「しかし、パンジーはブーケには向きませんか? 草花ですし……」そう聞かれて、私は漸くブーケの方へ思考回路を集中させた。「いえ、そんなことは。色も豊富にあるし、華やかでいいかも。水揚げさえ上手くいけば……」フリルパンジーなら見栄えもするし、と頭の中でイメージした。パンジーは水がなければすぐに萎れてしまうけど……そこをなんとかすれば。それに、パンジーの花束、たしかネットかどこかで見た気がする。「調べてみます! バレンタインにちなんだ花だと聞いたら、是非使いたくなりましたから」そういうと、一瀬さんはほんの少し口角を上げて、笑ってくれたように見えた。◆◇◆バレンタイン限定プレートは、二月一日から始まった。それまでにお姉ちゃんが大学のお友達同士で広告を回してくれたりと宣伝に協力してくれて、初日から盛況、とまではいかなくてもいつもよりもずっと来客数は増えている。予測通り、女性客が殆どだったけど。私は初めて売り物の為のブーケを作り、最初は緊張したけれどいくつもこなすうちに間違いなく私の自信に繋がった。注文を受けてから、プレートが出来上がるまでに私はブーケを作り、一緒にテーブルに届ける。こういうのは演出が大事だから、と、必ず同時に届けるよう指示したのは一瀬さん。「きゃあ、可愛い!」届けた時の女性客の笑顔には何度も気分が高揚させられ、私もその都度唇が綻んでしまう。「今はチョコレートのプレートだけですが、その後はケーキを選べるようにするのもいいですね」「あ、じゃあ。お花も選べるようにするのもいいかもしれません。 生花のブーケだとお客様のその後の予定によっては邪魔になることもあると思うんですよね。ドライフラワーを入れたフラワーボックスもいいかな、と思ってて……」「ま、イベント時以外は厳しいかもしれないね」お店とマスターには手厳しい、冷静な片山さんの意見にはがっくりくるけれど。ブーケ作りは、このカフェに私の居場所ができたような、そんな実感も与えてくれる。そして、バレンタイン当日。それまでブーケに専念していた気持ちも、さすがに今日は朝から緊張して落ち着かなかった。片山さんが仕事の合間に意味ありげに私を見て口元をにやつかせその度に恥ずかしくなる。「告白は?」「か……帰り道に! ここではしませんよ!」「なーんだ、残念。真っ赤な顔の綾ちゃん見
Last Updated : 2025-03-17 Read more