All Chapters of 男聖女は痛みを受け付けたくない: Chapter 11 - Chapter 20

32 Chapters

第十一話 王子の栄光

 ◆◆◆◆◆   魔王討伐の一行が、ついに王城へ帰還した。 街は歓喜に包まれ、人々は勇者たちを称える歓声を上げた。王城の大広間では、すでに祝勝の宴が始まっていた。 大広間の中央―― 王子は誇らしげに立ち、魔王の小指を王へ捧げた。 「陛下、これこそが、私が魔王を討伐した証です!」 硬化を免れた魔王の小指。それを王の前に掲げた王子の姿は、どこまでも堂々としていた。 「おお……!」 王は感嘆の声を漏らし、貴族たちは口々に賞賛の言葉を述べた。 「王子様こそ、この国の希望だ!」 「素晴らしい……!」 王子の名声は、一夜にして確固たるものとなった。  そんな中、彼を支えた聖女として、ひとりの少女が王子の横に並び立つ。 「魔王討伐において、私を支えてくれたのはこの聖女だ!」 少女は頬を赤らめ、恥ずかしそうに微笑んだ。 彼女の名が呼ばれるたび、人々の喝采は大きくなる。 その光景を目の当たりにしながら、遥はある異変に気がついた。 ――コナリーがいない。 どれだけ目を凝らしても、討伐隊の中に彼の姿はなかった。 遥は、人々の間をかき分けるようにして王子のもとへ向かった。 「王子……」 
last updateLast Updated : 2025-02-14
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第十二話 騎士ではなくとも

◆◆◆◆◆   王城の門が見えたとき、コナリーはわずかに足を止めた。 夜明けの空が白み始め、冷たい風が肌を撫でる。静かに門をくぐると、城内のざわめきが耳に入った。 「……」 彼は、ふらつきながらも前へ進んだ。 剣を握っていた手は、すでに感覚がなかった。何度も魔王の亡骸を砕き続けた結果、骨は砕け、指は元の形を失っていた。 ――もう、剣を握れない。 その現実を前に、コナリーは初めて戸惑った。 これまでの人生、ただ戦い続けることしか知らなかった。王国一の騎士の息子として生まれ、強くあることだけを求められてきた。 もし、それができなくなったら、自分は何者になるのだろう。 「……どうすればいい」 その答えを見つけられぬまま、コナリーは静かに俯いた。 ――だが、そのとき。 「……コナリー!!」 遠くから、自分を呼ぶ声が聞こえる。コナリーが顔を上げた瞬間、遥が駆けてくるのが見えた。  「コナリー……!!」 彼は目を見開いた。 遥の頬には涙が伝っていた。そのまま彼の前に飛び込み、強く抱きつく。 「……!」 コナリーの体が、僅かに揺れる。 「もう大丈夫だから……」 遥は震え
last updateLast Updated : 2025-02-15
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第十三話 薔薇の妖精の証言

◆◆◆◆◆祝福の宴は、コナリーの登場によってざわめきに包まれた。王城の大広間に響いていた賑やかな笑い声は、静寂へと変わる。その場にいた誰もが、彼の姿を目にして息を呑んでいた。――特に、コナリーの歪んだ指先を見たときの反応は顕著だった。「……」手袋を外したコナリーの指は、かつての美しい形を失い、関節は不自然に曲がっていた。かつて王国一の騎士と称えられた男の手は、もはや剣を握ることはできない。それでも、コナリーは静かに王の前へと進み出ると、深々と膝をつく。「陛下。魔王討伐を完遂し、帰還いたしました」王は、彼の傷ついた姿を見下ろしながら、静かに頷いた。「……ご苦労であった」その一言で、この場に再び緊張が走る。「……」コナリーは、王の言葉を受けてもなお膝をついたまま、伏せたままの視線を上げなかった。そこへ――「よく無事に帰ってきたな、コナリー」王子が声をかける。王子の声は、一見すると穏やかだったが、遥には分かった。その声の裏には、明確な警戒心と苛立ちが滲んでいる。「……だが、一つだけ確認しておきたいことがある」王子はゆっくりと歩み寄ると、まるで問い詰めるような目でコナリーを見下ろした。「石化した魔王は、完全に砕いたのか?」その問いに、場が再び静まり返る。「……」コナリーは、一拍の間を置き、静かに答えた。「確かに、粉砕いたしました」淡々とした口調だった。「――ふん、本当にそうか?」王子は目を細め、疑いの色を露わにした。「男の聖女に会いたいばかりに、任務を中途半端にして帰ってきたのではないか?」「……」遥は、コナリーの拳がわずかに握られるのを見た。――王子は、コナリーの帰還そのものが信じられなかったのだ。彼の計画では、コナリーは狂戦士のまま魔王城に消えるはずだった。だが、彼は戻ってきた。そして――王子の脳裏には、一つの危機感が浮かんでいた。(もし、コナリーが「魔王の指を落としたのは自分だ」と証言したら――)(私の立場がなくなる。)それだけは、避けなければならなかった。王子は、目線を送る。部下たちが動き始めた。コナリーが「異常をきたした騎士」として、この場で斬り捨てられるように。「……」遥は、息を呑んだ。そして、彼はすぐにコナリーの横に立つ。「そんなにも知りたいのなら――」遥は、コナリー
last updateLast Updated : 2025-02-16
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第十四話 誇りと罰

 ◆◆◆◆◆   「無礼者!!!」 怒声が響き渡った。 王子は目を吊り上げ、怒りに震えながら遥を睨みつけた。 「この私に向かって、そのような口を利くとは……!」 怒りのままに、王子は遥の頬を叩こうと手を振り上げる。 だが―― その前に、素早くコナリーが動いた。 バッ! 瞬時に立ち上がり、遥の前に立つと、王子の腕を鋭く掴んだ。 「――っ!」 コナリーの指先は、戦いの傷で歪んでいた。 それでも、その力は人並み以上に強かった。 王子の腕を握ると、ほんの一瞬だが、硬直した空気が場を支配した。   王子の表情が、一瞬怯えたものへと変わる。 コナリーは何も言わなかった。 だが、その鋭い眼差しが、王子を威圧する。 「……っ!」 王子は、反射的に後退りした。 「コナリー……貴様……」 小さく震える声が漏れる。 コナリーは、静かに手を離した。 「王子殿下、私は貴方の忠実な騎士でした」 「……!」 「ですが――」 コナリー
last updateLast Updated : 2025-02-17
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第十五話 王都の探索者

 ◆◆◆◆◆   「お疲れ様です、遥さん。今日の収穫はどうでした?」 王都の広場の片隅で、デイジーがにこやかに声をかけた。 「まあまあってところかな。古文書に記されてた『星の雫』は見つからなかったけど、それっぽいものは手に入れた」 遥は、腰のポーチから小さな瓶を取り出して見せる。 ――この世界には、まだ発見されていない貴重なアイテムが無数に眠っている。 それらを探し出し、王へと報告することが、今の遥の仕事だった。 「なるほど……でも、無理しすぎないでくださいね」 デイジーは、優しい笑顔を浮かべると、手に持っていた包みを差し出した。 「はい、今日のお昼です」 「……相変わらず、律儀に用意してくるな」 遥は苦笑しながら、サンドイッチの包みを受け取る。 デイジーは、遥のお世話係として王から遣わされた青年だった。年はまだ若いが、料理が得意で、毎日しっかりと食事を用意してくれる。 「仕事に夢中で食べ損ねるの、遥さんの悪い癖ですからね」 「わかってるって。ありがとな」 遥は包みをポーチにしまい、伸びをする。 「よし、仕事も終わったし、そろそろ王城に戻るか」  ◇◇◇  昼過ぎ、王城へと戻った遥はデイジーと別れて図書館に向かっていた。 そして、大広
last updateLast Updated : 2025-02-18
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第十六話 隠しキャラとの遭遇

◆◆◆◆◆  「このサンドイッチ、なかなか美味しいな」 「そりゃあ、デイジーの手作りだからな。あいつ、料理の腕は確かだぞ」 王城の薔薇園。 遥とコナリーは、昼下がりの陽光の中で穏やかな時間を過ごしていた。 ベンチに腰掛け、デイジーが用意したサンドイッチを頬張る。コナリーはゆっくりと味わいながら、静かに遥へと視線を向けた。 「こうして食事をするのは、悪くないですね」 「なんだよ、まるで俺と食事をするのが珍しいみたいな言い方だな」 「実際、珍しいでしょう?」 コナリーは僅かに微笑んだ。 遥はバツが悪そうに視線をそらす。 確かに、ずっと忙しさにかまけて、彼とゆっくり食事をする時間など取ってこなかった。だからこそ、今この時間は―― 「たまには、こういうのもいいかもな」 遥は、コナリーの方を見ずにぼそっと呟いた。 コナリーが穏やかに微笑み、何か言いかけたその時、不意に少し離れた場所から女性の声が響いた。 「――お待ちください! ルイス様!」 遥とコナリーは、同時にそちらへ目を向ける。 沙織が、第二王子のルイスにつきまとっていた。 「ルイス様、私は第一王子殿下と契約し魔王討伐をした聖女の沙織です! どうか、少しお話を――」 「申し訳ないが、今は急いでいるんだ」 ルイスは、明らかに迷惑そうな表情を浮かべている
last updateLast Updated : 2025-02-19
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第十七話 王立学園の同期

◆◆◆◆◆  「やあ、遥にコナリーじゃないか」 軽やかな声が響いた。 遥は、サンドイッチを手にしたまま顔を上げる。 目の前に立っていたのは、第二王子・ルイスだった。 ◇◇◇ 遥とコナリーは、ベンチから立ち上がり、軽く一礼する。 ルイスは、王子らしい品のある仕草で手を振ると、あずまやの中へと足を踏み入れた。 「邪魔をして申し訳ない。でも、以前から遥さんと話したいと思っていたんだ」 そう言って、にこやかに笑う。 「でも、なかなか機会がなくてね。ようやく声をかけられてうれしいよ。私はルイスだ」 差し出された手を見て、遥は少し戸惑った。 ――握手を求められるのは初めてだった。 これまで、聖女として扱われることはあっても、対等な立場として認識されたことはなかったからだ。 「……あんたは王子様なんだろ?」 遥は、差し出された手を見つめながら、少し考えるように呟いた。 「第一王子のアランとは……その、ずいぶん様子が違うな」 そう言いながら、ゆっくりと握手を交わす。 「兄が失礼なことをして申し訳なかった」 ルイスは微笑みながら、さらりと言った。 遥は、ぎくりとする。 「あ……いや、謝らないでくれ。王子が頭を下げるようなことじゃない」 慌てて手を
last updateLast Updated : 2025-02-20
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第十八話 攻略できなかったキャラ

◆◆◆◆◆ コナリーの静かな圧力に押され、沙織は悔しそうに唇を噛みながら踵を返した。 「……男聖女なんて、どうせ誰からも必要とされないくせに」 捨て台詞を吐きながら、あずまやを出ていく。 遥は舌打ちしそうになるのを堪えつつ、去っていく彼女の背中を見送った。 「……面倒くせぇな」 ぼそっと呟くと、隣でコナリーとルイスは納得したように頷く。 ルイスは視線を遥に向け、穏やかに問いかけた。 「同席してもよいかな?」 「ああ、いいよ」 遥が気軽に答えると、ルイスはちらりとコナリーを見てから、静かに席に座った。 ◇◇◇ 「ルイス様は、魔王討伐には参加されなかったんですよね?」 遥が何気なく尋ねると、ルイスは「ええ」と頷いた。 「私はその頃、隣国との領地争いの場に駆り出されていました」 「……え?」 遥は思わず驚く。 ゲーム内では彼は隠しキャラとしてしか認識していなかった。そのため、彼がどんな背景を持ち、どんな生き方をしていたのかまでは深く知らなかったのだ。 「つまり、戦っていたってことか?」 遥が真剣な表情で尋ねると、ルイスは静かに微笑んだ。 「ええ、そうですね。王族としての立場上、前線に立つことは少なかったですが、それでも戦火の只中にいましたよ」
last updateLast Updated : 2025-02-23
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第十九話 それぞれの役割

◆◆◆◆◆  「魔王っていう共通の敵がいたのに、人間同士で争うってどうなんだよ……」 遥は呆れともつかない疑問を口にした。 ルイスは穏やかな口調で答える。 「魔王討伐の最中にも、隣国との間で領地を巡る小競り合いは続いていました。そして、魔王が倒れた今、それが本格的な争いへと発展する可能性もある」 遥は驚いた。 「……そんなこと言ったら、魔王を討伐したコナリーの立場がないだろ」 そう言いながら、遥はちらりとコナリーを見る。 しかし、コナリーは否定することなく、静かに頷いた。 「魔王が支配していた領土を巡っても争いが起こるでしょう。魔王の存在が、ある意味では国同士の均衡を保っていた部分もあるのです」 暗い雰囲気があずまやに広がる。 だが、そんな空気を払うように、ルイスが明るい声で言った。 「それにしても、サンドイッチが美味しそうですね。私にも一つ分けてもらえますか?」 その軽やかな言葉に、遥はほっと息をつく。 「もちろん、いいよ」 サンドイッチを手渡すと、ルイスは笑顔で受け取る。 その何気ないやりとりが、張り詰めた空気を緩めてくれた気がした。 遥は気さくなルイスに、自然と好感を抱く。 しかし―― それを見ているコナリーの心には、言葉にできない引っかかりが残った。 ◇◇◇ や
last updateLast Updated : 2025-02-24
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第二十話 月明かりの下で

◆◆◆◆◆  城内の廊下を並んで歩く。 遥の腕を掴んでいたコナリーの手は、いつの間にか離れていたが、その温もりはまだ残っているような気がした。 窓の外には、大きな月が浮かび、廊下の白い大理石に淡い影を落とす。静寂の中、二人の足音だけが響いていた。 「……変な感じだな」 遥がぼそっと呟くと、コナリーが小さく首を傾げた。 「何がです?」 「聖女の役目は終わったのに……俺はまだお前の隣を歩いてる。でも、もう同じ痛みも共有できないし、傷を癒すこともできない。なのに、人間同士で戦争が起これば、お前はまた戦場に行くかもしれない」 遥の言葉に、コナリーは少し考え、微かに微笑む。 「最前線で剣を振るうことはできなくても、私は国のためにできることをしたい。……騎士として」 「やっぱりお前って根っからの騎士魂があるんだな」 遥は苦笑しながら続けた。 「魔王討伐のときは、お前の背中を守ってるのは俺だって気持ちだったけど……今はそれができない自分が悔しくてさ」 「遥……」 「誰かがコナリーの背中を守るんだと思うと、ちょっと悔しいと思ってしまったり。……あー、忘れてくれ。すげぇ恥ずかしいこと話してるな……」 コナリーは真剣な表情で遥を見つめた。 「忘れません」 「意地悪かよ! 忘れてくれって言ってるのに!」 「頼まれても忘れません、忘れたくない。遥が背中を守ってくれていた……そう感じていたのは、私だけで
last updateLast Updated : 2025-02-25
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