リノアは小径の奥に足を踏み入れた。湿った土が靴底に食い込み、冷たい朝霧が足元を這う。木々の間を抜けると、目の前に小さな空き地が開けた。そこにはシオンの痕跡が残されていた。地面に置かれた石の輪、その中心に残る焦げ跡……。 灰は風に散らされ、石の隙間にわずかに残るのみ。これは焚き火の跡だ。近くには折れた枝が無造作に転がっている。 シオンがここにいた。リノアは胸が締め付けられる思いをしながら、空き地に足を踏み入れた。「あれは何だろう?」 風に揺れるその一片にリノアの心がざわつく。リノアは急いで近づいて、震える手で紙片を拾い上げた。シオンの乱雑な文字……。《龍の涙》 リノアは眉を寄せ、紙片をじっと見つめた。これは村の儀式で使われる種子の名だ。 龍の涙について母が語ったことがある。暖炉の前で、母は目を輝かせて言った。「リノア、龍の涙は神秘的な力を宿しているんだよ。癒しもすれば、壊すこともできる」 母の声が、今も耳に鮮明に残る。 リノアは紙片を握り、霧が漂う空き地を見回した。すると、空き地の端、木の根元に引っかかった布切れが目に入った。 リノアの息が止まる。あれはシオンがいつも首に巻いていた青いスカーフだ。 そのスカーフが赤黒い染みで覆われている。血ではないか。 震える手でスカーフを手に取ると、乾いて硬くなった染みが指先に冷たくざらついた感触を残した。 シオンの死は落石による事故だと聞かされている。村人たちがそう説明し、エレナも「詳しいことはわからない」と首を振っていた。だが、この血は何だろう? 本当に落石で亡くなったのだろうか? リノアはスカーフを握り、目を凝らした。青い布に染み込んだ赤黒い痕が、シオンの笑顔と重なる。 笛を彫りながら笑った日、一緒に森で薬草を探した日──あの穏やかな記憶が、目の前の血の染みとあまりにも対照的で、胸が苦しくなる。すべてが遠い過去になりつつある中で、このスカーフだけが現実を突きつけてくる。 どれだけ無念だったことだろう。一人寂しく散ったシオンのことを思うと息が苦しくなる。 本当に事故だったのだろうか? 周囲の人たちの反応、残された紙片。それらを踏まえると、ここで何かが起きたと見るのが自然ではないか。 この血が示すものは、村人たちが語る単純な死では説明できない何かのような気がする。 シオンの最期に何があっ
Terakhir Diperbarui : 2025-03-22 Baca selengkapnya