警察は犯人を取り逃がした。 古いアパートには防犯カメラもなく、通路や道に監視の死角が多い。 犯人がどうやって逃げたのか、誰も分からない。 後の調査で分かったことは、彼女は殺された後に辱められたこと。そして彼女が妊娠していたことだ。一つの死が、二つの命を奪った。 私も彼女とはそこそこ親しかった。だからこそ、妊娠していたと知って驚いた。 彼女は内気でおとなしく、外に出ることも少ないタイプ。男性を家に呼んだ様子なんて一度も見たことがない。それなのに、どうして……? 事件後、アパート全体が恐怖に包まれた。住人たちは防犯窓や鍵を次々と取り付け、特に独身女性たちは防犯スプレーを肌身離さなくなった。 こうして厳重な警戒が続く中、2か月が過ぎた。しかし、犯人はその間まるで姿を消したかのように静かだった。 やがて人々は日常に戻り始めた。 だが、それは嵐の前の静けさだった。 私にも、恐ろしい出来事が起き始めた。 生理が2か月以上来ていないことに気づき、親友の奈々美(ななみ)に相談のメッセージを送った。 奈々美とは学生時代からの仲で、何でも話せる相手だ。東京での生活がうまくいかず、地元に戻るよう説得してくれたのも彼女。さらに新しい仕事まで紹介してくれた。 今回も話を聞いてもらおうとしたが、奈々美は少し嬉しそうに言った。 「咲良(さくら)、もしかして妊娠してるんじゃない?新しい彼氏くらい紹介してよ」 私は笑って答えた。 「何言ってるの!男なんて興味ないし、2年も彼氏なんかいないよ!」 奈々美は割れたハートのスタンプを送ってきてから、冗談めかして言った。 「いいなあ。私は誰からも相手にされないし、子どもだって産めないのに……」 その言葉に、私はハッとした。 学生時代、奈々美は不良に硫酸をかけられて顔に大きな傷を負った。 そのせいで自信を失い、さらに卒業後、最低な男に騙されて心も体も傷ついた。中絶を何度も繰り返し、妊娠できない体になってしまったのだ。 私はすぐに奈々美に謝った。 彼女をなだめるのにずいぶん時間がかかったけれど、ようやく機嫌を直してくれた。 その後、私は妊娠検査薬を買いに行った。 そして……スティックに浮かび上がった二本の線を見た瞬間、目を見開いた。 本当に妊娠している?
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