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継父、罪なき人 のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 17

17 チャプター

第11話

父の日記。2016年3月12日また初夏が来た。あの事件さえなければ、芳子はきっと私の側にいただろうに。2016年9月27日今日も外で浅野に会った。憎い、殺してやりたい。あいつさえいなければ、芳子もこんなに長く家を離れずに済んだのに。2016年12月5日もう八年になる。この人生で芳子の結婚式を見ることができるだろうか。あの時、芳子をしっかり守れなかった私が悪い。死んでも妻に顔向けできない。......2017年7月30日芳子が帰ってきた。本当に嬉しい。だが浅野はまだ芳子に付きまとっている。なぜだ、なぜこれほどの年月が過ぎても芳子を放っておかないのか。私が芳子のために何かをすべき時が来たのかもしれない。2017年8月4日今日、家具の移動を口実に、芳子に滑車を買いに行かせた。完璧な密室殺人の方法を思いついた。2017年8月9日ようやく二人は死んだ。もう誰も芳子を傷つけることはない。だが今日来た警察官の芳子を見る目つきが変だった。まさか芳子を犯人だと?このままではいけない。自首しなければ。芳子を巻き込むわけにはいかない。私はもう年老いた。それほど長くは生きられない。......「もう、読まないで」築き上げた強がりが一瞬で崩れ落ち、私は日記を奪い取り、顔を覆って泣き崩れた。「この日記は一年以上前に書かれたもので、筆跡鑑定の結果、そして紙への染み具合も、記載された日付と一致しています」「これらの証拠は全て、お父様が犯人であることを示しています」「私にも娘がいます。だからこそ、お父様の気持ちは分かります」木村警部は溜息をつきながら言った。「しかし、私は被害者のために真実を明らかにしなければなりません」私は涙を流しながら言った。「被害者のための真実?では、私の真実は誰が明らかにしてくれるんですか?」彼は長い間、黙っていた。 「なぜ自白したんですか?」私は顔を上げた。まだ感情を抑えきれない。「父は何十年も教壇に立ち、自分の名誉を何より大切にしていました。死んでからまで殺人者の汚名を着せるわけにはいきません」声を詰まらせながら。「私はずっと悪夢の中で生きてきました。もういっそ、このまま終わりにしたかったんです」
last update最終更新日 : 2024-12-02
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第12話

あの夜、私が薬を買いに出た時、確かに文夫さんと出くわした。酔っ払った彼は路上で私に暴行しようとした。九年前の夏の終わりを思い出し、恐怖が再び私を飲み込んだ。幸い、彼は酔いつぶれて、まともに立つこともできなかった。私は香水を彼の目に向けて吹きかけ、必死で突き飛ばした。その時、暗闇の中、木陰に人影が立っているように見えた。さらに恐怖が募り、私は千鳥足で家まで逃げ帰った。数分後、父が外から戻ってきた。穏やかな表情で、早く寝るようにと言った。浅野夫婦の喧嘩が終わった後、私は眠りについた。半分眠りかけた時、低く苦しそうな呻き声で目が覚めた。父に何かあったのかと思い、家の中を探したが見つからず、外に出ると、ちょうど父が浅野家から出てくるところだった。辺りは静まり返り、月の光が不気味に照らす中、父は工具箱を手に、服と顔に血をべったりと付けていた。父は私を見ると笑った。とても嬉しそうに、もう誰も芳子を苦しめることはないと言った。その瞬間、父が何をしたのか悟り、頭の中が真っ白になった。「どうして殺したの?」私は玄関先で父と言い争った。「奴らは死んで当然だ」月明かりの下、父の顔は異様に歪んでいた。「家に戻りなさい。私の計画を台無しにしたくなければ」正直に言えば、浅野夫婦が死んだと聞いた時、私の心の片隅にほんの少しの安堵があった。私は父の言うことを聞かずに、こっそりと後をつけた。裏庭で父が木に紐を結び、慧子さんの遺体を傾けるのを見た。そして窓枠によじ登り、釣り糸を使って鍵を慧子さんのポケットに戻すのを。全てを終えた父は振り返って、芳子、怖がらなくていいと言った。でも、私は震えが止まらなかった。結局、二つの命が目の前で消えていったのだから。おそらくあの夜の重労働と激しい感情の起伏が祟ったのか、数日後、父の心臓に異常が現れた。自首する前に亡くなってしまった。父の私への愛は山より重く、私のために人を殺したのだから、私は父に繋がる証拠を全て埋めた。浅野夫婦の死因を別のものにできると思ったけれど、見破られてしまった。その時、私は決意した。罪を被ることにしようと。全ての罪と悪を、父から遠ざけるために。
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第13話

私は涙を流しながら、途切れ途切れに真実を語り終えた。「はぁ、良い父親でしたね」木村警部は急に眉をひそめた。「待ってください......村田俊夫さんは、あなたの義父なんですよね?」「お母さんが再婚した時についてきた子供。実の娘ではない」すすり泣いていた私の鼻腔が、突然詰まったように声が出なくなった。「はい、父は......義父です。でも、実の娘のように育ててくれました」泣いた後のせいか、私の声は掠れていた。「お義父さんが発作を起こした時は、どの病院に運ばれましたか?」「県立総合病院です」私の答えを聞くと、彼は隅に行って電話をかけた。「私の考え過ぎでした。確かに心不全での死亡で、体に傷跡はなく、致死性の薬物も検出されていません」彼は安堵の溜息をつき、表情が和らいだ。「やっと事件が解決しました」「あとはあなたのことだけです」彼は私を見た。「同情はしますが、私情に流れるわけにはいきません」彼の言わんとすることは分かっていた。私は犯人ではないが、義父の罪を隠蔽しようとした。法の裁きを受けるのは当然だった。「当然の報いです。それと......お疲れ様でした」一年か二年の実刑を覚悟していた。しかし意外なことに、木村警部が裁判所に情状酌量を求めてくれた。最終的に、半年の刑期となった。この百数十日の夜は、私にとって最も安らかな時間だった。悪夢も、あの息苦しい恐怖も、もうなかった。半年後、私はあの高い塀の外に出た。
last update最終更新日 : 2024-12-02
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第14話

家で三日過ごした後、海外に戻る準備を始めた。なぜなら......やるべきことは全て終わったから。この日は普段より天気が良く、玄関に差し込む陽光が突然人影で遮られた。来訪者を見た瞬間、私は思わず震え、肩から鞄が滑り落ち、スタンガンが木村警部の足元にゆっくりと転がり出た。彼がスタンガンを拾い上げると、緩んでいた眉が一瞬で険しくなった。その光景に、私の背中から冷や汗が滲み出てきた。「木村警部、どうしてここに?」私は慌てて我に返った。「出発すると聞いたので、見送りに来ました」木村警部は手を上げた。「こんなものを持っているんですか?」 「以前、文夫さんに付きまとわれて怖かったので、護身用に買ったんです」私は屈んで荷物を拾い集めた。手がまだ微かに震えている。彼は私の言葉を信じたようで、頷いてスタンガンを鞄に戻してくれた。「また戻ってくるんですか?」「多分もう戻らないと思います」私は部屋を見回した。「ここは悪夢の始まりの場所。今は義父も亡くなって、もう何の未練もありません」「過去を忘れられることを願います。人生はまだ長い。これからは良い人生を」「ありがとうございます。お気をつけて」これが、私が彼に対して言った最も誠実な言葉だった。
last update最終更新日 : 2024-12-02
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第15話

飛行機が大空を横切り、異国の地を踏んだ瞬間、私は思い切り泣き崩れた。全ての憎しみ、積もり積もった恐怖と抑圧が、一気に溢れ出した。もう二度と国に戻ることはないと思っていた。だが二年後、世界を襲った感染症の流行で。叔父に付き添って帰国し、実家のある県の隣県に住むことになった。冬の季節、冷たい風が吹きすさぶ中。街で木村警部と出会った。以前より随分老け込み、こめかみの白髪も増えていた。「木村警部、お久しぶりです。お仕事帰りですか?」私は笑顔で声をかけた。「退職しました」彼は手を振り、胸を指さした。「働き過ぎで、ここにペースメーカーを入れたんです」「医者から電磁環境を避けるように言われて、退職するしかなくて……」突然、何かを思い出したように、彼は私を見つめ、信じられない表情を浮かべた。「あなた……確かスタンガンを持っていましたよね。お義父さんもペースメーカーを入れていて、心不全で亡くなった。まさか……あなたが?」「まさか、今の私があるのは義父のおかげですよ」私は微笑みを浮かべた。「それに、スタンガンで攻撃された場合、痕が残るはずです」「病院の検死報告書はご覧になったはずですよね」「確かに遺体に痕跡はありませんでした。考え過ぎでしたね」彼は安堵の溜息をついた。少し言葉を交わした後、私は彼に手を振って別れを告げた。まぶしい日差しの中、私の右手の掌に、まるで火傷のような傷跡がくっきりと浮かび上がっていた。それを見つめているうちに、彼の目は恐怖で満ちていった。
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第16話

確かに今の私は義父のおかげだ。日々怯えながら生きる私。憎しみだけを糧に生きる私。そして、彼は犯人ではなかった。本当の殺人者は私だった。さらに、彼も私が殺したのだ。あの年、母が亡くなった後、義父の村田俊夫の眼差しが変わった。怖かった。でも、18歳の私に何ができただろう?何も知らないふりをするしかなかった。あと一年我慢すれば、中学を卒業して、叔父が海外の学校に連れて行ってくれるはずだった。けれど、あの雨の日、浅野文夫に襲われ、それ以来、私の人生から光が消えた。浅野の暴挙は、義父の中の悪魔を解き放った。その夜から彼は私の部屋に忍び込むようになった。両手、両足には彼の残した傷跡が。警察への通報を止めたのは、自分の罪が露見するのを恐れてのことだった。学校に休暇を申請したのは、私を監視するため。そして、彼の欲望のままに。それが一年も......続いた。出国の日、彼は私をきれいに着飾らせ、空港まで送ってくれた。最後に「この事を誰かに話したら、お前の母親の遺骨を下水道に流す」と囁かなければ。慈愛に満ちた父のように見えたかもしれない。あの八年間、彼らから離れていても、私は毎晩悪夢に怯え、生きているのが辛かった。かつての晴れやかな人生は、永遠の闇に覆われた。どうして?どうして私がこんなに苦しむのに、彼らは平穏に暮らしていられるの?彼らが死ななければ、私は救われない。義父がペースメーカーを入れたと知った時、復讐を遂げる前に死なれては困ると思った。国内外の事件を研究し、殺人後の警察への対応まで、全て練習した。帰国後は、純真で無害な娘を演じ、まるで過去の出来事を忘れたかのように。義父は年老いていたが、八年前よりも更に執着めいた視線を向けてきた。文夫が私に付きまとう度、義父は獲物を守る虎のように。彼の目には、私はまだ八年前の玩具のままだった。2017年8月8日。あの夜、わざと文夫と出くわったのは、先ほど見知らぬ男が彼の家から慌てて出て行ったと告げるため。夫婦の喧嘩を引き起こしたのは、これから起こる事件に偽りの外観を与えるため。暗闇の中、木陰で、私は文夫の目が赤く染まるのを見ていた。家に戻ると、義父が居間に座っていた。私は平静を装った。「早く休んでください」私はそう言っ
last update最終更新日 : 2024-12-02
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第17話

最善の結末は、慧子が夫を殺して自殺したという偽りの外観で終わることだった。しかし、父の葬儀で遠くから警察車両が近づいてくるのを見た時、最初の偽装が見破られたかもしれないと悟った。だから自分の体に香水をつけ、自ら罪を認めることで、第二の偽装を作り上げた。前の二つの偽装は、全て第三の偽装のための布石。木村警部が現場検証で、私が木の幹に残した髪の毛を見つけるように仕向けた。そうして、第三の偽装が始まる。その時、義父はすでに火葬され、彼は家にある義父の遺品を調べるしかない。そこには、私が用意した事件の真相を覆すための証拠が。日記と、血の付いた衣服の切れ端。彼らは必ず、発見された証拠と、幾重もの霧が晴れた後の直感に合う真実を信じる。でも本当の真実は、すでに彼らの目の前に広げられていた。私が必死に隠そうとした「偽装」こそが、彼らに暴いてもらいたかった「真実」私を無罪にする「真実」完璧な犯罪など存在しない。私は賭けていた。木村警部が木の幹の白髪を見つけることに。幸い、それは成功した。身代わりから、全ての罪を義父に押し付けるまで。寒風吹きすさぶ、冷たい街で。「三人とも、あなたが殺したんですか?」ついに、木村警部は口にした。「いいえ、あの殺人事件に生存者はいません」私の表情が虚ろになった。復讐を遂げても、私の人生に帰る場所はない。残されたのは、ただ息絶え絶えの生……
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