「涼宮さん、本当に名前を変えるおつもりですか?名前を変えると、学歴証明書やその他の証明書、それにパスポートの名前も全部変更する必要がありますよ」涼宮しずかは静かにうなずいた。「はい、もう決めました」窓口の職員はまだ説得を試みる。「成人してから名前を変えるのはかなり手間がかかりますよ。それに、もともとのお名前もとても素敵だと思いますが......もう少し考えてみてはいかがですか?」「いいえ、もう考え直しません」しずかは迷いなく改名同意書にサインした。「お願いします」「かしこまりました。変更後の新しいお名前は『飛鳥』でよろしいですね?」「はい、そうです」飛鳥のように、もっと遠くの空へ飛び立とう。 それが、彼女が自分の未来に託した願いだった。 ここから離れて、新しい人生を歩もうと。「すみませんが、今からパスポートの名前も変更できますか?」しずかは尋ねた。「はい、こちらが改名の受領証です。この書類を持って、階下の窓口でパスポートの変更手続きをしてください」しずかは急いでパスポートの名前を変更した。でも卒業証書や戸籍謄本など、ほかの書類には一切手をつけなかった。どうせ一週間後には新しいパスポートを持ってここを発つのだから。過去の自分はもういらない。新しいパスポートを手に役所を出ると、目の前には市の象徴的な高層ビルが聳えていた。そのビルの大型ビジョンには、一条グループの社長・一条直也(いちじょう なおや)へのインタビューが映し出されていた。インタビュアーが彼の指先に気づき、興味深げに微笑んで質問した。「一条社長、ずっと指輪をいじっていらっしゃいますね。それ、ごく普通の銀の指輪に見えますが、何か特別な意味があるんですか?」直也は優しく微笑んで、指輪をカメラに向けて見せた。「これは、僕の結婚指輪なんです」「えっ!ご結婚されていたんですね。それにしても、一条社長ほどの方なら、結婚指輪といえばダイヤ、それもかなり大きなものをイメージしていました」直也は穏やかに説明した。「この指輪は、僕が自分で作ったんです。一つ一つ丁寧に磨いて、内側には二人の名前を刻んだんです」「わあ、本当に文字が彫ってありますね!『ナオヤ』と......」一条直也は優しい
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