夕日の最後の光が静かな海に吞まれていった。船上のすべてが、ようやく静寂に包まれた。誰も見ていない場所で、私は言介が冷たい彩葉の身体を引きずっていくのを見ていた。そして、迷うことなく彼女を海底へと放り投げた。「紗羽、桜曼、僕はあなたたちのために復讐を果たした」何かを思い出したように、彼はふっと笑みを浮かべた。「でも、まだ足りない」彼は呟いた。「一番罪深いのは僕だ、罰を受けるべきも僕だ」彼はその三分の二が沈んでいた船に再び乗り込んだ。「罪を償うのは、僕なんだ!」その船は徐々に沈み、深い海に吞まれていった。最後の波が消えると共に、私はふと過去の出来事を思い出した。あれは、言介がこのクルーズ船を購入した日のことだった。果てしない海の上、夕日の光に照らされて、私は彼と甲板に横たわっていた。船には信号がなく、私たちはカセットテープを聴いていた。古びたカセットテープからは、人魚姫の物語が流れていた。物語の結末は、人魚姫が泡となって消えるというものだった。「嫌だなぁ、どうして人魚姫は最後に泡になっちゃうの?」言介は私の額に優しくキスをして言った。「それは童話だからだよ」「心配しないで、僕がいる限り、あなたを人魚姫には絶対にしないから」その時、私は彼の言葉を心から信じていた。彼は決して私を裏切らないと信じていた。でも、忘れていたのだ。人魚姫の悲劇は王子がもたらしたものだった。その言葉が現実になってしまったのだ。【帰還の通路が開かれました。速やかにお戻りください。どうぞ安全な旅を。】システムの音声が再び響いた。【さらに、桜曼も連れて帰ることができるよう申請しました。ただし、彼女は小さな猫としてしか同行できませんが。】私の目から涙が溢れ出し、低く呟いた。「ありがとう、システム、本当にありがとう」そう言って、最後に振り返り、言介を見つめた。彼の魂も海面に浮かび上がり、私が見えるかのようにこちらを見ていた。「紗羽、紗羽」彼は私に向かって走り出した。だが、私はためらうことなく背を向け、システムが開いた扉の中へと足を踏み入れた。海の波は止むことなく打ち寄せ続ける。ただ、人魚姫が泡となって消えた物語は、時間の流れに飲み込まれていった。
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