その夜、私は五年前の婚約パーティーで準備したままの招待状と翡翠のブレスレットを手に、陸川淳一を訪ねた。「婚約を解消しましょう」私の声には、感情のかけらも感じられなかった。淳一は、その美しい瞳でじっと私を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。やがて、彼はゆっくりとソファにもたれかかり、目を細めながら低い声で言った。「蘇原明奈、冗談だろう?」私は静かに首を振った。「本気よ」何年も間悩み抜いて出した結論であることを示すように、さらに言葉を重ねた。「ずっと考えて、ようやく決めたの」最後の夕焼けがソファに落ち、その光が淳一の表情をいっそう険しく際立たせていた。しばしの沈黙の後、彼は肩をすくめて立ち上がり、冷たく言い放った。「好きにしろ。俺は忙しい。当時のブレスレットは自分で持って行け」私は何も答えず、彼を通り過ぎて書斎に向かった。そこには、時を経た招待状がそのまま残されていた。私は当時交換した翡翠のブレスレットを手に取り、深く息を吸い込むと、静かに立ち上がった。淳一と10年間を共に過ごしてきた。本来ならば5年前に結婚する予定だったが、野鹿佳織の登場でその計画は何度も延期された。この5年間、何度もこの関係を断ち切ろうと決心したが、そのたびに後悔し、踏みとどまってきた。けれど、今回は違う。今日から、私は淳一と、完全に縁を切る。書斎を出た私の目に飛び込んできたのは、すでに出かけたはずの淳一がリビングに立っている姿だった。彼は静かにそこに立ち、私を待っているかのようだった。私はその場を通り過ぎようとしたが、彼が道を塞ぎ、眉をひそめて言った。「明奈、もし今日のことで怒っているのなら、それは誤解だ」その理屈を押しつけるような彼の言葉を聞きながら、私は一切顔を上げなかった。これが誤解だというの?今日の朝、彼は野鹿佳織に「君だけの守護者でいる」と約束した。以前には、彼がその地位を利用して野鹿佳織に便宜を図り、私のステージ出演の機会を奪った。さらには、ゲームで野鹿佳織を勝たせるために、私の目の前で彼女にキスまでした。これらがすべて誤解だというのだろうか?淳一が高圧的に申し出てきた和解の言葉に、私は初めて沈黙を貫いた。これまで何度も、私が折れて彼との関係を修復してきた。ケンカをしても、彼がたった一言
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