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Novels by mako

見えない世界で出会った二人の約束

見えない世界で出会った二人の約束

一夜の過ちが、予期せぬ運命を引き寄せる――家族の厳しいお見合い話に追い詰められ、やけになってバーに飛び込んだ美優。彼女はそこで、目の見えないミステリアスなバーテンダーと出会い、酔いの勢いで一夜を共にしてしまう。しかし、彼に祖母の形見の指輪を託してしまったことに気づき、翌朝慌てて逃げ出す美優。数年後、偶然にも彼の会社で再会する二人。彼は大手企業のCEOだった――果たして、二人の運命の糸は再び交わるのか?見えない視線の中で織り成される恋物語。
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Chapter: 第二十四夜
そんな中、目の前の老夫婦の女性が、グラスのワインを零してしまったのが見えた。咄嗟にすぐに駆け寄ると、すぐに彼女の和服についたワインを拭き少し会話をする。「お嬢さん、ありがとう。助かったわ」「いいえ、素敵なお着物ですね。小紋が見事です」着物も一通りしつけられ、純粋にその見事な柄に笑顔になる。少しだけ会話をして彼の元に戻ると、陽介さんが私をみて少し眉を寄せた。「何者?」陽介さんが冗談めかして言う。「……何を今さら。あなたの妻で、あなたの会社の清掃員ですよ」私は軽く微笑んで返したが、その瞳には冗談ではない色が混じっていた。「ふーん」それだけの単語からは、彼の意図はわからない。こんなふうに男性から見つめられることなんて経験のない私は、なんとなくあの日の夜のサングラスの奥の瞳を思い出してしまう。なんで今あの日のことを。落ち着かない気持ちをどうにかしようとしていたところで、「そろそろペアダンスの時間にな
Last Updated: 2025-01-30
Chapter: 第二十三夜
会場に到着すると、煌びやかな装飾とシャンデリアの明かりが目に飛び込んできた。ハイクラスなホテルの宴会場は、どこを見ても洗練された雰囲気が漂い、訪れた人々もまた、その場に相応しい服装で会話を楽しんでいる。「緊張する?」 陽介さんが隣でさりげなく声をかけてくれた。「いえ、大丈夫です」 思った以上に自然な答えが出たのは、自分でも驚きだった。昔の私なら、このような場に慣れていたからだろう。今の生活とはかけ離れているけれど、身体に染み付いた感覚は意外にも残っているものだ。受付で名前を告げ、会場内に進むと、すぐに陽介さんに声をかける人物が現れた。取引先の社長だろうか、年配の男性が陽介さんと笑顔で握手を交わす。「奥様ですね。お美しい方だ」 その言葉に思わず頬が熱くなるが、陽介さんがさらりとフォローしてくれる。「ええ、彼女にはとても感謝しています」 そう言う陽介さんの表情から本心はわかるわけはない。しばらくすると、場の空気が少しざわつき始めた。会場の中央に一人の男性が現れ、周囲の人々と挨拶を交わしている。彼こそがフランスの外交官であり、今回のパーティーの主賓だと聞いていた。「初めまして」 男性が陽介さんに近づき、流暢なフランス語で話しかけてきた。その瞬間、陽介さんが一瞬だけ眉をひそめるのが分かった。フランス語を理解しているものの、流暢に話せるほどではないのかもしれない。普通であれば外交官ならば、英語で会話と彼も思っていたのだろう。いつのまに来ていたのかわからないが、いきなり神崎さんがここぞとばかりに間に割り込んできた。「私にお任せください!」 自信たっぷりにそう言う神崎さんが英語で話すと、もちろん彼も英語で答えたが、少しだけ言葉選びに迷いがある気がする。きっとフランス語の方が堪能で、詳しい話はそちらでしたいのかもしれない。その様子を見た私は、自然と口を開いていた。「Monsieur, je suis enchantée de faire votre connaissance. Laissez-moi vous aider si besoin est.」(お会いできて光栄です。必要でしたら私がお手伝いします。)完璧な発音でフランス語を話した私に、外交官は驚いたような表情を見せ、すぐに穏やかな笑みを浮かべて答えた。「Ah, vous parlez
Last Updated: 2025-01-29
Chapter: 第二十二夜
パーティー当日の夕刻が近づくころ、届けてもらったドレスに袖を通して鏡の前に立った。ネイビーのロングドレスは、滑らかな生地が肌に馴染み、クリスタルの装飾が光を受けて繊細に輝く。ヘアメイクを呼ぶ余裕はなかったが、昔を思い出して、自分でメイクを施し、髪もハーフアップに整えた。軽く巻いた髪が肩にかかり、鏡越しに少し昔の自分が蘇ったような気がした。アクセサリー類をどうしようかと悩んだが、実家から持ってきたものはないし、今さらどうにもならない。まあ、ないならないで、問題ないだろうと自分に言い聞かせる。そのとき、ドア越しに陽介さんの声が聞こえた。「準備できたか?」息を吐いて心を落ち着けると、私はドアに向かいその扉を開けた。「お待たせしました」そう言って彼の前に立つと、目の前の陽介さんが一瞬動きを止めた。驚いたような表情で私を見つめている。「……あの、陽介さん?」不安になってもう一度自分に目を落とす。ドレスは綺麗に整っているし、メイクもそれほどおかしくはないはず。何か問題があるのだろうかと心がざわつく。「いや……」陽介さんは一度目を伏せ、軽く息をついたあと、ゆっくりと口を開いた。「本当は俺がドレスとかを手配すべきだったんだ。そう気づいたんだが、忙しさにかまけてつい……でも、その心配は無用だったな。完璧だ」予想外の言葉に、私は少しだけ照れてしまった。「私が大丈夫だと言ったので、気にしないでください。ただ、少しお金は使わせてもらいました」途中で「どこか紹介しようか?」と彼が提案してくれたのを断ったことを思い出す。既に依頼済みだったので必要なかったのだが、こうして彼が気にしてくれたのは少し意外だった。「でも、これなら無駄にはならなさそうだ」そう言って、陽介さんは手にしていた箱を開けた。中には、美しいネックレスとイヤリングのセットが収められていた。シンプルながらも繊細なデザインで、ドレスの装飾にぴったり合いそうだ。クリスタルの輝きが、ドレスの装飾と呼応するかのように揺らめいている。「これ……」一瞬、言葉を失った私を見て、陽介さんが少し照れたように微笑む。「昨日、急いで用意したんだ。君に合うものかどうか心配だったが、これで正解だったみたいだな」足りないと思っていたものが、目の前に完璧な形で現れる。胸がじんわりと温かくなるのを感じながら、私はゆっくり
Last Updated: 2025-01-18
Chapter: 第二十一夜
あの話を聞いてから、私は詳しい出席メンバーを聞いて、心の中でため息を吐いていた。それほど大きくはない、そう彼は言ったが、出席メンバーはとてもVIPばかりだった。参加することは問題はないのだが、それにふさわしいドレスは必要だ。陽介さんから「金額は気にしなくていい」と言われ、さらに「フランスの外交官も出席する」と聞いた以上、手を抜くわけにはいかない。ブラックカードを渡されてはいるが、無駄遣いをするのは気が引けた。だが、場違いな恰好をして彼に恥をかかせる方が問題だろう。スマホを取り出し、昔お世話になっていた銀座のブランド店の担当者の連絡先を表示する。父に見つかる可能性がある場所だが、今の私のことなど気にも留めていないはずだ。それに、このことを父に知られないよう店長にお願いすれば問題ない。少し緊張しながら電話をかけると、電話越しに懐かしい声が聞こえた。「美優お嬢様! お久しぶりです。本当にご無沙汰しておりますね」 「ご無沙汰しております。突然の連絡で申し訳ありません」懐かしい声に少しだけほっとしながら、私は要件を伝えた。店長は快く歓迎してくれ、早速お店に来るよう促してくれた。安田さんに当麻の世話をお願いして、私は久しぶりに銀座の路面店へと向かった。店の前に立った瞬間、記憶が鮮明に蘇る。父とともに訪れた何度もの場面が頭に浮かんだ。ドアを開けると、店内の上品な香りとともに、変わらない温かな雰囲気が迎えてくれた。奥から現れた店長が、にこやかに出迎えてくれる。「美優お嬢様、本当にお久しぶりです」 「ご無沙汰しております。突然伺ってすみません」 軽く頭を下げると、店長は微笑みを浮かべた。「いろいろ事情がありまして……私がここに来たことは内密にしていただけますか?」 そう頼むと、店長は「もちろんです」とプロフェッショナルな微笑みで頷いてくれた。簡単にパーティーの内容を説明すると、店長は奥からいくつかのドレスを持ってきてくれた。「こちらはいかがでしょうか?」目の前に広げられたのは、まるで星空を切り取ったような、ネイビーのロングドレス。シルクの艶やかな生地に、小さなクリスタルが散りばめられており、動くたびに繊細に輝く。肩の部分はシースルーのレースが使われ、上品さと華やかさを兼ね備えている。「美優お嬢様にはこちらがとてもお似合いになるかと存じます。クラ
Last Updated: 2025-01-16
Chapter: 第二十夜
閑話 陽介美優と当麻が寝静まった夜。リビングの静けさが、まるでこの家全体を包み込んでいるようだった。俺は一人、仕事用の資料を広げたまま、傍らに置いたグラスを手に取る。ワインの赤が照明に揺れているのを見つめながら、口に含んだ。柔らかな酸味が喉を通り抜け、じんわりと体に染み込む。「本当に、これでよかったのか……」独り言のように呟いた言葉が、静まり返った部屋の中に溶けていった。目の前には終わっていない仕事が山積みだが、どうしても集中できない。頭の中を占めるのは、あの夜の記憶と、今目の前にあるこの生活の温かさの間に揺れる自分自身のことだった。あの夜のことを忘れたことは一度もない。俺の人生で唯一、心から救われた夜だった。失明して何もかもを失ったと思い込んでいた俺に、たった一人、寄り添ってくれた彼女。彼女の手から伝わる温かさ、彼女の声が紡ぐ優しさ。そのすべてが、俺にもう一度前を向く力を与えてくれた。俺はあの時の彼女を探し続けてきたつもりだし、今でもその気持ちは変わっていない——そのはずだった。それでも、今。美優と当麻と暮らす日々の中で、俺は初めて家庭というものの温かさを知った気がする。命を狙われる危険にさらされ、財産や後継者争いに巻き込まれる。そんな殺伐とした環境が当たり前だった俺にとって、この穏やかな時間は異質で、どこか戸惑いを覚えるほどだ。当麻が無邪気に笑いかけてくれるたびに、胸の奥が温かくなる。この家で、美優が忙しそうに動き回りながらも俺に気を配る姿を見るたびに、落ち着かない気持ちと同じぐらい温かくなる。俺は何をしているんだろう…。あの夜の彼女への気持ちは今でも変わらない。それでも、美優と当麻と過ごすうちに、この二人を守りたいと思う自分がいる。それが義務感だけではないことも、薄々気づいている。一方で、悠馬のことも気がかりだ。俺たちは異母兄弟だが、兄弟として育ってきたことに変わりはない。母が悠馬をCEOにするために何を考えているのかは、だいたい分かっている。三条の会社と手を組んでいるのも、その一環なのだろう。母が悠馬を利用している——それは間違いない。だが、もしかすると母自身も騙されているのかもしれない。父に相手にされなくなった今、母は追い詰められていて、必死なのかもしれない。それにしても、今の俺がいくら三条の会社の危険性を説明しても、悠馬には
Last Updated: 2025-01-09
Chapter: 第十九夜
あの日から二週間、なんとなく穏やかな生活が始まった。もちろん愛など恋などという関係ではないが、仕事と割り切ったことで、私も彼に接することができていると思う。「掃除の前にこの場所は使うのかな……」掃除用具を手に、ほとんど使われていなさそうな小さな会議室横の倉庫を掃除していると、隣の会議室から低い声が聞こえてきた。扉が少しだけ開いていて、中の様子は見えないが、声の主は義母と悠馬COOだとすぐに分かった。「このことは、あなた一人で進めるべきよ」「でも、母さん。金額が大きいし、本当にこの会社の技術が実用化できるのかは――」悠馬COOの声に、義母が遮るように語気を強める。「お母さんを信じなさい。この会社の後ろ盾があれば、あなたは間違いなく次期CEOよ」私は手を止め、息を潜めて耳を澄ませた。話を聞いていると、義母の声には確信があるように聞こえるが、その内容はどうも引っかかる。融資額の桁外れの大きさと、技術の詳細について語られているのを聞くうちに、私の胸の奥に不安が広がった。(そんな話、怪しすぎる……。)話を聞き続けていると、義母が続ける。「日にちはパーティーの日。別室で内密に契約をすることになってるわ」「……でも、陽介兄さんが気づいたらどうする?」「大丈夫よ。陽介は知る術がないもの。それにグローバルネクサス社の三条さんからの直接のお話なのよ」私は背筋に冷たいものを感じた。三条の紹介なんて、裏があるに決まっている。悠馬COOが被害を被るどころか、会社全体が危機に陥る可能性すらある。(何とかして止めなきゃ……)そう思った瞬間、持っていたモップが手から滑り落ち、床に軽い音を立てた。「誰だ?」悠馬の声が近づいてくる。私は慌ててモップを拾い上げ、あたかも倉庫内で掃除していたかのように振る舞った。扉が開き、悠馬COOが覗き込む。その時、彼のスマホが音を立てて、彼はそのままそれに出ると、扉を閉めて出て行った。(あぶなかった……)ようやく大きく呼吸すると、掃除を再開した。あの翌日、私は陽介さんから予想もしなかった言葉をかけられた。「週末、パーティーに同伴してほしい」その申し出に、一瞬どう答えるべきか迷った。会社のパーティーなら、妻として出席するのも仕事の一環だとは思う。でも、私たちの結婚は形式的なもの。それを思い出すたび、胸の奥に小さな違和感が
Last Updated: 2025-01-08
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