篠田初は深く息を吸い、松山昌平のオフィスへと足を踏み入れた。 男の細長い体躯は、明るい大きな窓の前に立ち、肩幅広く、足も長かった。まるで彫刻のように美しく、その気質は卓越していた。 しかし、その周囲に漂う凍てつくような冷気が、部屋全体の空気を一気に氷点にまで引き下げていた。 どうやら、この冷酷な氷山のような男は、すべてを知っているらしかった。 それでも、篠田初は慌てることなく、落ち着いていた動作で、株式譲渡書を取り出した。彼の背中を見つめながら、平静を装って言った。「松山社長、もし時間があれば、ここにサインしてください。早めに財産をきっちり分ければ、離婚もスムーズにできると思うわ」 松山昌平はゆっくりと振り返り、その厳しいが美しい顔立ちは、背後の陽光に照らされ、いくらか柔らかな印象を与えた。彼の姿は、まさに極上の美しさだった。 「どうしてそんなに急いで手続きを進めたい?その前に、説明がいると思わないか?」彼は冷静に問いかけた。 「説明?」 篠田初は表情を変えず、やけくそのように答えた。「別に説明することなんてないわ。まず第一に、鈴木秀夫があなたに十億円を要求したのは、彼自身の考えで、私とは関係ない。信じるか信じないかはあなた次第」 「第二に、あなたたちの松山グループの顧客システムにはもともと欠陥があって、攻撃されるのは時間の問題だったの。私はただ、あなたたちのために地雷を先に取り除いただけ。復讐したいなら、ご自由にどうぞ」 「第三に、離婚協議書には白黒はっきりと、法律事務所は私のものだと書かれている。今サインしなくても、最終的には裁判所が強制的に執行するわ」 松山昌平はじっと彼女を見つめ、しばらく考え込んだ後、冷たく問いかけた。「何を言っている?」 「まだ説明が足りない?とにかく、さっさと終わらせてよ。時間を無駄にしないで」篠田初は、松山昌平が絶対に彼女を許さないだろうと確信しており、戦いに備えていた。 松山昌平は微かに眉をひそめ、冷たく響く声で言った。「さっきのプログラマーが言っていたことだが、君は彼の元カノで、俺と離婚するのも彼と元通りになるためだって......そのことについて、説明を聞きたい」 「何だって、彼の元カノ?」篠田初は驚きのあまり、咳き込みそうになった。「結局、彼が言ったことはそれだけ?」
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