◆◆◆◆◆30代後半の疲れ気味なサラリーマン、山下遥は、目の前の光景を呆然と見つめていた。何がどうなってこうなったのか――理解はしている。だが、納得は到底できない。遥は、数人の女子とともに異世界へと召喚された。しかも、「聖女」 という肩書きを与えられ、王国の命運を左右する魔王討伐に関わることになっている。召喚された場所は、乙女ゲーム『☆聖女は痛みを引き受けます☆』の世界。遥は、このゲームをプレイ済みだった。乙女ゲームと銘打たれているが、その実態は RPG部分は妙に作り込まれていて、まるで作業ゲーのようにアイテムを集めなければならない。敵の魔王は圧倒的に強いが、特定のアイテムを全て揃えれば簡単に倒せる仕様になっている。問題は、その アイテム収集に膨大な時間がかかる ことだった。情報を集め、ダンジョンを探索し、一つずつ揃えていかなければならない。まるで作業ゲーのようなプレイ感 で、ゲーム部分だけ見れば妙に完成度が高かった。だが、ここまでがピークだった。魔王討伐を終えると、ようやく恋愛ゲームが始まるのだが――肝心の恋愛部分は手抜きで、頑張った報酬がしょぼい。どのルートを選んでも、似たような展開で、最後には必ずハッピーエンド。ライバルとの駆け引きもなければ、バッドエンドもない。攻略対象ごとの個性は薄く、スチルはやる気のない塗り絵のようなクオリティ。結果、ゲームとしては 「クソゲー扱いされている」 というわけだ。遥はゲームをクリアした経験があるからこそ、この世界のことを知り尽くしていた。そして何よりも――「コナリー・オブライエンとは絶対に契約したくない」これだけは、遥が強く望んでいたことだった。聖女の役目は、契約相手の傷の痛みを共有し、離れた場所から癒やすこと。そのため、契約相手の選択は 「いかに安全な相手を選ぶか」 にかかっていた。聖女たちは召喚された後、教会に閉じ込められ、「聖女の訓練」 を受けることになった。その中で、契約する騎士や王族たちの特徴を教えられ、彼らの戦闘スタイルや役割について学ぶ時間が設けられていた。そして、聖女たちは当然のごとく、最も安全な相手を選ぶよう指導された。王子や魔法使いといった 戦闘にあまり関わらない攻略対象 が人気となり、聖女たちはこぞって彼らを選んでいった。そして、教会の関係者が
Last Updated : 2025-02-08 Read more