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完結編・・・第一章5

last update Last Updated: 2025-03-24 22:44:21
入浴をして自分の部屋に入ると、どっと疲れが出る。

両親は……どうしたら、赤坂さんとの交際や結婚を認めてくれるのかな。

考えてもいい案が浮かばない。

「はぁ……」

赤坂さんに会いたい。抱きしめてほしい。

スマホに着信があり確認すると、赤坂さんだ。

以心伝心みたいで嬉しい。私のスマホに彼の名前が表示されるだけで嫌なことが全部チャラになったような気がするのだ。

慌てて出る。

「もしもし」

『久実、許可は取れたか?』

「あ、うーん……」

『許してくれないか。こうなったら、行くしかないな』

「ちょっと、何を考えてるの?」

『俺は久実を愛してんの。今すぐにでも迎えに行きたい』

これって、プロポーズなのかな。ドキドキして、耳が熱くなる。

今までもプロポーズみたいなことは言ってくれたけど改めて言われると心臓がおかしな動きをする。

「私も、だよ」

赤坂さんを愛おしく思う。

『松葉杖取れたから』

「本当!よかったね!」

『ということで、次の日曜日に突撃するわ』

「はっ⁉︎」

『じゃあな。ちゃんと寝ろよ』

電話が切れてしまい、私は、唖然としていた。

突撃されたら、お父さんは、もっと怒るかもしれない。ど、どうしよう。

冗談なのか、本気なのかわからない。そこが赤坂さんらしいのだけど。

突撃するわ、とか言いつつ、本当に来ないだろうとどこかで思っていた。
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