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第12話

last update 最終更新日: 2025-04-22 17:00:58

「……何か言い訳はあるか?」

 ティボー公爵家の豪奢なタウンハウスの一室。

 足を高々と組んで、我が家には絶対になさそうな豪奢な椅子にふんぞり返って座るロベール・アラン・ティボー・ル・ロワ様。

 というかそんなに足を高く組まれると、スカートの中が見えて……あ、今日はご令息のお姿なので大丈夫ですね。はい。

 そして、一応わたしも令嬢なんで、椅子の前……と言うか、下で正座するのはできれば止めたいのですが?

 って、この状況、既視感ありますね?

「……いったいなんのことか、わかりかねますが?」

 だらだらと冷や汗を流しながら、つぃぃっと目の前の御仁から目を逸らす。

 ……ガシリと女性にしてはしっかりとした、男性らしい指先がわたしの顎を掴む。

 そのまま正面を向かされ、視界一杯に広がったのは……。

 綺麗な紅眼に不機嫌な色を乗せ、これまた不機嫌そうに歪んだ、アラン様のお顔だった。

 ……こんなお顔をさせる為に、頑張った訳じゃないんだけどな?

 チクリと胸を刺す痛みは何処から来るのか……。

 顎を掴まれたまま、立ち上がるよう促されて、そのまま流れるようにアラン様のお膝の上に横座り……ってなんで?!

 距離感おかしくないですか?!

「距離感おかしくないですか?!」

「……問題ない。婚約者同士のふれあいだからな」

 スパンと断言するアラン様。

 って、そのお話、まだ納得していないんですが?!

「……いいのか? お前が俺の婚約者だったから……今回の件、お咎めなしになったんだけどなぁ」

 不本意が顔に出ていたのだろう。

 アラン様がそのお美しい顔を意地悪気にニヤニヤさせて、わたしの
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    「誰? いいよ入って」 公爵様の不用心な言葉に、思わずいつでも逃げ出せるようにする。 だって入ってきたのがアン様だったら、なんでわたしがココにいるのか説明するのめんど…じゃなかった、大変だし。  ちょっと緊張してたら、入室してきたのは男性使用人だった。 服装から見るに公爵家の家令さんかな?「……お嬢様が女学院へお戻りになるそうです」 わたしの存在に一瞬だけ気配を揺らす家令さん。 ごめんなさいね、不審者で。 お宅のお嬢様のご帰宅に合わせて来ているもので……。お約束もせずにお邪魔しております。 そもそも玄関通ってきてないしね。「なんだ、ずいぶん早いな。彼奴は何をそんな……」「なんでも同室のお嬢様にお土産を渡したいから、早めにお戻りになるとのことでして……」 家令さんの言葉になんとなく視線を逸らすわたし。 あの……その……同室のって、もしかしなくともわたしのことですね?「ふぅん……あの子にしてはずいぶんと懐いたものだねぇ。……その同室のご令嬢とやらに」 公爵様からからかい混じりの視線が飛んでくる……。 いや、誰が同室かご存知ですよね?! そんな公爵様と家令さんのやり取りを気配を消しながら聴いてると、にわかに扉の外からざわめきが近づいてきた。「……あぁ、お嬢様がお戻りになる前に旦那様へご挨拶をとの事でしたので」「……せっかちだなぁ。もうそこまで来てるんだろう? 慌ただしくなってすまないね。ではこれからもよろしく頼むよ」 公爵様のお言葉を合図に、わたしはその場から姿を消した。 ……と言ってもアン様の護衛なので

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     そこまで考えたところで、ふっと空気が揺れた気配がした。 ちらりと視線を上げれば、ティボー公爵が口元を手で覆っている。そして僅かに揺れる肩。 何か? と訝し気な視線を無礼にならない程度に送ってみると、何度か空咳を繰り返した後、ティボー公爵が口を開いた。「……いや、我が息子は前途多難だと……思ってね」 ……公爵様の息子……と言えば、絶賛女装中のアラン様の事だろう。表向きには隣国に留学中だという。 そりゃまぁ、ご子息が女装してれば前途は多難だろうなと思わず遠くを見てしまう。 因みにアラン様は今この屋敷のどこかにいると思う。朝、今日は実家に顔を出すっておっしゃってたから。なんでも月に一回は実家に顔を見せる約束らしい。 念の為という事で、公爵家から迎えに来た馬車をこっそり点検したら、まぁ案の定だったんですけどね。 車軸に細工がしてあって、あのまま走り続けていれば、公爵家へ辿り着く前に車軸は折れて脱輪していたであろう。 なので、アン様がお出掛けになる前に、馬車の再手配をしつつ、脱輪した時にでも襲い掛かるつもりだったらしい暗殺者を片付けるよう公爵家の護衛さんにお願いしたりと、何かと慌ただしかった。 そして、ご帰宅されるアラン様、いや女装中だからアン様か? の護衛をしつつ、公爵様への定期報告に上がった次第だ。 さすがに公爵邸の中までは護衛は必要ないだろうと言うことと、アン様の護衛の合間を縫って報告を上げるよりは、このタイミングの方がいいだろうと言う、ご依頼人(ティボー公爵)様の配慮もあって、この場が秘密裏に設けられた訳で。「アンはね……隣国に狙われてるんだ」 おもむろに公爵様が話し出す。 って、聞きたくないんですが? それ、下手したら国に関わる機密ですよね? そんなわたしの内心を知ってか知らずか、公爵様のお口は止まらない。「どうやら隣国は、我が国の王太子に王女を輿入れさせたいらしくてね。 で、一番の候補であろうア

  • 銀のとばりは夜を隠す   第4話

    「……アン様、今日は第二食堂の方へ参りませんか?」 第一食堂の方から風に乗ってふわりふわりと食べ物の匂いがする。「……別に構わないけど……珍しいわね、レアが軽食中心の第二食堂へ行きたがるなんて……」 足りるの? とコテンと首を傾げるアン様は今日も麗しい。……言ってる事はなかなかに失礼だが。 いや、確かに第一食堂は女学院にあるまじきボリューム重視ですが、本来であれば美味しいんですよ! 大体アン様だって、その見目の麗しさからかけ離れた健啖家ぶりを見せてるじゃないですか!! わたしがそれ以上にがっつり食べてるから、バレてないだけですからねっ?! むしろわたしの存在に感謝してくれていいですからねっ?! そう頭の中で悶々としつつ、アン様の華奢なように見えて、意外にしっかりとした手を引いて第二食堂へ向かう。 ……その日の夕方、第一食堂で食中毒が発生したとの報が寮を駆け巡った。「仕事の方はどうかな?」 ふわふわとクッション性が高く、気を抜けば腰を取られふんぞり返って沈み込んでしまいそうな高級ソファに、なんとか背筋を伸ばしたまま座り続ける。……このソファ、ある意味鍛錬になるな? と詮無い事を考えながら、目の前の圧のある人物に視線を戻す。 といっても、相手を直視しないよう視線は落としたままだ。 そもそも、ソファの対面に座らせてくれるのだって、相手の爵位を考えれば破格の対応で、一介の田舎令嬢には過ぎた待遇だ。 ……だから、目の前のテーブルに用意されているお菓子にもなかなか手を伸ばすことが出来ない。 ある意味わたしに辛すぎる拷問だこれ。 あぁ、あの真っ白な粉糖で飾られた丸いクッキーとか、ピンク色に染まったクリームをちょこんと乗せたカップケーキとか、ほんと美味しそうなんですがっ!! くぅぅぅっ!!

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