だが、思いもしなかったのは――奈々美がいきなりナイフを手に取り、私に向かって突き刺してきたことだった。 ――私たちは親友だったはず。なのに、どうして? どうして彼女が私を殺そうとするの? 奈々美の目は血走っていて、怒りと狂気に満ちていた。 「彼は変態なんかじゃない。彼は芸術家よ」 彼女の言葉が理解できなかった。 何を言っているのか、一つもわからない。私はその場に立ち尽くし、奈々美のナイフから身をかわすことも忘れていた。 その時――一つの影が私の前に飛び出してきた。 それは昴だった。彼は私を守るために、奈々美のナイフを腹に受けた。 ナイフが彼の体に深々と刺さるのを目の当たりにし、私は愕然とした。 ――この男は、私が殺人犯の共犯だと疑った相手なのに。どうして彼が、私をかばったの? 全く状況が理解できない。 昴はナイフを押さえながら、奈々美の肩にもたれかかり、かすれた声で言った。 「奈々美、やめるんだ……これ以上、誰も殺さないでくれ……」 奈々美は、倒れ込む昴を見つめていた。 その表情は、懊悔と心の痛みから、やがて決意と怒りへと変わっていった。 「昴、あなたまで私を裏切るのね……みんな、みんな死んでしまえばいいのよ!」 彼女の叫び声はヒステリックで耳をつんざくようだった。 私はこれ以上考える余裕もなく、本能的に逃げ出そうとした。 しかし、ドアはすでに施錠されていて、いくら試しても開かなかった。 奈々美は狂気を含んだ笑みを浮かべ、低く笑った。 「お兄さんは変態なんかじゃないわ。彼は偉大な芸術家だったのよ。あんたがそんな風に彼を侮辱するべきじゃなかったのよ」 彼女の言葉には狂気じみた確信が感じられた。 「もしあの夜、あなたが死んでいたら、彼はこの世で最も偉大な芸術家になれたのよ」 奈々美の顔は苦しみと憎しみが入り混じった狂気の表情になっていた。 「彼は私の異父兄なの。私たち、母親と彼女の愛人が一緒に過ごしていたあの部屋に、マジックミラーを取り付けて、こっそり覗いていたのよ」 「私はそこで母親を殺したの。そして彼が後始末をしてくれたの。警察を騙して、犯人は母親の愛人だと思わせたの」 その衝撃的な言葉に、私は全身が震えた。 「あなたたち、兄妹だったの?……それに、母
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