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第11話

著者: 下山剣客
last update 最終更新日: 2024-12-02 17:00:09
父の日記。

2016年3月12日

また初夏が来た。あの事件さえなければ、芳子はきっと私の側にいただろうに。

2016年9月27日

今日も外で浅野に会った。憎い、殺してやりたい。あいつさえいなければ、芳子もこんなに長く家を離れずに済んだのに。

2016年12月5日

もう八年になる。この人生で芳子の結婚式を見ることができるだろうか。あの時、芳子をしっかり守れなかった私が悪い。死んでも妻に顔向けできない。

......

2017年7月30日

芳子が帰ってきた。本当に嬉しい。だが浅野はまだ芳子に付きまとっている。なぜだ、なぜこれほどの年月が過ぎても芳子を放っておかないのか。私が芳子のために何かをすべき時が来たのかもしれない。

2017年8月4日

今日、家具の移動を口実に、芳子に滑車を買いに行かせた。完璧な密室殺人の方法を思いついた。

2017年8月9日

ようやく二人は死んだ。もう誰も芳子を傷つけることはない。だが今日来た警察官の芳子を見る目つきが変だった。まさか芳子を犯人だと?

このままではいけない。自首しなければ。芳子を巻き込むわけにはいかない。

私はもう年老いた。それほど長くは生きられない。

......

「もう、読まないで」

築き上げた強がりが一瞬で崩れ落ち、私は日記を奪い取り、顔を覆って泣き崩れた。

「この日記は一年以上前に書かれたもので、筆跡鑑定の結果、そして紙への染み具合も、記載された日付と一致しています」

「これらの証拠は全て、お父様が犯人であることを示しています」

「私にも娘がいます。だからこそ、お父様の気持ちは分かります」木村警部は溜息をつきながら言った。「しかし、私は被害者のために真実を明らかにしなければなりません」

私は涙を流しながら言った。「被害者のための真実?では、私の真実は誰が明らかにしてくれるんですか?」

彼は長い間、黙っていた。

「なぜ自白したんですか?」

私は顔を上げた。まだ感情を抑えきれない。

「父は何十年も教壇に立ち、自分の名誉を何より大切にしていました。死んでからまで殺人者の汚名を着せるわけにはいきません」

声を詰まらせながら。

「私はずっと悪夢の中で生きてきました。もういっそ、このまま終わりにしたかったんです」
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    父の日記。2016年3月12日また初夏が来た。あの事件さえなければ、芳子はきっと私の側にいただろうに。2016年9月27日今日も外で浅野に会った。憎い、殺してやりたい。あいつさえいなければ、芳子もこんなに長く家を離れずに済んだのに。2016年12月5日もう八年になる。この人生で芳子の結婚式を見ることができるだろうか。あの時、芳子をしっかり守れなかった私が悪い。死んでも妻に顔向けできない。......2017年7月30日芳子が帰ってきた。本当に嬉しい。だが浅野はまだ芳子に付きまとっている。なぜだ、なぜこれほどの年月が過ぎても芳子を放っておかないのか。私が芳子のために何かをすべき時が来たのかもしれない。2017年8月4日今日、家具の移動を口実に、芳子に滑車を買いに行かせた。完璧な密室殺人の方法を思いついた。2017年8月9日ようやく二人は死んだ。もう誰も芳子を傷つけることはない。だが今日来た警察官の芳子を見る目つきが変だった。まさか芳子を犯人だと?このままではいけない。自首しなければ。芳子を巻き込むわけにはいかない。私はもう年老いた。それほど長くは生きられない。......「もう、読まないで」築き上げた強がりが一瞬で崩れ落ち、私は日記を奪い取り、顔を覆って泣き崩れた。「この日記は一年以上前に書かれたもので、筆跡鑑定の結果、そして紙への染み具合も、記載された日付と一致しています」「これらの証拠は全て、お父様が犯人であることを示しています」「私にも娘がいます。だからこそ、お父様の気持ちは分かります」木村警部は溜息をつきながら言った。「しかし、私は被害者のために真実を明らかにしなければなりません」私は涙を流しながら言った。「被害者のための真実?では、私の真実は誰が明らかにしてくれるんですか?」彼は長い間、黙っていた。 「なぜ自白したんですか?」私は顔を上げた。まだ感情を抑えきれない。「父は何十年も教壇に立ち、自分の名誉を何より大切にしていました。死んでからまで殺人者の汚名を着せるわけにはいきません」声を詰まらせながら。「私はずっと悪夢の中で生きてきました。もういっそ、このまま終わりにしたかったんです」

  • 継父、罪なき人   第10話

    「普通なら、自白した以上、手口についてこんな些細なことを隠すはずがない」彼は笑みを浮かべ、急に鋭い眼差しに変わった。「しかし、あなたの様子を見ていると、まるで犯人の手口を目撃はしたものの、具体的な数値は知らないかのようだ」「先ほどの反応で、この推理の確信が深まりました」「私たちは、ある人物を見落としていた。亡くなった数学教師を」「あなたは身代わりになっているんですね」突然、彼はそう言い放った。私の呼吸が急に荒くなった。その瞬間、彼が一歩一歩、仕掛けた罠へと私を誘い込んでいたことに気付いた。「木村警部、そんな根拠のない推理ばかりされるなら、お話を続ける意味がありません」「言葉は偽れても、証拠まで偽れますか?」木村警部は鞄から証拠袋を取り出した。中には、一本の白髪が入っていた。「現場検証の際、あのユーカリの木の樹液から、この白髪が見つかりました」「この白髪があなたのものであるはずがない。あなたに関係があり、かつ条件に合う人物といえば、あなたの父親しかいません」「ただ、お父様は既に火葬されていて、DNAの照合はできません。そこで、ご自宅にある父親の使用していた物で検査を行いました」「結果、この髪の毛のDNAはお父様のものと一致しました」「父はあの木の下でよく涼んでいました。髪の毛が落ちているのは当然です」私の声が不自然に震え始めた。おそらく我慢の限界に達したのか、彼は私の言い訳に反論せず、直接鞄から二つの証拠袋を取り出した。一つは焼け焦げた衣服の切れ端、もう一つは暗赤色の日記帳だった。それらの証拠袋を見た瞬間、私は椅子に崩れ落ちた。それは......私が庭に埋めたものだった。結局見つかってしまったのか。「衣服の切れ端はお父様のもので、文夫さんの血痕が付着していました」彼は言った。「本当に私が殺したんです。あの夜、やりやすいように父の大きめの服を着ただけです」私は目に涙を浮かべながら、最後の抵抗を試みた。「もういい加減にしなさい。ここまで来て、まだ犯人の身代わりを続けるつもりですか?」彼は追い詰めるように言った。「現場で発見された白髪の抜け落ちた時期は、事件発生時刻と一致します」「お父様の衣服には文夫さんの血痕が残っている」「まだ言い逃れをするんですか?」「日記に何が書かれているか、

  • 継父、罪なき人   第9話

    私は困惑して彼を見つめた。「あなたの話した手口通り、現場検証をしてみました。確かにその通りでした」彼は目を細めた。「しかし、事件の様相を一変させる新たな証拠も見つかりました」「もう事件は解決したはずです。私が殺したんです。そんな証拠を見つけて、一体何がしたいんですか?」私は声を荒げて問い詰めた。突然の心の動揺を隠すように。「では、前回あなたは三平方の定理を使って梁から木までの斜めの長さを計算したと言いましたね。その長さは?梁から床までの高さは?」木村警部は何かを確認したいような様子だった。私は驚いた。まさかこんな質問をされるとは。「私......忘れました」「忘れたんですか?それとも、そもそも知らなかったんですか?」「分かっています。考えさせてください」私は感情的になりながら、記憶の中の光景を探り、数字を口にした。「斜めの長さは4メートルくらいで、高さは3メートルくらいです」「具体的な数値を」彼は私を見据えた。私は自分の髪を掻き毟りながら、あの夜の状況を必死に思い出そうとした。しかし……くそっ、具体的な数値など、知るはずもなかった。木村警部は私の動揺を、悠然と観察していた。「早く言ってください」「時間を……時間をください」髪は掻き毟られてボサボサになり、額には冷や汗が浮かんでいた。しかし、どれだけ努力しても無駄な足掻きでしかなかった。「あなたは知らないでしょう。私から説明させてください」彼は言った。「浅野家の梁から床までの高さは3.5メートル、慧子さんが吊るされた位置から窓までは2.1メートル、窓から裏庭のユーカリの木までは1メートル。慧子さんを吊るした紐と彼女の身長を合わせると、およそ2.9メートル。三平方の定理によると、その斜辺、つまり梁から木までの斜めの長さは4.68メートルとなります。そこから紐と慧子さんの身長、そして窓から木までの距離を引く。犯人が窓枠に上って遺体と同じ高さになった時、距離はおよそ1.2メートルまで縮まり、誤差は10センチを超えません。その状態なら、釣り糸を使って鍵を慧子さんのポケットに戻すことの成功率は格段に上がります」

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