藤宮詠子のアイデアは、ちょっと子供っぽいけど、蒼井彩音に効くだろう。藤宮詠子は2時間ほど私の家にいたけど、久瀬言之は帰ってこなかった。藤宮詠子が外に出て、庭で石ころを拾ってた。何をするつもりなのか分からなかった。私が家に戻ろうと振り返った瞬間、ガシャーン!とガラスが割れる音が聞こえた。庭に出てみると、藤宮詠子が蒼井彩音の家の窓ガラスを割っていた。藤宮詠子は私にウインクすると、車に飛び乗り、走り去った。作戦は効果てきめんで、久瀬言之はすぐに出てきて、割れたガラスを確認した。そして、玄関に立っている私を見つけた。私たちは視線を交わした。蒼井彩音の家の庭のフェンス越しに、私は黒いフェンスでいくつにも分断された久瀬言之の姿を見た。まるで、バラバラになったパズルのピースみたい。私が18歳の頃、通販で久瀬言之の写真で大きなジグソーパズルを注文した。毎日床に伏せて、パズルを組み立てて、半月もかけて完成させた。嬉しくて、彼にプレゼントした。その時、蒼井彩音もそこにいた。パズルを見て、ニヤニヤしながら言った。「白黒じゃなくて良かったわ。お母様はモノクロが縁起が悪いと思うよ」久瀬言之はパズルを受け取ってくれたけど、「ありがとう」とそっけなく言っただけだった。数日後、私は久瀬家の物置部屋で、そのパズルを見つけた。私はパズルを持ち帰り、自分の部屋に飾った。今でもそこにある。詠ちゃんは、私の家に来るたびにそのパズルを見て、「お線香をあげたくなるわ」と言っている。蒼井彩音も外に出てきた。久瀬言之は私を一瞥すると、蒼井彩音に優しく何かを話しかけていた。庭を隔てていて、彼の声が聞こえない。というか、聞きたくもない。私が家に戻って数分後、久瀬言之も帰って来た。私はお土産をテーブルいっぱいに並べた。いくつかは久瀬家の家族に。久瀬言之のお祖母様は、私のことをとても可愛がってくれている。久瀬言之にもお土産を買ってきた。アンティークショップで見つけたアンティークの腕時計。とても綺麗で、時計屋さんに持って行って油を差してもらったら、ちゃんと動いた。私は彼に時計を渡した。彼は箱を開けて、チラッと見ただけで、「ありがとう」と言った。私が彼にプレゼントしたものは、いつもこんな風に扱われる。私は自分が情けないと思った。もう久瀬言之のことは諦めよう。ど
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