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完結編・・・第一章7

last update Last Updated: 2025-04-01 22:47:22

赤坂side

音楽番組の収録を終えた。

楽屋に戻ると、大樹は美羽さんに連絡をしている。

「終わったよ。これから帰るから。体調はどうだ?」

堂々と好きな人とやり取りできるのが、羨ましい。

俺は、久美の親に結婚を反対されているっつーのに。腹立つ。

会うことすら許してもらえない。

大きなため息が出てしまう。

私服に着替えながらも、久実のことを考える。

久実を幸せにできる男は、俺だけだ。

というか、どんなことがあっても離さない。

俺は久美がいないと……もう、生きていけない。心から愛している。

どんな若くて綺麗なアイドルなんかよりも、世界一、久実が好きだ。

どうして、久実のご両親はこんなにも反対するのか。俺に大切な娘を預けるのは心もとないのだろうか。

なんとしても、久実との交際や結婚を認めてほしい。

一生、久実と生きていきたいと思っている。

俺のこの真剣な気持ちが伝わればいいのに……。日曜日に実家まで押しかけるつもりでいた。

強制的に動かなければいけない時期に差し掛かってきている。

苛立ちを流し込むように、ペットボトルの水を一気飲みした。

「ご機嫌斜め?」

黒柳が顔を覗き込んでくる。

「別に!」

「スマイルだよ。笑わないと福は訪れないよ」

「わかってる」

クスクス笑って、黒柳は楽屋を出て行く。

俺も帰ろう。

「お疲れ」

楽屋を出てエレベーターに乗る。セキュリティを超えて ドアを出るとタクシーで帰る。

一人の女性をこんなにも愛してしまうなんて予想していなかった。

自分の人生の物の見方や思考を変えてくれたのは、間違いなく久実だ。

きっと彼女に出会っていなければ、ろくでもない人生を送っていたに違いない。
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