父が人を殺すところを目撃した。隣人を刺し殺し、その妻も絞殺して、現場を偽装した。私にはどうすればいいのか分からなかった。通報しようとも思った。でも、携帯を手にした瞬間、躊躇した。あの人は私の父なのだから。隣人夫婦は十数年も父をいじめ続け、今回は父の頭に汚物を浴びせかけた。それで父は衝動的に手を出してしまったのだ。父は近所でも評判の善人で、川に落ちた子供を二人も助けたことがある。一方、隣人夫婦は日頃から弱い者いじめばかりしていて、その死を喜ぶ人も多かった。しかも父は病状が悪化して、すでに他界している。父を死んでから殺人者の汚名を着せるわけにはいかない。そうして、私は警察に嘘をついた。だが今、取調室に連れてこられ、担当の木村警部が冷笑いを浮かべながら殺人事件の写真を私の目の前に並べ、何か話すことはないかと問うている。写真には、胸に果物ナイフが刺さった浅野文夫と、梁から吊るされた妻の慧子の無残な姿が写っていた。玄関は内側から施錠され、窓には鉄格子がついていて、たった二本の鍵のうち、一本はテーブルの上に、もう一本は死体となった慧子のポケットの中にあった密室殺人事件。偽装された現場写真を改めて見て、私は言葉を失い、目は恐怖に満ちていた。一瞬、木村警部に全てを見透かされたような気がした。「木村警部、どういうことですか?以前、慧子さんが文夫さんを殺してから自殺したと結論づけたではありませんか?なぜまたこれを見せるんです?」私は落ち着きを装って尋ねた。彼は漂う空気を一呑みして、目が光った。急に顔を上げる。「村田さん、前回、嘘をついたでしょう」包帯を巻いた右手が、思わず強張った。私が口を開く前に、木村は続けた。「前回何を聞いたか覚えていますか?」最初の聞き込みの時、彼は事件当夜私がどこにいたのか尋ねた。私は家で父の看病をしていたと答えた。そして十時から十二時の間に隣家から物音を聞いたかと聞かれ。夫婦の激しい喧嘩を聞いたと答えた。「家にいたと言いましたが、九時過ぎに慌てた様子で外から帰ってきたところを目撃した人がいます」彼は鋭い眼差しで私を見た。私は心臓が早鐘を打った。父を疑うどころか、私を犯人だと思っているとは。そうか、彼が来て話を聞いた翌日に父は亡くなったのだ。私しか疑え
最終更新日 : 2024-12-02 続きを読む