エミル・グレーアムは、生まれながらにして魔力を有する特別な人間だった。そんな彼が、この時代の「吸血姫が目覚めた時のための生け贄」に選ばれるのは当然だったと言える。しかし実際に生け贄に選ばれるまでの、魔力覚醒前夜の幼少期のエミルは、極めて過酷な状況に陥っていた。エミルの両親は、彼が物心ついた頃には亡くなっていた。街中で暴走した馬車に巻き込まれて死んだのである。エミルの記憶に残っているのは、迫りくる暴馬と、自分を抱擁したまま生き絶えた両親の生温かい血と、冷たくなっていくぬくもりだけだった。その後、エミルは唯一の縁者だった叔父のもとに預けられる。財力のある叔父は、以前にエミルの両親が困った時には経済的援助もしてくれた人だった。叔父はエミルを喜んで迎え入れた。なぜならエミルは誰よりも美しい少年で、叔父の知られざる欲望を満たすための極上の果実だったから......。ある日のこと。叔父から秘密の地下室に呼び出されたエミルは、二つの真実を知った。ひとつは叔父の淫らな本質を。もうひとつは、生前の両親が頑なに叔父を引き合わせてくれなかったのは、息子を守るためだったということを。「や、やめてよ、叔父さん!」
Huling Na-update : 2025-04-04 Magbasa pa