All Chapters of 男聖女は痛みを受け付けたくない: Chapter 31 - Chapter 32

32 Chapters

第三十一話 変わらぬ距離

◆◆◆◆◆ 部屋に、静かな沈黙が落ちた。 紅茶の香りだけが微かに漂う空間で、遥は冷めたカップを見つめたまま思考を巡らせる。 コナリーの言葉を否定したのは自分だった。 それなのに、彼が自分から離れていくのではないかと、不安に駆られている。 (……何を考えてるんだ、俺。) 遥は内心で自分を叱咤した。 自分が答えを出したのに、コナリーの気持ちが遠のくことに怯えるなんて、都合が良すぎる。 けれど、さっきのコナリーの表情を思い出すと、胸の奥が冷たくなった。 (……なんで、そんな顔するんだよ。) 普段と変わらぬ穏やかな表情。 それなのに、その奥には何かを押し殺したような、冷えた影が見えた気がした。 遥が「俺より大事な人ができたら」と言ったとき、コナリーの瞳がわずかに揺れた。 けれど、彼はそれ以上何も言わず、ただ静かに頷いた。 それが、妙に引っかかった。 (なんか……このまま距離が開いていく気がする。) 無性に焦りを覚えた遥は、何か話題を変えようと口を開いた。 「なあ、ハリーと夏美に何かプレゼントを贈ろうと思うんだけど。」 不意に投げかけた言葉に、コナリーがわずかに眉を上げた。 「プレゼント、ですか?」 「ああ。婚約のお祝いにさ。」 遥は、努めて軽い調子を装いながら言った。 
last updateLast Updated : 2025-03-11
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第三十二話 王族の温室

◆◆◆◆◆  朝の光が窓から差し込み、遥の部屋を静かに照らしていた。 ぼんやりと目を覚ました遥は、ぼんやりと天井を見上げながら、昨夜の出来事を思い出す。 左手を持ち上げると、薬指に嵌まったままの赤い指輪が目に入った。 「……やっぱり、外れないか。」 小さく息を吐き、指輪をじっと見つめる。試しに引っ張ってみるが、びくともしない。 (どうするかな……このまま放っておいていいわけないし、ルイスと対策を考えないと……) そんなことを考えていると、部屋の扉をノックする音が響いた。 「遥、起きているか?」 ルイスの声だった。 「起きてる。今開けるよ。」 遥は素早く寝台から降り、扉を開ける。しかし、その瞬間―― 「……手袋を忘れているな。」 ルイスが低く指摘する。 遥は一瞬きょとんとした後、慌てて左手を隠した。 「えっ、あ、しまった……!」 昨夜、ルイスから“指輪を隠すために手袋を常に着用するように”と厳しく言われていたことを思い出す。 「ちょ、待って、取りに――」 言い終わる前に、ルイスの手が伸び、遥の腕を軽く引いた。 「いい、こっちに来い。」 驚く間もなく引き寄せられ、思わずルイスの胸元にぶつかる。 「お、おい!」 「お前がまた忘れると思
last updateLast Updated : 2025-03-12
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