるらしい。それから盗撮の類いの魔法が心配だったので、今ジャックに確認してもらっている。 あいつらはいつだって誰かの弱味を握って危険な仕事をさせようと企んでいる。それも無報酬で。俺も何度危ない橋を渡らされたことか。ていうか橋すら無かったこともある。あのときは絶望したなぁ……。 ただまあ、今回はなんだかんだで楽しかったし、なにより魔力が半分ほど回復しているという、いつぶりかの状態の良さ。感謝しておこう。 最悪の味という欠点はあるものの、この世界にこれほど魔力が豊富なものが存在していたとは。確か万年ウミウシとアホ人魚だったか?「図鑑、図鑑……っと………あっ」 調べてみようとベッドから降りて思い出した。なぜ爆破したはずの家やジャックが無傷なのかを。 ちょうどジャックが戻ってきたけど、それとなく腰に手を回されそうな気配がしたので良司さんの後ろに隠れる。「心配していた魔法も機械もなかった――なぜ離れる?」「俺にゴキブリとイチャつく趣味はない。ていうかなんで無傷なんだ。家も、お前も」「あ、それは僕も気になってた。家がなくなったから別荘に引っ越さなきゃって思ってたんだよ」 べ、べべべべ別荘!? 今、別荘って言ったのか!?「……持ってるんですか?」 ゴクリと喉が鳴ってしまった。「うん。ブライトンとブリュッセルとウィーンとサンフランシスコに一軒ずつね」 四軒!? しかも海外!? JRR職員とはそんなに儲かる仕事なのだろうか……。 「ほう、ブライ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-04-01
Baca selengkapnya
Sebelumnya
123
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status