あの話を聞いてから、私は詳しい出席メンバーを聞いて、心の中でため息を吐いていた。それほど大きくはない、そう彼は言ったが、出席メンバーはとてもVIPばかりだった。参加することは問題はないのだが、それにふさわしいドレスは必要だ。陽介さんから「金額は気にしなくていい」と言われ、さらに「フランスの外交官も出席する」と聞いた以上、手を抜くわけにはいかない。ブラックカードを渡されてはいるが、無駄遣いをするのは気が引けた。だが、場違いな恰好をして彼に恥をかかせる方が問題だろう。スマホを取り出し、昔お世話になっていた銀座のブランド店の担当者の連絡先を表示する。父に見つかる可能性がある場所だが、今の私のことなど気にも留めていないはずだ。それに、このことを父に知られないよう店長にお願いすれば問題ない。少し緊張しながら電話をかけると、電話越しに懐かしい声が聞こえた。「美優お嬢様! お久しぶりです。本当にご無沙汰しておりますね」 「ご無沙汰しております。突然の連絡で申し訳ありません」懐かしい声に少しだけほっとしながら、私は要件を伝えた。店長は快く歓迎してくれ、早速お店に来るよう促してくれた。安田さんに当麻の世話をお願いして、私は久しぶりに銀座の路面店へと向かった。店の前に立った瞬間、記憶が鮮明に蘇る。父とともに訪れた何度もの場面が頭に浮かんだ。ドアを開けると、店内の上品な香りとともに、変わらない温かな雰囲気が迎えてくれた。奥から現れた店長が、にこやかに出迎えてくれる。「美優お嬢様、本当にお久しぶりです」 「ご無沙汰しております。突然伺ってすみません」 軽く頭を下げると、店長は微笑みを浮かべた。「いろいろ事情がありまして……私がここに来たことは内密にしていただけますか?」 そう頼むと、店長は「もちろんです」とプロフェッショナルな微笑みで頷いてくれた。簡単にパーティーの内容を説明すると、店長は奥からいくつかのドレスを持ってきてくれた。「こちらはいかがでしょうか?」目の前に広げられたのは、まるで星空を切り取ったような、ネイビーのロングドレス。シルクの艶やかな生地に、小さなクリスタルが散りばめられており、動くたびに繊細に輝く。肩の部分はシースルーのレースが使われ、上品さと華やかさを兼ね備えている。「美優お嬢様にはこちらがとてもお似合いになるかと存じます。クラ
パーティー当日の夕刻が近づくころ、届けてもらったドレスに袖を通して鏡の前に立った。ネイビーのロングドレスは、滑らかな生地が肌に馴染み、クリスタルの装飾が光を受けて繊細に輝く。ヘアメイクを呼ぶ余裕はなかったが、昔を思い出して、自分でメイクを施し、髪もハーフアップに整えた。軽く巻いた髪が肩にかかり、鏡越しに少し昔の自分が蘇ったような気がした。アクセサリー類をどうしようかと悩んだが、実家から持ってきたものはないし、今さらどうにもならない。まあ、ないならないで、問題ないだろうと自分に言い聞かせる。そのとき、ドア越しに陽介さんの声が聞こえた。「準備できたか?」息を吐いて心を落ち着けると、私はドアに向かいその扉を開けた。「お待たせしました」そう言って彼の前に立つと、目の前の陽介さんが一瞬動きを止めた。驚いたような表情で私を見つめている。「……あの、陽介さん?」不安になってもう一度自分に目を落とす。ドレスは綺麗に整っているし、メイクもそれほどおかしくはないはず。何か問題があるのだろうかと心がざわつく。「いや……」陽介さんは一度目を伏せ、軽く息をついたあと、ゆっくりと口を開いた。「本当は俺がドレスとかを手配すべきだったんだ。そう気づいたんだが、忙しさにかまけてつい……でも、その心配は無用だったな。完璧だ」予想外の言葉に、私は少しだけ照れてしまった。「私が大丈夫だと言ったので、気にしないでください。ただ、少しお金は使わせてもらいました」途中で「どこか紹介しようか?」と彼が提案してくれたのを断ったことを思い出す。既に依頼済みだったので必要なかったのだが、こうして彼が気にしてくれたのは少し意外だった。「でも、これなら無駄にはならなさそうだ」そう言って、陽介さんは手にしていた箱を開けた。中には、美しいネックレスとイヤリングのセットが収められていた。シンプルながらも繊細なデザインで、ドレスの装飾にぴったり合いそうだ。クリスタルの輝きが、ドレスの装飾と呼応するかのように揺らめいている。「これ……」一瞬、言葉を失った私を見て、陽介さんが少し照れたように微笑む。「昨日、急いで用意したんだ。君に合うものかどうか心配だったが、これで正解だったみたいだな」足りないと思っていたものが、目の前に完璧な形で現れる。胸がじんわりと温かくなるのを感じながら、私はゆっくり
会場に到着すると、煌びやかな装飾とシャンデリアの明かりが目に飛び込んできた。ハイクラスなホテルの宴会場は、どこを見ても洗練された雰囲気が漂い、訪れた人々もまた、その場に相応しい服装で会話を楽しんでいる。「緊張する?」 陽介さんが隣でさりげなく声をかけてくれた。「いえ、大丈夫です」 思った以上に自然な答えが出たのは、自分でも驚きだった。昔の私なら、このような場に慣れていたからだろう。今の生活とはかけ離れているけれど、身体に染み付いた感覚は意外にも残っているものだ。受付で名前を告げ、会場内に進むと、すぐに陽介さんに声をかける人物が現れた。取引先の社長だろうか、年配の男性が陽介さんと笑顔で握手を交わす。「奥様ですね。お美しい方だ」 その言葉に思わず頬が熱くなるが、陽介さんがさらりとフォローしてくれる。「ええ、彼女にはとても感謝しています」 そう言う陽介さんの表情から本心はわかるわけはない。しばらくすると、場の空気が少しざわつき始めた。会場の中央に一人の男性が現れ、周囲の人々と挨拶を交わしている。彼こそがフランスの外交官であり、今回のパーティーの主賓だと聞いていた。「初めまして」 男性が陽介さんに近づき、流暢なフランス語で話しかけてきた。その瞬間、陽介さんが一瞬だけ眉をひそめるのが分かった。フランス語を理解しているものの、流暢に話せるほどではないのかもしれない。普通であれば外交官ならば、英語で会話と彼も思っていたのだろう。いつのまに来ていたのかわからないが、いきなり神崎さんがここぞとばかりに間に割り込んできた。「私にお任せください!」 自信たっぷりにそう言う神崎さんが英語で話すと、もちろん彼も英語で答えたが、少しだけ言葉選びに迷いがある気がする。きっとフランス語の方が堪能で、詳しい話はそちらでしたいのかもしれない。その様子を見た私は、自然と口を開いていた。「Monsieur, je suis enchantée de faire votre connaissance. Laissez-moi vous aider si besoin est.」(お会いできて光栄です。必要でしたら私がお手伝いします。)完璧な発音でフランス語を話した私に、外交官は驚いたような表情を見せ、すぐに穏やかな笑みを浮かべて答えた。「Ah, vous parlez
そんな中、目の前の老夫婦の女性が、グラスのワインを零してしまったのが見えた。咄嗟にすぐに駆け寄ると、すぐに彼女の和服についたワインを拭き少し会話をする。「お嬢さん、ありがとう。助かったわ」「いいえ、素敵なお着物ですね。小紋が見事です」着物も一通りしつけられ、純粋にその見事な柄に笑顔になる。少しだけ会話をして彼の元に戻ると、陽介さんが私をみて少し眉を寄せた。「何者?」陽介さんが冗談めかして言う。「……何を今さら。あなたの妻で、あなたの会社の清掃員ですよ」私は軽く微笑んで返したが、その瞳には冗談ではない色が混じっていた。「ふーん」それだけの単語からは、彼の意図はわからない。こんなふうに男性から見つめられることなんて経験のない私は、なんとなくあの日の夜のサングラスの奥の瞳を思い出してしまう。なんで今あの日のことを。落ち着かない気持ちをどうにかしようとしていたところで、「そろそろペアダンスの時間にな
「大丈夫か?」会場へ戻る途中、陽介さんが小さく囁く。彼の手はまだ私の手首を軽く掴んだままで、そのわずかな体温が妙に意識に残る。「ええ……」 私はゆっくりと頷く。 「でも、三条は私たちの結婚に何かしらの興味を持っているみたいです」「そうだろうな」陽介さんは眉を寄せ、険しい表情を見せた。 厳しい眼差しの奥に、鋭く研ぎ澄まされた警戒心が見える。「お前は彼と話したことがあるのか?」少し迷ったが、嘘をつく理由はない。「いいえ……正式に会ったことはありません。でも、昔、私の父が彼との縁談を進めようとしていました」陽介さんの歩みが止まる。「それは……初耳だな」「私自身が断ったので、結局会う前に破談になりました。ただ、彼がどういう人かは、調べて知っていました」私の声が少し硬くなるのを、自分でも感じる。三条のことを思い出すだけで、背筋に冷たいものが走る。彼がどういう男なのか、私は十分に理解していた。 あのとき、逃げてよかったと今でも思っている。陽介さんはしばらく黙っていた。 視線を伏せ、考え込むような表情を浮かべている。 やがて、彼は静かに息を吐き、低く言った。「これ以上、三条に関わるな」その言葉には、いつもより強い感情がこもっていた。 私を見つめる瞳は真剣そのもので、彼がわからなくなる。「俺が……お前を守る」低く、しかし確かに響くその言葉に、私は小さく息を呑んだ。(どうして……こんなふうに言うの?)彼の言葉は、あまりにもまっすぐで、強い。 なのに、それが胸の奥に深く染み込んで、揺さぶられる。契約結婚のはずなのに。 ビジネスとしての関係のはずなのに。「……はい」それ以上、何も言えなかった。 ただ、陽介さんの隣を歩きながら、彼の言葉の余韻に囚われていた。帰宅して、私はドレスを脱ぎ、静かにベッドへ腰を下ろした。(俺がお前を守る)あの言葉が、ずっと頭の中に残っている。冷徹でビジネスライクな人間だと思っていたのに。 今夜の言葉や行動には、確かに温かさがあった。(……どうして?)形式上の関係だったはずなのに、少しずつ「夫婦」としての実感が湧き始める。 だけど、それを認めるのが怖かった。(これはただの契約のはず)そう言い聞かせながらも、胸の奥が妙にざわつく。 陽介さんのことをもっと知りたくなる。 彼の声が、
ーー美優眠れなかった。パーティーの余韻がまだ体に残っていて、ベッドに横になっても意識が冴えてしまう。 陽介さんの言葉が、ずっと胸の奥でこだましている。「俺が……お前を守る」あの言葉に嘘はなかった。 けれど、それは契約上の責任としてなのか、それとも――。自分の中に芽生え始めた感情に、どうしても整理がつかなくて、私はベッドから抜け出した。静まり返った廊下を、そっと歩く。 夜の空気がひんやりと肌を撫でるなか、リビングの方から淡い光が漏れているのが見えた。(まだ起きてる……?)静かに覗くと、陽介さんがソファに深く座り、ワイングラスを片手に、何かをじっと見つめていた。「眠れないのか?」不意に私をみて陽介さんが、静かに問いかける。「はい……」素直にそう答えると、陽介さんは何も言わずに立ち上がり、ワイングラスをもう一つ用意してくれた。「飲めるか?」「……少しだけなら」ワイングラスを受け取ると、赤ワインのかすかな香りが鼻をくすぐる。 グラスの中でゆっくりと揺れる深紅の液体を見つめながら、私は小さく息を吐いた。しばらくの沈黙。夜の静寂が、二人の間に漂う。口を開くべきか迷いながらも、私はゆっくりと切り出した。「三条のこと……黙っていてごめんなさい」陽介さんの手が一瞬だけ止まる。「いや……あの男との縁談のことを聞いて、色々と納得した」そう言いながら、彼は静かにグラスを傾ける。「それにしても、お前の語学力とパーティーでの振る舞い。掃除婦とは思えないほどだった。素性を聞いてもいいのか?」言葉の端々に探るような気配を感じた。私は小さく笑いながら、ワインを一口含む。「そんなに特別なことではありません。私はただ、昔そういう環境にいた……それだけです」「環境?」「……母が華族の家系で、父は京華堂の社長でした。だから、小さい頃から社交の場に出る機会が多くて。おかげで、礼儀作法も語学も、叩き込まれました」陽介さんは声を発することはなかったが、かなり驚いた表情をした。そんな彼から視線を逸らすと、私は続けた。「でも、父は私のことを"商売の道具"としか見ていなかった。私が大学院へ進学しようとすると、いい縁談の話ばかり持ってきて……。三条との縁談もそのひとつでした」「それで、家を出たのか?」「はい。でも、家を出たからといって、すぐに自立で
朝の光が薄いカーテン越しに差し込んできた。私はそのまぶしさに顔をしかめながら、ぼんやりと瞳を開いた。体が重く、頭がぐらぐらする。この感覚は…酒のせいだとすぐに分かった。昨夜、相当飲んだんだな、と自分に呆れながら体を起こそうとした瞬間、隣に誰かがいることに気づいて、心臓が止まるかと思った。「え…?」ベッドの中、私の隣に見知らぬ男性が寝ている。背が高く、広い肩が布団の下から覗いているのが見えた。混乱した頭の中で必死に昨夜の記憶をたどろうとするが、アルコールのせいか、細部がぼやけている。なんで私、こんなところにいるの?混乱する中でふと、彼の首元に目が留まった。そこには、見覚えのあるチェーンがぶら下がっている。それは…私の祖母の形見の指輪。昨夜、私は酔った勢いでこの人にそれを渡してしまったのだ。思い出して、冷や汗がじわりと出る。「やばい…」その指輪を取ろうと、彼に手を伸ばすと気配を感じたのか、彼が寝返りを打った。私は慌ててベッドから抜け出し、できるだけ静かに服を手に取った。ドアの方に向かおうとするけど、頭の中では昨夜の出来事が断片的にフラッシュバックしてくる。彼とは確か、バーで出会った…。「お待たせしました、ジントニックです。」カウンター越しに低い声が聞こえ、私は顔を上げた。サングラスをかけたバーテンダーが、グラスをそっと私の前に置く。背が高くて、スーツ姿がよく似合う彼に、私はいつも目を奪われてしまう。サングラスをかけているせいで、表情はよくわからないけど、どこか寡黙でクールな雰囲気がある。何度か来たことのある、会社の近くのバー。店内は明かりが落とされていて落ち着く空間だ。彼と一緒に、もう一人同じぐらいの男性がいるこの店。私もいつもは誰かと来るため、あまり気にしていなかったが、今日は訳あって一人。アルコールも手伝って声をかけていた。「ありがとうございます。でも…なんでサングラス?」私は、つい好奇心でそんなことを聞いてしまった。だって、室内なのにサングラスって普通じゃない。彼は静かに口を開いた。「視力が弱くて」一瞬、私は何も言えなくなった。気まずくて、どう返事をすればいいかわからない。無意識に、グラスを口元に運びながら、私は彼をちらりと見た。彼は気にする様子もなく、穏やかに立っていた。「ごめんなさい…そんなつもりじゃなかったの。」「
部屋を出た私は、冷たい朝の空気を吸い込みながら、昨夜の出来事を振り返っていた。どうしてあんなことをしてしまったんだろう。思わず顔を覆いたくなるような後悔が、胸の奥でじわじわと広がる。指輪を彼に渡してしまったことも、今になってようやく重くのしかかってきた。あれは、私にとって祖母からの大切な形見だったのに。酔いがさめた今、その重大さが痛いほど感じられる。「私、どうかしてた…」呟くと同時に、ふと昨夜の彼の優しい声が耳に蘇る。私の愚痴を黙って聞いてくれて、どんなに酔っても優しく対応してくれた彼。目が見えないのに、まるで私の心の中まで見透かすような、そんな不思議な感覚があった。Side 陽介半年前、俺は事故で視力を失った。突然訪れた暗闇の中で、生きる意味も自信も失ったような気がした。自分がこれまで築いてきたものが、すべて手の届かない場所へと消えていくような感覚だった。それでも、どうにか立ち直ろうと決意し、今はバーテンダーとして働いている。店のカウンター越しに、彼女――名前も知らない女性がどんな人なのかをぼんやりと想像していた。いつも通り、声や気配から客の様子を察してきたが、彼女の声にはどこか疲れや寂しさが滲んでいた。酒の匂い、重く響く愚痴、そして時折漏れるため息。「家が厳しいんだよね…お見合いだって、恋も結婚も好きに選べないし。っていっても、恋なんてしたことないんだけどね」彼女は自分の悩みを打ち明けるように語り続けた。俺はあえて黙って聞いていた。バーテンダーとして、人の話を受け止めるのは慣れている。客の感情を聞き流すのも仕事の一部だと思っていたからだ。けれど、彼女の声には何か特別なものを感じていた。心の奥に触れるような、そんな響きがあった。気づけば、俺は彼女のことをもっと知りたいと思っていた。しかし、それが俺自身の感情なのか、それとも彼女の孤独が自分に投影されているだけなのかは、まだわからなかった。「自由になりたいだけなのに、恋もしてみたい…」彼女の声が震えた。その瞬間、俺は自分もかつて同じような感情を抱いていたことを思い出した。目が見えなくなった時、自分の自由も奪われたように感じた。だからこそ、彼女の言葉に共感してしまったのかもしれない。「そんな時もあるよ。自分を責めない方がいい。」そう声をかけた時、彼女がどんな反応をしたのかは見えなかったが、
ーー美優眠れなかった。パーティーの余韻がまだ体に残っていて、ベッドに横になっても意識が冴えてしまう。 陽介さんの言葉が、ずっと胸の奥でこだましている。「俺が……お前を守る」あの言葉に嘘はなかった。 けれど、それは契約上の責任としてなのか、それとも――。自分の中に芽生え始めた感情に、どうしても整理がつかなくて、私はベッドから抜け出した。静まり返った廊下を、そっと歩く。 夜の空気がひんやりと肌を撫でるなか、リビングの方から淡い光が漏れているのが見えた。(まだ起きてる……?)静かに覗くと、陽介さんがソファに深く座り、ワイングラスを片手に、何かをじっと見つめていた。「眠れないのか?」不意に私をみて陽介さんが、静かに問いかける。「はい……」素直にそう答えると、陽介さんは何も言わずに立ち上がり、ワイングラスをもう一つ用意してくれた。「飲めるか?」「……少しだけなら」ワイングラスを受け取ると、赤ワインのかすかな香りが鼻をくすぐる。 グラスの中でゆっくりと揺れる深紅の液体を見つめながら、私は小さく息を吐いた。しばらくの沈黙。夜の静寂が、二人の間に漂う。口を開くべきか迷いながらも、私はゆっくりと切り出した。「三条のこと……黙っていてごめんなさい」陽介さんの手が一瞬だけ止まる。「いや……あの男との縁談のことを聞いて、色々と納得した」そう言いながら、彼は静かにグラスを傾ける。「それにしても、お前の語学力とパーティーでの振る舞い。掃除婦とは思えないほどだった。素性を聞いてもいいのか?」言葉の端々に探るような気配を感じた。私は小さく笑いながら、ワインを一口含む。「そんなに特別なことではありません。私はただ、昔そういう環境にいた……それだけです」「環境?」「……母が華族の家系で、父は京華堂の社長でした。だから、小さい頃から社交の場に出る機会が多くて。おかげで、礼儀作法も語学も、叩き込まれました」陽介さんは声を発することはなかったが、かなり驚いた表情をした。そんな彼から視線を逸らすと、私は続けた。「でも、父は私のことを"商売の道具"としか見ていなかった。私が大学院へ進学しようとすると、いい縁談の話ばかり持ってきて……。三条との縁談もそのひとつでした」「それで、家を出たのか?」「はい。でも、家を出たからといって、すぐに自立で
「大丈夫か?」会場へ戻る途中、陽介さんが小さく囁く。彼の手はまだ私の手首を軽く掴んだままで、そのわずかな体温が妙に意識に残る。「ええ……」 私はゆっくりと頷く。 「でも、三条は私たちの結婚に何かしらの興味を持っているみたいです」「そうだろうな」陽介さんは眉を寄せ、険しい表情を見せた。 厳しい眼差しの奥に、鋭く研ぎ澄まされた警戒心が見える。「お前は彼と話したことがあるのか?」少し迷ったが、嘘をつく理由はない。「いいえ……正式に会ったことはありません。でも、昔、私の父が彼との縁談を進めようとしていました」陽介さんの歩みが止まる。「それは……初耳だな」「私自身が断ったので、結局会う前に破談になりました。ただ、彼がどういう人かは、調べて知っていました」私の声が少し硬くなるのを、自分でも感じる。三条のことを思い出すだけで、背筋に冷たいものが走る。彼がどういう男なのか、私は十分に理解していた。 あのとき、逃げてよかったと今でも思っている。陽介さんはしばらく黙っていた。 視線を伏せ、考え込むような表情を浮かべている。 やがて、彼は静かに息を吐き、低く言った。「これ以上、三条に関わるな」その言葉には、いつもより強い感情がこもっていた。 私を見つめる瞳は真剣そのもので、彼がわからなくなる。「俺が……お前を守る」低く、しかし確かに響くその言葉に、私は小さく息を呑んだ。(どうして……こんなふうに言うの?)彼の言葉は、あまりにもまっすぐで、強い。 なのに、それが胸の奥に深く染み込んで、揺さぶられる。契約結婚のはずなのに。 ビジネスとしての関係のはずなのに。「……はい」それ以上、何も言えなかった。 ただ、陽介さんの隣を歩きながら、彼の言葉の余韻に囚われていた。帰宅して、私はドレスを脱ぎ、静かにベッドへ腰を下ろした。(俺がお前を守る)あの言葉が、ずっと頭の中に残っている。冷徹でビジネスライクな人間だと思っていたのに。 今夜の言葉や行動には、確かに温かさがあった。(……どうして?)形式上の関係だったはずなのに、少しずつ「夫婦」としての実感が湧き始める。 だけど、それを認めるのが怖かった。(これはただの契約のはず)そう言い聞かせながらも、胸の奥が妙にざわつく。 陽介さんのことをもっと知りたくなる。 彼の声が、
そんな中、目の前の老夫婦の女性が、グラスのワインを零してしまったのが見えた。咄嗟にすぐに駆け寄ると、すぐに彼女の和服についたワインを拭き少し会話をする。「お嬢さん、ありがとう。助かったわ」「いいえ、素敵なお着物ですね。小紋が見事です」着物も一通りしつけられ、純粋にその見事な柄に笑顔になる。少しだけ会話をして彼の元に戻ると、陽介さんが私をみて少し眉を寄せた。「何者?」陽介さんが冗談めかして言う。「……何を今さら。あなたの妻で、あなたの会社の清掃員ですよ」私は軽く微笑んで返したが、その瞳には冗談ではない色が混じっていた。「ふーん」それだけの単語からは、彼の意図はわからない。こんなふうに男性から見つめられることなんて経験のない私は、なんとなくあの日の夜のサングラスの奥の瞳を思い出してしまう。なんで今あの日のことを。落ち着かない気持ちをどうにかしようとしていたところで、「そろそろペアダンスの時間にな
会場に到着すると、煌びやかな装飾とシャンデリアの明かりが目に飛び込んできた。ハイクラスなホテルの宴会場は、どこを見ても洗練された雰囲気が漂い、訪れた人々もまた、その場に相応しい服装で会話を楽しんでいる。「緊張する?」 陽介さんが隣でさりげなく声をかけてくれた。「いえ、大丈夫です」 思った以上に自然な答えが出たのは、自分でも驚きだった。昔の私なら、このような場に慣れていたからだろう。今の生活とはかけ離れているけれど、身体に染み付いた感覚は意外にも残っているものだ。受付で名前を告げ、会場内に進むと、すぐに陽介さんに声をかける人物が現れた。取引先の社長だろうか、年配の男性が陽介さんと笑顔で握手を交わす。「奥様ですね。お美しい方だ」 その言葉に思わず頬が熱くなるが、陽介さんがさらりとフォローしてくれる。「ええ、彼女にはとても感謝しています」 そう言う陽介さんの表情から本心はわかるわけはない。しばらくすると、場の空気が少しざわつき始めた。会場の中央に一人の男性が現れ、周囲の人々と挨拶を交わしている。彼こそがフランスの外交官であり、今回のパーティーの主賓だと聞いていた。「初めまして」 男性が陽介さんに近づき、流暢なフランス語で話しかけてきた。その瞬間、陽介さんが一瞬だけ眉をひそめるのが分かった。フランス語を理解しているものの、流暢に話せるほどではないのかもしれない。普通であれば外交官ならば、英語で会話と彼も思っていたのだろう。いつのまに来ていたのかわからないが、いきなり神崎さんがここぞとばかりに間に割り込んできた。「私にお任せください!」 自信たっぷりにそう言う神崎さんが英語で話すと、もちろん彼も英語で答えたが、少しだけ言葉選びに迷いがある気がする。きっとフランス語の方が堪能で、詳しい話はそちらでしたいのかもしれない。その様子を見た私は、自然と口を開いていた。「Monsieur, je suis enchantée de faire votre connaissance. Laissez-moi vous aider si besoin est.」(お会いできて光栄です。必要でしたら私がお手伝いします。)完璧な発音でフランス語を話した私に、外交官は驚いたような表情を見せ、すぐに穏やかな笑みを浮かべて答えた。「Ah, vous parlez
パーティー当日の夕刻が近づくころ、届けてもらったドレスに袖を通して鏡の前に立った。ネイビーのロングドレスは、滑らかな生地が肌に馴染み、クリスタルの装飾が光を受けて繊細に輝く。ヘアメイクを呼ぶ余裕はなかったが、昔を思い出して、自分でメイクを施し、髪もハーフアップに整えた。軽く巻いた髪が肩にかかり、鏡越しに少し昔の自分が蘇ったような気がした。アクセサリー類をどうしようかと悩んだが、実家から持ってきたものはないし、今さらどうにもならない。まあ、ないならないで、問題ないだろうと自分に言い聞かせる。そのとき、ドア越しに陽介さんの声が聞こえた。「準備できたか?」息を吐いて心を落ち着けると、私はドアに向かいその扉を開けた。「お待たせしました」そう言って彼の前に立つと、目の前の陽介さんが一瞬動きを止めた。驚いたような表情で私を見つめている。「……あの、陽介さん?」不安になってもう一度自分に目を落とす。ドレスは綺麗に整っているし、メイクもそれほどおかしくはないはず。何か問題があるのだろうかと心がざわつく。「いや……」陽介さんは一度目を伏せ、軽く息をついたあと、ゆっくりと口を開いた。「本当は俺がドレスとかを手配すべきだったんだ。そう気づいたんだが、忙しさにかまけてつい……でも、その心配は無用だったな。完璧だ」予想外の言葉に、私は少しだけ照れてしまった。「私が大丈夫だと言ったので、気にしないでください。ただ、少しお金は使わせてもらいました」途中で「どこか紹介しようか?」と彼が提案してくれたのを断ったことを思い出す。既に依頼済みだったので必要なかったのだが、こうして彼が気にしてくれたのは少し意外だった。「でも、これなら無駄にはならなさそうだ」そう言って、陽介さんは手にしていた箱を開けた。中には、美しいネックレスとイヤリングのセットが収められていた。シンプルながらも繊細なデザインで、ドレスの装飾にぴったり合いそうだ。クリスタルの輝きが、ドレスの装飾と呼応するかのように揺らめいている。「これ……」一瞬、言葉を失った私を見て、陽介さんが少し照れたように微笑む。「昨日、急いで用意したんだ。君に合うものかどうか心配だったが、これで正解だったみたいだな」足りないと思っていたものが、目の前に完璧な形で現れる。胸がじんわりと温かくなるのを感じながら、私はゆっくり
あの話を聞いてから、私は詳しい出席メンバーを聞いて、心の中でため息を吐いていた。それほど大きくはない、そう彼は言ったが、出席メンバーはとてもVIPばかりだった。参加することは問題はないのだが、それにふさわしいドレスは必要だ。陽介さんから「金額は気にしなくていい」と言われ、さらに「フランスの外交官も出席する」と聞いた以上、手を抜くわけにはいかない。ブラックカードを渡されてはいるが、無駄遣いをするのは気が引けた。だが、場違いな恰好をして彼に恥をかかせる方が問題だろう。スマホを取り出し、昔お世話になっていた銀座のブランド店の担当者の連絡先を表示する。父に見つかる可能性がある場所だが、今の私のことなど気にも留めていないはずだ。それに、このことを父に知られないよう店長にお願いすれば問題ない。少し緊張しながら電話をかけると、電話越しに懐かしい声が聞こえた。「美優お嬢様! お久しぶりです。本当にご無沙汰しておりますね」 「ご無沙汰しております。突然の連絡で申し訳ありません」懐かしい声に少しだけほっとしながら、私は要件を伝えた。店長は快く歓迎してくれ、早速お店に来るよう促してくれた。安田さんに当麻の世話をお願いして、私は久しぶりに銀座の路面店へと向かった。店の前に立った瞬間、記憶が鮮明に蘇る。父とともに訪れた何度もの場面が頭に浮かんだ。ドアを開けると、店内の上品な香りとともに、変わらない温かな雰囲気が迎えてくれた。奥から現れた店長が、にこやかに出迎えてくれる。「美優お嬢様、本当にお久しぶりです」 「ご無沙汰しております。突然伺ってすみません」 軽く頭を下げると、店長は微笑みを浮かべた。「いろいろ事情がありまして……私がここに来たことは内密にしていただけますか?」 そう頼むと、店長は「もちろんです」とプロフェッショナルな微笑みで頷いてくれた。簡単にパーティーの内容を説明すると、店長は奥からいくつかのドレスを持ってきてくれた。「こちらはいかがでしょうか?」目の前に広げられたのは、まるで星空を切り取ったような、ネイビーのロングドレス。シルクの艶やかな生地に、小さなクリスタルが散りばめられており、動くたびに繊細に輝く。肩の部分はシースルーのレースが使われ、上品さと華やかさを兼ね備えている。「美優お嬢様にはこちらがとてもお似合いになるかと存じます。クラ
閑話 陽介美優と当麻が寝静まった夜。リビングの静けさが、まるでこの家全体を包み込んでいるようだった。俺は一人、仕事用の資料を広げたまま、傍らに置いたグラスを手に取る。ワインの赤が照明に揺れているのを見つめながら、口に含んだ。柔らかな酸味が喉を通り抜け、じんわりと体に染み込む。「本当に、これでよかったのか……」独り言のように呟いた言葉が、静まり返った部屋の中に溶けていった。目の前には終わっていない仕事が山積みだが、どうしても集中できない。頭の中を占めるのは、あの夜の記憶と、今目の前にあるこの生活の温かさの間に揺れる自分自身のことだった。あの夜のことを忘れたことは一度もない。俺の人生で唯一、心から救われた夜だった。失明して何もかもを失ったと思い込んでいた俺に、たった一人、寄り添ってくれた彼女。彼女の手から伝わる温かさ、彼女の声が紡ぐ優しさ。そのすべてが、俺にもう一度前を向く力を与えてくれた。俺はあの時の彼女を探し続けてきたつもりだし、今でもその気持ちは変わっていない——そのはずだった。それでも、今。美優と当麻と暮らす日々の中で、俺は初めて家庭というものの温かさを知った気がする。命を狙われる危険にさらされ、財産や後継者争いに巻き込まれる。そんな殺伐とした環境が当たり前だった俺にとって、この穏やかな時間は異質で、どこか戸惑いを覚えるほどだ。当麻が無邪気に笑いかけてくれるたびに、胸の奥が温かくなる。この家で、美優が忙しそうに動き回りながらも俺に気を配る姿を見るたびに、落ち着かない気持ちと同じぐらい温かくなる。俺は何をしているんだろう…。あの夜の彼女への気持ちは今でも変わらない。それでも、美優と当麻と過ごすうちに、この二人を守りたいと思う自分がいる。それが義務感だけではないことも、薄々気づいている。一方で、悠馬のことも気がかりだ。俺たちは異母兄弟だが、兄弟として育ってきたことに変わりはない。母が悠馬をCEOにするために何を考えているのかは、だいたい分かっている。三条の会社と手を組んでいるのも、その一環なのだろう。母が悠馬を利用している——それは間違いない。だが、もしかすると母自身も騙されているのかもしれない。父に相手にされなくなった今、母は追い詰められていて、必死なのかもしれない。それにしても、今の俺がいくら三条の会社の危険性を説明しても、悠馬には
あの日から二週間、なんとなく穏やかな生活が始まった。もちろん愛など恋などという関係ではないが、仕事と割り切ったことで、私も彼に接することができていると思う。「掃除の前にこの場所は使うのかな……」掃除用具を手に、ほとんど使われていなさそうな小さな会議室横の倉庫を掃除していると、隣の会議室から低い声が聞こえてきた。扉が少しだけ開いていて、中の様子は見えないが、声の主は義母と悠馬COOだとすぐに分かった。「このことは、あなた一人で進めるべきよ」「でも、母さん。金額が大きいし、本当にこの会社の技術が実用化できるのかは――」悠馬COOの声に、義母が遮るように語気を強める。「お母さんを信じなさい。この会社の後ろ盾があれば、あなたは間違いなく次期CEOよ」私は手を止め、息を潜めて耳を澄ませた。話を聞いていると、義母の声には確信があるように聞こえるが、その内容はどうも引っかかる。融資額の桁外れの大きさと、技術の詳細について語られているのを聞くうちに、私の胸の奥に不安が広がった。(そんな話、怪しすぎる……。)話を聞き続けていると、義母が続ける。「日にちはパーティーの日。別室で内密に契約をすることになってるわ」「……でも、陽介兄さんが気づいたらどうする?」「大丈夫よ。陽介は知る術がないもの。それにグローバルネクサス社の三条さんからの直接のお話なのよ」私は背筋に冷たいものを感じた。三条の紹介なんて、裏があるに決まっている。悠馬COOが被害を被るどころか、会社全体が危機に陥る可能性すらある。(何とかして止めなきゃ……)そう思った瞬間、持っていたモップが手から滑り落ち、床に軽い音を立てた。「誰だ?」悠馬の声が近づいてくる。私は慌ててモップを拾い上げ、あたかも倉庫内で掃除していたかのように振る舞った。扉が開き、悠馬COOが覗き込む。その時、彼のスマホが音を立てて、彼はそのままそれに出ると、扉を閉めて出て行った。(あぶなかった……)ようやく大きく呼吸すると、掃除を再開した。あの翌日、私は陽介さんから予想もしなかった言葉をかけられた。「週末、パーティーに同伴してほしい」その申し出に、一瞬どう答えるべきか迷った。会社のパーティーなら、妻として出席するのも仕事の一環だとは思う。でも、私たちの結婚は形式的なもの。それを思い出すたび、胸の奥に小さな違和感が
「弟さんのことを大切にしてるんですね」私の言葉に、陽介さんは一瞬だけ目を伏せた。「向こうはそうは思っていないだろうけどな」少し悲しげな表情を浮かべながら、彼は苦笑する。その顔には、どこか諦めが滲んでいた。「俺と弟は母親が違うんだ」その言葉に、私は小さく息を飲む。なんとなくそんな気がしていたが、やはりそうなのかと確信に変わる。義母――彼のお母様の言動や態度からも、何かしら考えがあるのだろうと薄々感じていた。「お母様は、神崎さんとのご結婚を望んでいらっしゃったんですよね?」彼は無言のまま、視線を遠くに投げる。「でも、それはどうして……」私は勇気を振り絞って問いかける。彼と神崎さんの結婚が望まれていたのなら、なぜ私のような存在を選んだのか、その理由をどうしても知りたかった。陽介さんは少し間を置いてから、低い声で答えた。「母にとって、神崎は都合が良かったんだろう。彼女なら自分の思い通りにできると思ってる」確かに、神崎さんはお母様の言いなりのように見える部分もあった。「それはたしかに……」「もしかして母もここに来たのか?」その話をしていなかったなと思いつつ、「初めのころに」それだけ答えると、陽介さんは髪をかきあげて大きく気を吐いた。「すまない」その言葉には、冷たさの中にどこか悔しさのような感情が垣間見えた。彼の母親――義母が、陽介さんの人生にどれほどの影響を及ぼしてきたのかを想像すると、胸が締め付けられる思いだった。「じゃあ、神崎さんとの結婚を拒むために、私を……?」私の問いに、陽介さんは初めて正面から私を見つめた。その瞳には、冷静さの奥に隠された迷いが映っていた。「そうだと言ったら、君はどう思う?」なんとなく彼の瞳は揺れていて、後悔が滲んでいるようにも見えた。私はつとめて明るく言葉を発する。「その理由なら、他の女性でもよかったんじゃないですか? いくらでも利益になる方はいますよね?」思わずそう問いかけた私に、陽介さんは少し驚いたように目を細めた。しかし、気を悪くすることもなく、むしろアルコールが入っているせいか柔らかな雰囲気のまま、申し訳なさそうに言葉を続けた。「自意識過剰だと思うかもしれないが……みんな、なんだかんだ俺にいろいろ求めたり、本当の結婚にしたがるんだ」その言葉に、私は一瞬言葉を失った。彼のような人だからこそ、